近年,日本では刑事司法と福祉の連携による犯罪行為者処遇に関する多様な試みが急速に進められている.帰住地調整が困難な高齢や障害のある矯正施設被収容者への福祉的支援を発端とし,その後,被疑者・被告人段階へと連携の場は広がってきている.また,高齢,障害といった特別なニーズをもつ犯罪行為者以外も連携による援助の対象とされるようになってきている.本稿の目的は,こうした近年の刑事司法と福祉の連携の在り方の特徴ならびに改革課題について,国際的な視点から明らかにすることである.まず,日本における刑事司法と福祉の関係が,刑事司法の内部にいかに福祉的要素を取り入れるかというものから,社会福祉サービスを積極的に活用し,刑事司法の外部に存在する機関との連携を促進しようとするものへと変わってきていることを確認する.その上で,近時の日本における特徴として,連携の積極化,法整備を伴わない急速な進展,対象者の拡大,目的の多様性を検討する.次にビクトリア州における刑事司法と福祉の連携のうち,日本における改革課題の明確化に特に有益であると思われる,問題解決型司法による連携の進展,障害のある被告人への特別措置の概略を説明する.最後に日本における今後の展開への示唆を得るために,連携の目的の再検討,本人同意を含む連携に至る過程の明確化,福祉サービス利用が失敗した場合の対応,社会資源の充実の各点について,日本とビクトリア州との類似点と相違点を考察する.
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