日本障害者歯科学会雑誌
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36 巻, 1 号
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講座
原著
  • 阿部 洋子, 原田 桂子, 増田 幸三, 宮脇 守男, 篠永 ゆかり, 人見 さよ子, 園本 美惠, 有田 憲司
    2015 年 36 巻 1 号 p. 4-9
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    乳歯列期または18歳頃に口腔管理を開始した障害者の長期口腔管理の効果を検証するために,後ろ向き研究によって18歳および30歳時のう蝕有病者率,一人平均う蝕経験歯数(DMF歯数)およびDMF歯率を,口腔管理をしていない30歳の初診群および歯科疾患実態調査報告と比較・検討し,以下の結果を得た.
    1. 乳歯初診群および18歳初診群の初診時のう蝕経験は,平均出生年が近い歯科疾患実態調査報告の結果と比べて,う蝕有病者率,DMF歯数(df歯数)およびDMF歯率(df歯率)が高かった.30歳初診群は平成23年歯科疾患実態調査報告の結果と比べて,DMF歯数とDMF歯率が高かった.
    2. 乳歯初診群および18歳初診群の30歳時のう蝕経験は,平成23年歯科疾患実態調査報告の結果と比べて,う蝕有病者率,DMF歯数およびDMF歯率が低かった.また乳歯初診群は30歳初診群と比べて,DMF歯数とDMF歯率の値が有意に低かった(p<0.05).
    3. 乳歯初診群の重度う蝕がなかった群の18歳および30歳時のDMF歯数は,初診時と比べて有意に低かった(p<0.001).また乳歯初診群の18歳および30歳時のDMF歯数では,初診時に重度う蝕がなかった群は重度う蝕を有した群より有意に低かった(p<0.01).
    以上のことから,乳歯列期からの長期口腔管理によるう蝕抑制の有効性が明らかとなった.しかし,乳歯列期の重度う蝕の有無により,成人期のう蝕経験歯数が異なることが示唆された.
  • 久保田 潤平, 遠藤 眞美, 久保田 有香, 柿木 保明
    2015 年 36 巻 1 号 p. 10-16
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    食事は生活のなかの楽しみとなるため,味覚が障害されると食欲低下の原因となるだけでなく,精神的苦痛をこうむることにもつながる.しかし,味覚障害の原因は多岐にわたり治療に苦慮することも少なくない.また,明確な診断がつかないために特発性味覚障害と診断され,適切な治療が行われていないこともある.著者らは以前の研究で,382人の調査において水分代謝不良が味覚障害のリスクとなる可能性を明らかにした.そこで今回は,水分代謝不良と関連する味覚障害と考えられた者に対して水分代謝を改善する漢方薬である五苓散と八味地黄丸を応用した者への臨床的有用性を検討した.
    対象:平成23年7月~平成26年3月の間に味覚の異常感を訴えて九州歯科大学附属病院口腔環境科(以下,当科)を受診した患者で,当科受診前に他科・他院を受診し,特発性味覚障害とされた82人のうち,当科において水分代謝不良と関連する味覚障害と判断した45人を対象とした.
    方法:対象者の診療録から全身状態や主訴に関する項目を抽出するとともに,五苓散または八味地黄丸の服用による有効性の検討を行った.
    結果:服用開始6カ月以内における自覚症状の変化は“治癒”が21人(46.7%),“改善”が20人(44.4%),“不変”が4人(8.9%),“悪化”が0人(0.0%)であり,有意(p<0.01)に改善がみられた.
    本調査より,水分代謝不良と関連すると思われる味覚障害患者においては,水分代謝を改善する漢方薬の応用が有用であることがわかった.
  • 水上 美樹, 田村 文誉, 松山 美和, 菊谷 武
    2015 年 36 巻 1 号 p. 17-24
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    ダウン症候群患者の多くが舌突出や口唇閉鎖不全などの特有の症状を呈する.これらは保護者が発見しやすい症状であるため,摂食指導の主訴となることも多い.舌突出や口唇閉鎖不全は咀嚼や嚥下機能の阻害因子であり,長期化すると歯列や咬合状態にも影響を及ぼし,さらに摂食機能を低下させることが想定される.したがって,ダウン症候群児に特有の症状が習癖化する前にこれらの症状を改善または予防することが重要である.
    そこで今回,ダウン症候群児の口腔機能や摂食に関する実態を把握し,摂食指導に役立てることを目的に研究を行った.
    対象は,経口摂取をしているダウン症候群児51名(男児32名,女児19名)とした.対象者の保護者から,初回の摂食指導受診日にダウン症候群児に関する質問票を記載してもらい,当日回収した.質問票の内容を検討した結果,対象者は,座位以降の粗大運動能の獲得時期が健常児より遅れる傾向にあった.対象者の約7割が摂食指導を受けた経験があったが,その指導内容の大半は食形態の指導であり,間接訓練や直接訓練の指導を受けた者は約2割であった.舌突出の有無は,年齢,歩行,筋訓練,おもちゃしゃぶりとの間に有意な関連が認められた.一方,口唇閉鎖不全の有無は,直接訓練であるかじりとり訓練との間に有意な関連が認められた.以上の結果よりダウン症候群児の舌突出と粗大運動能の発達には関連がみられ,さらに,筋訓練の導入や,一定の時期に行うおもちゃしゃぶりのようなさまざまな感覚入力が有効であることが示唆された.
症例報告
  • 稲田 絵美, 齊藤 一誠, 深水 篤, 窪田 直子, 村上 大輔, 糀谷 淳, 大野 幸, 椙山 加綱, 小松澤 均, 松尾 美樹, 山﨑 ...
    2015 年 36 巻 1 号 p. 25-32
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/06/30
    ジャーナル フリー
    血友病Aと脳性麻痺を有し,歯周疾患に罹患している患者に対して,行動管理方法を使い分けながら定期的にOne-Stage Full-Mouth Scaling and Root Planing(OS-FM-SRP)を施行して歯周病管理を行い,管理中の歯周ポケットの深さと歯周病原細菌の変化について調べた.
    歯周治療開始前の歯周病検査では全顎的に4mm以上6mm以下の歯周ポケットが認められたため,全身麻酔下で第Ⅷ因子補充後,経口抗菌療法とOS-FM-SRPの併用療法を施行した.術後は1カ月ごとに外来での定期管理を行いながら,6カ月ごとに第Ⅷ因子補充後,静脈内鎮静下でOS-FM-SRPを行った.歯周病再評価では,全顎的に歯周ポケットは3mm以下を維持していた.
    歯周病の病状変化を評価するため,歯周病原細菌であるPorphyromonas gingivalisP.g),Aggregatibacter actinomycetemcomitansA.a)の2菌種について,継続的な定量検査を行った.P.gは全身麻酔下OS-FM-SRP直後から菌数が減少し,低値で維持されたものの,術後6カ月で増加した.静脈内鎮静下でのOS-FM-SRPで減少した後,さらに6カ月後に増加する傾向にあったが,再度,静脈内鎮静下でのOS-FM-SRPを行ったところ,菌数は減少した.一方,A.aは,P.gよりも菌数が少なかったものの,全身麻酔下SRP後1週間は高値を維持したが,1カ月で減少し,現在までほぼ低値を維持している.
    以上より,患者の歯周疾患の病状を把握し,患者の全身状態を考慮して行動調整法と治療方針を決定することが,歯周治療を効果的に奏効させるのに有効であると考えられた.
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