日本障害者歯科学会雑誌
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37 巻, 1 号
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原著
  • 松尾 浩一郎, 中川 量晴
    2016 年 37 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    目的:Chalmersらによって開発されたOral Health Assessment Tool (OHAT)は,看護,介護スタッフが障害者や要介護者の口腔問題を簡便に評価するための口腔スクリーニングツールである.評価項目は,口唇,舌,歯肉・粘膜,唾液,残存歯,義歯,口腔清掃,歯痛の8項目が,健全から病的までの3段階に分類される.今回われわれは,口腔スクリーニングツールとして再現性と妥当性が示されているOHATの日本語版(OHAT-J)を作成し,その信頼性と妥当性を検討した.
    方法:介護福祉施設入居者30名(平均年齢83.0±8.5歳)および某大学病院神経内科入院中の患者30名(平均年齢69.4±13.3歳)を対象とした.両施設で,歯科衛生士(DH)と看護,介護スタッフがOHAT-Jを用いて対象者の口腔内を評価した.信頼性評価のために,DHによる評価を基準とし,各評価者とDHの評価点数との一致率とκ係数を求めた.また,外的妥当性を評価するために,他の口腔評価尺度との相関をSpearmanの順位相関係数を用いて検討した.
    結果:信頼性の検討では,唾液や軟組織では平均75%以上の一致率を認めたが,介護福祉施設では口腔清掃の項目が平均50%程度の一致率であった.他の口腔評価指標との相関は0.39~0.97と,すべての項目で中等度以上の有意な相関を認めた(p<0.05).
    結論:本結果よりOHAT-Jは,信頼性と妥当性を有することが示され,施設や病院などでの要介護者や障害者への口腔スクリーニングツールとして使用できることが示唆された.
  • 寺田 ハルカ, 道脇 信恵, 須﨑 友香, 村久木 真実, 池田 菜津美, 大島 邦子, 山本 晋也, 石倉 行男, 緒方 克也
    2016 年 37 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    要旨:知的障害を伴う自閉スペクトラム症(以下,ASD)のブラッシング行動の発達過程と介助磨き時の協力状況を知る目的で,暦年齢に対するブラッシング行動の関係を通過率で調査した.加えて対象児者を療育手帳のA判定者(以下,A群),B判定者(以下,B群)に分類し同様に調査した.
    方法:調査の方法は面接法を用い,療育手帳の区分,保護者による介助磨きの有無,介助磨き時の協力状況,ブラッシングの自立状況について直接保護者へ口頭で質問し,「はい」と回答した者の割合をその年齢群の通過率とし年齢群間で比較した.
    結果:1.「介助磨きを受けている者」の割合は,全対象児者群では12~14歳群74.1%で6~11歳群94.1%より有意な減少を認めた(p<0.05).また,B群では12~14歳群で6~11歳群より有意に減少していた(p<0.001).
    2.「介助磨き時に協力的な者」は全対象児者群では6~11歳群で3~5歳群より有意に通過率が高く(p<0.05),一方,A・B群での通過率は年齢群間に著しい差を認めなかった.
    3.「1人磨き」の通過率は,全対象児者およびB群で6~11歳群は前年齢群より有意な通過率の増加がみられた(p<0.001,p<0.01).
    結論:知的障害を伴うASDの介助磨き時の協力状況やブラッシング行動の発達過程は,ある特定の年代で通過率が高くなっていた.一方できわめて徐々に獲得される性質をもっていた.
  • 宮原 康太, 小笠原 正, 篠塚 功一, 岩崎 仁史, 松村 康平, 岡田 芳幸, 蓜島 弘之, 藤田 恵未, 角 保徳
    2016 年 37 巻 1 号 p. 16-21
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    目的:ジェルタイプの保湿剤の使用は,介助歯磨き後の唾液中細菌数の増加を抑制するか否かについて検討を行った.さらに保湿剤の使用が歯肉上に細菌を残存させているか否かについても検討した.
    対象と方法:調査対象者は,24歯以上を有する健常成人17名とした(平均30.0±2.0歳).介助歯磨き時の唾液量の調査は,スクラビング法にて介助歯磨きを3分間行った後に唾液を紙コップに排出させ,電子天秤で重さを測定した.水0.3ml使用とジェル0.3ml使用の介助歯磨きは,日を代えて調査を実施した.なおジェルは,「お口を洗うジェル®」を用いた.調査する24時間前より歯磨きを中止させた.5分間仰臥位にて安静後に口腔内に溜まった唾液を1ml採取し,細菌カウンタ®(パナソニックヘルスケア製)にて総細菌数を測定した.同時に定圧検体採取器具(パナソニックヘルスケア製)に装着したルシパックPen®(キッコーマンバイオケミファ製)で上顎中切歯頰側歯肉部を3往復擦過し,ルミテスターPD-30®にて発光量(RLU)を清浄度として測定した.その後,ジェル0.3mlを歯ブラシにつけて,スクラビング法にて介助歯磨きを3分間行った.介助歯磨き後に同様に唾液中の総細菌数の測定と歯肉擦過によるATPふき取り検査にて発光量を測定した.対照として,別日に水0.3mlを用いて介助歯磨きを行い,同様の測定を行った.
    結果:ジェル使用時の唾液量は統計学的に有意差が認められなかった.介助歯磨き後の唾液中の細菌数は,ジェル,水ともに有意に増加した.介助歯磨き後の唾液中の細菌数増加率は,ジェル(中央値35.3%)が水(中央値162.5%)より有意に低かった.介助歯磨き後の歯肉表面上の発光量増加率は,ジェルが76.5%,水は-52.3%で,ジェルは水よりも有意に歯肉表面が汚染されていた.
    結論:介助歯磨き時のジェル使用は,唾液中の細菌数の増加を抑制していた.そしてジェル使用は,水使用よりも歯肉表面に細菌を残存させていることが認められた.ジェル使用は,介助歯磨き時の唾液の垂れ込みから誤嚥を引き起こすという口腔ケア関連性誤嚥性肺炎の発症リスクを低下させる可能性が示された.
  • 篠塚 功一, 小笠原 正, 岩崎 仁史, 磯野 員達, 轟 かほる, 岡田 芳幸, 蓜島 弘之, 沈 發智, 嶋田 勝光, 落合 隆永, 長 ...
    2016 年 37 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    摂食嚥下障害のある患者に対する嚥下内視鏡検査の実施時に咽頭に付着物を観察することがある.咽頭の付着物は,摂食嚥下機能障害や窒息のリスクをきたす可能性がある.咽頭付着物の形成機序や関連要因については,明らかにされていない.本研究は,咽頭付着物の形成要因を明らかにするために検討した.
    施設入所中の要介護者のうち経管栄養の27名(81.1±9.3歳)を調査対象とした.年齢,性別,疾患,寝たきり度,意識レベル,意思疎通の有無,発語の可否,介助歯磨きの頻度などを調査した.唾液湿潤度,口腔内の剝離上皮膜の有無,舌の動きの可否,開口・閉口を評価した.咽頭の付着物は,内視鏡にて確認した後,咽頭の付着物をピンセットあるいは吸引チューブで採取した.採取した口腔の剝離上皮膜と咽頭の付着物をHE染色し,重層扁平上皮由来の角質変性物が認められたものを咽頭の付着物とし,項目間の関連性をχ2検定,さらに決定木分析にて咽頭付着物の形成要因を検討した.
    咽頭付着物の形成要因として抽出されたのは,12項目中1項目のみで口腔の剝離上皮膜の有無であった.口腔の剝離上皮膜を除去した後,口腔内へ保湿剤を噴霧することで咽頭の剝離上皮膜が減少するという報告がある.口腔の剝離上皮膜がみられるものは,咽頭の付着物を形成している可能性があり,口腔の剝離上皮膜の形成予防が咽頭の付着物の形成予防につながる可能性が示唆された.
症例報告
  • 永井 悠介, 松本 重清
    2016 年 37 巻 1 号 p. 28-34
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    二分脊椎症は,母体内においてなんらかの理由で胎児の脊椎骨が形成不全となって起こる先天性神経管閉鎖障害の一つである.症状は症例によりさまざまで,膀胱および直腸障害による排泄障害,水頭症などがみられる.
    今回,当院にて6カ月ごとに全身麻酔下での排尿管理を必要とする二分脊椎症患者に対して,全身麻酔下での処置の際に歯周治療を実施した症例について報告する.
    患者は33歳男性.二分脊椎からの神経因性膀胱に起因する腎不全に対して,右腎瘻,左尿管カテーテル,膀胱瘻が留置されている.精神遅滞を有し,意思疎通が不可能なことから当院泌尿器科入院下に6カ月ごとに全身麻酔下に尿管カテーテルの交換が行われている.
    口腔管理は他院にて行われていたが,外来診療下では十分な処置が行えず,口腔内に多量の歯石を認めたため,全身麻酔下での除石を目的に2014年4月に当院歯科口腔外科紹介となった.以降,患者の母親の希望もあり,現在まで合計4回,全身麻酔下での尿管カテーテル交換の際,同時に歯周基本治療を行った.
    知的障害者に対する全身麻酔下での定期的なメンテナンスの有用性が報告されており,全身疾患による生命維持のための定期的な全身麻酔下処置が必要な患者では,同時に歯科処置を行うことは有用であると考えられるが,患者の保護者,他科医師および看護師など関係者の理解と協力,連携が必要不可欠である.
  • 藤代 千晶, 森崎 市治郎, 村上 旬平, 財間 達也, 田中 健司, 堤 香奈子, 関根 伸一, 秋山 茂久
    2016 年 37 巻 1 号 p. 35-41
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    近年,遺伝子解析法の進歩によって,多数歯の先天性欠如には転写因子PAX9の変異と関連して生じるものがあることが明らかになってきている.今回われわれは,PAX9を含む領域の微細欠失を伴い乳歯と永久歯の多数歯にわたる先天性欠如がみられたアテトーゼ型脳性麻痺の姉妹例を経験した.
    症例1(姉,16歳4カ月)は,乳歯列で4歯,永久歯列で智歯を除いた21歯の先天性欠如がみられ,症例2(妹,8歳10カ月)は,乳歯列で4歯,永久歯列で智歯を除いた15歯の先天性欠如がみられた.また,ともにアテトーゼ型脳性麻痺に加え,甲状腺機能低下症,新生児遷延性肺高血圧症および精神遅滞がみられた.
    姉妹の口腔内は,多数歯の先天性欠如により,歯の位置移動,歯槽堤の萎縮,空隙歯列および硬いものを咀嚼しにくいとの訴えがみられた.そのため,症例1には床義歯による補綴を行ったが,拒否が強く使用困難であった.
    今後,咀嚼機能の問題,審美的な問題に対応するために,本人および家族の心情に配慮しながら発達に合わせた対応をすることが肝要であると思われる.
  • 向井 明里, 好中 大雅, 宇野 珠世, 小田 綾, 向井 友宏, 吉田 啓太, 尾田 友紀, 岡田 貢, 入舩 正浩
    2016 年 37 巻 1 号 p. 42-47
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    Rubinstein-Taybi症候群(RTS)とは,精神遅滞,特異的な顔貌,幅広い母指(趾)を主徴とする先天性奇形疾患である.一般的にRTSでは,小顎などの特異的な顔貌により歯科治療時の気道確保困難が予想される.今回,われわれは,RTS患者の歯科治療に対する全身麻酔を経験した.患者は28歳の男性,身長144.9cm,体重55.9kg(BMI 26.6).精神遅滞のため,全身麻酔下で歯科治療を計画した.患者は,小顎,Mallampati分類Class Ⅲ,短頸であり気道確保困難が予測された.また,術前の胸部エックス線写真で心拡大を認めたため,循環器内科に対診し精査されたが異常はなく,肥満による横位心の診断であった.患者は手術前日に入院し,全身麻酔はプロポフォールとレミフェンタニルで急速導入を行った.その際マスク換気は容易であったが,気管挿管は困難でありエアウェイスコープ®を用いることによりなんとか挿管しえた.その後は特に問題なく手術を終えた.術後は,RTSに加え肥満によるその気道確保の困難性から創部の腫脹や出血による気道閉塞が懸念されたが,腫脹は軽度で気道の開通性も十分保たれていたため,翌日には軽快退院した.本患者は,術後にいたるまで気道閉塞のリスクがあったため,入院下での継続的な管理が必要であった.しかし,本症例では精神遅滞を伴っていたため,頻回な吸引操作などの厳重な管理によりかえって興奮を招く恐れがあり,術後合併症の誘発因子をできるかぎり排除しなければならなかった.
  • 小田 綾, 吉田 啓太, 向井 友宏, 宇野 珠世, 好中 大雅, 向井 明里, 吉田 充広, 入舩 正浩
    2016 年 37 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    筋強直性ジストロフィー患者は,悪性高熱症発症,術後呼吸器合併症発症など多くの問題を有しており,周術期全身管理では特別な配慮を要する.さらに,患者が精神遅滞や注意欠陥・多動性障害を伴う場合,その障害に応じた行動調整法が必要となり,管理は困難となることが予測される.今回,精神遅滞および注意欠陥・多動性障害を伴う先天性筋強直性ジストロフィー患者の周術期全身管理を経験した.患者は以前に下顎前突による咬合不全のため,下顎骨移動術が施行され,今回,全身麻酔下で抜釘術が予定された.プロポフォール,レミフェンタニル塩酸塩併用による全静脈麻酔法を選択し,著変を認めることなく手術は終了した.下顎骨移動術時は検査結果や理学所見など総合的に判断して一般病棟へ帰室させた.しかし,今回は,術前クレアチンキナーゼ値の上昇や筋易疲労性の進行を認め,下顎骨移動術時に比較して全身状態が悪化している可能性があったため,術後は集中治療室での管理とした.集中治療室では環境への適応に加え,導尿や頻回の吸痰など不快事項を克服する必要があり,さらに就眠時に一過性の無呼吸によるSpO2の低下がみられ,翌朝まで鼻カニューレによる酸素投与も必要であった.このため患者の好きなDVDを持ち込み,繰り返し鑑賞させることで,視覚を用いた同一性保持現象を利用して不快事項を克服するとともに,ベッド上安静を保ち,良好に管理を行うことができた.
臨床集計
  • 辰野 隆, 鈴木 健太郎, 蒲池 史郎, 町田 麗子, 田村 文誉
    2016 年 37 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    公益社団法人東京都武蔵野市歯科医師会で行っている摂食支援事業に関して,施設利用者の食事に関する問題点と今後の歯科医師会による支援の指針を明らかにする目的で本研究を行った.平成23年4月から平成26年3月までの期間に巡回歯科相談による摂食支援を行った障害者施設:15歳以上の生活介護事業所3カ所(以下,生活介護事業所),未就学児を対象とした児童発達支援施設2カ所(以下,児童発達支援施設)に協力を求め,そこに勤務する職員31名(男性10名,女性21名)を対象とし,摂食支援に関するアンケートを実施した.その結果,利用者の食事に関する心配な症状で最も多かったのは「かまない」17名(54.8%)であり,次いで「時間がかかる」と「むせる」がそれぞれ16名(51.6%),「誤嚥」と「偏食」がそれぞれ14名(45.2%)であった.これらの症状について生活介護事業所と児童発達支援施設とを比較したところ,「むせる」と「誤嚥」については,生活介護事業所のほうが児童発達支援施設に比べて多く存在し,両者に有意な差が認められた(むせる:p<0.01,誤嚥:p<0.01).歯科医師会に期待することについては,「職員向け勉強会」が20名(64.5%)と最も多く,「摂食支援事業の継続」が18名(58.1%)であった.本調査の結果より,障害者施設の利用者には食べることの問題を抱えている者が多く,施設職員は専門的な支援を必要としていることが示された.摂食支援事業に対する地域の障害者施設からのニーズに応えるため,歯科医師会はさらなる事業を展開していく必要性があると考えられた.
  • 町田 麗子, 田村 文誉, 児玉 実穂, 高橋 賢晃, 保母 妃美子, 礒田 友子, 元開 早絵, 水上 美樹, 菊谷 武
    2016 年 37 巻 1 号 p. 61-65
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    本報告は,在宅で生活する重症心身障害児(以下,重症児)への訪問歯科診療における摂食指導の必要性を明らかにすることを目的として行った.
    対象は,日本歯科大学附属病院が2011年3月から,日本歯科大学口腔リハビリテーション多摩クリニックが2012年10月から2014年10月までに居宅訪問した,摂食嚥下障害のある18歳以下の重症児36名である.対象者の診療録の記載から,基礎情報,訪問診療の経過,摂食機能段階について調査,分析を行った.対象者の平均年齢は3.0±2.6歳であり,初診時の栄養ルートは経管栄養が30名,経口摂取が6名であった.初診時の摂食機能不全段階としては,経口摂取準備段階の者が最も多く21名であった.また,摂食機能療法の介入による効果は,期間中に機能獲得が認められ向上した者は12名であり,初診時と調査最終時の摂食機能段階の間に有意差が認められた(p<0.05).最終時には多くが訪問診療継続中であり,地域の開業歯科医師に継続診療を移行した症例は3例であり,その内容は口腔ケアであった.
    在宅生活の低年齢重症児の摂食嚥下機能障害は重篤であり,経口摂取移行が困難な者が多くみられたが,経口摂取を行っていない者であっても摂食機能療法の取り組みにより口腔咽頭機能の賦活化や摂食機能獲得も期待できる.重症児に対する在宅訪問診療での摂食機能療法の充実を図るためには,訪問看護師や訪問小児科医師を中心とした多職種とのネットワーク作りが今後の課題である.
  • 高橋 温, 伊藤 あゆみ, 齊藤 峻, 後藤 申江, 橋本 恵, 石田 直子, 長沼 由泰, 水田 健太郎, 城戸 幹太, 佐々木 啓一, ...
    2016 年 37 巻 1 号 p. 66-73
    発行日: 2016年
    公開日: 2016/06/30
    ジャーナル フリー
    東北大学病院障害者歯科治療部は1990年に認可されて以降,2010年に医科と統合し特定機能病院となり,現在まで継続して地域の障害者歯科医療の一翼を担っている.本調査では障害者歯科治療部設置以降,2014年末までに当治療部で行った全身麻酔下歯科治療について,診療体制の変化に伴う推移を検討した.調査期間の延べ症例数は614例であった.症例数は経年的に増加し,2014年では年間76例であった.主な障害は広汎性発達障害,精神遅滞,脳性麻痺で,これらが全体の76.2%を占めた.紹介元では1次歯科医療機関,2次歯科医療機関からの紹介が全体のおよそ70%を占めていた.これらの傾向は調査期間を通じて変わらなかった.一方で調査期間の後期では計画的な複数回の治療を選択しやすくなったことから,治療時間が短縮し,処置内容はより外来診療に近い内容へと変化した.設立期の歯科治療は抜歯や充塡が中心であったが,次第に鋳造修復や歯周治療を取り入れた治療が増加してきた.統合後は,より柔軟な体制で治療を行えていることが明らかになったが.紹介患者の半数が治療後も当治療部でのフォローとなっており,地域における受け入れ態勢が十分ではないことがうかがえた.特定機能病院の診療体制を考えると,この状況を改善することが宮城県における障害者歯科医療体制の強化のために必要であることが示唆された.
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