日本障害者歯科学会雑誌
Online ISSN : 2188-9708
Print ISSN : 0913-1663
ISSN-L : 0913-1663
38 巻, 4 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
原著
  • 長沼 由泰, 猪狩 和子, 羽鳥 弘毅, 萩原 嘉廣, 飯久保 正弘, 高橋 正敏, 高橋 温, 佐々木 啓一
    2017 年 38 巻 4 号 p. 465-470
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    われわれは,う蝕を客観的に評価して,障害のある人に確実な診断と治療を行うために,う蝕の診断に超音波顕微鏡が応用可能かどうかを検討した.

    本研究には,隣接面に限局するう窩を有する10本の抜去智歯を用いた.デンタルエックス線写真を撮影後に,各歯は矢状面で500μmの厚さに薄切し,う窩を超音波顕微鏡で観察した.超音波顕微鏡で得られた画像にてマクロ画像においてう蝕象牙質および健全象牙質と判断した部位の任意の9点で音響インピーダンス値を測定した.その後,組織学的評価のために走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて薄切片を観察した.

    超音波顕微鏡画像は,音響インピーダンス値に基づいて二次元カラー画像として可視化された.これらの画像では,マクロ画像でう蝕象牙質と診断された領域に一致して青色を呈する部分が観察され,緑色を呈する健全象牙質とは明らかに異なった.各切片で計測された音響インピーダンス値の平均は健全象牙質(6.75±0.15kg/m2s)に比較してう蝕象牙質(2.47±0.44kg/m2s)では,有意に低かった(p<0.001).SEMの観察では超音波顕微鏡画像で黄緑色を呈した部位では均一な象牙細管構造がみられ,青色の部分では不規則で破壊された象牙細管がみられた.超音波顕微鏡画像における所見は,エックス線画像とSEM画像での所見と矛盾しなかった.

    以上の結果より,超音波顕微鏡により測定された音響インピーダンス値によってう蝕象牙質が健全象牙質と判別され,う蝕を客観的に評価しうることが示唆された.

  • 中嶋 真理子, 久保田 智彦, 上田 雅子, 白石 千秋, 緒方 克也
    2017 年 38 巻 4 号 p. 471-477
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    われわれが歯科管理を開始して36年が経過した重症心身障害児・者施設においては入所者の高齢化が進んでいる.そこでこれまでの管理の妥当性を検証すると同時に,今後の管理の在り方を模索する目的で施設利用者の歯周病罹患状況を調査した.その結果,以下のような知見を得た.

    1.対象者は大島の分類1~4の77名であり,平均年齢は43.4±10.1歳で,その現在歯数は25.5±4.4本,1人平均DMF歯数は7.6±4.6本,歯周ポケット深さの平均値は3.4±0.5mmであった.

    2.男女間でのすべての調査項目において統計学的有意差は認められなかった.

    3.超・準超重症者群と超・準超重症者を除いた重症者群の比較では,超・準超重症者群の1/2以上の骨吸収者率が有意に小さい値であった.

    4.経管栄養者群と経口摂取者群間の比較では各項目に統計学的有意差は認められなかった.

    5.歯肉増殖者群と非歯肉増殖者群では歯肉増殖者群のPPD平均値が有意に小さかった.

    6.年代別群の比較において,BOP歯率,PPD平均値,歯肉増殖の有無別で有意差は認められなかったが,1人平均現在歯数では各年代群間に有意差を認め(p=0.002),30~39歳群,40~49歳群に比べ60~79歳群が有意に少なかった.また,50歳以上の群で歯根長の1/2以上の骨吸収のある者の割合が高かった.

症例報告
  • 加納 慶太, 村山 高章, 平川 寛, 西川 聡美, 山本 俊郎, 金村 成智, 秋山 茂久, 森崎 市治郎
    2017 年 38 巻 4 号 p. 478-483
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    アルツハイマー型認知症(Alzheimer’s Dementia:AD)は認知症の半数を占め,記銘力障害,近時記憶障害を主要症状として発症し,思考・判断力の低下など認知機能障害が徐々に進行する疾患である.現在,本邦においてその患者数は人口高齢化の進展に伴い増加傾向にある.一方,骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(Anti-restorative agents related osteonecrosis of the jaw:ARONJ)は骨吸収抑制薬の重篤な副作用として,2003年米国での報告に始まり,2006年以降本邦においても多くの報告がなされている.今回,著者らはAD患者に発症したARONJを経験したので,その概要を若干の文献的考察とともに報告する.

    患者は88歳女性,右側頰部の腫脹および疼痛を主訴に来院した.臨床検査所見では,強い炎症所見は示さなかったが,口腔内所見では下顎右側臼歯部歯肉の腫脹および排膿を認めた.画像所見では,同部に埋伏智歯および周囲の腐骨を認めた.既往歴,現病歴などより智歯周囲炎を起因とするARONJと診断し,全身麻酔下に智歯抜去術,腐骨除去術,骨削合術を行った.術後15カ月経過するが,特に問題を認めていない.ARONJ発症のメカニズムはいまだに明らかにされていないが,認知症患者においては,認知機能低下による口腔衛生状態の不良や,低栄養状態,発見・診断・治療開始までの遅れなど,認知症特有の発症リスクが存在することが考えられる.そのため,認知症ARONJ患者,また骨吸収抑制薬を使用している認知症患者においては,通常の患者以上の特別な配慮が必要である.

  • 太田 恵未, 安田 順一, 橋本 岳英, 金城 舞, 玄 景華, 朝比奈 義明
    2017 年 38 巻 4 号 p. 484-490
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    全前脳胞症(Holoprosencephaly:HPE)は前脳の分離形成異常を中心とした中枢神経系の先天性奇形症候群である.今回,幼少期から長期口腔管理を行ったHPEの2例を経験したので報告する.両症例とも重度知的障害があり,眼窩間距離の短縮,人中の欠損,扁平鼻,上顎単一中切歯および上下顎の発育不全などを認めた.口腔内は歯肉炎と多数歯う蝕を認めた.

    症例1:女児で4~14歳まで継続的に口腔管理を行った.多数歯う蝕治療と口腔清掃指導,乳歯抜去を行った.摂食嚥下機能障害がみられ,評価や訓練を行うが経過とともに予後不良であった.頻回の気管支炎のため胃ろう造設や喉頭気管分離術,人工呼吸器装着を行うも,その後に重症肺炎にて15歳時に死亡となった.症例2:男児で5~18歳まで継続的に口腔管理を行った.唇顎口蓋裂を合併しており,全身麻酔下で口蓋閉鎖床製作と多数歯う蝕治療,乳歯抜去を行った.その後も全身麻酔下で歯科治療を2回実施した.心房中隔欠損症を合併し,全身麻酔中に狭心症や不整脈を認めた.摂食嚥下機能を評価したが,経口摂取は可能であった.

    今回の2例を比較すると,摂食嚥下機能や呼吸状態の差が,結果的に生命予後に影響した.HPEは多様な臨床像を示すため,個々に適した口腔管理や対応が求められる.重度知的障害を伴うことも多く,定期的な口腔清掃や指導と摂食嚥下リハビリテーションによる長期口腔管理が必要である.

  • 村山 高章, 加納 慶太, 西川 聡美, 山本 俊郎, 金村 成智, 青木 希衣, 村上 旬平, 秋山 茂久, 森崎 市治郎
    2017 年 38 巻 4 号 p. 491-496
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    口腔領域の軟組織外傷の多くは機械的損傷で,化学的損傷は比較的まれである.今回われわれは認知症患者の生石灰乾燥剤誤食による口腔粘膜化学熱傷を経験したので,その概要を報告する.本邦における生石灰による化学熱傷の過去の報告例は,少数ながらも散見し,患者になんらかの障害や合併症がある場合が大多数であるが,超高齢社会となった近年の報告例では自験例を含めて高齢の認知症患者に発症した例が多い.その状況を踏まえて改めて報告する.

    患者は施設入所中の87歳女性で認知症に罹患.間食時に乾燥剤(生石灰)を誤って口に入れた.施設職員が吐き出させ,牛乳を飲ませて来院した.受診時の所見としては,下唇,口底のびまん性腫脹,発赤,両側の下顎口腔前庭粘膜,下顎歯槽部歯肉,頰粘膜の発赤,びらん,舌粘膜の白色化を認めた.また,患者は普段は多弁にもかかわらず,来院時に発語がなかった.内視鏡検査で食道,胃に異常を認めなかった.病変部を精製水で洗浄・清拭し,セフトリアキソンとデキサメタゾンを点滴投与した.その後,患部の清拭とデキサメタゾン口腔用軟膏塗布を継続し,セフジトレンピボキシルの内服を6日間継続した.数箇所に潰瘍形成があったが,受傷3日後には会話,食事摂取とも普段どおりとなり,4週間で治癒した.瘢痕形成による機能障害はなかった.

    一般に化学熱傷は深度判定が困難で組織破壊の持続時間が長い.本症例では原因物質が生石灰であったことからアルカリによる化学熱傷と考えられた.アルカリによる化学熱傷は損傷が酸よりも深層に及び,急速に進むとされている.本症例では施設職員によって原因物質の除去と中和処置という対応が迅速に行われていたため,誤飲・消化管損傷もなく,また口腔粘膜損傷も重症にはいたらず,治癒を得ることができた.予防が最も重要ということが大前提ではあるが,事後においては早期の適切な対応が重要であることを再認識した.認知症患者は増加傾向にあるので,このような症例は増える可能性があり,警鐘となる一例であった.

臨床集計
  • 名和 弘幸, 溝口 理知子, 図師 良枝, 藤原 琢也, 樋田 真由, 堀部 森崇, 藤井 美樹, 荒木 麻美, 稲垣 絹世, 髙橋 脩, ...
    2017 年 38 巻 4 号 p. 497-503
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    身体障害児や知的能力障害児(以下,患児)は不正咬合を有することが多い.この不正咬合を改善することにより,口腔機能や審美的な向上が得られ,う蝕や歯周病などの歯科疾患の予防につながる.われわれはA市の早期療育施設内小児歯科(以下,センター歯科)において,矯正歯科専門医による歯並び相談を行い,治療可能と判断された患児を矯正歯科へ紹介している.そこで今回,センター歯科から矯正歯科へ紹介した患児の実態調査を行ったので報告する.

    平成10~23年の間に,センター歯科から矯正歯科を紹介した患児25名を対象とし,治療の進行状況と矯正治療に対する感想,良かった点,困難であった点,悪かった点について質問紙法により調査した.

    調査用紙の回収率は18/25名(72.0%)で,矯正歯科を受診した患児のうち16名が矯正歯科治療を開始していた.矯正歯科治療を開始できた群の精神年齢の平均は7歳11カ月であった.矯正歯科治療をして良かった点への回答は「歯磨きがしやすくなった」など,困難であった点は「装置装着や口腔清掃が困難」などがあり,悪かった点についての回答はなかった.

    歯科環境への適応が良好で,精神年齢が7歳11カ月程度であることが,矯正歯科治療の開始時期を考慮する際の参考になると考えられた.また,不正咬合の改善は障害児者のQOL向上の一助となる可能性が示唆された.

  • 林 恵美, 森本 佳成, 高城 大輔, 飯田 貴俊, 赤坂 徹, 小松 知子, 宮城 敦, 藤川 隆義
    2017 年 38 巻 4 号 p. 504-509
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    本研究では,障害者歯科診療において,ミダゾラム単独またはミダゾラム・プロポフォール併用による静脈内鎮静法の実態を調査し比較するとともに,他の管理法への変更状況も調査した.

    方法は,診療録から各パラメータを調査し,後方視的に検討した.静脈内鎮静法は,ミダゾラム単独使用症例(M群)およびミダゾラムとプロポフォール併用症例(MP群)を比較した.

    M群とMP群の比較では,身長,体重ともにMP群のほうが大きかった.鎮静時間,治療時間はMP群で長く,ミダゾラム使用量はM群で高値を示した.静脈路確保時の亜酸化窒素併用はMP群に多く,治療中の亜酸化窒素併用はM群に多くみられた.舌根沈下はMP群で多いが,体動は両群で差はみられなかった.全体では体動は27.6%,舌根沈下は9%にみられた.

    管理法を変更しなかった症例とM群からMP群へ管理法を変更した症例との比較では,女性の比率および体重は変更症例のほうが多かった.また,管理法を変更した症例では,体動の比率が高かった.管理法を変更しなかった症例とM群またはMP群から全身麻酔へ管理法を変更した症例との比較では,女性の比率,鎮静時間,治療時間は変更症例のほうが多かった.

    以上より,ミダゾラム単独では行動調整が困難な場合に,ミダゾラム・プロポフォール併用の静脈内鎮静法に変更されていた.また,治療時間をより長く要する場合には,全身麻酔への変更が行われていた.

  • 望月 慎恭, 小笠原 正, 伊沢 正行, 三井 達久, 鈴木 貴之, 磯野 員達, 上出 清恵, 大岩 隆則, 岡田 芳幸
    2017 年 38 巻 4 号 p. 510-515
    発行日: 2017年
    公開日: 2018/02/28
    ジャーナル フリー

    脳性麻痺者に行われている運動療法(上田法,各種の運動療法)と脳性麻痺者の不正咬合の関係について調査した.対象者は,12歳以上の脳性麻痺者39名であった.保護者から患者背景の聴取および口腔内診査を行い,治療法と不正咬合の関係について次の結果を得た.上田法実施群20名,その他リハビリテーション実施群19名で,粗大運動能力分類システム(GMFCS),麻痺の部位,麻痺の分類,原始反射,治療の頻度,臼歯部不正咬合出現頻度,Angleの不正咬合分類に有意差を認めなかった.前歯部不正咬合出現率は上田法実施群では25.0%,その他群では73.7%と有意差が認められ(p<0.01),特に前歯部の開咬の発生率は上田法実施群で5.0%と,その他群の47.4%に比べ低かった(p=0.002).今回の調査により上田法群はその他群に比べ開咬が少ない傾向が認められた.咬合状態は,筋の過緊張や痙縮の影響があるとされており,上田法を施術している脳性麻痺者は,不正咬合を多く認めなかった.

feedback
Top