日本障害者歯科学会雑誌
Online ISSN : 2188-9708
Print ISSN : 0913-1663
ISSN-L : 0913-1663
38 巻, 1 号
選択された号の論文の16件中1~16を表示しています
講座
原著
  • 菱沼 光恵, 田中 陽子, 矢口 学, 佐久間 圭, 野本 たかと
    2017 年 38 巻 1 号 p. 4-15
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    歯周病原菌のPorphyromonas gingivalisP. gingivalis)はさまざまな全身疾患の起因菌となるものの,その制御手段は依然口腔清掃管理を主としたものである.有病高齢者や重症心身障害児者では,口腔清掃管理が困難なことも多く,疾患に起因する姿勢異常,免疫機能や神経筋機能の低下などによって,全身疾患発症リスクはより高くなる.特に呼吸器官は口腔に直結しており,痰などから口腔常在菌が検出されている.口腔機能の低下は摂食嚥下機能に影響を与え,誤嚥性肺炎発症を誘発させる.遺伝子型に高い多様性をもつP. gingivalisのなかでも重症歯周病患者から多く検出されるといわれているfimA II型の細胞侵入を受けた気管上皮細胞における応答性と,P. gingivalis増殖抑制機能をもつことが報告されているアミノペプチダーゼ阻害剤であるBestatin添加による影響について,炎症の指標となるIL-6,IL-8,STAT3ならびにSOCS3を用いて培養細胞レベルで検討した.fimA II型は気管上皮細胞内に侵入することが可能であり,8時間までは生存可能であることが確認された.またBestatinは気管上皮細胞内に侵入したfimA II型の生存には影響を及ぼさない可能性が示唆された.しかしながら,菌感染,侵入により上昇したIL-8遺伝子発現への関与が推察され,Bestatinのアミノペプチダーゼ阻害剤としての炎症関連物質の発現促進・抑制への調整機能を活用して,恒常性を逸脱し増悪した炎症症状への抑制効果は期待できると思われ,今後の臨床応用に向けて研究を遂行する意義は高いと考えられた.

  • 村上 旬平, 稲原 美苗, 竹中 菜苗, 青木 健太, 新家 一輝, 松川 綾子, 有田 憲司, 秋山 茂久
    2017 年 38 巻 1 号 p. 16-23
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    障害者歯科医療現場にはさまざまな「生きづらさ」のある人が来院する.歯科治療や歯科保健を進めるうえで,障害当事者だけでなく親への支援が必要となる場合も多い.本研究では障害者歯科医療での親支援について,障害者歯科学,臨床哲学,臨床心理学および小児看護学による学際的検討を行った.

    大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部に受診する障害当事者および家族に心理的支援の必要性を問うアンケートを実施しそのニーズを探った.その後障害のある子どもをもつ親を対象とした心理カウンセリングを7名に実施し,哲学対話を18回開催した.心理カウンセリングでは親に来談意欲の高さと,自分自身を語りの中心におく人が多い特徴がみられた.哲学対話では親の日常生活の中での「生きづらさ」が明らかとなり,哲学対話の場で互いの知識や経験などの情報交換が行われた.それによって障害当事者とその親の日常生活での障害者歯科の位置付けが明らかとなり,障害者歯科での対応が,親には安心感として伝わっているということが描き出された.

    本研究を通じ障害者歯科医療現場での親支援ニーズが存在し,親に「物語る」「語り合う」場所を提供することが,当事者の生活に寄り添えるケアを考え,多職種の支援をつなげ,新しい支援ネットワークの構築に寄与するとともに,当事者からのフィードバックが障害者歯科医療の質的向上に寄与する可能性が示された.

症例報告
  • 原野 望, 左合 徹平, 茂山 幸代, 梶田 美香, 椎葉 俊司, 渡邉 誠之
    2017 年 38 巻 1 号 p. 24-29
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    陰圧性肺水腫は上気道閉塞に由来し,解除後に急激に発症する.今回,日帰り全身麻酔下歯科治療の抜管後に陰圧性肺水腫を経験したため報告する.

    患者は20歳男性.10p-症候群による知的能力障害,てんかん,僧帽弁閉鎖不全症を有していた.全顎的なう蝕のため,全身麻酔下歯科治療を計画した.

    過去9回の全身麻酔下歯科治療において,抜管後に低酸素症を認めていたが,すべて早期に改善可能なものであった.今回も同様の手順で,十分な覚醒を認めたため,反対側の鼻腔に経鼻エアウェイを挿入した状態で吸引抜管した.抜管後,上気道閉塞様の呼吸様式を示し,SpO2が50%台まで低下しチアノーゼが出現したため,マスク換気による非侵襲的陽圧換気を行った.しかしSpO2は90%前後にとどまり,口腔内からはピンク色泡沫状分泌物を,胸部聴診では湿性ラ音を,胸部エックス線写真では両側肺野部陰影の増強を認めたため,喉頭痙攣による陰圧性肺水腫と判断した.回復室では,酸素マスク装着困難のため,ルームエアーにてベッドをギャッジアップして経過観察を行った.2時間後,SpO2が99%まで回復し,またベッド上安静が困難になったため帰宅許可を出した.後日,電話訪問にて経過観察したが,その後は経過良好であった.

    陰圧性肺水腫は,予後良好ですみやかに治療すれば生存率はきわめて高いとされている.しかし重症例や遅発例の報告もあり,術後管理ならびに帰宅後の対応に関して,再検討する必要があると考えられた.

  • 辻野 啓一郎, 櫻井 敦朗, 荒井 亮, 大多和 由美, 佐藤 秋絵, 新谷 誠康
    2017 年 38 巻 1 号 p. 30-35
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    Brachmann-de Lange 症候群(以下BdLS)は低出生体重,成長障害,小頭,低身長,精神遅滞,特徴的顔貌を呈する先天性疾患である.歯科領域では小下顎症,高口蓋,口蓋裂,歯の萌出遅延や先天性欠如が知られているが,歯の形態異常に関する報告はほとんどない.今回,上顎前歯部に歯内歯および双生歯の併発が認められたBdLS患者の歯科治療を経験したので報告する.

    患者は35歳の男性で,う蝕治療を主訴に来院した.顔貌所見はBdLSに特徴的な小頭,濃く癒合した眉毛,長くカールした睫毛,小さな尖った鼻,耳介低位が認められた.歯科治療への協力度は低く,口腔内の精査は困難であった.また,上顎前歯部の形態異常歯や永久歯の先天欠如,乳歯の晩期残存も認められため歯種を特定することさえ困難であった.歯科的対応の問題のため精査および歯科治療を全身麻酔下にて行うこととした.

    精査を行ったところ,上顎前歯に形態異常が認められた.上顎中切歯は左右側ともに歯冠部の形態からOehlersの分類Ⅱ型の歯内歯であった.さらに右側は2歯の歯内歯が癒合した形態をしており,上顎前歯部には歯数不足がないにもかかわらず癒合歯が認められたことから双生歯と診断した.上顎右側中切歯歯髄腔は歯根部では単一で,歯冠部で複雑に分かれていた.2歯の歯内歯が癒合した双生歯は,BdLSの過去の報告にみられない所見であった.

    また多数歯にわたる先天欠如があり,エックス線画像所見と肉眼的所見,歯科的既往歴から永久歯先天欠如は10歯で,過去の報告と比較して最も多いものであった.

  • 加納 慶太, 村山 高章, 白杉 迪洋, 山本 俊郎, 金村 成智, 秋山 茂久, 森崎 市治郎
    2017 年 38 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    口腔の化学熱傷は比較的なまれな外傷であり,その発症契機としては小児や高齢者の誤食によるものが多い.一方,多発血管炎性肉芽腫症(以下:GPA)は原因不明のまれな疾患であり,上気道,腎臓および全身の壊死性・肉芽腫性炎を特徴とする.今回,筆者らはGPA起因の全盲患者に生じた口腔化学熱傷に遭遇し,加療する機会を得たので報告する.患者は78歳女性.口腔内の疼痛を主訴に来院した.誤って煎餅と間違え食品乾燥材を開封し,口に含んだとのことであった.現症としては右下唇に軽度の腫脹を認め,右頰粘膜,舌,口底にびらん形成を認めた.なお,内視鏡検査では上部消化管には異常を認めなかった.受診日より入院下管理とし,感染予防のための抗菌剤投与および含嗽を行い,7日後に症状軽快を認め,退院となった.現在,食品乾燥材は製造者団体により安全性の規格化がなされているが,盲目者にとっては食品との区別に苦慮することも多く,またその開封は比較的容易であり,すべての使用者に対する安全への考慮が十分であるとはいいがたい.今後は厚生労働省や消費者庁など,行政によるさらなる注意喚起および法的な規制に期待するところである.

  • 小松 泰典, 山家 尚仁, 北條 健太郎, 神庭 一郎, 成田 知史, 小川 幸恵, 佐々木 重夫, 川合 宏仁, 山崎 信也
    2017 年 38 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    聴覚障がいとは,音声情報取得やコミュニケーションの障がいを指し,各医療機関において配慮や工夫などの報告が散見される.しかしながら,聴覚障がい者の歯科治療に静脈内鎮静法を適応したという報告はみられない.今回われわれは,歯科恐怖症にて意識下での歯科治療が困難なため,静脈内鎮静法下で実施した両耳重度難聴患者の症例を経験した.

    患者は,初診時29歳の女性で,身長163cm,体重72kgであった.主訴は,下顎右側小臼歯部の自発痛で,また医療全般に対する強い恐怖心の訴えもあり,静脈内鎮静法下での治療の同意を得た.手話のできる職員の常時対応が困難なため,筆談による対応が多くを占め,治療当日の諸注意,治療内容など多岐にわたって筆談で説明した.その結果,診療終了までに約6時間を要したが,患者との信頼関係構築が恐怖心軽減の一助となると考え,鎮静管理以外のインフォームド・コンセントにも時間をかけた.初診から3年9カ月間に,毎回静脈内鎮静法を併用し,のべ21回の治療を実施した.患者の満足度は高く,治療への恐怖心は徐々に軽減している.

    聴覚障がい者の立場になり,時間をかけてインフォームド・コンセントを得る努力が必要であると思われた.また,聴覚障がい者への静脈内鎮静法は,聴覚障がいの程度によっては声かけによる反応が十分に期待できず,混乱を招く可能性があるため,重度聴覚障がい者の場合,Ramsay4~5の鎮静深度が有用であると考えられる.

  • 小田 綾, 吉田 啓太, 向井 友宏, 高橋 珠世, 好中 大雅, 大植 香菜, 向井 明里, 神田 拓, 尾田 友紀, 入舩 正浩
    2017 年 38 巻 1 号 p. 47-52
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    核磁気共鳴画像法検査は,診断上必要とされることもあるが,検査に時間がかかり,激しい騒音を伴う.そのため,検査中に安静を保つことが難しい患者ではプレパレーションを行った後に検査を行うこともあるが,知的障害者では行えない場合も多い.診断価値のある画像を得るため,深鎮静下で検査を行うことがあるが,撮影中に呼吸停止を起こすことも考えられる.さらに患者が肥満を伴っている場合は重篤な合併症に繋がる可能性もあることに加え,持ち込み可能なモニター機器は限られている.今回,われわれは,肥満を伴う知的障害者に対し静脈内鎮静法に物理的手法を併用することで,深鎮静を回避しMRI検査を安全に行いえた症例を経験した.症例は21歳男性,知的障害とてんかんおよび肥満を有しており,舌海綿状血管腫疑いのため静脈内鎮静下MRI検査が予定された.本院では,MRI室で使用できるモニタリング機器は,パルスオキシメータのみであり,カプノメーターも使用しない予定であったため,深鎮静下での管理は回避し,ミダゾラムを用いた意識下鎮静法と,抑制具や固定器具を使用した物理的手法による行動調整法を併用した.検査中に呼吸抑制や舌根沈下はみられず,問題なく終了した.肥満を伴う知的障害者に対しミダゾラムを使用することで,適度な鎮静作用と健忘効果が得られ,抑制具や固定器具使用による不快な記憶が残りにくくなり,安全かつ適切なMRI検査が可能となることが示唆された.

  • 佐藤 彩乃, 黒田 英孝, 一戸 達也
    2017 年 38 巻 1 号 p. 53-57
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    22q11.2欠失症候群は,先天性心疾患や顔貌奇形などを合併する.心因性嘔吐・嘔気は,過去の記憶が原因で異常絞扼反射をきたす状態をいう.今回,過去の治療経験が原因で,歯科治療に対して心因性嘔吐・嘔気を伴うようになった22q11.2欠失症候群患者に対する静脈内鎮静法を経験した.

    患者は35歳の男性.全顎的な歯科治療を希望して来院した.22q11.2欠失症候群,ファロー四徴症根治術後,軽度精神遅滞,適応障害を合併していた.現病歴として,下顎右側智歯部歯肉が腫脹,発赤を繰り返していた.慢性歯周炎やう蝕症も認めたが,自覚症状はなかった.治療に対する恐怖心から異常絞扼反射を認めたため,静脈内鎮静法下に下顎智歯抜歯術を予定した.薬物を用いた行動調整法を行わなくても治療が行えるように,その後の治療を計画した.

    下顎智歯抜歯術に先立って,感染性心内膜炎の予防を目的に,アンピシリンを静脈内投与した.内服薬の抗精神病薬は,アドレナリンと併用すると血圧低下を起こすことがあるため,局所麻酔薬に含まれるアドレナリンは濃度を希釈して使用した.ミダゾラムとデクスメデトミジンを用いて薬物的行動調整法を行い,呼吸抑制は認めず,異常絞扼反射を抑制することができた.

    う蝕症の治療は静脈内鎮静法で,歯周基本治療は薬物を使用せずに行動変容法を用いて行った.口腔内診察や歯面清掃は異常絞扼反射を認めずに覚醒下で行えるようになった.

  • 永井 悠介, 松本 重清, 荒井 千春, 河野 裕
    2017 年 38 巻 1 号 p. 58-63
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,転換性障害を有する患者で局所麻酔薬アレルギーが疑われたため2回にわたり全身麻酔下に歯科治療を行った1例を経験したので報告する.症例は19歳,女性.大分大学医学部附属病院(以下,当院)精神科で転換性障害の診断下に入院加療されていた.

    当院整形外科で股関節痛に対する除痛のためリドカイン塩酸塩による硬膜外ブロックを受けた際に,発疹,咽頭閉塞感,血圧低下,四肢振戦などを認め,同薬による薬剤アレルギーが疑われた.また同科などの依頼により,皮膚科で3回にわたり局所麻酔薬,全身麻酔に使用される薬剤などのアレルギーの有無について精査するため皮内テストおよび皮下テストが行われ,各科での治療の参考とされた.

    その後,う蝕治療を希望し,当院歯科口腔外科を受診した.歯冠崩壊歯をはじめ治療が必要な歯を多数認めたため,2回にわたり同科で全身麻酔下に集中歯科治療が施行された.本症例では検査および他科での臨床経過より総合的に判断し,局所麻酔薬を使用せず全身麻酔下に歯科治療を行い,安全に周術期管理しえた.

    薬剤過敏症患者に全身麻酔下で歯科治療を行い,良好な経過を得たとする報告は,これまでにも複数存在する.本症例は薬剤過敏症と鑑別が困難な徴候が出現しやすい転換性障害患者であったという点が,これらの報告とは異なっていた.

臨床集計
  • 原野 望, 左合 徹平, 布巻 昌仁, 中津 由博, 山口 喜一郎, 椎葉 俊司, 渡邉 誠之
    2017 年 38 巻 1 号 p. 64-68
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    今回,当科における歯科治療への協力を得ることが困難な患者に対する過去7年間の行動調整法について実態調査を行ったため報告する.最も多かった患者の主状態は自閉スペクトラム症で,次に歯科恐怖症,知的能力障害,脳性麻痺,ダウン症候群,異常絞扼反射と続いた.行動調整法の選択は,患者の主状態にもよるが,全体的に処置時間や口腔内への感覚入力などで歯科治療の侵襲が低いと予想される「診察・検査」や「予防処置」「歯周処置」などでは行動療法や反射抑制姿勢が選択され,侵襲が高いと予想される「修復処置」「歯内処置」「補綴処置」「外科処置」などでは,吸入鎮静法や静脈内鎮静法などの薬理学的アプローチを選択する傾向にあった.さらに治療内容が広範囲にわたる場合には全身麻酔法を選択していた.しかし,行動療法のみでも治療可能な患者や,徒手による身体抑制法,より上位の薬理学的アプローチが不可欠な患者も認められ,さまざまな行動調整法を選択して提供する必要があると考えられた.今後はその選択に重要な患者特性や障害特性,ならびに処置内容と口腔内感覚の関連性などの調査を行い,患者にとって最適な環境を提供できる体制を整えていきたい.

  • 堤 香奈子, 村上 旬平, 藤代 千晶, 中村 由貴子, 廣瀨 陽介, 大西 智之, 岡 雅子, 秋山 茂久, 森崎 市治郎
    2017 年 38 巻 1 号 p. 69-73
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    目的:Rett症候群は主に女児に発症し,多彩な神経症状が年齢依存性に出現する神経発達障害である.乳児期後期から幼児期に,知能および運動機能が急速に退行し,知的能力障害,手の常同運動(手もみ),呼吸異常,てんかんなどの症状が現れる.口腔症状としては,ブラキシズムが主たる特徴として報告されているが,口腔に関する報告は少ない.今回われわれは,本症候群患者12名について調査を行ったので報告する.方法:Rett症候群患者12名(8y7m~37y2m)について問診および口腔内診査を行った.結果:1.歯数に特異的所見はなかった.2.前歯部被蓋関係については,正常被蓋(5/12)が最も多く,過蓋咬合(3/12),切端咬合(2/12),前歯部交叉咬合および開咬(1/12)と続いた.正常被蓋と過蓋咬合の各1名は交叉咬合治療後であった.3.最も多くみられた歯科的所見はブラキシズム(8/12)で,咬耗(6/12)を伴っていた.4.9名は歩行可能であったが,全対象者にコミュニケーション障害がみられた.手の常同運動は10名にみられた.結論:ブラキシズムが多くにみられた.手の常同運動や口腔習癖のために,歯列不正を生じる可能性が示唆された.特有の手の常同運動や合目的的運動の困難さから食事や口腔衛生については保護者や介助者の管理下にあるため,患者らのQOLを高めるためにも,早期からの歯科保健管理や介入が必要である.

  • 倉田 行伸, 田中 裕, 弦巻 立, 金丸 博子, 瀬尾 憲司
    2017 年 38 巻 1 号 p. 74-79
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    当院では障害者(児)の歯科治療が安全に行えるように薬物的行動調整法が選択された際に静脈内鎮静法と日帰り全身麻酔が実施されている.そこで,その選択基準の設定に向けて静脈内鎮静法と日帰り全身麻酔の選択の傾向を調査した.

    2010年4月から2015年3月までの5年間に当院で実施した障害者(児)の静脈内鎮静法のべ264例,日帰り全身麻酔のべ58例を対象とした.症例数は静脈内鎮静法で減少傾向にあったが,日帰り全身麻酔で徐々に増加傾向にあった.年齢(中央値)は静脈内鎮静法で25歳,日帰り全身麻酔で15歳であり,日帰り全身麻酔で有意に低かった.障害の分類は静脈内鎮静法および日帰り全身麻酔ともに知的能力障害,自閉スペクトラム症の順で多く,特筆すべき傾向はなかった.治療本数(中央値)は静脈内鎮静法で2本,日帰り全身麻酔で8本であり,日帰り全身麻酔で有意に多かった.処置時間(中央値)は静脈内鎮静法で55分,日帰り全身麻酔で158.5分であり,日帰り全身麻酔で有意に長かった.麻酔時間(中央値)は静脈内鎮静法で80分,日帰り全身麻酔で229.5分であり,日帰り全身麻酔で有意に長かった.

    以上より,本院では低年齢は患者本人の理解や協力および体動抑制に伴う心的外傷の点から,治療本数の多さや処置時間の長さは患者自身やその家族の負担軽減の点から日帰り全身麻酔を選択する傾向があり,それに合う基準が必要と考えられた.

  • 刑部 悦代, 蓜島 桂子, 内藤 慶子, 鈴木 晶子, 浅井 雄大, 朝波 圭貴, 武塙 香菜
    2017 年 38 巻 1 号 p. 80-84
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    浜松医療センター(以下当院)歯科口腔外科(以下当科)で行う心臓弁膜症患者の周術期口腔機能管理(以下周管)の実態と歯科衛生士(以下DH)の活動を明らかにする目的で本研究を行った.平成24年4月から平成26年10月までに当院心臓血管外科から術前に周管の目的で当科を受診した49名(男性28名,女性21名)を対象に診療録を後方視的に調査した.年齢は31歳から89歳(平均72.5歳)であった.49名全員が有歯顎で,46名が隣在歯を有していた.42名(85.7%)は観血的歯科処置に際し感染性心内膜炎(以下IE)予防目的に抗菌薬投与を実施された.歯科処置として,歯周基本検査42名(85.7%),スケーリング38名(77.6%),抜歯28名(57.1%)が行われた.

    DHの活動は口腔清掃指導49名(100%),術前口腔清掃49名(100%),術後口腔清掃47名(95.9%),術前保湿指導25名(51.0%),術後保湿ケア・指導47名(95.9%),内服説明・内服確認35名(83.3%),モニタリング49名(100%)であった.

    本研究の対象者では平成27年11月までにIEを発症した症例はなかった.

    以上より,心臓弁膜症患者の周管として,感染対策下で口腔の感染源を除去する歯科処置を行い,DHが患者の口腔衛生状態を良好に保つ活動を行うことは,周術期および術後のIE発症抑制に寄与することが示唆された.

  • 天野 郁子, 前濱 和佳奈, 利光 拓也, 田﨑 園子, 尾崎 茜, 加地 千晶, 長嶺 和希, 原田 真澄, 緒方 麻記, 高良 憲洋, ...
    2017 年 38 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/06/30
    ジャーナル フリー

    静脈内鎮静法と全身麻酔法の適用の違いを検討することを目的に,平成21年4月から平成27年3月までの診療記録をもとに調査を行った.

    静脈内鎮静法は779回実施され,30歳代への適用が293回と最も多く,次いで40歳代169回,20歳代139回であった.全身麻酔法は144回実施され,20歳代への適用が47回と最も多く,次いで10歳代41回,10歳未満27回,30歳代23回であった.静脈内鎮静法では修復処置,歯内処置,歯周処置,補綴処置,抜歯などの種々の歯科治療が行われたが,全身麻酔法では修復処置や外科処置が選択される傾向が強かった.初診患者について静脈内鎮静法の適用率を調べたところ,高い数値を示したのは異常絞扼反射53.8%,歯科治療恐怖症33.3%で,このほか精神疾患15.4%,精神遅滞9.2%,発達障害7.8%であった.一方,全身麻酔法の適用率は発達障害が22.5%と最も高く,脳性麻痺14.8%,精神遅滞12.5%であった.

    以上より,初診患者への静脈内鎮静法適用率は異常絞扼反射,歯科治療恐怖症が高く,全身麻酔法適用率は発達障害,脳性麻痺,精神遅滞の順に高かった.発達障害者の全身麻酔適用率は精神遅滞者の1.8倍,脳性麻痺者の1.5倍であり,適用率を算出することで,発達障害者の歯科治療を通法で行うことがより困難であることが示唆された.

社会福祉講座
feedback
Top