Brachmann-de Lange 症候群(以下BdLS)は低出生体重,成長障害,小頭,低身長,精神遅滞,特徴的顔貌を呈する先天性疾患である.歯科領域では小下顎症,高口蓋,口蓋裂,歯の萌出遅延や先天性欠如が知られているが,歯の形態異常に関する報告はほとんどない.今回,上顎前歯部に歯内歯および双生歯の併発が認められたBdLS患者の歯科治療を経験したので報告する.
患者は35歳の男性で,う蝕治療を主訴に来院した.顔貌所見はBdLSに特徴的な小頭,濃く癒合した眉毛,長くカールした睫毛,小さな尖った鼻,耳介低位が認められた.歯科治療への協力度は低く,口腔内の精査は困難であった.また,上顎前歯部の形態異常歯や永久歯の先天欠如,乳歯の晩期残存も認められため歯種を特定することさえ困難であった.歯科的対応の問題のため精査および歯科治療を全身麻酔下にて行うこととした.
精査を行ったところ,上顎前歯に形態異常が認められた.上顎中切歯は左右側ともに歯冠部の形態からOehlersの分類Ⅱ型の歯内歯であった.さらに右側は2歯の歯内歯が癒合した形態をしており,上顎前歯部には歯数不足がないにもかかわらず癒合歯が認められたことから双生歯と診断した.上顎右側中切歯歯髄腔は歯根部では単一で,歯冠部で複雑に分かれていた.2歯の歯内歯が癒合した双生歯は,BdLSの過去の報告にみられない所見であった.
また多数歯にわたる先天欠如があり,エックス線画像所見と肉眼的所見,歯科的既往歴から永久歯先天欠如は10歯で,過去の報告と比較して最も多いものであった.
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