日本障害者歯科学会雑誌
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38 巻, 2 号
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講座
宿題報告
原著
  • 吉田 幸弘, 三田 千和子, 今井 光子, 青柳 康子, 遠山 和子, 内田 琢也, 田村 宗明, 相澤 恒
    2017 年 38 巻 2 号 p. 148-153
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    う蝕や歯周病は口腔病原菌に起因する感染症である.歯垢はこれら原因菌の存在場所であることから,予防には歯垢の除去,すなわちプラークコントロールが必須となる.今回われわれは,電動歯ブラシによるカテキンジェル塗布が障害者のプラークコントロールレコード(PCR)に及ぼす効果について検討を行った.さらにカテキンジェルが唾液中の口腔細菌数に与える影響についても検討を加えた.

    某地域歯科医師会の障害者歯科診療所に通院し,本研究に賛同したメインテナンス中の患者15人を対象とした.試験期間は4週間,歯垢除去には電動歯ブラシを使用し,カテキンジェルを1日1回口腔内塗布してプラークの付着状態(PCR)を評価し,プラセボジェルの結果と比較した.さらに被験者から唾液を採取してDNAを抽出し,real-time PCR法にて唾液中の菌数を算定した.

    カテキンジェル塗布前および塗布4週間後のPCRはそれぞれ62.8±22.7および63.7±20.1%とほとんど変化はみられなかった.一方,real-time PCR法の結果から,総菌数および口腔の正常化に関わる総レンサ球菌群数に変化はみられなかったが,う蝕原因菌や歯周病原菌に影響を与える可能性がみられ,特に歯周病原菌のTreponema denticola菌数は有意に減少した.

    カテキンジェルは障害者のプラークの付着範囲に影響を及ぼさなかったが,唾液中の一部の歯周病原菌数を減少したことから,障害者の口腔ケアに有用である可能性が示された.

  • 大西 智之, 久木 富美子, 浜田 尚香, 角谷 久美代, 金高 洋子, 藤原 富江, 田井 ひとみ, 畔栁 知恵子, 前田 有加, 樂木 ...
    2017 年 38 巻 2 号 p. 154-161
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    幼児期に強制的な歯科治療を行った自閉スペクトラム症(Autistic Spectrum Disorder,以下ASD)児の9歳時での歯科への適応性を評価し,発達年齢や障害特性などとの関連性を考察した.当科で4~5歳時に体動抑制下での治療を経験したASD児のうち,9歳以降も当科で口腔衛生管理を行っている31人を対象とした.対象者を9歳時の行動評価から,通法群,抑制協力群,非協力群に分け,4~5歳時における発達年齢,ASDの障害特性,日常生活への適応に関するさまざまな項目について比較した.9歳時での行動評価の結果,通法群10人,抑制協力群8人,非協力群13人であった.通法群の4~5歳時における発達年齢の言語理解はその他2群より有意に高く,通法群とその他2群を分ける境界は2歳4.5カ月であった.さらに,通法群で多動性を有していた者は非協力群と比較して有意に少なかった.一方,非協力群で4~5歳時に触覚過敏性を有していた者,あるいは自傷を認めた者は,その他2群と比較して有意に多かった.これらの結果から,幼児期のASD児に対して強制的な治療を行っても,その時点での発達年齢の言語理解が2歳4.5カ月以上で,多動傾向が強くない場合は,将来は通法で治療できる可能性が高いと思われた.一方,幼児期に自傷を認めたり触覚過敏を有したりする者は,将来も歯科治療に対する適応性が改善する可能性は低いと考えられた.

症例報告
  • 道満 朝美, 山下 智章, 池上 真里佳, 杉村 智行, 三島 信之, 秋山 茂久
    2017 年 38 巻 2 号 p. 162-166
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    二分脊椎症は,胎生期に生じた神経管の先天的閉鎖不全により起こる脊椎形成不全で,顕性と潜在性がある.脊髄髄膜瘤は,顕性の二分脊椎症で,髄膜と神経組織の脱出により形成された腫瘤のため,仰臥位では褥瘡を発症しやすい.今回われわれは,小児頭大の脊髄髄膜瘤を有する患者に対し,静脈内鎮静法下に歯科治療を行う際に,褥瘡予防のため体位に配慮した症例を経験したので報告する.患者は33歳,男性.日常生活は座位または腹臥位で送っている.上顎左側第二小臼歯のう蝕処置が必要であったが,局所麻酔への恐怖心などから協力が得られず,静脈内鎮静法下で治療を行うこととした.術当日,腫瘤の形状を記録後,体圧分散用具を用いて周術期体位をとり,仰臥位での腫瘤への圧の局所集中の予防と体圧の均等な分散を図った.また,麻酔管理を短時間とし,術後管理は座位で行った.術後に腫瘤の形状を確認したところ,圧痕などはなく血流も妨げられておらず,術前と比べ状態に変化はなかった.局所麻酔が必要な処置(抜髄)のみ静脈内鎮静法の適応とし,根管充塡や歯冠補綴は通法下で行った.通法下での処置時にも体圧分散用具を用い体位に配慮し,腫瘤への局所圧迫が生じないよう配慮した.本症例では,仰臥位での処置は褥瘡のリスクが高いと考えられたが,さまざまな用具を使用し麻酔管理時間を短くするなどの配慮により褥瘡発生を防ぐことができた.

  • 岡田 芳幸, 鈴木 貴之, 岩崎 仁史, 磯野 員達, 松村 康平, 三澤 美幸, 田中 春菜, 小笠原 正
    2017 年 38 巻 2 号 p. 167-174
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    重症血友病Aは血液凝固第Ⅷ因子(FⅧ)の機能的欠損による出血性疾患で,時に致死的な出血をきたす.根本治療はなく,定期的および周術期にFⅧ製剤を投与する補充療法が標準となる.ところが,頻回の静脈注射は身体拘束が必要な患者にとって負担が大きく補充療法の順守低下の原因となる.最近,長時間作用型のFⅧFc領域融合蛋白質(rFⅧFc)製剤が認可され定期的補充療法の負担軽減が見込まれているが,抜歯時にrFⅧFc補充を行った報告はない.今回われわれは,新薬のrFⅧFcに変更して定期的補充療法を行っている重症血友病Aを有する自閉スペクトラム症児に,同剤による周術期補充療法を行いながら静脈内鎮静法下に抜歯を行った1例を経験したので報告する.患者は9歳男児で,上顎左側乳犬歯および第二乳臼歯の抜去を主訴に来院した.重症血友病A(FⅧ活性<1%)があり,従来からFⅧ製剤の定期的補充を行っていたが,5カ月前にrFⅧFcの補充に変更していた.そこで,術前にrFⅧFcを輸注しFⅧ活性>80%になること,インヒビターがないことを確認し抜歯を行ったところ,止血状態も良好であった.また,rFⅧFcが長時間作用型であることから術後補充は24時間後のみとし,定期補充療法に移行したが,術後出血などの合併症もなく良好な経過を得た.以上からrFⅧFcの抜歯時補充は止血に有効であったとともに,頻回投与の負担を軽減することで出血予防が順守され,重症血友病Aを伴う自閉スペクトラム症児でも安全な抜歯が可能であった.

  • 松村 朋香, 榎本 雅宏, 小城 哲治, 宮本 智行, 深山 治久, 鈴木 聡行
    2017 年 38 巻 2 号 p. 175-178
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    完全房室ブロックは房室伝導系が阻害されることで発生し,高度の症候性徐脈や長時間の心停止の原因となりうる重篤な不整脈である.今回,われわれはアルツハイマー型認知症患者の歯科初診時に完全房室ブロックが認められた症例を経験した.

    症例:86歳女性.既往歴:アルツハイマー型認知症,骨粗鬆症,頻尿,右下肢骨折.失神歴なし.現病歴:義歯再製目的に受診した近歯科では治療困難なため,藤沢市北部歯科診療所を受診した.初診時にバイタルサインモニタを装着したところ,心電図上で高度徐脈および完全房室ブロックを認めた.患者の意識は清明であり,血圧は高値で経皮的酸素飽和度は基準値内であった.治療を中止し循環器内科に対診したところ,ペースメーカー埋入適応であるが埋入について慎重に検討するとの回答を得た.歯科治療については紛失した旧義歯が発見されたため,後日,バイタルサインを監視しながら義歯調整を行い,治療終了とした.

    一般に,完全房室ブロックなどの高度房室ブロックによる症候性徐脈は,自覚症状から発見されることも多い.本症例は認知症のために意思の疎通が困難であり,自覚症状があっても周囲に訴えられなかったため,心電図をモニタするまで発見されることがなかったと考えられる.

    認知症で意思の疎通が困難な高齢患者の場合,重篤な合併症が見逃されたまま歯科を受診する可能性があり,治療中のバイタルサインの監視の必要性が再確認された.

  • 増田 啓次, 山座 治義, 松石 裕美子, 高山 扶美子, 小笠原 貴子, 廣藤 雄太, 緒方 哲朗, 野中 和明
    2017 年 38 巻 2 号 p. 179-185
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    がん患者の口腔内感染源は化学療法開始前に完治させておくことが重要である.今回,われわれは化学療法開始2日目に重度の乳歯う蝕に対し全身麻酔下歯科治療を行った後,急性呼吸窮迫症候群を発症した1例を経験したので報告する.

    患者は生来健康な4歳11カ月の女児.悪性腫瘍を疑われて当院小児科を受診し,初診日に急性骨髄性白血病と診断された.翌日,初回寛解導入療法の開始とともに当科を緊急受診した.

    当科初診時の全身状態として,腫瘍崩壊症候群のハイリスク群に分類されたためラスブリカーゼの予防投与が開始されており,臨床症状は認めなかった.口腔内には下顎前歯を含む多数歯にう蝕を認めた.抗がん剤による骨髄抑制が出現する前に迅速に治療を終える必要があると判断し,当科初診の翌日,全身麻酔下集中歯科治療を行った.抜管後,腫瘍崩壊症候群の臨床症状として急性呼吸窮迫症候群を発症し,初回寛解導入療法は20日間中断された.初回寛解導入療法が再開されて以降は重篤な有害事象なく経過し寛解した.

    初回寛解導入療法の開始後にう蝕を認めた場合,侵襲の大きい歯科処置は骨髄抑制の出現前であっても慎重に計画し,全身状態によっては延期する選択肢も考慮すべきである.

  • 妹尾 美幾, 笹尾 真美, 守安 克也, 柴田 豊, 柴田 えり子, 關田 俊介, 安達 吉嗣
    2017 年 38 巻 2 号 p. 186-191
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    横隔膜ヘルニア(DH)は,横隔膜の形成・閉鎖不全により腹腔内臓器が胸腔内へ脱出したもので,重篤な呼吸・循環不全を引き起こす新生児疾患の1つである.成人で診断されるDHは,きわめてまれとされている.今回,DHを合併する知的障害者の抜歯のための静脈内鎮静法(IV)を経験したので報告する.

    患者は20歳の女性,知的障害と四肢体幹機能障害があった.17歳より某総合病院歯科を定期的に受診しており,18歳時にう蝕治療のため全身麻酔が計画された.術前の胸部エックス線写真で横隔膜に異常所見がみられ,外科と内科への対診でDHと診断された.しかし,日常はDHに関連する症状がみられなかったため,軽症と判断され,全身麻酔下歯科治療が施行された.術後は順調に経過したため,19歳時に再度全身麻酔下で両側上顎智歯の抜歯が計画された.そのときはDHを主な理由に全身麻酔が受託されず,抜歯は施行されなかった.その後,担当歯科医の異動に伴いA歯科保健センターへ紹介され,IVによる行動調整で抜歯を計画した.全身麻酔のできる環境下で,自発呼吸を十分に保ちながらミダゾラムとプロポフォールを用いたIV下に抜歯を施行した.総投与量は,それぞれ3mg,200mgであった.処置時間は34分,管理時間は70分であった.術中術後に著変はなかった.

    軽症のDHを合併する知的障害者の歯科治療において,診療情報と管理体制が整えば,ミダゾラムとプロポフォールによるIVも行動調整法として有用である.

  • 長田 豊, 喜多 慎太郎, 三村 恭子, 髙比良 喜世美, 井元 拓代, 彌永 知子, 川添 朋子, 鮎瀬 卓郎
    2017 年 38 巻 2 号 p. 192-197
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    Coffin-Lowry症候群は特異顔貌,低身長,骨格奇形,知的障害などを特徴とする奇形症候群である.口腔内所見では,乳歯の早期脱落,永久歯では上顎前歯の歯根短縮や歯周疾患による早期の歯の脱落などがあると報告されているが,歯周治療に関する報告は見当たらない.

    今回,Coffin-Lowry症候群と診断された,障害者支援施設入所の28歳男性と46歳男性の2症例に対して歯周治療を行ったので報告する.主訴は健診,既往歴は,脊柱後側彎症,視覚障害など.初診時の口腔内所見は,清掃状態は不良でプラークや歯石が多量に沈着し,歯肉の発赤・腫脹,深い歯周ポケットや歯の動揺,歯槽骨の吸収が認められた.また,上顎中切歯や小臼歯が短根であり,中等度慢性歯周炎に罹患していた.治療経過は,重度の知的障害があるため,口腔清掃は,介助ケアとプロフェッショナルケアで対応した.また,Tell,Show,Do(TSD)やカウント法などの行動療法を応用しながら,非外科的に歯周治療を行った.再評価後,残存した深いポケットに対し,必要に応じて抗菌療法とスケーリング・ルートプレーニング(SRP)の併用療法を静脈内鎮静法下にて実施した.その結果,歯周組織の状態が改善されたため,Supportive periodontal therapy(SPT)へ移行した.

    今回の2症例の臨床所見から,Coffin-Lowry症候群は,歯周炎を伴う遺伝性疾患と考えられるので,早期からの歯周治療や治療後の口腔管理が重要であると思われた.

臨床集計
  • 五味 暁憲, 辻野 啓一郎, 大串 圭太, 鈴木 奈穂, 布施 亜由美, 福島 圭子, 武者 篤, 小杉 謙介, 倉持 真理子, 吉田 みず ...
    2017 年 38 巻 2 号 p. 198-202
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/10/31
    ジャーナル フリー

    障害のある患者が口腔外科小手術(minor oral surgery,MOS)の適応とされた際,全身麻酔法や静脈内鎮静法での対応が困難な施設ではMOSの実施可否の判断が難しいと考えられる.われわれは,①保護者の同意がある,②一定時間体位を保持できる,③体動コントロールで体位を保持できる,④MOSは30分以内で終了可能である,の4条件を満たす場合にMOSを実施してきた.今回,障害のある患者へのMOS適応について検討を行い,以下の結果を得た.

    1.当センターのMOS適応基準を満たした患者は62名で,実施61名,中止1名であった.MOSは難抜歯術が39件と最多で,他に歯根端切除術,口腔内消炎手術などが行われていた.

    2.体動コントロール法は介助者による徒手的抑制,抑制具の使用であった.

    3.抜去した下顎埋伏智歯は,Pell and Gregoryの分類でClassⅠA,ⅠB,ⅡA,ⅡBに該当する症例のみで,ClassⅢやPosition Cに該当する症例はなかった.

    4.中止例の原因は,頰をすぼめる動作により術野の確保が困難となったことであった.

    以上より,術野確保が可能なことも当センターのMOS適応基準に加える必要があると考えられた.下顎埋伏智歯抜歯はPell and Gregoryの分類のⅠA,ⅠB,ⅡA,ⅡBに分類される症例であれば外来局所麻酔下に手術可能であると考えられた.

臨床ヒント
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