日本障害者歯科学会雑誌
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39 巻 , 1 号
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原著
  • 髙井 理人, 大島 昇平, 中村 光一, 八若 保孝
    2018 年 39 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    重症心身障害児(以下,重症児)の保護者が在宅で行う口腔ケアについて,保護者による清拭の有効性と,唾液中細菌数に影響を与える因子について検討した.

    人工呼吸器および経管栄養を使用する15歳未満の重症児20名(平均年齢5.5±3.8歳)を対象とし,自宅訪問中に保護者による口腔ケア(2分間のブラッシングとガーゼによる清拭)を行わせ,ブラッシング前,ブラッシング後,清拭後の唾液中細菌数を測定した.唾液は口底部から採取し,測定には細菌カウンタ®(パナソニックヘルスケア,東京)を用いた.普段からブラッシング中の吸引を行っている者には吸引を行わせた.また,全身状態(栄養方法,人工呼吸器の使用状況,気管切開の有無,持続吸引の有無,嚥下の有無)とブラッシング前の唾液中細菌数との関連を単変量解析と重回帰分析により検討した.

    唾液中細菌数はブラッシング前,ブラッシング後と比較して清拭後では有意に減少した.ブラッシング中の吸引の有無とブラッシング前後の唾液中細菌数の変化には有意な関連を認めなかった.単変量解析では,人工呼吸器の使用状況,気管切開の有無,嚥下の有無において唾液中細菌数の有意差を認め,重回帰分析では,嚥下の有無のみを独立変数とする有意な回帰式が得られた.

    ブラッシング後の清拭は唾液中細菌数の減少に有効であった.嚥下を認めない重症児では唾液中細菌数が多く,清拭の意義は大きいと考えられた.

  • 鈴木 貴之, 小笠原 正, 磯野 員達, 望月 慎恭, 大槻 征久, 緒方 克也, 岡田 芳幸
    2018 年 39 巻 1 号 p. 8-15
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    障害者差別解消法が施行された現在,障害者歯科医療を行うにあたり,合理的配慮を可能なかぎり提供することが求められるようになった.しかし,意思決定支援を行うためのマニュアルがないのが現状である.本研究の目的は,全身麻酔と身体抑制法を説明したうえで,どちらかを選択できるレディネスを明らかにすることである.

    松本歯科大学病院特殊診療科を受診した知的能力障害者90名(知的能力障害24名,自閉スペクトラム症54名,Down症候群12名)に対し,全身麻酔,身体抑制について説明した動画,イラスト,写真のいずれか1つを見せながら口頭で説明を行った.その後,媒体を見せながら5つの質問を行い,理解度を確認した.質問の内容は,①「薬を使うのはどちらですか」,②「寝ているうちに治療が終わるのはどちらですか」,③「抑えられて治療するのはどちらですか」,④「どちらが好きですか」,⑤「どちらが嫌いですか」とした.質問①~③についてすべて正解であった者を理解群,1つでも間違えた者を非理解群とした.

    結果は,いずれの媒体であっても基本的習慣と言語理解が4歳6カ月で,全身麻酔と身体抑制が理解できる可能性が示唆された.どちらが好きかという質問に対しては全身麻酔のほうを選ぶ者が多かった.媒体の理解しやすさには明確な差が認められなかった.

症例報告
  • 田中 健司, 廣瀨 陽介, 三浦 麻衣, 毛利 泰士, 村上 旬平, 秋山 茂久
    2018 年 39 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    2q部分欠失はまれであり,これまで歯科的特徴として高口蓋などの報告はあるものの2q23q24.2欠失症候群の歯科的報告はない.今回,われわれは2q23q24.2欠失症候群の歯科治療を経験したので,その歯科的所見を報告する.

    患者は21歳の男性で,う蝕治療を主訴に来院した.家族歴は特になし.合併症として重度知的能力障害,てんかん,合指症,感音性難聴および停留睾丸があり,顔貌の特徴として小頭症,外斜視,カフェオレ斑,眼瞼内反,凹んだ鼻堤,左右非対称の鼻翼,上向きの鼻孔,平坦な人中および下向きの口角を認めた.また歯科的特徴として下顎右側中切歯の先天欠如,上顎左側側切歯の切歯結節および下顎両側第一小臼歯の臼傍結節を認め,下顎前歯は著明な切痕を有し,唇側傾斜と空隙歯列を呈していた.本症例は重度知的能力障害と嘔吐反射もあることから,保護者の希望によりう蝕治療およびその後のメインテナンスに関しては静脈麻酔下にて実施した.

    本症例で認められた下顎中切歯の先天欠如や下顎小臼歯の臼傍結節に関しては,過去の報告と比較しても非常にまれな発現と考えられる.現段階では本症候群の特徴であるかは不明であるが,今後報告される2q23や2q24部分欠失症候群患者の歯科的特徴と比較検討することが必要と考える.

    2q23q24.2欠失症候群では下顎中切歯の先天欠如や下顎小臼歯の臼傍結節などの歯科的特徴を認めた.本症例は重度知的能力障害を伴っており,今後も継続的な口腔衛生管理が必要である.

  • 伊堂寺 良子, 中井 倫子, 石濱 孝二, 山西 博道
    2018 年 39 巻 1 号 p. 23-27
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    重症心身障害児・者施設に入所している重症心身障害者(以下,重症者と略す)は,近年高齢化が進み,加齢を要因とする疾患が増加している.今回,病棟職員により舌の白色病変を発見し,切除生検の結果,舌上皮内癌と診断された症例を報告する.

    患者は当該病名での初診時年齢63歳女性,髄膜炎後遺症にて施設入所している重症者であった.病棟での口腔ケア時に左側舌下面に白色斑を認め,経過観察していた.約半年後,上顎左側歯肉の疼痛,左側舌下面の白苔を主訴に当科を受診した.

    左側舌下面に12×10mm大の白色病変を認め,白板症が疑われた.生検を通法下で行うことは困難なため,全身麻酔下での生検を計画した.早期舌癌の可能性を否定できないため,十分な安全域を設けた全摘生検を行ったところ,病理診断は,舌上皮内癌であった.術後経過は良好で,2年6カ月経過したが,再発はみられず,摂食機能も維持されている.

    重症児・者施設では,高齢化により,死因として悪性腫瘍の割合も増加している.自覚症状を言葉で表現できない重症者は,癌を早期発見することは困難で,特に口腔内に発症した癌は進行すると,重症者の大きな楽しみである「食べること」を奪いかねない.今回,病棟職員の口腔ケア時の観察が癌の早期発見に繋がったことより,観察力の重要性が改めて認識された.

  • 山下 薫, 糀谷 淳, 岐部 俊郎, 大野 幸, 佐古 沙織, 杉村 光隆
    2018 年 39 巻 1 号 p. 28-32
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    18p-症候群は,18番染色体短腕の欠失により生じる染色体異常症候群であり,精神遅滞や言語の遅れが報告されている.また,全身麻酔に関しては心臓血管疾患の評価が推奨されている.われわれは精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者の全身麻酔管理下での下顎埋伏智歯抜歯術を経験したので報告する.

    患者は22歳男性で,かかりつけ歯科医で下顎両側埋伏智歯周囲炎の診断を受けた.歯科医は患者の行動を管理することが困難と判断し,当院口腔外科に紹介され,行動管理目的に全身麻酔管理下での抜歯が計画された.

    本症例は精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者であった.そのため,心臓血管内科医に術前の循環動態の評価を依頼し,麻酔中の循環動態の管理についても入念に術前検討を行った.また,精神遅滞に伴う興奮による循環動態の変動を防ぐために麻酔前後の行動管理の方法に関して小児科医とも十分に協議した.

    入室時の興奮を避け,肺血管抵抗の上昇による肺高血圧症の悪化を避けるために鎮静下で手術室に入室した.肺高血圧症の管理に準じた麻酔管理下で下顎埋伏智歯抜歯を行った.

    本症例を通じて,精神遅滞と肺高血圧症を有する18p-症候群患者に安全な全身麻酔下での治療を行うためには,患者の精神愛護に配慮し循環動態の変動を避けることが重要であり,その周術期の管理計画立案については各専門診療科医との術前の協議が不可欠であると考えられた.

  • 西川 聡美, 加納 慶太, 村山 高章, 山本 俊郎, 金村 成智, 秋山 茂久, 森崎 市治郎
    2018 年 39 巻 1 号 p. 33-37
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    知的能力障害とは,知的機能の障害が発達期に現れ,日常生活に支障が生じているため,なんらかの特別な援助を必要とする状態にあるものと定義されている.知的能力障害者は知能の発達が遅れているだけではなく,生活にかかわる能力も制限され,個人および集団生活に困難を抱えている.成人では,社会でのコミュニケーションと自己管理能力にも問題を生じることがある.

    本症例では,精神科病院に入院中で高齢の知的能力障害者間で,菓子パンの取り合いから喧嘩となり,自験例患者の口腔内に加害者の右手拳が挿入された結果,両側の口角に裂傷を生じ,数時間後に紹介されて当科を受診した.来院時には患者は落ち着いた状態で,口角裂傷の他に異常所見はなかった.裂傷部の縫合処置を行い,創部の経過は良好で,受傷後15日目で当科終診となった.

    知的能力障害者の問題行動には,対人関係の障害,自傷,他害,突発的行動などがある.こういった行動は日常的に発生していると推測され,口腔外傷も潜在的に起きていると考えられるが,医療機関を受診することが少ないためか同様の報告例はほとんど見当たらない.自験例のような報告例を集めることで,知的能力障害者の問題行動と関連した口腔外傷の全容が明らかになってくると考えられる.また,このような外傷の発生を防止するためにも,知的能力障害者の問題行動と口腔外傷の実態を把握し,歯科医療サイドからの情報提供,助言や支援を行っていくことは重要と考えられる.

臨床集計
  • 松川 綾子, 村上 旬平, 三原 丞二, 畔栁 知恵子, 田中 健司, 藤代 千晶, 財間 達也, 藤川 順司, 秋山 茂久
    2018 年 39 巻 1 号 p. 38-44
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
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    目的:Smith-Magenis症候群(SMS)は染色体17p11.2上のレチノイン酸誘導遺伝子RAI1の欠失または変異を原因とし,特徴的な顔貌,精神発達の遅れ(軽度から中等度),行動異常および睡眠障害を特徴とする.口腔内の特徴に歯の先天欠如,タウロドントおよび歯根彎曲の報告があるが,SMSに関する歯科領域での国内の報告はほとんどない.今回SMSの全身的特徴および歯科的特徴を調査したので報告する.

    対象と方法:Smith-Magenis症候群9人(5~18歳)について医療面接,口腔内診査,印象採得およびエックス線写真撮影を行った.

    結果:1)9人全員が中等度の知的能力障害であった.2)行動上の問題として,睡眠障害(9/9),パニック(9/9),自傷行動(8/9)が多かった.3)顔貌特徴として,9人全員に眉毛叢生,眼瞼裂の上方傾斜,めくれたテント状の上唇を認めた.4)歯の特徴として,タウロドント(9/9),先天欠如歯(2/9),歯根彎曲(2/9)を認めた.

    結論:SMSでは,タウロドントなどの歯の形態異常や歯数の異常が多く,知的能力障害や睡眠障害,パニックなどの行動異常があることから,歯科受診の際の診療時間の配慮や,行動調整および口腔衛生管理が重要である.

委員会報告
  • 一般社団法人日本障害者歯科学会ガイドライン検討委員会
    2018 年 39 巻 1 号 p. 45-53
    発行日: 2018年
    公開日: 2018/06/30
    ジャーナル フリー

    はじめに:障害者歯科は,身体的および知的な発達,あるいは精神機能に障害があるために,通常の診察や指導,処置を受けることが困難な人を対象に診療を行っています.そのため障害者歯科では,さまざまな心理学的,神経生理学的,物理的・機械的ならびに薬理学的行動調整の技法を応用,駆使して安全に良質な診療が行えるよう努めなければなりません.

    わが国で障害者歯科診療への需要と関心が本格的に拡大し始めた1965年頃から今日まで,障害者歯科診療においては身体抑制法も行動管理/体動コントロールとして広く応用されてきました.しかし,近年は新しい概念の心理学的アプローチや行動変容法,また静脈内鎮静法や全身麻酔法などの薬物を用いた行動調整が普及してきています.社会のすべての分野でグローバル化が進むなかで,障害者権利条約の批准国ともなった今日,わが国の障害者歯科医療では,これまで広く行われてきている身体抑制(体動コントロール)法に関しても,改めて見直しておく必要のあることが常に学会における懸案になっていました.

    そのような背景のもと,理事長からの諮問課題として,「歯科治療時の身体(体動)抑制法に関するガイドラインの作成」が出されました.そこでまず,歯科治療時の身体(体動)抑制法の現状について2014年に本学会の代議員と会員を対象としてアンケートを行い,約140人から回答が寄せられました.また同じアンケートを台湾障害者歯科学会にも実施を依頼し,回答をいただきました.これらのアンケート結果を公表し,併せて第32回日本障害者歯科学会総会および学術大会(2015年)で意見集約を目的として,シンポジウムを行いました.

    障害者歯科診療において「身体抑制」とはなにか,身体抑制法の長所と欠点,為害性と有益性,他の方法との代替性,患者を対象に診療行為として行われる身体抑制と要介護高齢者などを対象として看護/介護の領域で行う身体拘束との質的な違いなどは,検討すべき課題が多く,また社会情勢によっても常に変化しているテーマです.

    このたび日本障害者歯科学会で「歯科治療時の身体(体動)抑制法に関する手引き」(案)を作成しました.まだ,ガイドラインとして公表できるほどの完成度には程遠く,また会員の多様な意見を完全に集約することも難しいため,「手引き」のレベルとして参考にしていただければと考えています.

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