日本障害者歯科学会雑誌
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41 巻, 4 号
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原著
  • 松岡 陽子, 倉重 圭史, 毛利 志乃, 梶 美奈子, 片山 博道, 伊藤 誠, 芝田 憲治, 蓑輪 映里佳, 齊藤 正人, 福本 敏, 山 ...
    2020 年 41 巻 4 号 p. 277-286
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    一般社団法人日本障害者歯科学会は,平成20年に日本障害者歯科学会指導歯科衛生士(以下:指導DH),日本歯科衛生士会認定衛生士(認定分野B:障害者歯科,以下:認定DH)制度を導入した.本制度の下,障害者歯科診療のための歯科衛生士養成の認定DH研修ガイドライン(以下:研修ガイドライン)が作成され,指導DHは本研修ガイドラインに沿って認定DH等の育成を行うことが望ましいとされている.しかし,歯科衛生士(以下:DH)の障害者歯科研修あるいは指導等において,本ガイドラインに提示されている項目の達成状況を検討した報告はない.

    そこで本研究は,研修ガイドラインに準じたアンケート調査を行うことで,障害者歯科に携わるDHのガイドライン項目の達成状況を把握することを目的とした.

    調査は,指導DH,認定DH,および認定資格を有していないDH(以下:一般DH)を対象とした.本調査において,指導DH,認定DH,一般DHの各研修ガイドラインの項目の達成状況の評価に特徴が認められた.研修ガイドラインの項目によっては,臨床経験だけでなく,時代背景や教育課程の違いが関与していることが示唆された.

    これらの結果より,DH育成において研修ガイドラインの項目ごとにその達成状況を調査分析することは,今後のDH教育に必要とされる項目の検討や,臨床現場で働くそれぞれの立場に応じたDHに対する研修項目の拡充を検討する際に活用できると考えられた.

  • 秋枝 俊江, 小笠原 正, 朝比奈 滉直, 宮原 康太, 松村 康平, 荘司 舞, 島田 茂, 島田 裟彩, 谷口 誠, 吉田 明弘
    2020 年 41 巻 4 号 p. 287-298
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    経管栄養と経口摂取の要介護高齢者における口蓋・舌・咽頭の細菌叢を明らかにするために次世代シークエンス解析(NGS)を行い,さらに細菌叢に影響を与えている要因を検索する目的で主成分分析と相関比を用いた.経管栄養者20名と経口摂取者19名の要介護高齢者を調査対象とした.入院記録より栄養摂食状況,年齢,性別,疾患,寝たきり度を確認し,Japan Coma Scale,意識レベル,意思疎通の有無,残存歯とう蝕の有無,CPI測定を行った.検体採取は,口蓋,舌,咽頭をスワブ法にて実施し,DNA抽出,PCR法,次世代シークエンス・メタゲノム解析を行い,塩基配列を解読し,細菌の種類と構成率を評価した.

    Shannon指数は,経管群で口蓋と咽頭において経口群よりも有意に低く,舌では,平均値で経管群が低かったが,有意差を認めなかった.経管群における口蓋,舌,咽頭は,好気性菌が有意に多く,通性嫌気性菌は,経管群で有意に多く認めた.経管群における口蓋,舌,咽頭の細菌叢はNeisseria属,Streptococcus属,Rothia属の割合が多かった.主成分分析による口蓋の第1主成分の寄与率は21.3%,舌で32.7%,咽頭で30.1%であった.「経管/経口」「意思疎通」「年齢」「全身疾患の種類」などを含めた18項目と細菌叢との関連を示す相関比は,「経管/経口」の相関比が最も高いことが認められ,口蓋・舌・咽頭の細菌叢に最も影響を与える要因は,「経管/経口」であった.

  • 大西 智之, 金高 洋子, 藤原 富江, 田井 ひとみ, 中井 菜々子, 久木 富美子, 浜田 尚香, 樂木 正実
    2020 年 41 巻 4 号 p. 299-306
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    低年齢から,特にう蝕に罹患する前からの口腔衛生管理は重要であるが,低年齢から管理を開始しても必ずしもう蝕に罹患することなく成長するわけではない.今回,3歳から口腔衛生管理を開始した自閉スペクトラム症(ASD)児のうち初診時にう蝕に罹患していなかった20人を対象とし, 6歳時の食生活習慣および刷掃習慣に関する項目,発達年齢,ASDの障害特性と,6歳でのう蝕経験との関連性について調べた.その結果,介助磨きへの協力性がう蝕罹患と関連性が強いことが示された.一方,間食回数や夕食後の間食の有無などは関連性が低かった.また,項目間の関連性を調べたところ,発達年齢および触覚過敏性と介助磨きへの協力性との間に関連性を認めたことから,発達年齢が低かったり,触覚過敏性を有していたりした場合は家庭での介助磨きに対して非協力的であり,このためにう蝕に罹患しやすい傾向があると考えられた.以上から,介助磨きへの協力性が改善しない者に対しては注意深い口腔衛生管理が必要であり,特に,発達年齢が低い者や触覚過敏性を有している者は家庭での介助磨きへの協力が難しいことから,プロフェッショナル・ケアの強化など慎重なう蝕予防が必要であると考えられた.

症例報告
  • 船津 敬弘, 馬目 瑶子, 佐藤 ゆり絵, 姜 世野, 下村 直史, 新田 雅一, 栗谷 未来, 嘉手納 未季
    2020 年 41 巻 4 号 p. 307-311
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    Lesch-Nyhan症候群は下唇や頰粘膜,舌の同一部位に繰り返し咬傷を生じるため,創部の保護や咬傷予防に対する歯科的対応が必須である.今回下唇への自傷行為による咬傷を繰り返すLesch-Nyhan症候群児に対し,下唇圧排型マウスガードを考案し応用したところ,下唇への自傷行為防止に有効であった症例を経験したので報告する.本症例は初診時年齢1歳11カ月の男児で,乳臼歯の萌出に伴い,専門的な口腔管理を勧められ当院に来院した.2歳3カ月時より下唇への自傷行為がみられるようになった.2歳5カ月時に上顎にマウスガードを作製した.3歳3カ月時には上顎乳切歯4歯の歯冠切削と下顎乳切歯4歯を抜去した.さらに下顎に装着するマウスガードを作製することとした.そのマウスガードには下唇の巻き込み防止のためレジンにて唇側に厚みを付与した.これによりマウスガード装着時には下唇が唇側に圧排され咬傷の防止が可能となった.乳臼歯部にもレジンを添加し咬合挙上を図った.また,シート素材を2重構造(外面ハード,内面ソフト)とすることで,耐久性,安全性にも配慮することができた.現在4歳9カ月であるが,下顎のマウスガードは継続的に使用できている.下唇への自傷行為は防止できており経過良好である.そして本マウスガードの装着が自傷行為だけでなく,保護者ならびに本人の精神面においても良好な経過を示している.

  • 境野 才紀, 栗原 淳, 大隅 麻貴子, 五味 暁憲, 小杉 謙介, 横尾 聡
    2020 年 41 巻 4 号 p. 312-317
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    習慣性顎関節脱臼は臨床上しばしば遭遇する疾患であり,その治療選択は観血的手術からチンキャップ固定などの簡便な方法まで多岐にわたる.しかし,高齢者や有病者,あるいはコミュニケーションが困難な患者においては観血的処置が適応しづらく治療法の選択に苦慮することも多い.今回われわれは知的障害を有し意思疎通が困難なダウン症候群患者の習慣性顎関節脱臼に対し自己血注入療法(ABI)で加療し良好な結果を得た.患者は62歳の女性である.1日に1回の頻回な顎関節脱臼を主訴に受診した.ダウン症候群,知的障害を有し指示動作は困難であった.侵襲や術後管理の安全性を考慮し,レストレーナー®と介助者による抑制下にABIを施行した.術後6カ月の段階で脱臼頻度は月に1回程度に減少し,患者・保護者ともに負担が軽減された.知的障害を有し,意思疎通が困難なダウン症候群患者の習慣性顎関節脱臼に対しABIは少ない侵襲で効果を得られる有効な手段の一つと考えられる.今後,意思疎通困難患者に対するABI適応の包括的なデータの蓄積が可能となれば標準治療となりうるが,ABI適応症例の基準や,ABI後の下顎運動制御法については検討課題である.

  • 山座 治義, 髙山 扶美子, 小笠原 貴子, 廣藤 雄太, 廣藤 早紀, 木舩 崇, 佐藤 綾子, 香川 由依, 増田 啓次, 福本 敏
    2020 年 41 巻 4 号 p. 318-324
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    Noonan症候群は先天性奇形症候群の一つであり,特異顔貌,先天性心疾患,難聴,精神遅滞,低身長などが特徴である.今回,肺動脈狭窄症に対する根治術前に,う蝕治療が必要なNoonan症候群の患児に対し,病診連携により全身麻酔下で歯科治療を行ったので報告する.

    患児は3歳10カ月の女児で,かかりつけ歯科を定期的に受診していたが,心疾患の根治術前の歯科治療が必要になった.患児は精神遅滞があり通法下での歯科治療が困難であることから,全身麻酔による行動調整が適応となった.しかし,心疾患を有するハイリスクな全身状態で,全身麻酔前後の全身管理が必要であることから,患児の生後から診察をしていた小児科医より当科に紹介受診となった.

    当院の小児科医やかかりつけ小児科医と連携して術前の全身評価を行い,当院小児科に入院後に口腔内感染源除去を目的とした全身麻酔下での歯科治療を行った.術後の口腔内および全身の経過は良好で,術日の翌日に退院となった.

    先天性心疾患を有する患者において,う蝕や歯周疾患などの口腔内感染症が感染性心内膜炎のリスクファクターとなりうることから,心疾患への手術前に口腔内の感染源除去は必須である.また,大学病院は三次医療機関として,地域の歯科医院では対応が困難な患者の紹介とその対応も担っており,かかりつけ医師や歯科医師との病診連携が重要である.

  • 萩原 綾乃, 笠原 諭, 髙橋 香央里, 川口 潤, 一戸 達也
    2020 年 41 巻 4 号 p. 325-331
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    成人期の発達障害は診断されないまま見過ごされているケースも存在し,就業や日常生活,周囲とのコミュニケーションに支障をきたすために生きづらさを感じている患者も多い.今回,口腔内の慢性疼痛治療のために当院に来院した患者で,診察時の様子から発達障害が疑われて精神科医への紹介を行ったところ,注意欠如・多動症(ADHD)と診断された症例を経験したので報告する.患者は50歳女性.下顎右側第二大臼歯の慢性疼痛を主訴に来院し,筋筋膜性歯痛の診断下に疼痛治療を開始した.診察室内では落ち着きがなく会話を順序立てることが困難で,破局的思考が強かった.口腔内処置時には,感覚過敏や指示の伝わりにくさも認めた.数カ月を経過しても疼痛治療への理解や協力が得られず,正確な疼痛評価も困難であったため,発達障害を疑い精神科医へ紹介した.患者はADHDと診断され,ADHD治療薬による薬物療法が開始された.現在,落ち着きのなさや会話を順序立てることの困難は徐々に改善傾向にあり,今後の疼痛治療への積極的な参加と疼痛改善が期待される.本症例のように,隠れた発達障害が治療の障害になっていることもある.適切な治療を行うためには,専門医への受診を促し,連携を図ることが重要であると示唆された.

  • 林 佐智代, 江口 采花, 遠藤 眞美, 野本 たかと
    2020 年 41 巻 4 号 p. 332-339
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    Stickler症候群(以下,STL)は,2型コラーゲン異常により進行性の眼疾患や耳疾患,骨・関節疾患,中顔面発育不良,口蓋裂,小顎症など多様な症状を認め,通常,知的能力障害を伴わない常染色体優性遺伝の疾患である.多くの合併症により摂食指導においても早期からの介入が必要と考えられるが,STLにおける摂食指導に関する報告はない.今回,偏食を認めるSTLに幼児期から摂食指導をしたので報告する.症例は,初診時年齢2歳9カ月の女児で,主訴は「食物が増えない」「固定した食物しか食べられない」であった.合併症としては口蓋裂,強度近視,滲出性中耳炎,脊椎骨端異形成,成長障害,過蓋咬合,狭口蓋であった.摂食場面では咀嚼運動を認めるものの,食事途中から疲労のため,緩慢な運動となることが観察された.摂取可能な食事はカレーライスや海苔佃煮ごはんなどであり,パリパリとした食感の食物には拒否を示した.以上のことから偏食がみられ,要因として,①視覚,聴覚の感覚障害,②小顎症,口蓋裂による摂食機能障害,③成長障害による食事中の疲労感とした.そこで,初診時の指導内容は主に感覚障害への対応を中心に行うこととし,視覚による食物へのこだわりの脱感作を目的に食内容指導を中心に行った.2歳11カ月から療育施設に通園するようになり,精神的,体力的負担により一時的に拒否は強くなった.指導として,児の好む食物を中心に食物を広げ,新しい食物に挑戦できたときは,褒めることで好ましい食行動を強化することとした.5歳10カ月まで食べむらはあるが徐々に自発的に新しい食物に挑戦する場面も増加した.摂食機能は,自食が多くなることで口唇閉鎖不全を認めるようになった.今後,成長期に関節炎など合併症を生じる場合もあるため,食事への影響を継続して観察し,支援する必要性が示唆された.

  • 脇本 仁奈, 小笠原 正, 植松 紳一郎, 勝又 たまき, 鈴木 尚子, 河瀬 聡一朗, 吉成 伸夫, 岡田 芳幸
    2020 年 41 巻 4 号 p. 340-346
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    歯肉肥大を誘発する薬物の服用はなく遺伝的素因もないが,特発性に著しい歯肉肥大を認めた重症心身障害児の一例を経験したので報告する.

    患児は7歳8カ月女児.脳性麻痺(痙直型),知的能力障害,四肢麻痺,てんかん,血管型Ehlers-Danlos症候群であった.出生時より経鼻経管栄養,4歳時に胃瘻造設,6歳時に訪問歯科検診にて歯肉肥大を指摘され当大学病院特殊診療科を受診した.

    フェニトイン,ニフェジピンやアムロジピンのカルシウム拮抗薬,シクロスポリンなど歯肉肥大を誘発する薬物の服用や遺伝性歯肉線維腫症などの遺伝的素因はなかった.

    口腔内は,臼歯部の内側への歯肉肥大が顕著で水平性の堤状形態を有しており,上下顎とも左右の肥大した歯肉内縁が近接していた.肥大した歯肉に炎症所見はみられず,歯肉肥大部に骨はなかった.歯肉肥大により乳歯と後継永久歯の埋伏,舌房の狭窄がみられ,舌背が右側に約80°回転して位置していた.

    臼歯部後方の垂直方向への歯肉肥大により上下顎堤が接触し,3横指径の開咬を認めた.歯肉切除により永久歯の萌出,開咬幅の減少が観察できた.しかし徐々に再発傾向を認め,歯肉切除4年6カ月後には顕著な歯肉肥大が,5年後には下顎左右臼歯部の歯肉が接触するほどの歯肉肥大が認められた.歯肉肥大部の再切除を検討したが,気道確保困難,血管型Ehlers-Danlos症候群による易出血性・止血困難のため,高度医学管理が可能な他院への紹介となった.

  • 田原春 早織, 城 尚子, 黒田 依澄, 奥村 陽子, 佐藤(朴) 曾士
    2020 年 41 巻 4 号 p. 347-352
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    1型糖尿病(IDDM)は膵臓ランゲルハンス島β細胞が自己免疫不全により破壊され,絶対的なインスリン不足に陥る疾患である.小児における発症率は年間10万人に1.5~2人である.周術期管理の問題点として,血糖値の変動が大きく管理が難しいことが挙げられる.

    今回,知的能力障害を伴う小児の1型糖尿病患者の周術期管理を経験した.患児は11歳女児,HbA1c 12.7%,随時血糖343mg/dlでIDDMの診断を受け,強化インスリン療法を行っていた.構音障害を認め,治療による早期介入が必要であったため,全身麻酔下で咽頭弁形成術が計画された.術前より糖尿病内科専門医と綿密な連携をとり,入院下で血糖管理を行った.術中はブドウ糖およびカリウム含有の輸液を行いながら,短時間作用型のインスリンを持続投与することで,血糖値と電解質を適切に管理しえた.術後は低血糖発作を起こしたものの,適切に対応を行い,重篤な合併症なく管理することができた.

  • 櫻井 泰伸, 藤本 省三, 太田 恵未, 棚橋 幹基, 安田 順一, 玄 景華
    2020 年 41 巻 4 号 p. 353-358
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    先天異常症候群は複数臓器に異常を認める疾患の総称で,出生時の先天異常に伴い呼吸障害が合併し,気管切開による呼吸管理を行うことがある.今回,知的能力障害および幼少期の気管切開の既往により気管狭窄を認め,歯科治療にあたって静脈内鎮静法や全身麻酔法の導入が不可能となり,行動調整法の選択が困難であった先天異常症候群の症例を経験したので報告する.

    患者は20歳男性で,主訴は歯科治療の希望であった.障害名は先天異常症候群,重度知的能力障害で,出生時の低酸素脳症により気管切開手術を受けた.4歳時に気管カニューレを抜去した.現病歴は2009年1月にかかりつけ歯科医にて多数歯う蝕の治療で徒手抑制下にて対応するも,体動が大きいために某総合病院歯科へ依頼した.そこでも治療困難のため某大学病院へ紹介された後に,某県立総合病院歯科口腔外科へ抜歯依頼にて転院した.2011年9月に全身麻酔法下での抜歯を予定していたが,気管狭窄のため挿管時に声門下から気管チューブが挿管できず抜歯中止となった.その後は歯科疾患の重症化のため2013年12月に某大学附属病院障害者歯科に紹介来院した.外来通院にて身体抑制法下で順次歯科治療を実施した.歯科治療の内容はレジン充塡によるう蝕治療が8歯,抜髄後の補綴治療が4歯,歯の抜去が13歯であった.身体抑制法下でも可及的に行動療法を取り入れた結果,最終的には適応性が良好となり通法下での対応が可能となった.

臨床集計
  • ―当科開設後5年間の臨床統計をもとに―
    片浦 貴俊, 伊藤 正樹
    2020 年 41 巻 4 号 p. 359-365
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    当科は2014年4月に開設され,一般の口腔外科治療を中心に行っているが,障害者への歯科治療も積極的に取り入れている.当院は,地域の中核病院として行動調整法に全身麻酔を用いた歯科治療を行っている.そこで今回,開設後5年間の実態調査を行った.

    2014年4月から2019年3月までの5年間に当科で行った障害者に対する全身麻酔下歯科治療症例275症例(男性166症例,女性109症例)を対象とした.

    5年間の症例数の経年的推移は,2014年度38症例(38.8%),2015年度58症例(30.7%),2016年度60症例(23.9%),2017年度64症例(22.7%),2018年度55症例(15.9%)であった.障害の分類は発達障害78症例,知的能力障害75症例,肢体不自由29症例,精神障害3症例,その他90症例であった.治療歯数は5年間で合計2,894歯であり,1症例あたりの平均治療歯数は10.5±6.8歯であった.術後の口腔管理先は,かかりつけ歯科医院131症例,地域障害者歯科センター89症例であった.

    地域の中核病院として全身麻酔下歯科治療の需要はあるが,2015年度で症例数は上限に達し,待機患者が生じた.また,8割の患者がかかりつけ歯科医院で術後の口腔管理を行っていることがわかった.引き続き地域の中核病院としての役割を担っていきたい.

  • 中山 朋子, 前濱 和佳奈, 緒方 麻記, 中嶋 真理子, 尾崎 茜, 水谷 慎介, 小島 寛
    2020 年 41 巻 4 号 p. 366-374
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    特別支援学校(知的障害)の児童・生徒の保護者が歯科医療機関に対して求めていること,および歯科医療機関への定期受診の有無とう蝕経験との関連を明らかにすることを目的に調査を行った.2018年6月に特別支援学校(知的障害)の児童・生徒227人の保護者に質問用紙を配布し,かかりつけ歯科の有無と最初の受診時年齢および受診頻度のほか,かかりつけ歯科の良い点,要望したい点を選択形式で,また,歯科への要望を自由記載方式で回答させた.う蝕罹患状況は同年の学校歯科健康診断の結果から集計した.質問用紙は136部回収され,回収率は59.9%であった.このうち,歯科健診結果が得られた者は134人,かかりつけ歯科ありとした者は101人であり,以下の結果を得た.

    (1)かかりつけ歯科の種類は歯科診療所が84人(83.2%)と最も多く,大学病院は12人(11.9%)であった.

    (2)かかりつけ歯科の良い点は「歯科医師の対応がいい」67人(66.3%),「スタッフの対応がいい」64人(63.4%),「障害者歯科の専門性が高い」49人(48.5%)の順に多かった.

    (3)「こんな歯科があればいいな」と思うことの自由記載意見では,専門性の高さに関するものが多く,次いで患者への理解と応対に関するもの,待ち時間に関するものの順であった.

    (4)かかりつけ歯科の有無や種類とう蝕罹患状況に関連性はみられなかった.

  • 朝比奈 滉直, 小笠原 正, 秋枝 俊江, 宮原 康太, 松村 康平, 荘司 舞, 島田 茂, 島田 裟彩, 柿木 保明
    2020 年 41 巻 4 号 p. 375-381
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    要介護高齢者は発熱がみられることがあり,さらに誤嚥量の増加,脱水,免疫機能の低下により肺炎となることが危惧される.要介護高齢者において発熱を予防していくことは重要である.今回,経管栄養者の患者背景および口腔内所見と発熱との関係を検討した.

    対象者は要介護高齢者のうち経管栄養がなされ,一切経口摂取がされていない患者16名であった.入院・入所記録より年齢,基礎疾患,寝たきり度,調査時より過去6カ月以内の発熱の有無を記録し,意識レベル(Japan Coma Scale),意思疎通の可否を確認した.発熱は,37.5℃以上とした.口蓋粘膜より採取された膜状物質は,顕微鏡にて重層扁平上皮由来の角質変性物が認められた.発熱との単相関は,Fisherの直接確率計算,χ2検定,あるいはStudentのt検定にて解析した.

    年齢,性別,寝たきり度,意識レベル,意思疎通,基礎疾患,および残存歯,う蝕歯,CPIと発熱との関連は,統計学的に有意な差は得られなかった.剝離上皮膜の有無と発熱は有意差を認め,剝離上皮膜を有する者は発熱が有意に多かった.剝離上皮膜がみられる口腔や気道は乾燥傾向にある.口腔と気道の乾燥は,局所の免疫能低下と特異的な細菌をもち,発熱を起こすことが疑われた.発熱を予防するためには,口腔粘膜の擦拭と保湿の粘膜ケアが重要であることが示唆された.

  • ―全身麻酔・静脈内鎮静法が実施できない当センターにおいて―
    立浪 康晴, 小笠原 正, 石川 亨, 大木 淳一, 川上 清志, 藤井 達郎, 佐伯 亮太, 宮本 暦, 岡宗 絢子, 岩坪 敬宗, 小池 ...
    2020 年 41 巻 4 号 p. 382-390
    発行日: 2020/10/31
    公開日: 2021/02/28
    ジャーナル フリー

    全身麻酔・静脈内鎮静法が実施できないセンターにおいて歯科治療時の身体抑制法に関する保護者へのアンケート調査を行い,配慮すべき事項について検討した.調査対象は,当センターへ通院中の障害者の保護者304名であった.受診を継続している患者の治療方針について改めて保護者へ説明したうえで,アンケートを依頼した.保護者に同意書にて「a.抑制下での治療を希望」「b.抑制しないでできる範囲の治療を希望」「c.第三次医療機関(大学病院など)への紹介を希望」のうち1つを選択させた.その後にアンケート用紙を配布し,記載を依頼した.アンケートは,①身体抑制法の経験,②抑制具を使用しての歯科治療希望,③治療方針へのさらなる希望,④身体抑制法についての意見・考えであった.

    子どもが身体抑制法を経験した保護者は,89.1%が身体抑制法を希望し,肯定的に考えていた.しかし,すべての治療を身体抑制法で実施するものでなく,治療内容によっては希望しないと回答し,その考えはさまざまであった.身体抑制法を積極的にしたいと回答した保護者は,身体抑制法の経験が影響していた.障害者歯科臨床において保護者が歯科医療スタッフに望むことや心配なことをいつでも言える環境を整えること,保護者の考えを尊重し,治療方針を選択する機会を毎回提供すること,地域における障害者歯科の高次医療機関の確立が重要であると考えられた.

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