日本障害者歯科学会雑誌
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43 巻, 1 号
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講座
原著
  • 星合 愛子, 楠本 康香, 星合 泰治, 木村 直樹, 伊藤 由希子, 吉田 直美, 篠塚 修, 岩本 勉
    2022 年 43 巻 1 号 p. 7-16
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    歯周病とう蝕は,関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis;RA)患者に多くみられる.しかしながら,RAとう蝕との関連は不明である.本研究では,RA患者の口腔衛生管理に影響を及ぼす要因を検討した.被験者はRA患者31名と健常者30名である.RA患者の全身状態,口腔内状態および口腔保健行動を評価し,RAの全身状態が口腔衛生管理に及ぼす影響を,多変数線形回帰分析を用いて評価した.治療期間およびRAの全身状態を表す指標から,総う蝕経験量とプラーク付着状態を予測できた.RAの全身状態を表す指標によって,RA患者の口腔状態を予測できる可能性が示された.

  • ―親の心理的サポートを行う障害者歯科医療現場の構築に向けて―
    村上 旬平, 米倉 裕希子, 新家 一輝, 竹中 菜苗, 森崎 志麻, 稲原 美苗, 高橋 綾, 阪本 敬, 鬼頭 昭吉, 安藤 早礎, 秋 ...
    2022 年 43 巻 1 号 p. 17-25
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    われわれは以前に障害者歯科学,臨床哲学,臨床心理学と小児看護学による学際的な親支援プログラムを実施したが,現在困っている親への支援や,社会福祉サービスにつなげる支援が課題として残った.そのため社会福祉学の専門家を加え,課題解決と障害者歯科医療現場を親の心理的サポートをする「場」として構築することにした.まず親の心理的サポートニーズ,メンタルヘルスや子育ての困難さなどを明らかにする必要があり,調査を行った.

    大阪大学歯学部附属病院障害者歯科治療部を受診する患者の親に,心理的サポートニーズ,健康関連QOLと育児ストレスについて質問紙調査を行った.回答者は32名で38~83歳(無回答2名),患者との続柄は母親30名,父親1名,無記載1名,子の属性は自閉スペクトラム症17名,知的障害6名,Down症候群6名および肢体不自由3名であった.親には心理的サポートニーズがあり,親のメンタルヘルスは低く,育児ストレスは強い傾向を示した.育児ストレスの高さ,メンタルヘルスの低さと心理的サポートニーズの高さは相互に関係し,福祉サービスの利用が心理的サポートニーズを軽減する可能性も示された.

    以上より,障害者歯科医療現場を親の心理的サポートをする「場」として構築するには,育児ストレスなどの悩みを語る場としてのインフォーマルな機能と,フォーマルな心理相談や社会福祉サービスへの接続する場としての機能をもたせることが有用であると考えられた.

  • ―平成28年歯科疾患実態調査との比較―
    尾田 友紀, 若林 侑加, 安田 陽香, 宮崎 裕則, 宮原 康太, 古谷 千昌, 吉田 結梨子, 岡田 芳幸
    2022 年 43 巻 1 号 p. 26-33
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    障害者は,健常者と比較し歯を早期に喪失する.本研究では,障害者の年齢階級別補綴物装着者率を調査し,同年齢階級の健常者と比較することで,要補綴治療となる年齢に関する障害者と健常者の違いを明らかにすることを目的とした.対象は,本院患者で15歳以上の548名で,性別,年齢,障害の種類,補綴物の有無や種類を調査した.補綴物の種類は,ブリッジ,部分床義歯,および全部床義歯を重複可能として集計した.年齢階級は,15歳以上を5歳ごとに1つの年齢階級とした.比較対象として,平成28年歯科疾患実態調査を用いて,年齢階級別補綴物装着者率に対する検討を行った.対象患者は男性343名,女性205名で,平均年齢は39.4歳であった.補綴治療が必要な者は203名で,そのうち補綴治療が未実施の者は26名であった.ブリッジ装着者率は,25歳以上30歳未満を除く20歳以上50歳未満のすべての年齢階級で障害者のほうが有意に高かった.部分床義歯装着者率は,50歳以上55歳未満を除く35歳以上60歳未満のすべての年齢階級で,障害者のほうが有意に高かった.以上より障害者の補綴物装着者率は,若い年齢階級から高いことが明らかになった.また,障害者は,健常者と比較して,ブリッジ装着後早期に部分床義歯になると考えられた.このことから,障害者においては,特にブリッジ装着後は補助清掃器具使用などの口腔衛生管理が重要であると考えられた.

  • 江面 陽子, 小林 幸恵, 黒崎 友美子, 鈴木 陽子, 志賀 麻記子, 深山 治久
    2022 年 43 巻 1 号 p. 34-39
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    関節リウマチは,関節内の慢性の炎症が主体となる自己免疫疾患である.関節の症状の一つとして顎関節障害があり,歯科治療時に十分な開口量を得られない患者を診ることがある.今回,関節リウマチ患者の開口量と患者情報を調査し,健常者と比較して開口量に差があるのか,また治療因子との関連性があるのかを検討することを目的とした.

    関節リウマチ専門医のクリニックを受診した患者464名と,一般歯科クリニックを受診した健常者280名を対象に,自力最大開口域を測定した.両群の年齢,性別のほか,関節リウマチ患者群は罹患期間,Steinbrockerの関節破壊の進行度と機能障害の進行度,疾患活動性指標DAS28や治療薬についても調査し統計学的に検討した.開口量は関節リウマチ患者群44 mmと健常者群50 mmで,両群間に有意差が認められた.さらに,関節リウマチ患者群の調査項目では,罹患期間と機能障害の進行度に有意差が認められた.

    関節リウマチ患者群の開口量は健常者群と比較して小さく,歯科治療に支障があることが示唆された.また,罹患期間の長さと機能障害の進行度が開口量の減少と関連していた.関節リウマチ患者では,早期に開口訓練を行うことが,歯科治療を含めたQOL向上につながる可能性があるものと思われた.

症例報告
  • 田中 恵, 加藤 篤, 永坂 梨奈, 平井 辰宜, 鴨狩 たまき
    2022 年 43 巻 1 号 p. 40-47
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    重症心身障害児(者)では重度の嚥下障害を合併することが多く,誤嚥性肺炎の併発など栄養面の管理に苦慮する場面にしばしば遭遇する.それらの場合においては経口摂取が難しく,経管栄養となるケースを経験することも少なくない.摂食嚥下障害の重度化の原因として,筋力低下などが問題となることがあり,経口摂取を継続するためには摂食時の食形態の配慮や栄養面についても配慮する必要があり,少量でも不足する栄養素とカロリーを補充するものとして濃厚流動食が利用されることが多い.しかし,カロリーアップのため多量の糖質を含むものも多く,う蝕など口腔内環境の変化が懸念されるが,濃厚流動食における口腔内,特に歯への影響について報告されているものは少ない.今回,当院重心棟に入院しており,全身機能低下により濃厚流動食が経口使用された4例を対象に口腔内環境の変化について検討を行ったので報告する.

    今回の症例においては4例中3例に濃厚流動食導入後に導入前と比較しう蝕の発生を認め,濃厚流動食摂取による重症児(者)の歯への影響が考えられた.う蝕が多発する要因として,重症児特有の歯列不正,拒否や観察困難による口腔清掃困難が考えられる.さらに重度の摂食嚥下障害により食物が口腔内に長時間停滞することで口腔内細菌数の上昇やトロミ調整食品の使用などの条件が加わりう蝕発生のリスクが高まり,口腔内環境の悪化を認める可能性があると思われた.

  • 大岡 貴史, 出浦 惠子, 進藤 彩花, 草野 緑, 上田 智也
    2022 年 43 巻 1 号 p. 48-53
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    先天疾患を伴う児では,生下時に呼吸や嚥下,全身発達などに問題を生じることが多い.また,近年は人工呼吸器や経管栄養が必要な「医療的ケア児」が増加傾向にあり,歯科診療を依頼される機会も増えている.今回,脊髄性筋萎縮症Ⅰ型を伴う児の口腔機能管理を約4年間行った事例を経験したので,その経過を報告する.

    初診時4歳の女児.11カ月時に気管切開・人工呼吸管理・経鼻経管栄養導入となり,1歳2カ月時から在宅療養となった.某地区在宅歯科窓口に訪問歯科診療の依頼が入ったため,地域歯科診療所による介入が開始された.しかし,診療所スタッフのみでは対応困難と判断され,歯科大学病院スタッフによる助言を交えた介入が開始された.初診時所見では,頸定不完全,意思疎通可能であり,人工呼吸器は1日5時間まで離脱可能であった.口腔内所見では,乳歯列完成期,下顎後退および前歯部開咬であった.摂食機能診断は嚥下機能獲得期とし,口唇閉鎖機能の獲得および部分的な経口摂取の開始を目的として嚥下機能の精査や味覚刺激などを行った.

    骨格的には顕著な下顎劣成長を呈しており,前歯部開咬,嚥下時の下唇内転も認められた.一方,就学を契機として経口摂取への意欲の向上がみられ,自食機能の向上や経口摂取経験の増加が認められた.医療的ケア児への支援は長期にわたることが予想され,今後も地域における多職種での継続的な関わりが重要となることが示唆された.

臨床集計
  • 石田 碧, 林 真太郎, 西部 伸一
    2022 年 43 巻 1 号 p. 54-60
    発行日: 2022/02/28
    公開日: 2022/06/30
    ジャーナル フリー

    小児の日帰り全身麻酔は,患児への心理的影響を最小にし,院内感染リスクを軽減させ,患児や親の満足度を向上し,病床の有効利用や医療費の削減につながるなど,利点が多い.当院小児歯科における日帰り全身麻酔の現状を把握し,その安全性を確認するために,後ろ向き調査による検討を行った.

    2018年4月~2020年3月に,日帰り全身麻酔を行った小児歯科症例253例を対象とした.男児176例,女児77例で,年齢の中央値[四分位範囲]は7.5歳[5.5, 9.1]であった.ASA(American Society of Anesthesiologists)PS(physical status)-1が145例,PS-2が108例で,自閉スペクトラム症や注意欠如多動性障害,Down症候群などの染色体異常や先天代謝異常,中枢神経系疾患などに合併する精神・発達障害などの障害児がPS-2の半数を占めた.全身麻酔の適応は,多数歯う蝕など侵襲の大きい処置,歯科恐怖症や低年齢による非協力,治療を要する重度の精神・発達障害による非協力であった.

    麻酔時間は1.8時間[1.3, 3.2]で,90%以上の症例で吸入麻酔による緩徐導入に続き,静脈麻酔で麻酔維持が行われていた.手術室退室から帰宅許可までの時間は1.5時間[1.3, 1.7]で,帰宅後24時間以内に救急外来へ受診または電話相談を要した症例はなかった.1例が術後高熱のため帰宅基準を満たせず入院となった.麻酔関連有害事象は8例で,歯科処置中止や予期せぬ入院を要する症例はなかったが,8例中2例で抜管後に一時的な重篤な低酸素症を伴う周術期呼吸器合併症が発症し,麻酔管理上,十分な注意が必要であると思われた.

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