応用地質
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43 巻, 3 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
  • 鎌倉のやぐらの例
    川野 辰康, 小坂 和夫
    2002 年 43 巻 3 号 p. 124-133
    発行日: 2002/08/10
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    神奈川県鎌倉市にある 「やぐら」 と呼ばれている鎌倉時代の石窟を例に, 塩類風化の季節変化観察と析出物のXRDによる鉱物鑑定を行った. その結果, 析出物は石膏・エプソマイト・テナルダイト・方解石で, このうち可溶性のエプソマイトとテナルダイトは冬から春先にかけて析出し, 難溶性の石膏や方解石は通年で観察された. この観察結果を考察するために, 石窟内の温度湿度測定とやぐらが造られている岩石の溶出実験とを行った. その結果, 塩類析出の季節変化が湿度の季節変化と対応し, 塩類を構成する多量の成分が岩石から溶出することがわかった.
    塩類は, 水・岩石の相互作用によりつくられた溶液がとくに冬の乾燥期に岩石表面で蒸発することにより析出する. 塩類によるやぐら表面の崩壊には3タイプが認められる: (1) 塩類が基岩表面を粉状に破砕する粉状崩壊, (2) 塩類が基岩表面に皮殻を形成し, これがはがれると同時に岩石表面も剥離する皮殻状崩壊, (3) 塩類が基岩の割れ目に析出してそこを割るブロック状崩壊. 塩類風化は乾燥/半乾燥地域における岩石の風化として多数報告されているが, 日本のような湿潤な地域においても乾燥期と湿潤期がはっきりしている所では無視できない. 石膏は各地の遺跡の塩類風化で報告されているが, 鎌倉では, 可溶性のエプソマイトとテナルダイトが季節的に消長して粉状崩壊を起こすことによりやぐらに対して大きな影響を与えている.
  • 秋田県男鹿半島女川層堆積岩の例
    鹿園 直建, 木村 進一, 岩井 修平
    2002 年 43 巻 3 号 p. 134-142
    発行日: 2002/08/10
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    堆積岩の風化作用によって生成される石膏の生成要因を明らかにするために, 中新統女川層の頁岩, 珪質頁岩の鉱物学的検討を行った. その結果, 風化した頁岩では石膏が認められるが, 新鮮な頁岩では認められないこと, 新鮮な頁岩では炭酸塩鉱物が多いが, 新鮮な珪質頁岩では炭酸塩鉱物が乏しく, 長石が多いことが明らかになった.
    長石, カルサイトの溶解反応計算を行ったところ, カルサイトの溶解によって石膏が生成するが, 長石の溶解では生成されにくいことが明らかになった. 以上の堆積岩の鉱物学的研究および鉱物の溶解反応計算より, 石膏の生成には, 従来からいわれていた黄鉄鉱の存在量, 乾湿条件以外に源岩の鉱物組成 (炭酸塩鉱物, 長石などのCa鉱物量, 量比) が石膏の生成にとって重要であるといえる.
  • 東濃地区大深度試錐調査データを用いた検討
    齋藤 和春, 三枝 博光, 渡辺 邦夫, 宋 元泰
    2002 年 43 巻 3 号 p. 143-155
    発行日: 2002/08/10
    公開日: 2010/03/25
    ジャーナル フリー
    本研究は, 割れ目系モデルの構築を目的として, 東濃地区において実施された試錐調査結果を用いて, 推移確率 (マルコフマトリックス) および情報論的エントロピーによる解析を実施し, 割れ目分布の規則性を明らかにしたものである. さらに, 得られた推移確率行列を用いて乱数発生のシミュレーションを行い, 割れ目頻度の推移確率について調べた. その結果, 本手法を用いることにより, 割れ目数の多い区間や少ない区間の分布が推定できることを示した.
  • 多摩川永田地区を例にして
    大野 博之, 対馬 孝治, 小倉 紀雄, 渡辺 邦夫
    2002 年 43 巻 3 号 p. 156-167
    発行日: 2002/08/10
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    河川敷内の流水は, 旧河道 (主に旧低水路) の影響を受けているといわれているが, 実際のところ定かではなかった. 多摩川の永田地区で, 河川敷内の流水の状況を調査していたが, 橋脚の耐震補強工事により河川敷内の流水に変化が見られた. ここでは, この工事による流水の変化を現地計測から示し, その原因を昔の地図や空中写真などを用いて考察した結果, 以下のことが示された.
    1) 河川敷内の流水は, 旧河道の地形が複雑に影響した流水挙動を示し, 橋脚部が1960年以前の旧河道上に位置していたことから, 急激な水位低下を示した箇所が存在した. 一方, 橋脚工事によっても枯渇しなかった池は, 河川敷に隣接する丘陵からの地下水に依存していることが考えられる.
    2) 1970年代の河川敷の地形に影響され, 周辺地下水と比較して電気伝導度および水位の高い地下水が別の帯水層となって存在することが明らかとなった. 橋脚工事では, このゾーンの地下水位低下による高電気伝導度の地下水の減少により, その下層の地下水への供給が減り下層の電気伝導度が通常よりも低下した.
    3) 旧版地形図, 古地図, 昔の空中写真などを利用した旧河道の地形の解明は, 現状の河川敷内の流水状況を解明する上で重要な手がかりとなる.
  • 亀井 健史, 志比 利秀
    2002 年 43 巻 3 号 p. 168-175
    発行日: 2002/08/10
    公開日: 2010/02/23
    ジャーナル フリー
    ミシシッピ川河口に出現する泥の島は, 一般にマッドランプと呼ばれている. 1991年, 島根県中海飯梨川河口にこれと良く似た現象が発生した. このような現象の形成過程にはいくつかの説が提案されているが, 土砂の堆積初期からマッドランプの出現に至るまでの軟弱地盤の変形挙動に関しては不明な点が多い. 一方, 計算機の発達と土の力学的挙動を適切に表現できる土の構成方程式の出現に伴い, 信頼性の高い土質定数が得られれば, 有限要素法などの数値解析によって, 地盤の変形挙動はかなりの高い精度でその予測が可能となってきている.
    本研究では, マッドランプの形成に伴う軟弱地盤の変形挙動を土の構成方程式に弾粘塑性モデルを適用した有限要素法を用いてシミュレートしている. 得られた変形解析結果と鍵層などの地球科学的な情報とを比較検討することにより, マッドランプの形成過程をある程度定量的に表現できることが明らかとなった. その結果, 自然現象のように変形に関する情報量が少ない挙動の解明には, 地盤変形解析手法と地球科学的な情報を融合することが有意であることが示唆された.
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