本研究では, 海成堆積層として東北地方に広く分布する竜の口層を対象に, 地質試料からの重金属類の溶出に及ぼす風化作用の影響について, いくつかの露頭から地質試料を採取するとともに, 実験室において風化実験を行い, 検討した. 露頭において風化の進行した地質試料は, 風化の進行していない試料に比べ, カドミウムの溶出量が多く, 土壌汚染対策法における溶出量基準を超過していた. その際に, 地質試料中のカドミウムの多くは, 溶出しやすい交換態として存在していた. 風化の進行していない試料を用いて, 実験室において風化試験を実施したところ, カドミウムの溶出量が劇的に増加し, そのときには溶出液のpHが大きく低下した. 同時に, カドミウムは残渣から交換態へと移行し, 一方, ヒ素は残渣から鉄酸化物態およびリン酸交換態へと移行した. すなわち, 風化作用により, 硫化物などの鉱物として存在していた重金属類は, 溶解しやすい存在形態へと変化したことがわかる. これらの事象は, 土壌汚染対策法に従い地質調査を行う際において, 対象試料の風化程度や採取試料の保存状態によってその溶出量が変化することを考慮しなければならないことを示唆している.
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