応用地質
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52 巻, 6 号
特集 斜面防災に貢献する応用地質学
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
論文
  • 吉田 昌弘, 千木良 雅弘
    2012 年 52 巻 6 号 p. 213-221
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     地震動を誘因として降下火砕物が分布する急傾斜地では, 崩壊が多数発生してきた. 本研究では, 地震によって発生する降下火砕物層の崩壊の地質的背景を明らかにするため, 1968年十勝沖地震により発生した崩壊を事例として, 青森県南東部に分布する降下火砕物の層序, 風化性状, 粘土鉱物, 物理・力学的性質, 透水性について崩壊の発生した地域と崩壊の発生しなかった地域で比較, 検討を行った. 本調査地域には十和田八戸テフラが分布し, このうち上部の黄褐色火山灰(ローム)と下部の軽石-火山灰互層の境界に位置する軽石混じり火山灰で崩壊のすべり面が形成されていた. 強熱減量試験, 10Åハロイサイト粘土鉱物含有率, 簡易貫入試験NC値はこの軽石混じり火山灰から上位にかけて変化が大きくなっており, 崩壊の発生にこのような変化の大きさが寄与していたと考えられる. 一方で崩壊の発生しなかった地域での強熱減量試験, 10Åハロイサイト粘土鉱物の含有率, 簡易貫入試験NC値はそれぞれ緩やかな変化を示していた. 崩壊の発生した地域での軽石混じり火山灰が低い透水係数を示したことから, ここで浸透水が妨げられ風化にギャップが生じたと考えられる.
  • 千木良 雅弘, 中筋 章人, 藤原 伸也, 阪上 雅之
    2012 年 52 巻 6 号 p. 222-230
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     2011年東北地方太平洋沖地震によって, 震度6強の福島県白河市および震度6弱の栃木県那珂川町で降下火砕物の崩壊性地すべりが4か所で発生した. これらの地すべり発生の大きな要因は, 降下火砕物が斜面に平行な成層構造を持ち, また, すべり面が形成される軟弱な古土壌の層が内在し, それが斜面下部で浸食などによって切断されて下方からの支持力を失っていたことにある. これらの崩壊性地すべりの見かけの摩擦角は, 10°から16°であり, 土砂の高い運動性を示している. 斜面に生えていた樹木の多くは, 移動・堆積の後も根系に拘束された平板土壌に支えられて崩積土の上に立っており, 土砂の上に立った状態で移動したことがわかる. 上記のものと類似した崩壊性地すべりは, 従来数多くの地震によって発生しており, このことは降下火砕物の中には地震動に対して非常に不安定なものがあること, そして, 地震による斜面災害を軽減するためには, それらを特定していくことが必要であることを示している.
  • ―四万十帯の地すべりを例として―
    脇坂 安彦, 上妻 睦男, 綿谷 博之, 豊口 佳之
    2012 年 52 巻 6 号 p. 231-247
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     近年, 界面活性剤を用いた高品質ボーリング技術により, 従来, 観察することが困難であった地すべり移動体の微細を構成地質と構造の観察が可能になった. しかしながら, 乱さない状態の高品質コアが採取されても, そのコアが有している地すべりに関する地質情報を適切に引き出せていなかった. また, 地すべりによって破砕された岩石と断層角礫の区別が困難という問題もあった. そこで, 九州の四万十帯に分布する地すべりで得られた高品質ボーリングコアおよび周辺の露頭などについて, 地すべり移動体と断層破砕帯の詳細な地質観察が行われた. その結果, 地すべり移動体周辺の断層角礫には, なにがしかの面構造が認められるのに対し, 地すべり移動体には無構造な角礫岩が認められ, この角礫岩が地すべりの地質学的認定指標となることが判明した. 面構造を有する断層角礫と地すべり移動体の無構造な角礫岩の違いは, それぞれが形成されたときの拘束圧の違いに起因している. すなわち, 断層角礫は高拘束圧条件下, 地すべり移動体の無構造角礫は低拘束圧条件下で形成されるものと考えられた. 地すべり移動体を地質学的に認定する際には, 岩石の破砕度区分と面構造の確認および無構造な角礫岩の分布位置と頻度が重要である.
報告
  • 大川 侑里, 金折 裕司, 今岡 照喜
    2012 年 52 巻 6 号 p. 248-255
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     「平成21年7月中国・九州北部豪雨」によって, 後期白亜紀防府花崗岩体の分布する防府市北部と山口市中部では土石流が多発し, 防府市で14名の犠牲者が出た. 防府市北部では, 平成5年にも大雨に伴って土石流が発生し, 5名の犠牲者が出た. 本報告では, 平成21年の豪雨で発生した土石流の分布と性状を詳細に記載するとともに, 平成5年の土石流の分布と比較する. 平成21年に発生した土石流の源頭部は, 524か所中478か所が防府花崗岩体に位置する. 防府花崗岩体は岩相によって, 粗粒黒雲母花崗岩, 中粒黒雲母花崗岩, 細粒黒雲母花崗岩および花崗閃緑岩に分けられる. 単位面積あたりの土石流源頭部の数は, 粗粒黒雲母花崗岩で最も多く5.5個/km2, その他の岩相ではその約1/2以下であった. 一方, 平成5年では130か所のうち109か所が中粒黒雲母花崗岩と粗粒黒雲母花崗岩であった. 1kmメッシュの起伏量と源頭部の関係は, 平成21年と平成5年のいずれの土石流も源頭部は起伏量が201~250mの区域に集中する. 500mメッシュの接峰面図に基づくと平成21年と平成5年の源頭部はそれぞれ201~250mと101~150mに最頻値を持つ.
  • 岩崎 智治, 清水 則一, 増成 友宏, 佐藤 渉, 原口 勝則, 大島 洋志
    2012 年 52 巻 6 号 p. 256-264
    発行日: 2012年
    公開日: 2013/03/31
    ジャーナル フリー
     斜面の安全監視において, 地表面変位を計測することは非常に重要であるが, 長期間にわたり高精度の地表面三次元変位計測を安定して実施することは容易ではない. そこで, GPS(Global Positioning System)の適用が考えられてきた.
     GPSは1980年代から斜面の変位計測に適用されていたが, 精度, 使いやすさ, コストの面で課題があり一般的な計測手法として普及が遅れていた. そこで筆者らは, 安価で使いやすいGPS機器の開発や高精度化の研究を進めてきた. また, それらの成果を用い, さらに, 計測したデータを集約し一括して自動解析し, 計測結果をインターネットによってユーザーに配信するWebシステムを構築し, より実用的かつ総合的なGPS自動変位監視システムを開発した. 本稿では, 斜面安全監視のためのGPS自動変位計測システムの概要と地すべり計測への適用事例について述べる.
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