日本在宅救急医学会誌
Online ISSN : 2436-4738
Print ISSN : 2436-066X
4 巻, 1 号
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巻頭言
目次
寄稿
総説
  • 会田 薫子
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 1 号 p. 31-37
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     臨床現場における治療やケアに関する意思決定のあり方は、パターナリズムから患者の自己決定、そして共同 意思決定へと変遷してきた。本人の意思の尊重を中心に据えつつ、本人だけに意思決定の役目を負わせずに、本人にとっての最善を実現するために、家族や医療・ケア従事者も情報を共有しながら一緒に考え、悩ましい場面も共有して意思決定する共同意思決定が現代の標準とされるようになった。共同意思決定においては、可能な限り医学的証拠vidence)を土台として治療法の選択肢をあげきり、本人の生活と人生の物語り(narrative)の視点でもっとも適切な選択肢を見出す。こうした考え方は、本人が意思決定困難となる人生の最終段階における医療とケアのための事前の備えのあり方にも影響を及ぼしている。患者の自己決定の時代に考案された事前指示の不足を補い、対話のプロセスを重視するadvance care planning(ACP)が発展してきたのである。在宅医療は本人が家族らと人生の物語りを紡いでいる場所で行われており、ACP の実践の舞台として最適といえる。ACP を適切に行うと、それは家族ケアにもなり、また、医療・ケア従事者の仕事満足度の向上にもつながる。

  • 丹正 勝久, 小豆畑 丈夫, 河野 大輔, 中村 和裕, 上野 幸廣, 富田 凉一
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 1 号 p. 38-46
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     新型コロナウイルスSARS-CoV-2 による重症呼吸器疾患COVID-19 は世界的なパンデミックを引き起こし、い まだ拡大し続けている。本疾患は、飛沫感染、接触感染による感染が主体ではあるが、エアロゾルによる空気感染を否定できない。本疾患の患者のうち約20%が重症化し、急性呼吸不全や多臓器不全を引き起こす。この重症化の原因として、各臓器や組織の血管内皮細胞傷害による血栓形成が大きく関与していることが最近明確となってきた。血管内皮細胞傷害には2つの機序があることが推測されている。すなわち、一つは、SARS-CoV-2 感染による各種免疫細胞の活性化によって生じるサイトカインストームが血管内皮細胞傷害を引き起こす機序であり、もう一つは、SARSCoV-2 が血管内皮細胞表面のACE2 を受容体として細胞内に直接侵入し血管内皮細胞傷害を引き起こす機序である。

     血中D-dimer 値、FDP 値の上昇、PT 延長、および血中IL-6 値上昇は重症化を予測するマーカーとして有用である。

  • 青木 万由美
    原稿種別: 総説
    2020 年 4 巻 1 号 p. 47-50
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     在宅療養における緊急対応のあり方を考えるとき、利用者の一番身近で24 時間医療的支援を行っている訪問看 護師にとって、医師との連携が最重要となる。当法人では、在宅メディカルソーシャルワーカーを配置することにより、医師と訪問看護師の連携を強め、在宅療養の速やかな緊急対応を可能としている。ここでは、当法人の対応体制について報告する。

  • 中村 謙介, 中野 秀比古, 奈良場 啓, 小豆畑 丈夫, 横田 裕行
    原稿種別: 総説
    2021 年 4 巻 1 号 p. 51-60
    発行日: 2021/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     急性期疾患とその治療に伴い身体や精神面にさまざまな障害を負うことがしばしばみられ、特に高齢者は回復 力の低下から障害を負いやすい。これまで急性期医療後の障害は集中治療後症候群や入院関連障害などの形で取り扱われてきたが、広く救急医療後の障害を検討するため、PACS(post-acute care syndrome)という概念を提唱した。 PACS は身体障害、認知機能障害、精神障害の3 つに分けて検討することができ、それぞれの評価バッテリーを適切に用いることで評価が可能である。超高齢社会である日本においてPACS を検討し対策することは急務であり、急性期病院と在宅医療やプライマリケアとの情報連携を立ち上げる必要がある。

原著
  • 山岸 暁美, 中神 祐介, 妹尾 栄治, 坂田 宗昭, 木澤 義之, 越智 深, 吉田 泰久, 野瀬 隆一郎, 水川 克, 林 一, 置塩 ...
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 1 号 p. 61-68
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     本研究の目的は、高齢者救急に係る地域包括ケア現場の課題の構造を明らかにし、課題解決に向けた方略の示唆を得ることである。神戸市で地域包括ケアに携わる31機関、216名を対象に、半構造化面接かフォーカスグループインタビューを実施し質的に分析した。1)人生の最終段階の医療やケアに関する本人の意向の不在、2)ACP推進の障壁(医療・ケア専門職)、3)心身の状況や意向に関する情報共有手段の未確立、4)救急医療、地域・在宅医療、介護の連携の不足、5)住民参画の議論と地域のサポート資源が不充分、の5つおよび19サブカテゴリーが抽出された。また、これらの解決への取組みの提案として1)日本型ACPのあり方の検討および定義・方法論・評価法等の確立、2)心身の状況や意向に関する有効な情報共有の方法や仕組みの確立、3)救急医療・プライマリケア・介護の連携による望まない、不要不急の救急搬送や入院の削減、4)住民と共に考え、よりよい社会を指向する仕組みの構築および文化の醸成があげられた。

  • 前田 俊輔, 伊達 豊, 矢野 捷介
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 1 号 p. 69-78
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     バイタルサインは簡便に健康状態を把握できる指標として日常的に用いられているが、医療介入の判定に十分に活用されているとはいい難い。今回3カ月間、在宅患者20名に対し毎日のバイタルデータから基準域を平均値±2σで設定し、そこから外れた異常値を検知。スコア分布表に配点し医療リスクのトリアージ(優先度)を出すICT健康管理システム『安診ネット』を用いて遠隔モニタリングを行い、その課題と有効性についてアンケート調査を行った。

     その結果、大半の患者が家族の協力により、スマートフォンや通信機能付きのバイタル測定器を使った測定を継続することができ、さらに健康管理への意識変化が出てきているなど有効性が確認された。また訪問診療医からは、 血圧上昇の確認を遠隔から行い、電話による状態確認や往診のタイミングの参考にできる。診療空白期間の患者の状態悪化の察知。訪問前・訪問時に状態確認が可能になるなどの利点があげられた。

  • 大河原 啓文, 深堀 浩樹, 山川 みやえ, 諏訪 敏幸, 佐藤 可奈
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 1 号 p. 79-89
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     高齢者ケア施設入居者の急性期病院への搬送や入院は、できるだけ回避する必要がある。本研究は、高齢者ケア施設から急性期病院への回避可能な搬送や入院を削減する看護師主導の介入に関する研究を広く概観することを目的とする。

     MEDLINE、CINAHL、Cochrane Libraryを用いスコーピングレビューを行った。高齢者ケア施設から急性期病院への回避可能な搬送や入院を削減するための看護師主導の介入に関する研究の文献検索を行い39件が選定された。研究は「プライマリケアの質向上に関わる介入」、「End-of-Life(EOL)ケアの質向上に関わる介入」、「プライマリケアとEOLケア双方の要素を含む複合介入」の3つに分類された。終末期の意思決定支援に関する介入、ケアスタッフへの介入、高度実践看護師の介入、パスの実装などで入院が削減され、複合介入の有用性も示唆された。

     効果が示唆された研究の多くに複数の介入要素が含まれたことから、複合介入の開発と実装を進めていくことが望ましい。

  • 中村 和裕, 小豆畑 丈夫, 照沼 秀也, 河野 大輔, 丹正 勝久, 木下 浩作
    原稿種別: 原著
    2020 年 4 巻 1 号 p. 90-97
    発行日: 2020/12/31
    公開日: 2021/07/20
    ジャーナル フリー

     目的;茨城県において、在宅医と救急医が共同して在宅患者の急変対応を行う「在宅医療と救急医療の一つの病院連携(以下、一つの病院連携)」を行ってきたので、有効性を検討した。対象;「一つの病院連携」を受けた患者97例。結果;1年間に在宅から救急病院へ98例が紹介され、97例を応需した(応需率99%)。66例が入院加療となり(入院率68%)、平均在院日数は21.6±1.8日(平均±標準誤差)、在宅復帰率は91%であった。1年間に複数回入院した患者は13人(20%)であった。患者を紹介した在宅医10名にアンケート調査を施行した。在宅医が救急医療に求めることは「素早い対応(50%)」と「気楽さ(25%)」であった。「一つの病院連携」を結ぶことで、「患者紹介ストレスが軽減(70%)」し、「紹介が円滑化した(60%)」とされた。結語;「一つの病院連携」は、在宅患者急変対応を円滑にする可能性がある。

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