1. 結球白菜は蔬菜として又種苗業として極めて重要な位置を占め, 優良性は勿論であるが, 特に均等性と永續性の高いことが強く要望される現状にあろ。從來行われてきた集團淘汰の方式では, かゝる期待に副い得る品種の育成が不可能であるとの見地から, 當農場に於ては分系育種による固定系統間の F
1 利用の方式を以てその育種を行つている。本報告はその育種事業の一部であつて, 昭和19年から昭和23年に行つた結球白菜に於ける Pseudogamy による固定系の育成と育成系統の利用についての育種經過を纒めた。
2. 白菜の Pseudogamy は花粉親として大根が比較的效果的であり,
S. alba や花椰菜はその發現頻度が低く, 大芥菜や
B. carinata は眞正雜種の生成を伴うので何れも適當でないかにみえた。
3. Pseudogamy の發現頻度は母親とした白菜品種の系統乃至個體によつて違つた。その原因は不明であるが, この成績かちみてかゝる授粉操作はなろべく多くの系統や個體に分割して行うことが效果的であろう。
4. Pseudogamy の誘起頻度は全體では授粉花數16581花に對して傾母型29個體すなわち0.15%, 最高では0.56%であつた。
5. 傾母植物は凡て倍數母型で, その生成機構は究明しなかつたが, 自殖による後代處理によつて同型接合の如く見做し得るものと, 後代に形質の分離を示したものとがあり, 前者は檢定した11個體中僅に2個體であつた。
6. 傾母植物については, 續く3世代に於て自殖, 系統内及び系統間の相互交配によつて, その固定性を鑑定し系統間の F
1 組合せを檢索した。この場合一般的經濟形質の他, F
1 の自然採種に備えるため, 自家不和合であり系統間は相互に交配和合であることを, 育種の處理目標とした。
7. 昭和19年から昭和22年に至る以上の處理によつて, 2系統 F
1 1組合せを育成した。2系統は夫々芝罘白菜と京都白菜3號に由來し, 共に自家不和合, 相互には交配和合性であり, その F
1 は從來の品種に比べて, 草勢旺盛, 諸形質極めて均等且優良であつた。
8. この兩系統を蕾授粉によつて増殖し, これを混植して自然授粉に放任する方法により, 殆ど100%に近い交雜率と普通程度の反當採種量を以て, F
1 種子が採種できた。この方式は既に企業化されている。
9. Pseudogamy の誘起頻度は極めて低いが, これは授粉操作の容易なことによつて補い得られる。そして同型接合の如く取扱い得る系統の育成される可能性があり, しかも育成年限が極めて短いので, 本報の如き方式は或程度效果的な育種法としてとりあげ得ると思われる。
10. 形質差のある F
1 を Pseudogamy 誘起の母植物とすること, 温室や電燈照明設備を使うこと, 品種間 F
1 の如く遺傳的差異のある F
1 組合せを狙うこと等を心掛けることによつて, この育種方式は更に效果的となるであろう。
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