富山県産のチューリップ(William Pitt)について,サーモペリオディシティと,成分の消長の関係を調査した。
1. 20°Cを適温とする分化期に,8°-9°Cを適温とする伸長準備期が続き,最後に葉・茎さらに花茎の伸長する13°-17°-23°Cを適温とする伸長期が続くというのが,チューリップのサーモペリオディシティイである。
本実験においては,普通掘り上げ時期よりも前から試料を採収し,掘り上げ適期における球根の特徴を把えることから着手した。
2.球根の新鮮重は地上部の生育に伴なつて増加し、砂丘地のものは6月15日,水田のものは6月25日に最高に達し,以後は少しずつ減る。
Fig. 9. Effect of chilling treatment on auxin level in the scales (II-III) of tulip bulbs.
Fig. 10. Optimal temperatures for the development of tulip bulbs from the time of lifting to flowering.
(HARTSEMA, LUYTEN and BLAAUW)
乾物重も新鮮重に伴なつて増えるが,新鮮重の場合よりそれぞれ10日早く最高値に達し,以後はやはり減る。
冷蔵すると,新鮮重は減らなくなるが,乾物重の減り方は室温貯蔵のものより大きくなつた。
砂丘地のものと水田のものとは同じ動向を現わすが,砂丘地のものの動きは水田のものの動きより大体10日早い。
3.窒素化合物の消長 新鮮重の増加に伴なつて,球根当り総含量も,また新鮮重当りパーセントにしても,窒素含量は増え,新鮮重が最高に達した後で総含量は最高に達し,パーセントとしてはその後も増えることになる。
不溶性窒素と可溶性窒素とは大体動向は似ているが,不溶性窒素の方が早く第1の極大値に達し可溶性窒素の方が遅れている。
冷蔵すると,不溶性窒素は室温貯蔵のものと反対に新鮮重に対するパーセントが下がり,可溶性窒素の方では上がる。冷蔵すると,不溶性のものが一部可溶牲に変わる。砂丘地産の球根と水田産のものとを較べると,窒素総含量も,新鮮重に対するパーセントも,砂丘地産のものの方が水田産のものより多い。
4.炭水化物の消長 炭水化物の総含量も新鮮重当りパーセントも,新鮮重の増加に伴なつて最高値に達し,以後減つている。球根当り総量の減り方はゆるやかであるが,新鮮重のパーセントとしての全炭水化物の減り方は砂丘地の場合はかなり著しく,水田の場合にはゆるやかである。
全糖は新鮮重が最高に達する前に最高パーセントを示し,砂丘地のものは5月25日,水田のものは6月15日へかけてやや急に下がり,以後はしばらく大して変らず,10月中旬以後ゆるやかに上がつている。
多糖類は,最高値に達した後は下がる一方で,砂丘地産の下がり方は水田産の下がり方より急ピッチである。冷蔵すると,多糖類のパーセントは室温貯蔵のものと較べて急激に下がり,全糖のパーセントは急激に上がつており,多糖類から全糖へ変る量が相当多い。多糖類の動向はその澱粉の動向と一致しており,全糖の動向は非還元糖の動向と一致している。
鱗葉別に澱粉含量の変化を見ると,最外部のものに始まつて順次内部のものに澱粉が集積し,最高値に達し,以後ゆるやかに下がつている。冷蔵中は急激にそのパーセントが下がる。外側のものよりも内側のものほど下がり方が著しい。
5. Auxinとinhibitorの消長
(1)生長点 生長点のauxinは,砂丘のものでは6月20日,水田のものでは6月30日へかけてやや急に下がつて最低値を示した後,やや急に上がつて前者では8月12日,後者では8月5日に最高値を示し,後9月末までやや急に下がり,10月以降ではゆるやかに下がつている。全般的に砂丘地のものの方が水田のものより高い。
冷蔵すると室温貯蔵と較べて下がつており,10月以降においてかえつてゆるやかに上がり同じレベルに近づく。
形態的調査による花芽分化は,砂丘地のもので7月1日,水田の場合で7月10日である。auxin levelの最低値が砂丘地のもので6月20日,水田の場合に6月30日に現われていることに追随している。
(2)鱗葉(外側より第II-III番目)鱗葉は,7月中旬まで多量のinhibitorを含み,auxinを殆んど含まない。砂丘地のものでは7月15日,水田のものでは7月25日からauxinが増え,inhibitorの方は減り始め,auxinは砂丘地のもので9月10日,水田のもので9月30日に最高に達し,11月5日の定植期にはやや減つている。
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