床土をたい積する場合の有機物材料としてイネワラおよび腐葉土を用い, これに石灰窒素の施用量をかえてたい積を行ない, 床土のたい積中の成分の変化, ならびにこの床土でのトマト苗の生育を調べた。
1. たい積中に床土の容積が減少した。土の温度はたい積により上昇し, 約1週後に最高となり, その後はしだいに下降した。初期はイネワラ区の方が腐葉土区より温度が灼高かつた。
2. たい積により熱損量には変化がなかつた。全-Nはやや減少した。
3. NH4-Nは第1回切返し時には多く, 第2回切返し時には急減し, それから冬期の間にはほとんど変化がなかつた。NO3-Nはこれと逆に第1回切返し時には少ないが, その後NH4-Nの減少にともなつて増加した。しかしイネワラ区では一般に硝酸化成が抑制されたのか, NO3-Nは増加しなかつた。
4. pHは一般にNH4-Nの消長に似ていて, NH4-Nが減少すると低くなる傾向にあつた。
5. 置換性K2O含量は第1回切返し時には含量多く, 第2回切返し時には急減し, その後はそれほど減少しなかつた。ク溶性P2O5含量はN, K2Oに比べると変動が少なかつた。
6. 熟成した床土を用いてトマトを育苗し, その生育を調べた。腐葉土中N, 少N, ワラ少N, 速成床土区の生育はよかつたが, 2年たい積区はやや生育が劣つた。またワラ多N, 腐葉土多N区では発芽が抑制され, 子葉の葉色が濃緑となり, 先端が茶褐色にやけ, しだいに基部に及び, とくにワラ多N区は被害大で枯死した。ワラ中N区は発芽は普通であり生育は不良であつた。
7. 多N区での生育不良の原因を追究するため, まず熟成した床土を27°C で inccuate しにところ, ワラ多N区ではNH4-Nが急増し, NO3-Nは4週後まで低含量で, 硝酸化成がほとんど行なわれなかつた。
8. 硝酸化成を妨げる有害物質を検索したところ, シアナミドはなかつたが, その誘導体が存在し, ワラ中N多N, 腐葉土多N区の熟成床土中にその存在が認められた。なかでもワラ多N区中の含量はかなり高かつた。
9. 砂耕試験を行ないトマト苗の生育の阻害症状を調べた結果, 多N区の症状は多NH4-Nによるよりもシアナミド誘導体の存在に影響されていることがわかつた。
10. 以上の結果からワラ多N区における発芽, 生育阻害の原因は, pHが高いため, 石灰窒素の分解過程でシアナミド誘導体を生じたことによると考えられる。またワラ中N, 腐葉土多N区における生育不良も, 程度こそ低いが, 同様な機構にょつているものと思われる。
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