ハナヤサイの花蕾形成に関する生理学的基礎資料を得る目的で, ほ場栽培および phytotron で育成した野崎早生, Eariy Snowball A を供試して頂芽部の Auxin, Gibberellin, Nucleic acid および茎内の炭水化物, 窒素化合物を分析して検討した。
1. 夏まき苗は春まき苗にくらべ, 大苗になつてから花蕾を形成していた。
これら生育に伴う体内成分の消長は次のとおりである。
(1) 炭水化物•窒素化合物は生育に伴つて増加していたが, とくに可溶性糖分の蓄積が著しい。
炭水化物および窒素化合物は花蕾分化時に最高値を示し, 以後花蕾の発達とともに減少していた。
(2) Auxin は花蕾分化の直前に少なく, その前後に多く含まれていた。特にIAAに相当するRfの部分のAuxin が少なくなつていた。
(3) 生育期間中 Gibberellin 含量は非常に少ないが,花蕾分化後増加していた。
(4) Nucleic acid のうちDNAは生育に伴つて著しい変動がみられなかつたが, 花蕾形成後わずか増加していた。一方 RNA は生育に伴なつて顕著に増加し, 花蕾形成前一時低下し, 花蕾形成後また増加していた。
花蕾形成前と花蕾形成後のRNAの塩基組成を調査した結果, 形成前は Purine 系塩基が Pyrimidine 系塩基より相対的に多かつたが, 分化後は逆に Pyrimidine 系塩基が Purine 系塩基より多くなつていた。
2. 10°C, 17°C および25°Cの Phytotron 内にてEarly Snowball A を生育せしめると, 10°C区では5日目に, 17°C区では10日目にそれぞれ花蕾を形成し, 25°C区では花蕾がみとめられなかつた。
それに対応する体内成分の消長は次のとおりであつた。
(1) 25°C区では可溶性糖分も不溶性糖分も少なかつた。処理温度が低下するにつれて可溶性糖分も不溶性糖分も急速に増加し, 10°C区では最も早く最高に達していた。一方窒素化合物は逆に25°C区で急激に増加していた。処理温度が低下するにつれて, 窒素含量は少なく, 花蕾形成時最高を示していた。
(2) 頂芽部における Gibberellin は花蕾形成後顕著に増加し, 10°C区は10日目から, 17°C区は15日目から増加していたのに対し, 25°C区ではわずかしか増加していなかつた。
(3) DNA は花蕾形成後少しずつ増加したが花蕾形成前はほとんど変化がみられなかつた。一方 RNA は25°C区において著しい増加がみられたのに対し, 10°C区では処理後一時減少し, 17°C区では処理後一時増加してPeak に達し, 後減少して花蕾を分化した。
3. 以上の結果にもとづいて, ハナヤサイの花蕾形成は低温によつて Auxin の一時的低下が招来され, それに伴つてRNAの質的転換が起つて花蕾を分化するものと考えられる。RNAの質的転換は Purine 系塩基の相対的な減少, Pyrimidine 系塩基の相対的増加となつて現われるものと思われる。
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