(1) 本研究は低温障害を受けやすいピーマン果実について低温貯蔵中発生する障害の様相, 呼吸変化, 成分変化ならびに障害発生機構について調べたものである。
(2) 1°C, 6°C, 18°C暗黒下で貯蔵したピーマン果実の外観の変化は, 低温下で果皮面に典型的な低温障害とされる Pitting は生じなかつたが, 1°C下では貯蔵1週間ころからガクに異常をきたし, 種子のかつ変がみられた。また6°C下でも2週ころから同様なかつ変がみられ, その程度は1°C下より軽度であつた。ただ貯蔵末期に1°C, 6°C区とも耐病性が低下するためか,
Botrytisが発生しはじめた。しかし1°C区では菌の発育が押えられるため品質の急激な劣化はまぬがれた。18°C下では障害を受けずに熟度が進み貯蔵末期に果皮は赤変した。1°C区のものを18°Cに変温すると果皮の一部に Pitting が発生した。
果皮のクロロフィル含量は全区とも貯蔵中減少するが, 貯蔵当初の新鮮重当たりに換算すると18°C区が最もクロロフィル含量の減少傾向が大きく, ついで6°C, 1°C区の順であつた。
(3) 1°C区, 6°C区の果皮のケト酸含量 (α-ケトグルタル酸, ピルビン酸) は貯蔵中増大した。果実を長期間低温に処理した後, 18°Cに変温するとその増加の傾向はさらに促進された。
(4) ピーマンの有機酸ではフマール酸, コハク酸, 修酸, リンゴ酸, クエン酸がおもで, このうちリンゴ酸が量的に最も多い。18°C区は貯蔵中リンゴ酸含量が減少するが, 1°C区は逆に増加した。
(5) ピーマンにはフェニールアラニン, ロイシン, チロシン, γ-アミノ酪酸, セリン, アルギニン, グルタミン酸, アスパラギン酸などのアミノ酸がみいだされた。これらのアミノ酸については障害果と顕著な量的差異はみられず, また全アミノ酸も貯蔵中それほど大きな変化はみられなかつた。
(6) 低温貯蔵中のものを18°Cに変温した後, 果実の呼吸変化を調べたところ, 1°C区は貯蔵2週後ころから, 6°C区は3週ころから呼吸量の急激な上昇現象がみられた。
(7) 果皮組織切片の変化は18°C区では貯蔵中わずかに減少する傾向を示すが, 6°C区は減少率が小さく貯蔵中全期間を通じて割合に高い値を示した。1°C区は貯蔵末期にO
2吸収量が増大してRQが減少したが, 貯蔵6~7週めまで明りような呼吸の異常は観察されなかつた。ガク組織では1°C区で貯蔵末期に著しい呼吸量の増大がみられ, 前記の低温障害に伴うガクの異常現象と符号した。
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