セイヨウナシの Hard end 発生と水分条件との関連性を解明するために, 本障害の発生開始時期を見いだす必要がある. 本実験は, 15年生ヤマナシ台‘バートレット’ のうちから, 例年 Hard end が著しく発生する樹(多発樹)と健全樹を用い, 果実形質, 主とし♦ Calyx endの果肉細胞, 細胞膜成分及び無機成分の季節的変化などを調査比較したものである.
1. 追熟後に果実の計測及び組織化学的観察を行った結果, 果重, 縦径, 偏平度, 平均果皮硬度, 同果肉硬度, ペクチン物質及びタンニンには, 両樹間に有意差が認められたが, 石細胞群密度, コルク物質及びデンプンには有意差は認められなかった. しかし, 1果実内果肉硬度分布と密接な関係が認められたのはペクチン物質(おそらくプロトペクチン)だけであった.
2. 健全樹に比較して当初より多発樹の果重は軽く, 果径は短く, Mg濃度は低く, 全ポリフェノール濃度は高かった. しかし, 多発樹の Calyx end で満開40~50日後に, 健全樹より, 果肉細胞長径は短く, 果実Ca濃度は低く, 同K濃度は高くなり, 同Ca/K値は小さくなり, 塩酸可溶性ペクチン濃度は高くなった. 同様に, 満開55~60日後に, 果皮硬度は大きくなり, AIS濃度とホロセルロース濃度は高くなり, さらに, 満開60~65日後にセルロース濃度は高くなり, 果肉硬度及び偏平度の値は大きくなった.
3. 追熟後(満開約120日後)では, Calyx end の果皮硬度, 果肉硬度, 水溶性ペクチン及び塩酸可溶性ペクチン各濃度のみ両樹間の差が顕著に拡大した.
4. 以上の結果, 追熟中のベクチン分解が円滑に進まず, 果実が硬いことが Hard end 果の最終的特徴といえるが, 本障害そのものはそれよりもかなり以前(満開40~65日後)に発生を開始するものと思われる.
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