ブドウ‘マスカット•オブ•アレキサンドリア’において, 高品質の果実を生産するために重要であると考えられる, 果房における物質蓄積とCO
2排出量, ならびに, 葉におけるみかけの光合成速度の季節的変化を調査した.
1. 果房体積の増加は典型的なダブルシグモイド曲線を示した. 体積増加の生長期別割合は, 成熟期を100として, 第1期が 37%, 第2期が 19%, 第3期が 44%であった. これに対して, 物質蓄積量の増加はむしろシンプルシグモイド曲線に近く, その生長期別割合は第1期が 11%, 第2期が 17%, 第3期が 72% で, 第3期における蓄積量が極めて多かった.
2. 果房における乾物率は, 開花直後から急速に低下し, 第1期から第2期へ移る時点で最低になった. 第2期から上昇に転じ, 成熟期までほぼ直線的に増加した.
3. 果房から排出されるCO
2は, 単位新鮮重当たりでは, 満開後6日目に極めて高いピークが認められ, その後は急減した. 果房当たりでは, 第1期から第2期へ移る時期と第3期の初期とに2つのピークがあり, 第2期には排出量が減少した.
4. 果房へ転流する物質量を, 蓄積された物質量と排出されたCO
2のグルコース換算量の計とすると, その生長期別割合は第1期が 13%, 第2期が 20%, 第3期が 67% になるものと推定された.
5. 葉におけるみかけの光合成速度は, 葉が展開してからほぼ1か月後の, 開花期ごろに最高に達した. 梅雨期に入ると低下したが, 果実生長第2期の7月上旬には上昇した. しかし, ピーク時の水準には達しなかった. そして, 8月からは落葉するまで低下が続いた.
6. この葉におけるみかけの光合成速度と果房における物質蓄積速度とは異なったパターンを示した. 果実生長第3期における物質蓄積量が最も多い時期には葉におけるみかけの光合成速度は徐々に低下しており, したがって, 結実量が多過ぎれば果実生長第3期に至って果粒肥大不足, 成熟期の遅延, 糖の蓄積不足が起こる可能性があるものと考えられた.
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