光合成産物がけん引根に貯蔵され, さらに再転流されて子球の肥大に用いられる過程, 及びけん引根の子球肥大に対する寄与率を
14Cトレーサー実験により解明しようとした.
1. 生育時期別に最大葉(グラジオラス)あるいは地上部全体(オキザリス)に
14CO
2を施与した場合, 16時間後の
14Cの全転流率は, いずれの種類においても初期施与で低かったが, けん引根肥大最高時以降の施与では60%以上, 70%近くになった.
14Cのけん引根への分配率が最大となったのは, けん引根肥大最高期ではなく, むしろそれに先立つ肥大進行期, すなわちグラジオラスでは3~4.5葉期, オキザリスでは4~6葉期の施与で, それぞれの分配率は12,81%であり, それらの時期それぞれのけん引根のRSSが高いこととよく対応した. 子球への
14Cの分配はグラジオラス, オキザリスでそれぞれ3,4葉期から認められ, 乾物分配率に先んじて
14C分配率の増加がみられた. なおグラジオラスの花茎への乾物ならびに
14Cの分配はけん引根肥大最高時前後, ただし
14Cのそれが乾物のそれに若干先んずるかたちで, ともに急増し, 開花とともに急減した. また, 母球は専らソース器官と考えられてきたが, 少なくともグラジオラスの生育初期には, 12%に近い分配がみられた.
2. けん引根へ最も効率的に
14C-光合成産物が取り込まれる時期に
14CO
2を光合成させて, その後の
14Cの分配をみた. オキザリスでは, けん引根の
14Cが呼吸による消耗を大きく上回って減少するけん引根収縮盛期(および収穫直前) に, その減少分 (全減少量-呼吸消耗量) に近い
14Cが子球に増加した. その間, 葉の
14Cの減少はごく少ないので, 子球の
14Cの増加は専らけん引根からの移行によるものと判断された. すなわちオキザリスでは4~5葉期の光合成産物は一旦けん引根に貯えられたのち, その収縮とともに効率的に子球に移行するものといえる. またグラジスラスでも同様に, ただし量的にははるかに小さい規模であるが, 3~4.5葉期の光合成産物の一部はけん引根を経て子球に移行すること, ただし子球肥大の後半には葉あるいは花茎を経ての移行もかなりみられることが推定された.
部位別にみて, 最終掘り上げ時に存在する
14C量が, 施与24時間後に比べて増加したのは子球のみである (グラジオラスでは木子が加わるが, その量はごく小さいので便宜的に子球のそれに加えることとする). したがって子球での
14Cの増加分は, 最終的に他の部位, 特にけん引根からの移行によるものとみられる. そこで各部位で呼吸速度が同一と仮定して, 各部位から子球への
14Cの移行量を計算した, その結果, けん引根の肥大盛期の光合成産物についてみる限りでは, それらのうち最終的に子球に存在したもののうちオキザリスでは約70%, グラジオラスでは約14%が少なくともけん引根を経由して移行しており, 一方, 葉から移行したものはそれぞれ23%, 65%を占めるものと推定された.
なお, ここに示した
14Cに基づくけん引根の推定寄与率と前報で示した乾物重に基づく推定寄与率とは比較的よく一致した.
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