園芸学会雑誌
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53 巻, 2 号
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  • 山村 宏, 別所 英男, 内藤 隆次
    1984 年 53 巻 2 号 p. 115-120
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    ‘西条’の果皮に黒変汚損が発生しやすいといわれる原因を明らかにするために, カキ‘西条’と‘富有’両品種の黒変汚損果発生と果実の肥大, 果皮組織発達との関係を調査した.
    1. 両品種とも点状汚損の発生率が最も高かったが,‘西条’では点状汚損に次いで溝状, 縦線状, 破線状汚損が多かった.‘富有’では点状及び縦線状汚損が大部分で, 他の症状は概して少なかった.
    2. 破線状及び雲形状汚損は赤道部から果頂部にかけて発生が多く, 波状及び縦線状汚損は果実基部に発生が多かった.
    3. 両品種とも果実の発育は部位によって異なり, 果頂部に近い部位ほど生長は次第に鈍化した.
    4.‘西条’は幼果時のクチクラ層が‘富有’に比べ薄く, 表皮細胞や亜表皮細胞の発達も‘富有’より劣った.
    5.‘西条’で発生の多い溝状及び破線状汚損は, 果実発育後期の急激な果実肥大に伴って, 果面上の微細な亀裂の裂開が原因となる典型的な症状と考えられた.
  • 米森 敬三, 松島 二良
    1984 年 53 巻 2 号 p. 121-126
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    Pollination constant の甘ガキ‘富有’及び pollinationvariant の渋ガキ‘平核無’の果実を用い, そのタンニン物質の特性を明確にするために, 超遠心分離によるシュリーレン•パターンの測定及びアセトアルデヒドとの反応性を調査した.
    まず, タンニン物質のシュリーレン•パターンを測定するために, 両品種の果肉の含水アセトン抽出物中のタンニン物質を分子ふるいクロマトグラフィー (担体CPG-10 2000Å) により, F-I及びF-IIの2つの分画に分離した. この各分画のタンニン濃度を一定にした後, 3日間40°Cで incubate し, incubate 前, 1日目, 3日目にそれぞれの分画液の一部をとって超遠心分離を行った. 両品種とも, F-I及びF-II分画は単一のタンニン成分ではなく, 3ないし4成分で構成されていることが認められたが, いずれの場合も‘平核無’の各タンニン成分の沈降係数は, それに対応する‘富有’のタンニン成分の沈降係数より大きかった. また,‘平核無’のF-I分画のタンニン成分は, incubate 期間中に複雑な変化を示し, 認められなくなる成分 (26S及び23S)や新たに生じる成分 (6S) があったが,‘富有’のF-I及びF-II分画, 並びに‘平核無’のF-II分画については, incubate 中に構成成分の変化はみられなかった.
    次に, タンニン物質のアセトアルデヒドとの反応性を調べるために, タンニン濃度及びpHを数段階に変えた果汁を, 0.15%のアセトアルデヒド溶液の入ったデシケータ内 (30°C) において密閉し, アセトアルデヒド蒸気中でそれぞれの果汁が凝固するまでの時間を測定した.果汁の凝固にはタンニン濃度が小さくなる程, また, pH3.0から5.0の間で両品種とも長時間を要したが, いずれの濃度及びpHにおいても,‘富有’の果汁の凝固速度が遅かった.
    以上のことより,‘富有’のタンニン物質は,‘平核無’のタンニン物質よりも低分子領域のタンニン成分で構成されており, 化学的な反応性も小さいことが示唆された.
  • 加藤 公道
    1984 年 53 巻 2 号 p. 127-134
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    カキ果実内のタンニン及び糖を定量するためのエタノールによる抽出条件, アルコール脱渋時におけるタンニン含量の減少と渋み消失との関係及び果実に浸透する時のアルコールの挙動について検討した.
    1. タンニンの抽出量は, 70%エタノール中で果肉を磨砕して抽出した場合が最も多かった. エタノール磨砕物を加熱処理すると, アルコール脱渋処理後の脱渋途上にある果実ではタンニン抽出量がやや多くなった.
    2. 果肉磨砕時及び抽出時のエタノール濃度が低いほど, 非還元糖が減少し, ほぼそれに見合う量の還元糖が増加するなど, 抽出条件により糖組成が変化したが, 全糖含量はほぼ一定の値を示した. 糖の抽出は, 70%エタノール中で果肉を磨砕してから直ちに加熱する方法でほぼ可能であった.
    3. 70%エタノール中で果肉を磨砕後, 直ちに加熱する方法で測定したタンニン含量は, 渋みの程度と比較的高い相関が認められた. 渋みはタンニン含量が約0.2%ではわずかに感じる程度であり, 約0.1%以下ではほとんど感じなかった.
    4. エタノールガスの果実への浸透は, 果実の表面,主に果皮表面より進行した. 果実のエタノール浸透速度は, 果実周囲のエタノールガス濃度にほぼ比例して増大し, 保持温度や品種による差異は少なかった.
  • 福井 博一, 今河 茂, 田村 勉
    1984 年 53 巻 2 号 p. 135-140
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    組織化学的手法を用いて, 種子中のインドール化合物の組織内分布及び早期落果との関係について調査した.in vitro においても組織内においても, インドール化合物は p-dimethylaminobenzaldehyde-nitrite 反応によって 618nm に吸収極大を持つ青紫色色素を生成した.胚はすべての発育段階において, インドール化合物の存在に基づく強い呈色反応を示した. しかし, 細胞質状態の胚乳ではほとんど反応が見られず, インドール化合物の存在が認められなかった. 珠心組織は中程度の反応を示したが, 満開後50日目までに組織が崩壊した. 胚, 胚乳及び珠心組織のインドール化合物含量相対値を算出し, 各組織ごとにその消長を調査した. 胚の含量相対値は満開後50日目までは極めて低い水準であったが, それ以後90日目にかけて急激に増加して高い値となり, その後収穫日まで変わらなかった. 胚乳及び珠心のインドール化合物含量相対値は, 全期間低い値で推移した. 果径増加量の変化によって, 落果が予測された果実の胚のインドール化合物含量と正常果のそれとの間には差がみられず, 胚由来のインドール化合物は早期落果と無関係であると考えられた.
  • 大東 宏, 森永 邦久
    1984 年 53 巻 2 号 p. 141-149
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    17年生のウンシュウミカン′杉山温州′ の樹冠内陽光部及び日陰部における果実の成熟に伴う果皮並びに果汁中香気成分の変化を調査した.
    1. 果皮中香気成分の変化
    陽光部では, 主要成分のd-リモネン含有比は10月上旬まで徐々に増加し, その後ほぼ一定値で推移した.次いで, 含有比の高いテルピネンは10月上旬まで急激に減少し, その後ほぼ一定となった. α-ピネンは8月~9月の間減少したが, カンフェン, δ-エレメン, デシルアルデヒド, ペリリルアルデヒド及びγ-エレメンとともに総じて含有比に変化はなかった. また, p-シメン,β-ピネン, ノニルアルデヒド, トランスーサビネン, リナロール, β-カリオフィレン, α-テルピネオール, β-コパエン及びゲラニルアセテートは減少し, ミルセンは増加した.
    日陰部では, d-リモネンの含有比は8月~9月の間増加し, その後ほぼ一定であった. 次いで, 含有比の高いテルピネンは10月上旬まで急激に減少し, その後やや増加した. α-ピネン, カンフェン, β-ピネン, トランスーサビネン, デシルアルデヒド, リナロール, β-カリオフィレン, β-コパエン及びゲラニルアセテートの含有比は概して変化しなかった. p-シメン, ノニルアルデヒド,β-ファーネッセン, α-テルピネオール, ペリリルアルデヒド及びγ-エレメンは減少し, ミルセン及びδ-エレメンは増加する傾向にあった. 果皮から得られた揮発性成分含量は, 8月には両着果部位ともに少なかったが,その後増加して10月には最大値を示し, 以後やや減少した. 日陰部果実の揮発性成分含量は9月~12月の間, 陽光部果実のそれよりも常に少なかった.
    2. 果汁中香気成分の変化
    陽光部では11月上旬にはd-リモネンの含有比が最も高く, 次いで, テルピネン, ミルセン, p-シメン, β-カリオフィレン, ゲラニルアセテート, δ-エレメン, α-ピネン, β-ピネン, α-テルピネオール, トランス-サビネン, β-コパエン, γ-エレメン及びリナロールの順であった. 12月上旬には, d-リモネンの含有比は著しく減少し, ゲラニルアセテート並びにトランスーサビネンは消失した. 一方, 他の成分の含有比は顕著な増加を示し,特に11月上旬にはみられなかったノニルアルデヒドが存在するようになった.
    日陰部では, 11月上旬にはd-リモネンが主成分であり, 次いで, テルピネン, リナロール, ミルセン, β-カリオフィレン, p-シメン, ゲラニルアセテート, α-テルピネオール, β-コパエン, α-ピネン, トランス-サビネγ, β-ピネン, δ-エレメン及びノニルアルデヒドの順に含有された. 12月上旬には, d-リモネン及びテルピネンの含有比は著しく減少し, ミルセン, p-シメン, β-ピネン, トランス-サビネン並びにノニルアルデヒドは消失したが, 他の成分の含有比は著しく増加し, 特に11月にはみられなかったγ-エレメンが12月には存在するようになった.
  • 大東 宏, 佐藤 義彦
    1984 年 53 巻 2 号 p. 150-156
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    1973年9月3日から1974年1月28日まで, 約15日ごとに18年生の早生ウンシュウミカン ′興津早生′ 及び普通ウンシュゥミカン′シルバーヒル′の果実を採取し, 成熟に伴う果皮, 果肉 (果汁, 砂じょう膜の混合物) 及びじょうのう膜のペクチン質組成の変化を調査した.
    早生ウンシュウミカンの果皮中ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質含量は調査期間中やや増加する傾向にあった. しかし, か性ソーダ可溶性ペクチン質の含量は, 9月上旬から12月上旬までの間緩やかに減少し, その後やや増加する傾向にあった. 果肉では水溶性ペクチン質及びヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質の含量は, 9月上旬から11月上旬までほぼ一定で, その後12月下旬には著しい増加を示した後, 翌年1月下旬までやや減少した. 果肉のか性ソーダ可溶性ペクチン質含量は, 9月上旬から翌年1月上旬まで顕著に増加した.じょうのう膜では水溶性ペクチン質, ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質含量はともに9月上旬から翌年1月上旬まで緩やかな増加を示した. か性ソーダ可溶性ペクチン質含量は著しい変動を示しながら減少した.
    普通ウンシュウミカンの果皮中水溶性ペクチン質含量は, 9月上旬から12月上旬までの間緩やかな増加を示し, その後翌年1月にかけて徐々に減少した. ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質とか性ソーダ可溶性ペクチン質含量はともに9月上旬から11月下旬まで徐々に減少し, その後ほとんど一定であった. 果肉の水溶性ペクチン質及びヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質含量はともに9月上旬から10月中旬まで徐々に減少し, その後翌年1月上旬までほとんど変化しないで1月下旬には増加した.
    果肉のか性ソーダ可溶性ペクチン質含量は9月上旬から10月下旬まで著しく減少し, その後翌年1月下旬に向けて顕著な増加を示した. じょうのう膜の水溶性ペクチン質含量は11月下旬まで緩やかに増加し, その後翌年1月まで緩やかに減少した. ヘキサメタリン酸ナトリウム可溶性ペクチン質含量は9月上旬から12月下旬まで緩やかに増加し, その後減少した. か性ソーダ可溶性ペクチン質含量は9月上旬から翌年1月下旬まで減少した.
  • 石井 孝昭, 門屋 一臣
    1984 年 53 巻 2 号 p. 157-167
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    有機物の施用は腐熟が前提であるが, そうでない場合には樹勢を一時的に弱らせる場合がある. 著者らはその原因を究明するために, 有機物施用に伴うエチレンの発生を調査し, ブドウ樹の生長に及ぼすエチレンの影響について検討した.
    エチレンの発生量は施用有機物の種類により異なった. 特に, ブドウ, カンキツ, ニホンナシ, モモ及びカキの枯葉, カンキツの生根, 更には稲わらなどの施用土壌からはエチレンの発生が著しかった. これらのエチレンの発生には土壌温度, 土壌水分及び土壌の通気性が大きく関与しており, 土壌微生物の働きによることが推察された. 一方, よく腐熟させた有機物を施用するとエチレンの発生は著しく減少した. エチレンの発生量とブドウ幼木の生長との間には負の密接な関係があるものと推察される.
  • 糠谷 明, 増井 正夫, 石田 明
    1984 年 53 巻 2 号 p. 168-175
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    メロンを養液耕で栽培し, ステージI (定植時から受粉時), ステージII (受粉時から果実ネット発達期), ステージIII (果実ネット発達期から収穫時) の全期間又はある一定期間の海水希釈液処理が, 収穫時の生育 (実験I) と各ステージ終了時の生育 (実験II) に及ぼす影響を調査した.
    実験I 全植物体乾物重と果実新鮮重は, 海水希釈液の処理期間が短くなるにつれて増加し, 海水濃度が増すにつれて減少する傾向を示した. ステージIにおいて海水希釈液処理をしたメロンを, ステージII及びIIIにおいて基本培養液で育てた場合, 果実新鮮重は増加したが,葉中 Cl, Na 含量は海水希釈液の影響を受けなかった.処理期間が短くなるにつれて, 葉中 Cl, Na 含量は低下した.
    実験II 生育に及ぼす海水希釈液の影響は, 概して生育の進行及び処理期間の減少につれて小さくなった. ステージIIIにおける海水希釈液の処理は, 全植物体乾物重と果実新鮮重を減少させたが, 葉•茎•根の合計乾物重には影響を及ぼさなかった. 果実の塩辛味は, 処理期間が長くなるにつれて増加した. 収穫時の葉中 Cl, Na 含量は, ステージIIIで海水希釈液の処理をした場合に高かった. 葉の浸透ポテンシャルは, 概してそれぞれのステージにおける培養液の浸透ポテンシャルと比例的関係にあった.
    以上の結果, メロンの耐塩性の指標として全植物体乾物重を用いた場合には受粉時までの生育期(ステージI)が, 果実新鮮重及び品質を用いた場合には果実発達期(ステージII, III)が, 塩類処理に最も敏感であった.
  • 長島 時子
    1984 年 53 巻 2 号 p. 176-186
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    キリシマエビネ, ニオイエビネ及びアマミエビネの3種類のランを供試し, 胚珠形成及び受精後の種子形成過程を組織学的に観察するとともに, 種子形成過程と種子発芽との関係を追究した.
    1. 子房の大きさは, いずれのランにおいても受粉すると急速に増加した. 子房の大きさは, キリシマエビネでは受粉後60日ごろに, ニオイエビネでは受粉後50日ごろに, アマミエビネでは受粉後70日ごろに, それぞれ一定値に達した.
    2. 種子及び胚の大きさは, いずれのランにおいても, 受精すると急速に増大した. 種子の大きさは, キリシマエビネでは受粉後70日ごろに, ニオイエビネ及びアマミエビネでは受粉後80日ごろに, それぞれ一定値に達した. 胚の大きさは, いずれのランにおいても受粉後95~100日ごろに, それぞれ一定値に達した.3. 胚珠形成は, キリシマエビネ及びニオイエビネでは受粉後38~40日ごろに, アマミエビネでは受粉後43~45日ごろに, それぞれ完了した. 重複受精は, キリシマエビネ及びアマミエビネでは受粉後48~50日ごろに, ニオイエビネでは受粉後43~45日ごろにそれぞれ行われた. 胚のう核は, いずれのランにおいても5~6個観察された. 受粉から胚発生完了までに要する日数は, キリシマエビネ, ニオイエビネ及びアマミエビネのいずれにおいても95~100日であった.
    4. 胚発生過程の様相はキリシマエビネ, ニオイエビネ及びアマミエビネのいずれにおいても, 同様であった.すなわち, いずれにおいても4細胞期ではA2型であり,4細胞期以降の胚発生過程はE型 (Liparis pulverlenta型) に類似していた. またいずれにおいても, 胚は主としてca細胞から形成された.
    5. 受精後の胚乳核は, キリシマエビネ, ニオイエビネ及びアマミエビネのいずれにおいても, 3~5個が観察された. また, いずれにおいても胚柄の存在が観察された.
    6. 種子の発芽能力は, キリシマエビネではインターメディアリー期 (受粉後80日ごろ) 以降に, ニオイエビネではほぼ16細胞期からインターメディアリー期の間(受粉後80日ごろ) に, アマミエビネでは前胚の4細胞期以前 (受粉後60日) ごろにそれぞれ認められた. なお, いずれにおいても胚発生完了前後において発芽率が最も高かった. また, ニオイエビネでは, 明所培養に比較して暗所培養において発芽率が高かった. 培地としては, MS培地に比較してH培地が種子発芽に対して優れていた.
  • 細木 高志, 浜田 守彦, 稲葉 久仁雄
    1984 年 53 巻 2 号 p. 187-193
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    正月出荷を目的としたボタン (Paeonia suffruticosa)の促成開花が試みられた. 冷蔵後の花芽にニンニクペーストを処理すると, 萠芽と葉の伸展が促進された. また, 同処理により開花も早められ, 12月中旬の収穫が可能であった. 予備冷蔵処理でも, 同様な開花促進効果がみられたが, 品種により効果の程度は異なっていた. 休眠の浅い品種を用いると, 予備冷蔵とニンニクの併用処理により11月下旬の開花が可能であった.
  • 河野 澄夫, 小野寺 武夫, 早川 昭, 岩元 睦夫, 太田 英明, 菅原 渉
    1984 年 53 巻 2 号 p. 194-201
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    生食用クリの長期貯蔵技術の確立を目途に, 貯蔵前処理としての予冷を強制通風予冷, 差圧予冷, 真空予冷の3予冷方式について検討するとともに, ポリエチレン小袋包装による低温貯蔵試験を行い, クリの適正貯蔵条件について検討した. 結果の概要は次のとおりであった.
    1. 強制通風予冷, 差圧予冷, 真空予冷の3種類の予冷の中で, 真空予冷による冷却が最も速く, 次いで差圧予冷, 強制通風予冷の順であったが, 真空予冷の場合,冷却後クリの表皮に白い模様が発生するため, 官能検査では悪い評価を得た. 総合して三つの予冷方式の中で差圧予冷が最も有望な方式と考えられた.
    2. 予冷中の目減りは, 差圧予冷で1.6%, 真空予冷で2.8%であった. 真空予冷の場合, 蒸発の潜熱がすべてクリの冷却に使用されたと仮定して計算した結果とほぼ同じ値を示した.
    3. 貯蔵中のカビの発生度は, 貯蔵温度が高いほど,貯蔵期間が長いほど大きくなり, 10°Cで4か月以上あるいは5°Cで6か月以上貯蔵するとほぼ全部のクリが腐敗した.
    4. クリ果肉の弾性係数は果肉の方向によって異なり, 1°C貯蔵の場合, 果実中心を通り座に平行な断面の長径方向において貯蔵中変化が認められた.
    5. ショ糖含量は, 1, 5, 10°Cとも貯蔵前期に急激に増加し, 特にその傾向は低温において著しかった. でんぷん含量はそれと全く反対の傾向を示した.
    6. 貯蔵適性について, LL果とL果を比較すると,目減りが少ないこと, 呼吸速度が小さいことからLL果の方が貯蔵に適していると判断された.
    7. クリの各温度における品質保持期間は, 10°Cで1か月, 5°Cで2か月, 1°Cで3か月であった.
  • 伊東 卓爾, 中村 怜之輔
    1984 年 53 巻 2 号 p. 202-209
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    温度変動処理がナス果実, インゲンマメ (サヤ用種),キュウリ果実及びピーマン果実の低温障害発生に及ぼす影響について調査した.
    ナス果実のピッティング発生は, 変動幅が大きくかつ変動周期が長い区ほど少なく, クロロゲン酸含量の増加時期も変動幅が大きい区で遅れた. 基準温度が6°Cの場合, ナス果実の低温障害が明らかに軽減される温度変動条件は, 変動幅±5°C, 変動周期12時間あるいは24時間の組み合わせであった. インゲンマメもナス果実と同様に, 温度変動区でピッティング発生が減少する傾向を示し, 温度変動処理による低温障害軽減効果が認められた.
    一方, キュウリ果実及びピーマン果実は, 本実験の範囲内では温度変動処理による低温障害軽減効果は認められなかった. 特にキュウリ果実では, 6°C一定温度区に比べ温度変動区のピッティング発生がむしろ増加する傾向を示したが, これはキュウリ果実の低温感受性がナス果実に比べ大きいことに起因するように思われた.
  • 後藤 昌弘, 南出 隆久, 藤井 雅弘, 岩田 隆
    1984 年 53 巻 2 号 p. 210-218
    発行日: 1984年
    公開日: 2007/07/05
    ジャーナル フリー
    ウメ果実は一般に, 0~1°Cよりも5~8°Cの中間温度で低温障害が発生しやすいが, 収穫直後に‘低温ショック’を与えた後に冷蔵すると障害の発生が軽減できる.本研究では, この低温障害抑制効果を主として膜透過性と膜脂質構成脂肪酸の変化より調査した.
    1. 膜透過性の指標として, 種々の温度の水中に浸漬した組織切片からのK+イオン漏出速度を測定したところ, 低温障害感受性の小さいジャガイモでは, 温度の低下とともに漏出速度が減少したが, 感受性の大きいキュウリでは低温域での減少がなく, またウメ(‘白加賀’)では, 障害の出やすい中間温度で増大する現象がみられた.
    ウメ果実‘養青’,‘南高’,‘玉英’,‘古城’を用いて, 収穫当日のK+漏出速度と温度の関係, 並びに貯蔵中の低温障害発生状況を調べたところ, K+イオン漏出速度に異常が現れる温度と低温障害の発生が顕著な温度とはほぼ一致した.
    2. 低温障害の起きやすい‘鶯宿’に冷水2時間浸漬の低温ショック処理を行った後, 6°Cに貯蔵したところ障害発生が無処理果より抑えられた. 無処理果では, 貯蔵に伴いK+漏出速度が増大したのに対して, 処理果では初期に一時増加したが, その後ほぼ一定の低いレベルを保った. 果実生体膜脂質の脂肪酸組成を測定したところ, C16:0 を最も多く含み, ついでC18:2, C18:3, C18:1,C16:1, C14:0, C18:0 の順となった. 不飽和脂肪酸の割合は約52%で低いレベルであった. 低温ショック処理果では, 貯蔵に伴い不飽和脂肪酸の割合が増加した.
    総フェノール含量は6°C貯蔵に伴い処理果, 無処理果とも漸増したが, 処理果でわずかに低い傾向があった.ポリフェノールオキシダーゼ, ペルオキシダーゼ活性は貯蔵中に増大したが, 低温ショック効果との関係はみられなかった. 脂肪酸の不飽和化に関連する酵素活性の指標となるNADH-チトクロームC還元酵素活性は, 処理果, 無処理果とも6°C貯蔵中に増加したが, 処理果では処理中においても急増し, その後も無処理果より高いレベルを保った.
    3. 以上の結果より, 低温ショックによるウメ果実の低温障害抑制は, K+ 漏出速度などにみられる膜の透過性の変化の軽減と, 生体膜脂質構成脂肪酸の不飽和化の促進によるものと推察された.
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