カキ果実から糖を抽出するに際して抽出条件がショ糖の分解に及ぼす影響を検討し, 得られた最も安定した抽出方法により6品種のカキについて糖組成を経時的に測定するとともに, その糖組成の変化と果実中インベルターゼ活性との関係について調査した.
1. 抽出前の果肉組織をマイクロ波加熱器(電子レンジ)にかけて短時間加熱処理したのち, アルコール抽出すれば果肉内のショ糖は抽出中も抽出後も分解せずその含量が安定に保たれた. それに対して, 熱アルコール抽出では抽出中にショ糖がいくらか分解するおそれがあり, また, 単なる常温アルコールでの抽出では抽出中も抽出後もショ糖の分解が進行した.
2. 以上のことから, 電子レンジで加熱前処理したのちアルコール抽出する方法により, ‘愛宕’, ‘花御所’, ‘平核無’, ‘菊平’, ‘三ケ谷御所’, ‘荷頃子成場’の6品種の果実について6月以降成熟期まで糖組成を調べた. その結果, いずれの品種でも8月以降ショ糖含量が増え, ‘愛宕’, ‘花御所’及び‘三ケ谷御所’の3品種では成熟期まで増加が続いたのに対して, ‘平核無’, ‘菊平’及び‘荷頃子成場’の3品種では9月中下旬に増加が止まり, 成熟期には前3者の半量あるいはそれ以下の含量となった. 一方, 還元糖(ブドウ糖+果糖)は6月以降いずれの品種でも増加し, ‘平核無’, ‘菊平’及び‘荷頃子成場’では成熟期まで増加したのに対して, ‘愛宕’, ‘花御所’及び‘三ケ谷御所’の3品種では8月上旬以降増加が止まり, 成熟期まで低い値で推移した.
3. 上記6品種の果実について7月から成熟期まで果肉のアセトンパウダーから抽出した3分画のインベルターゼ活性を測定し, 糖組成の変化との関係を調べた. 緩衝液可溶性分画のインベルターゼ(遊離型)活性は還元糖蓄積型品種(‘平核無’, ‘菊平’, ‘荷頃子成場’)では7月中下旬頃より活性が認められ, 10月以降急激に活性が高まったが, この時期は還元糖の急増期とほぼ一致していた. それに対して, ショ糖蓄積型品種(‘愛宕’, ‘花御所’, ‘三ケ谷御所’)では9月中下旬になって活性が認められるようになったが, その活性は低かった. NaCl可溶性分画のインベルターゼ(細胞壁イオン結合型)活性は還元糖蓄積型品種では7月中頃より活性が認められ, 成熟期にかけて高い活性を示した. 他方, ショ糖蓄積型品種では8月~9月頃より活性があらわれ, 還元糖の蓄積がほとんど認められない時期にもかかわらず, 極めて高い活性を示した. なお, 不溶性分画のインベルターゼ活性は低く, 糖組成との関係はみられなかった.
抄録全体を表示