園芸学会雑誌
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60 巻, 1 号
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  • 堀内 昭作, 黒岡 浩, 古田 哲夫
    1991 年 60 巻 1 号 p. 1-7
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブドウの種子は硬い種皮 (核) で被われている有胚乳種子であり, 完熱種子は休民現象を示し, 通常発芽させるには, 5°C下で3か月程度の層積処理をする必要のあることが知られている (2,3,4, 11,13).
    ブドウ種子の休眠に関する研究は, 従来から, 完熟種子を用いての休眠打破法の検討 (7,8) および層積貯蔵中における種子内生長調節物質の変化 (1,6) などに関してなされてきた. しかし, ブドウ種子の休眠がどの発育段階から誘導されるのか明らかでなく, また,それに伴う核や胚乳の果す役割についても未知の問題が多く残されている.
    本実験は種子および胚の休眠現象を解明するために行ったものである.
  • 長谷川 耕二郎, 今藤 一馬, 中島 芳和
    1991 年 60 巻 1 号 p. 9-18
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    樹勢の強いカキ若木では一般に新しょうの生長が盛んになり過ぎ, 20~30cm程度の結果母枝が得られにくい. 長く伸び過ぎた新しょうの中には伸長停止期の遅くなった長い春枝もあるが, 新しょう伸長が一時停止した後, 6月下旬以降に再ひ新しょうが伸長し, 春枝の先端にいわゆる夏枝を形成する場合もかなり多くみられる.
    カキ栽培では, 夏枝を切り返し主として春枝を結果母枝として利用してきたが, 結果性の乏しい若木の場合には夏枝を結果母枝として活用することが増収のために必要である. カキでは, 頂芽に近い先端数芽に多くの花芽が形成されるが (5), 夏枝の発生した新しょうの芽の位麗と花芽形成との関係についてはまだ充分に明らかにされていない.
    本実験では前年に伸びた長い春枝と夏枝とをそのまま, またはこれらを適度に切り返して結果母枝とした場合, 開花, 結実ならびに果実品質に及ぼすこれら結果母枝の影響について調査した.
  • 長谷川 耕二郎, 久家 工人, 三村 哲之, 中島 芳和
    1991 年 60 巻 1 号 p. 19-29
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    渋柿品種の'西条'および'平核無'はともに品質優良とされているが (7), 両者とも果実がやや小さく, 脱渋後の日持ちが良くない欠点をもっている. また, '西条'の若木では結実が不良で果実の成りが少ない傾向にある (7).
    '平核無'の結実は比較的良好であるが (8), 日照がいちじるしく不足すると生理落果しやすく (18), カキの計画的生産を行ううえで落果防止の技術を確立することが必要である. カキの生理的落果防止にはジベレリン (GA) の効果が認められているが (13, 15), GA処理した果実の肥大は必ずしも充分でないことも報告されている (2).
    合成サイトカイニンの一種, N- (2-クロル-4-ビリジル) -N-フェニール尿素 (KT-30) は最近開発されたサイトカイニン活性のきわめて高い植物生長調整物質であり (9), 数種の果樹の果実肥大に効果があることが報告されている (1,6, 17,19, 20,21). 筆者らはこれまでカキの結実が増加し, しかも果実肥大にも効果のある数種の植物生長調整物質について調査してきたが, 今回,KT-30がカキ'西条', '平核無'の結実および果実肥大にいちじるしい効果を示したのでここに報告する.
  • 中川 昌一, 堀内 昭作, 松井 弘之, 湯田 英二, 山田 省吾, 村井 泰広, 小松 春喜
    1991 年 60 巻 1 号 p. 31-39
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブドウ属植物が地球上に発生したのは, 数千万年前の白亜紀後期であるとされているが, 約100万年前の氷河期にはほとんど絶滅に瀕した. しかし, 氷河期が終わり, 生き残ったものに, アジア西部原生, アジア東部原生および北アメリカ原生の3群がある (4,5).わが国にもブドウ属植物が分布していたことは古くから知られているが, これらを積極的に栽培•利用してきたという記録は見当たらない. しかし, わが国の野生ブドウにも, 耐病性, 耐湿性, 四季成性, 耐寒性,耐塩性および無休眠性など優良な遺伝的特性を有するものがあり, 今後, これらを育種素材として利用することにより, 従来見られない優れた品種の育成や台木としての利用が期待される.
    著者ら (8,9) は, ここ10数年来, わが国原産野生ブドウについての知見を得るため, その探索と収集につとめ, これらを同一圃場に栽植し, その形態および生態的特性を調査してきた. また, 韓国および中国の野生ブドウについても比較対照として, 2,3の調査を行ってきた.
    今回は, これらのうち日本原産野生ブドウの種類と分布および葉の形態学的特徴について報告する.
  • 高溝 正, 杉山 信男
    1991 年 60 巻 1 号 p. 41-45
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブルーベリーの種類によって, 培養液中のNH4+/NO3-の比率に対する生育反応が異なるか, 否かを明らかにするため, ラビットアイ•ブルーベリーとハイブッシュ•ブルーベリーの挿し木1年生苗をNH4+/NO3-比率を56/0, 42/14, 28/28, 14/42,0/56に変えて砂耕した. 培養液中のN濃度は56ppmにそろえ, pHは5.5にした.
    両ブルーベリーとも, 地上部乾物重が最大になったのはNH4+/NO3-比率が28/28の場合であった. NH4+/NO3-比率が42/14, 56/0では葉焼けが発生し, 生育が低下した. 生育低下の程度はハイブッシュ•ブルーベリーの方がラビットアイ•ブルーベリーよりも顕著であった. 培養液中のNH4+/NO3-比率が28/28から14/42に低下すると, ラビットアイ•ブルーベリーの地上部乾物重は減少したが, ハイブッシュ•ブルーベリーではNH4+/NO3-比率28/28の場合と14/42の場合とで地上部乾物重に有意差は認められなかった.
    両ブルーベリーとも, 葉中NH4+濃度は, 培養液中のNH4+/NO3-比率が高まるにっれて上昇した. NH4+/NO3-比率が56/0の場合には, ハイブッシュ•ブルーベリーの方がラビットアイ•ブルーベリーよりもNH4+濃度は低かった.
    本実験の結果は, ハイブッシュ•ブルーベリーの方がラビットアイ•ブルーベリーよりもNH4+の同化能が高いが, NH4+の過剰施用に対する耐性は弱いことを示している.
  • 中村 正博
    1991 年 60 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    クリの生理的落果 (落きゅう) には7月中•下旬と,8月中•下旬から9月上旬にかけての二つの波がある,その原因について, 前老は樹体の栄養条件と密接に関係するとされ (2,3), 後者は不受精によるとされている(1,3,4,5). しかしながら, 後者の落果について, 受精,不受精の判定はもっぱらきゅう果中の肥大果実の有無,あるいは果実内の胚珠の発育の有無によっており, 胚珠の生長•発達との関連では明らかにされていない.一方, 筆者は先にクリの胚珠の発達過程を調査し, 各子房にはその発育初期16個から22個の胚珠が存在するが, 8月上•中旬にそれらのうち1個のみが急速に肥大し, 他は生長が止まり退化することを報告した (6).
  • 渡部 潤一郎, 門屋 一臣
    1991 年 60 巻 1 号 p. 55-60
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    イヨカン果実の着色はウンシュウミカンの果実の着色と同じように果実の品質評価に際して, 重要な役割を果たす. カンキツ果実の着色については, 光, 温度,湿度などの環境要因が大きく'関与していることが, 多数報告されている (2,3,4,5,6,7,8,9, 10,11, 13,14, 16,17). このうち, 光要因に関しての報告は果実が生長している段階でのものが多く (5,6,7,9, 13,14), 貯蔵中の果実に対する光要因の関与についての報告は少ない.特に, '宮内'イヨカンについてはわずかに別府ら (2) の報告があるに過ぎない.
    岩垣•工藤 (5) はウンシュウミカン樹冠内の照度とウンシュウミカン果実の着色について, 相対照度が50%以下になると着色が非常に抑えられることを指摘した.また, 白石 (13) は照度のみならず光質も果実の着色には影響することを報告している. '宮内'イヨカンの果実でも着色問題は栽培上の大きな課題であり, 貯蔵期間中における着色の増進が強く望まれている. そこで,まず樹上の果実について照度と光質の影響を調べるとともに, 貯蔵中の果実についても光照射が着色に及ぼす影響について調査した. 本報告はその成果をとりまとめたものである.
  • 森永 邦久, 池田 富喜夫
    1991 年 60 巻 1 号 p. 61-69
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    早生ウンシュウミカンを用いての施設栽培は実用化以来約20年が過ぎ, 栽培管理技術もほぼ確立されてきた. ウンシュウミカンの価格低迷やオレンジ輸入自由化に際し, 今後のウンシュウミカンの高収益性栽培の一つの方向として, 施設栽培がますます増加する傾向にある (2, 10).
    施設栽培には露地栽培と比較して, いくつかの特徴がみられる. すなわち, 連年収量が高く, しかも品質的にもすぐれた果実が生産されることである. しかし一方では主として後期加温園で樹勢の低下や収量の低減がみられ (2, 17), 施設栽培においては樹勢維持技術が重要となってきている. 施設栽培での連年の高収量,高品質を維持していくためには, 樹体の果実生産力を担っている光合成作用の施設条件下での特性を明らかにする必要があり, 光合成を維持する要点を検討することで樹勢維持技術を確立することが可能になると考えられる.
    従来, ウンシュウミカンにおける施設栽培樹の光合成の研究は少なく, 山本 (18), 白石ら (14) の報告がみられる程度であり, 施設栽培樹の光合成の特性と光合成に影響する諸要因とを総合的に検討した例はみられない. これまで施設栽培での高収量の原因の一つとして, 施設内の散乱光成分の増加が光合成の向上に寄与しているとの説明がなされてきた (13, 14). しかし本調査では1年間の施設樹の光合成の推移を調べることによって, 施設条件下での光合成の特性を解明することができ, 散乱光成分の増加以外の諸要因も重要であるという, 従来と異なる見解を見出し, 樹勢維持技術確立のための基礎的知見を得ることができたのでその結果を報告する.
  • 細木 高志, 水子 哲也, 白石 一剛
    1991 年 60 巻 1 号 p. 71-75
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    Agrobacterium rhizogenesをベクター系としてプロッコリー'Early De Cico'の形質転換と植物体再生が検討された. Agrobacterium rhizogenesを葉組織に接種すると, 3週間以内に毛状根が発生したが, 非接種葉からはカルスのみ生じた. 発生した18本の根のうち4本はホルモンフリーのMurashige-Skoog (MS) 培地でよく生長した. この4本の根 (ルートクローン) を切片に分け, NAA (0.1mg•liter-1と1mg•liter-1) にZeatin (1mg•liter-1と5mg•liter-1) を組み合わせたMS培地で培養すると, Zeatin 5mg•1iter-1を含む区で2本のルートクローンから不定芽が生じた. 再生した不定芽およびカルスからは, 形質転換の指標となるマンノピンの反応が認められた. なお母植物体の芽および一部のルートクローンからのカルスからは反応が認められなかった.
  • 小林 秀彰, James H. Keithly, Henry Yokoyama
    1991 年 60 巻 1 号 p. 77-81
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ナス'千両二号' (Solanum melongena L. cv. SenryoNigo) の未発芽種子を第三アミンであるDCPTAで処理して栽培育成すると, 収穫までの日数が短縮され,収穫可能な果実数が増加し, 成熟株における収穫量が増大した. 播種後107日目に行った収穫調査では, 3μMおよび30μMのDCPTAで処理された種子からの株において, 1株当たりの収穫可能な果実数や収穫量,収穫指数 (乾燥重量基準) が対照株に比べて有意に上回った (p<0.05). しかしながら, DCPTA処理は栄養生長にはあまり影響せず, 上記のような増収効果は株全体の生育とは関係が少ないと考えられた.
  • 水野 雅史, 土田 広信, 本郷昭三 , 伊地知 武吉, 水野 進, 渡辺 一憲
    1991 年 60 巻 1 号 p. 83-88
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    メロン果実の生産量は, 近年のハウス栽培の進歩に伴って増加を続けている. メロン果実の発育•成熟 (1,2) ならびに収穫後の低温耐性 (8) や品質変化 (3, 10,11,12) についての研究例は多く見られるが, 収穫後の品質評価に関する研究例は少ない. 最近, 青果物の非破壊的品質評価法がいろいろ検討されている (4,7,8, 14).それらの方法の一つに打音による解析方法があり, すでにスイカの空洞を選別する選果機を開発し実用化されている (10). メロン果実に関する打音解析法についてはすでに山本•萩沼 (15) が, 'コサックメロン2号'について打音より得られる固有振動数と内部品質について研究し, 打音特性が内部の力学的性質に関する物性定数を反映していると報告している. しかし, 打音解析法によるメロン果実の可食適期についての判定基準に関しては報告例が少ない. そこで本報では, メロン果実について打音解析を行い, 可食適期について検討を行った.
  • 太田 勝巳, 伊藤 憲弘, 細木 高志, 東村 英幸
    1991 年 60 巻 1 号 p. 89-95
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ミニトマトは, 近年全国的に生産が急増している作目の一つである. ここ数年果菜類に対する消費者の嗜好が多様化し, トマトにおいては果実品質 (特に食味)に対する評価も厳しくなりつつある. 中でもミニトマトに関しては従来の大型の生食用トマト (以後普通トマトと称す) と同等以上に品質が注目されている. ミニトマトは普通トマトと比べて, 花数が多く, 開花期間も長く, また果実の糖度が高いという特徴がある (6). そして市場性の高いミニトマト果実は果色が鮮やかで,甘く, 柔らかくて果皮が口に残らないのが望ましいと考えられる. 以上のような観点から研究されたミニトマトの品種比較試験は既にいくつかの報告がある (2,6, 12,16, 17). しかしながらミニトマト果実の食味の向上を目的とし, 栽培の面から検討した報告は角田•林の報告 (24) が見られるに過ぎない. 普通トマトにおいては養液栽培の場合, 果実品質の向上に対して, 培養液濃度を高めたり (1,9, 25), 培養液への食塩 (NaCl)あるいは海水の添加処理が有効であるという報告がある (5, 10,11). すなわち普通トマトにおいてはNaClを培養液に添加することによって培養液の浸透圧を高め,植物体の吸水を抑制し, その結果相対的に果実糖度が高くなったと考えられている. また普通トマトにおいては果実収穫期からカリウムの吸収量が増大するという報告もあり (8), 果実肥大期以降カリウムを十分に与える必要があると考えられる.
    そこで本研究では, ミニトマトにおいて果実品質の向上を目的として水耕培養液濃度を高めた場合, あるいは無機塩類としてNaClおよびKClを培養液に添加した場合の果実品質および収量を調査検討し, 消費者の嗜好にあった果実生産方法の確立の一助とするものである.
  • 藤重 宣昭, 杉山 直儀, 尾形 亮輔
    1991 年 60 巻 1 号 p. 97-103
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    近年はトマト, キュウリなどの果菜類の養液栽培が盛んに行われている. しかし, トマトの花芽分化および結実に及ぼす養液温度すなわち根温の影響に関する報告は多くはない (2,8, 10,16, 17). トマトの生育に対する適地温に関しては, 著者らは前報で20°~30°Cの範囲にあること (6), Cooper (3) は25°C, Harsserna (9) は20°~30°C, 堀ら (10) は18°~28°C, Riethmann (17) は30°Cとしている. 適地温が多少異なる理由の一つは,供試苗の発育段階が異なることが関係していると考えられる. 本研究では, 子葉展開直後の幼苗を用いてその生長と花芽分化への根温の影響, 第1花房開花始めから果実収穫までの根温が結実および果実収量に及ぼす影響を明らかにしようとした.
  • 安谷屋 信一, 玉城 聡
    1991 年 60 巻 1 号 p. 105-112
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ワケギの537の茎頂部 (葉原基2~3枚を含む) を0.2%コルヒチンを含むMS固形培地上で培養し, 85の植物体を育成した. これらの植物体のキメラ性を明らかにするため, 第1,2および3起源層の倍数性を, それぞれ孔辺細胞長, 葉肉細胞の仁の数および根端細胞の染色体数によって検定した. 検出した種々の細胞キメラから4-2-2および2-4-4の細胞キメラ個体を選抜し, これらの細胞キメラ個体の生育特性を, 自然短日,13および14時間日長条件下で, 2倍体および4倍体のそれと比較した. 分げつ数および葉身数は4-2-2植物で最も多く, 2-4-4および4倍体で少なかった. 草丈は4倍体で最も高く, 2倍体で低かった. 4-2-2植物の草丈は, 2-4-4または4倍体に近く, 明らかに2倍体より高かった. さらに, 13および14時間日長条件下で,4-2-2植物の球形成は2倍体より早まった.
  • 高橋 春實, 高井 隆次, 松本 勤
    1991 年 60 巻 1 号 p. 113-118
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    柘植ら (9) は宿主特異的毒素を生成する病原糸状菌によって起こる病害14例のうち, 7例がAlternaria属菌によるものであることを報告している. イチゴ黒斑病もその一つであるが, 従来本病に関する研究は主に病理学的あるいは生理学的立場から,.本菌の形態的特徴(13) や本菌の生成するAF一毒素の諸性質, 作用機作,化学構造式の決定など (3,4,5, 10) について詳細に行われてきた. しかし, 育種学的見地からなされた研究は少なく, これまでイチゴ黒斑病感受性の品種間差異 (3,12) や黒斑病感受性品種である'盛岡16号'を用いて遺伝解析を行った報告 (11) が若干あるに過ぎないため,本病の感受性の遺伝や感受性品種の由来については不明な点も多い.
    そこで本研究では, イチゴ黒斑病菌に対する品種 (系統を含む計50種) の自殖実生の反応に加えて,感受性品種である'盛岡16号'と'Robinson'ならびに抵抗性品種である'宝交早生'と'Donner'の4品種の組合せによる交雑実生の反応についても調査し, 黒斑病感受性の遺伝や黒斑病感受性品種の由来について明らかにしようとした.
  • 土井 元章, 森田 詠子, 小笠原 宣好, 浅平 端, Tadashi Asahira
    1991 年 60 巻 1 号 p. 119-124
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    シュッコンカスミソウGypsophila paniculata L. の葉条の生育と根の関係を低温要求性の異なる'ブリストル•フェアリー'栄養系統を用いて検討し, 以下の結果を得た.
    秋に自然条件下で栽培すると, 09系統および13系統のシュートは花芽を形成し, 一方04系統および20系統ではロゼットを形成した. しかし, ロゼットの形成は, 新根の生長低下を伴わなかった.
    他方, 13系統と20系統の接ぎ木を行い, 13系統の低温要求量のみが充たされるように低温処理を行った場合, 20系統を穂木とした個体は, 13系統を穂木とした個体に比べて伸長の開始が遅れ, 開花率は100%に達しなかった. 穂木を13系統とした個体のなかでは, 台木を20系統とすると, 台木を13系統とした場合に比べて, 伸長の開始が6週間以上遅れた.
    04系統では, 葉条と根の両方に55日間の低温処理を行うと, その後旺盛に生長し開花した. 根のみに低温処理を行った場合には, 低温処理期間中にすべての個体が開花に至った. この個体を低温処理後に切り戻し,基部の低温にさらされていなかった節に着生する側枝を残して栽培した場合, 側枝は旺盛に生長し高い開花率が得られ, 根で感応した低温の効果は開花後も保持されているものと考えられた.
    以上の結果から, 葉条の生長と開花には, 低温遭遇時の根および根域の環境が強く影響することが明らかとなった.
  • 太田 弘一, 森岡 公一, 山本 幸男
    1991 年 60 巻 1 号 p. 125-132
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ファレノプシスは近年生産の伸びが大きい花卉であり, その好適な栽培条件の設定のために研究が進められている. ファレノプシスの花序は低温条件によって誘導されることが知られており (17), 山上げ栽培や人工低温処理を行うことによって, 早期出荷が行われている. また, 温度処理の際の, 株の充実状態や光•変温条件などの環境要因も花序形成に影響することが知られている (3,8, 12,14, 17,18, 19).
    一方, ファレノプシスはCAM (Crassulacean acid metabolism) 植物として知られている (1,7). CAM植物は夜間に吸収したCO2を有機酸の形にして細胞の液胞中に蓄積し, 昼間にそれを分解して, 光エネルギーを利用してでんぷん合成を行うという特徴的な光合成を行う. この夜間と昼間を通した, CO2吸収からでんぷん合成に至る過程をCAM型光合成と呼ぶ (13, 14).典型的なCAM型光合成のCO2吸収の日周変動パターンは, 夜間の高い吸収 (phase I), それに続く光が当たった直後の高い吸収 (phase II) とその後の急激な減少およびCO2吸収がほとんど見られない期間 (phase III), そして, 夕方に再び低い吸収が見られる (phase IV), という四つの相に分けられる (13). そして, この過程を通して, 夜間に気孔を開き, 蒸散の多い昼間には気孔を閉じているために, CAM植物は強い乾燥耐性を獲得している (6).
    CAM植物には, 生育条件によってC3型光合成とCAM型光合成との間で変動が見られるfacultative-CAM plantと, 生育条件にかかわらずCAM型光合成を行うobligate-CAM plantがある (13). さらに,いずれのCAM植物も, 水分, 昼夜温, 光強度, 日長などの環境条件や葉齢, 窒素栄養条件によってCAM型光合成が影響を受けることが知られている (6, 11,13, 14).したがって, ファレノプシスのCAM型光合成も, これらの要因によって変動し, それが生育および花序形成になんらかの影響を及ぼすことが考えられる.
    本研究は, 上述の要因のうちで生育と密接に関連した外的要因の水分, 温度, 光の3条件および内的要因の葉齢と花序形成の有無に視点を当て, それらによってファレノプシスのCAM型光合成がどのような影響を受けるかを明らかにし, ファレノプシスの好適な栽培条件設定のための基礎的知見を得ることを目的として行った.
  • 景山 詳弘, 高橋 真理, 小西 国義
    1991 年 60 巻 1 号 p. 133-139
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    キクは温度や光条件が異なれば, その生育速度や生長量に差ができる、このような環境条件の変化は季節の推移によって起こる場合もあり, また施設栽培などで人為的に起こる場合もある.
    キクの生育に対する温度や光条件に関する研究は,主として花成との関係で従来から多くなされてきた.しかし, キクの栄養吸収との関連についての研究は少ない.
    すでに明らかにしたように (8), 初夏から秋にかけての, キクの生育にとって比較的好適な条件下では, 培地中の窒素濃度の適正範囲は広く, かつ, かなり低い濃度であってもよく吸収されることがわかった. そしてこの範囲内ではキクはよい生育をした.本実験は窒素濃度と温度および光強度を変えて, キクの生育と窒素吸収量を明らかにし, さまざまな栽培条件下でのキクの施肥管理法を確立するための基礎試料を得るために行った.
  • 石原 義啓, 大川 清, 兵藤 宏
    1991 年 60 巻 1 号 p. 141-147
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    スイートピー (Lathyrus odoratus L.) は切り花の花持ちが悪く, 花弁が軟弱で損傷しやすいため, 長時間の輸送が困難であることが大きな問題となっているが,切り花の花持ちや花弁の損傷による品質の劣化は, 出荷前にエチレンの作用阻害剤であるチオ硫酸銀 (silver thiosulfate, STS) を処理することにより著しく改善されることが報告されている (8,9). このことから, スイートピーの切り花の老化におけるエチレンの関与が考えられ, Morら (8) によって, その関与の概要が明らかにされた.
    そこで, スイートピーの切り花の老化におけるエチレンの関与をより詳細に明らかにする目的で, 自家採種した冬咲き系スイートピーの品種'ダイアナ'の切り花の老化に伴うエチレン生成と呼吸, 小花の各器官のエチレン生成と1-aminocyclopropane-1-carboxylic acid (ACC), N- (malonyl) ACC (MACC) の含量を測定した. また, 1司時に切り花のエチレン生成, 呼吸,花持ちに及ぼす気温およびSTSの影響も調査した.
  • 大野 始
    1991 年 60 巻 1 号 p. 149-157
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    「花飛び」現象を誘起する高温の影響と花粉形成段階との関係を明らかにするため, 花らいの外花被長と花粉形成段階との相関を小型シンビジウムのサザナミ'ハルノウミ'を用いて調べた.
    1.花らいの着生位置によらず, 減数分裂期までは両者に密接な相関のあることが明らかとなった. 胞原細胞期にあった花らいは, 高温 (昼30°C/夜25°C) では減数分裂過程に入ることなく枯死し, 前減数分裂期のものは減数分裂をした後, 種々の段階で枯死した.
    2.花粉形成が減数分裂期まで進んだ花らいは, 高温でも「花飛び」を起こさず, 正常に開花した.
    3.GA3処理は低温の不足を補完し, 減数分裂細胞分化や花粉形成, 花らいの正常な発育•開花を誘起した.
    4.これらの結果から, 少なくとも前減数分裂期には20°C以下の低温が減数分裂細胞分化や花粉形成, 花らいの発育のために必要であることが示された.
    5.小胞子は同一やく内においてさえ, さまざまな配列型を示した. 1核性小胞子と2核性小胞子とでは,各配列型の存在比率に差が見られた. 前者は対照区およびGA3処理区の「花飛び」を起こした花らいで見られ,大部分が二分子で四分子の比率は低かった. 後者は「花飛び」を起こした対照区の花らいとGA3処理により開花した花で見られ, 四分子の比率が二分子よりかなり高かった. しかし, これらの四分子における各配列型の比率は「花飛び」の発生やGA3処理により変化しなかった.
  • 大野 始, 加古 舜治
    1991 年 60 巻 1 号 p. 159-165
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    小型シンビジウムの交配種サザナミ'ハルノウミ'の花茎伸長における花器官および植物ホルモンの役割を明らかにするため, 花器官の除去や生長調節物質処理の花茎伸長に及ぼす影響を調べた. 全花らいを除去すると花茎伸長は著しく抑制された. 花らいのうち, 花茎基部側の3分の2を除去しても花茎伸長はほとんど影響を受けなかったが, 先端側の3分の2を除去すると, 花らいを除去した部分の伸長が著しく抑制された,全花らいからやくだけを除去しても, 全花らいを除去した場合と同様, 花茎は伸長しなくなった. 全花らいから花被をすべて除去しても同様の結果が得られた.「花飛び」現象を起こす高温条件では花茎は伸長しないが, NAA処理により花らいの有無に関係なく花茎伸長が誘起された. やく除去部へNAA処理しても同様の効果が得られた. NAA処理では, いずれの場合も花らいは開花に至らなかった. GA3処理は花茎伸長と花らいの発育•開花のいずれをも誘起したが, GA3の花茎伸長作用は花らいを除去した花茎では見られなかった. これらの結果から, シンビジウムの花茎伸長には発育中の花らいによって供給されるオーキシンが主として関与しており, 花らいの発育や花茎伸長にとってやくが特に重要な器官であることや, GA3が直接花茎伸長を誘起するのではなく, 花らいを正常に発育させることにより花茎を伸長させていることが示された.
  • 林 孝洋, 小西 国義
    1991 年 60 巻 1 号 p. 167-173
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カランコエ•プロスフェルディアナ (、陥伽o勿θろ10s5•カ♂漉伽αPoelln. :以下カランコエとする) はマダガスカル島産の原種が改良された園芸種である. 育種により, 花色や草姿が豊富となり, 爆性種は鉢物として,高性種は切花として利用されている (1).
    カランコエは, 質的な短日植物であり, 限界日長以下の短日になると, 茎頂部に岐散花序を形成する. その花序は, 岐散型分岐 (第1図) を数回続けた後, 分化した小花原基のアボーションにより発達を停止する.切花用品種においては, 花序のボリュームが品質上問題となるが, 花序のボリュームは小花数によって決まり, その小花数は小花のアボーションが起こり始める分岐次数によって決まる. 花序の品質は切花単価に大きく反映することから, どのような要因によって, どのような条件下で小花のアボーションが起こるのかを明らかにしておくことは, 実際栽培のために重要である. なお, ここで分岐次数というのは, ある小花の着生する分岐点が, 花序軸の何回目の分岐によるかを意味する. 以下, 単に次数とも表現する.筆者ら (5) は, 品質のよい花 (花序) を生産するための基礎資料を得る目的で各種花卉の花序の発達を調べている. 積極的な人為処理により花序の発達を制御するためには, その花序のもつ発達の規則性と可変性を明らかにしておく必要がある. 規則性を明らかにすることは, 同じタイプの花序の発達を帰納的に一般論として論じる場合に役立つ. また, 可変性は, どの程度まで人為的な制御が可能かを知るうえで重要である. 花序発達が環境に対して可変性をもてば, その人為的な制御も可能であると思われる. 本報では, 以上のような観点から, カランコエ花序の発達の規則性と可変性について調査し, 花序の品質にかかわる小花のアボーションについて考察した.
  • 長尾 明宣, 印東 照彦, 土肥 紘
    1991 年 60 巻 1 号 p. 175-181
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カボチャ果実 (以下カボチャ) は長期貯蔵が可能なために, 昔から野菜が不足しがちな冬場の重要な食料となってきた. また, 近年は健康食品指向に伴う緑黄野菜に対する認識の高まりや核家族化に伴う冷凍食品,さらには輸入品の利用により, カボチャの消費量は増加傾向を示している. このようなカボチャの需要に対応していくためには, 今後は量的に充足させるのみではなく, 果実品質をも考慮した貯蔵技術の確立が必要となっている.
    従来から, カボチャは収穫後の貯蔵に伴い, 物性のうえでは粉質感の強い食味から粘質感のある食味へと変化することが経験的に知られている. 一方, 内容成分のうえではデンプンの糖化に伴う全糖含量やβ-カロチン含量の増加などが報告されている (2,9, 13,16). また, 貯蔵技術との関係では, 腐敗防止を目的としたキュアリング (3, 15) やカボチャの貯蔵温度 (1, 14) の検討はなされているものの, それらの試験に用いられた品種や栽培法などの諸条件が大きく異なるため, 現時点におけるカボチャの貯蔵や品質保持技術に適用することはむずかしい. 特に, キュアリング温度や貯蔵温度が現在のカボチャ品種の成分や食味に及ぼす影響についてはまったく検討されておらず, カボチャの品質向上による消費拡大のためには非常に重要であると考えられる.
    そこで, 本報は現在わが国で栽培されている西洋カボチャの代表的な品種を用い, 収穫後のキュアリング処理および貯蔵温度が果実の品質成分と食味に及ぼす影響について検討し, 二, 三の知見を得たので報告する.
  • 張 世明, 茶珍 和雄, 岩田 隆
    1991 年 60 巻 1 号 p. 183-190
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ウメ果実は未熱状態 (青ウメ) で収穫され, 主として梅酒や梅干しなどに加工されて用いられる. 青ウメは収穫後の追熟過程において大量のエチレンを生成し,黄化や果肉の軟化が急速に進み, 非常に商品性が低下しやすい (2,7). プラスチックフィルム密封包装が青果物の鮮度保持に有効なことはよく知られているが (3),包装内の炭酸ガスや酸素濃度の変化, または青果物の異常代謝産物であるアセトアルデヒドやエチルアルコールの蓄積によって青果物に生理障害が発生するので問題になることも多い (10).
    近年, 鮮度保持剤としてエチレン除去剤が多く利用されるようになったが (5,9), エチレン除去剤とポリエチレンフィルム包装の併用がカキ, ウメ, カボスなどの貯蔵にかなり効果のあることが報告されている (7,8,10). 一方, 'キャンベル•アーリー'ブドウ果実の研究では気相中に出てきたエチレンを除去剤で取り除いても, 脱粒防止はできなかったと報告している (11). また, この場合エチレンが気相中に存在しても, 5~6%の炭酸ガスが存在すれば脱粒を抑えたといわれる. エチレン除去剤の使用効果は青果物の種類が変わればもちろん, 同一種類の青果物でも一定ではなく, 包装内の酸素および炭酸ガスレベルと関連して考慮しなければならないと思われる.
    本実験では青ウメ果実の包装貯蔵における包装内ガス組成•濃度の変化あるいはエチレン除去や炭酸ガスの除去が果実の品質, 呼吸量, エチレン生成量, ACC含量, エチレン生成酵素活性 (EFE), アセトアルデヒドおよびエチルアルコール生成に及ぼす影響について調べた.
  • 松本 亮司, 奥代 直巳
    1991 年 60 巻 1 号 p. 191-200
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    熟期が寒候期にあたるナツミカン, ハッサク等の中晩生カンキツは凍害を受けると, 苦味が発生し, (7,9,10, 11,12), 著しく商品価値の低下を招く場合がある.したがって今後の中晩生カンキツの新品種に付与すべき形質として, 凍害を受けても苦味の発生しないことも重要な要件である.
    カンキツでは, 交雑実生の果実が結実するのに約10年前後, 高接ぎして結果促進した場合でも3年を必要とし (16), 果実の形質については果実が結実するまで不明である. 果実の苦味成分 (フラバノン•ネオヘスペリドシド) においても, 未結実の実生の葉抽出物で, まだ結実していない果実のフラバノン•ネオヘスペリドシドの有無の予測ができれば, この点に関する育種の効率化が図られる.
    そこで, 果実と葉のフラバノン•グリコシド (無味のフラバノン•ルチノシドと苦味のあるフラバノン•ネオヘスペリドシドに属する物質群) の組成の対応関係を調査し, 果実のフラバノン•ネオヘスペリドシドの有無の早期検定の可能性を検討した.
    カンキツ果汁のフラバノン•グリコシドの分別定量法として液体クロマトグラフィー法 (HPLC法) がすぐれた方法であることは, Fisher•Wheaton (6) や松本ら(9, 10) の報告がある. しかし, HPLC法では1点の分析に約20分を要し, 1日に20点の分析ができれば上々であり, 遺伝解析や幼苗検定のため, 多数の試料を扱うには問題がある. 今後, 育種の効率化を一層図るためには, HPLC法以上に, 迅速かつ簡便な操作で, 大量サンプルが一度に扱える方法の導入が必要である.その方法として抗原抗体反応を利用した酵素免疫測定法 (ELISA法) を取り上げた
  • 松本 亮司, 奥代 直巳
    1991 年 60 巻 1 号 p. 201-207
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    カンキツのフラバノン•グリコシド系の苦味成分 (フラバノン•ネオヘスペリドシド) の遺伝を明らかにするため, 著者ら (5) はカンキツ実生の果実 (果汁) のフラバノン•グリコシド組成の定性分析を高速液体クロマドグラフィー法 (HPLC法) により行った. その結果,フラバノン•ネオヘスペリドシドは優性に発現し, 無味のフラバノン•ルチノシドは劣性ホモの発現であること, ヘテロ品種と劣性ホモとの品種の交雑では, ネオヘスペリドシドを含有する個体とルチノシドのみを含有する個体が3:1ないし, 1:1に分離することも見出した. しかし, 結実までに長年月を要する果樹では調査個体数が限られており, 既報 (5) では完全な遺伝解析をするまでには至らなかった. 果実のフラバノン•ネオヘスペリドシドの遺伝解析を完全に行うためには,フラバノン•グリコシド組成の解析を果実で行うのではなく, 栄養体である葉を用いた早期検定による解析法を確立する必要がある. 著者らは前報 (6) において葉抽出液のネオヘスペリドシドの有無から果実のそれの有無を推定できることを明らかにするとともに, 酵素免疫測定法 (ELISA法) によるフラバノン•ネオヘスペリドシドの高感度•簡易分析法を確立した. そこで本報告では交配実生集団の葉を用い, ELISA法によるカンキツのフラバノン•ネオヘスペリドシドの分析結果からその有無の遺伝を解明したので報告する.
  • 垣内 典夫, 大宮 あけみ
    1991 年 60 巻 1 号 p. 209-216
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    モモ果実の追熟に伴う揮発性成分の挙動とそれに基づく採取適期を明らかにするため, 熟度の異なる3段階の果実を採取し, 追熟前後における揮発性成分組成の変動について, その他の品質要因との関連において調査した.
    1.未熟果 (Hard mature), 硬熟果 (Firmmature), および軟熟果 (Soft mature) を採取し, 室温で4日間追熟したところ, 色調, 硬度, 糖度, 酸度および風味は軟熱果のそれ以外は可食適期であった. しかし, 軟熟果はやや過熟状態となった.
    2.モモの香気成分として, キャピラリーガスクロマトグラフィーにより89成分が検出され, そのうち33成分を同定した. 主要成分は, C6アルデヒドとアルコールならびにラクトン類であった.
    3.同定した33成分の全揮発性成分は, いずれの採取熟度においても採取直後に多く, 追熟するにつれて減少した. この追熟による全揮発性成分の減少の主な原因は, 量的に多い青臭みを示すC6アルデヒドとアルコール類の減少によることがわかった.
    4.モモ果実の芳香の主体をなすラクトン類として,C6~C12に及ぶ11成分が認められた. 完熟果におけるγ-デカラクトンは全ラクトンの約40%を占め, 主要なラクトンであった. これらのラクトン類は熟度の進行に伴い急激に増大し, 芳香の発現に寄与していると考えられた.
    5.匂い閾値の評価から熱度の進行に伴う芳香の発現は, 青臭み成分としてのC6アルデヒドとアルコール類の減少に伴って, 芳香を示すラクトン類, 特にγ-デカラクトンなどの急激な増加により引き起こされることが示された.
    6.果実採取後, 4日程度の流通を含む追熟期間を考慮したときの揮発性成分の挙動からみた採取適期の果実は, 硬熟果であると判定した.
  • 宮崎 丈史, 都築 和香子, 鈴木 建夫
    1991 年 60 巻 1 号 p. 217-224
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    サツマイモの表皮色はその市場評価を高めるうえでの重要な品質要因となっている. 表皮の鮮やかな赤色はアントシアニンによるものとされているが, これについての研究はきわめて少なく, その化学構造についても一部が明らかにされているにすぎない. Imbertら(4) は, サツマイモの茎の赤色色素について調査し, その主要成分をジカフェオイル-シアニジン-3-ジグルコシド-5-グルコシドおよびジカフェオイル-ペオニジン-3-ジグルコシド-5-グルコシドと報告している. 一方,塊根内部が紫色のサツマイモは, 一部の品種についてその主要なアントシアニン ('Yen217':カフェオイル-フェルロイル-シアニジン-3-スクロシド-5-キシロシド) が同定されている (9).アントシアニンは, 近年, 天然の着色料として食品への利用が急速に増加しているだけでなく, 抗酸化能などを有する機能性物質としての検討も開始されている (10). そこで著者らは, 高品質なサツマイモの生産,貯蔵に関する研究およびアントシアニンの利用に関する研究の一環として, わが国における青果用サツマイモの主要品種である'紅赤'と'ベニアズマ'の表皮を用い,これらの表皮色を構成している色素であるアントシアニンの構造の同定を試みた. 本報告では, その結果とともに, 紫サツマイモの代表的な品種である'山川紫'と'種子島紫'の塊根のアントシアニン組成についても述べる.
  • 王 共剛, 弦間 洋
    1991 年 60 巻 1 号 p. 225-230
    発行日: 1991年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    満開71日後のリンゴ (Malus pumila Mill.'千秋')果実から誘導されたカルスにおけるエチレン生成, 膜透過性ならびに脂肪酸組成に及ぼす低温の影響を調査した. ACC含量, EFE活性, エチレン生成量ならびに呼吸活性が低温処理 (-1°~5°C) によって著しく増加する傾向が認められた. 5°あるいは25°Cに比べて, 障害発生温度域である0°または-1°Cに2日間おいたカルスは,電解質漏出速度および遊離脂肪酸の含量が高かった. すなわち, 0°または-1°Cにおいたカルスにおける膜透過性の増加と遊離脂肪酸の含量の増加との間に密接な関係があると思われた.
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