園芸学会雑誌
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65 巻, 3 号
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  • 久保 達也, 前川 行幸, 平塚 伸
    1996 年 65 巻 3 号 p. 447-453
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ウンシュウミカン果実の果皮表面形態と果汁内糖濃度との関係について,樹の着果負担の相違と果実の発育に伴う変化から検討した.
    1.果皮表面の粗さを画像解析で数値化したところ,果皮は果実の発育に伴って評価値7から3まで滑らかになったが,無摘果区では9月下旬に,強摘果区では11月下旬にそれぞれ評価値4となった.
    2.糖濃度は9月中旬以降急激に増加したが,果皮の粗い果実では増加率が低く,特にスクロースの増加率が低かった.収穫時においても,粗い果皮の果実は明らかに糖濃度が低かった.
    3.種々の発育段階の果実を用いて果皮の粗さと糖濃度との関係を調べた結果,両者は逆S字型の曲線を示した.しかし無摘果区でのS字は,強摘果区のそれに比べてより緩やかであった.
    4.慣行摘果栽培の成熟果実間でも,果皮の粗さと糖濃度の間には同様な逆S字型の関係が認められた、さらに同サイズ果実の果皮の粗さと糖濃度との間には明確な負の相関(r=0.98)があった.
    5.収穫時の果重および果皮歩合と果皮の粗さとの間には,それぞれ0.54と0.70の正の相関が認められた.
  • 河合 義隆, Jason Benz, W. Mark Kliewer
    1996 年 65 巻 3 号 p. 455-461
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブドウの台木4品種('AXR#1','St. George','110R','420 A')のさし木発根苗について,萌芽時期と萌芽後70日(葉齢8~12)からの湛水がそれらの茎葉と根の生育にどの様な影響を与えるかを調査した.湛水の程度は無湛水,根域の30%,67%,100%が湛水の4区で実験を行った.萌芽時期に根域の2/3以上が湛水状態になると全ての台木で根とシュート共にその生育が強く抑制され,根域が全て湛水状態になると発根は見られなかったが,萌芽の数には影響しなかった.'110R'と'420A'は葉齢8~12の時期の湛水により10日から15日でその生育が止まった.100%の湛水区の根は,無湛水区の白い根に比べて黒い色をしていた.湛水は養分吸収にも影響し,'AXR#1'の葉柄の無機分析ではカリウムとカルシウム含量が有意に減少した.今回調査した4品種のブドウ台木の中では,生育が良好であった'AXR#1'が湛水状態に最も耐性が強く,続いて'St. George','110 R', '420 A'の順であった.
  • 橘 温
    1996 年 65 巻 3 号 p. 463-470
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本実験は,ワセウンシュウ宮川早生'を用いて異なる栽植密度および栽培条件が果実品質に及ぼす影響を調査するとともに,葉面積指数(LAI)と果実品質との関係について検討したものである.
    果肉歩合,糖度,糖酸比および着色程度は,無深耕少肥区が深耕標準施肥区より,せん定摘果区が無せん定無摘果区よりわずかに高かった.酸度は,無深耕少肥区が深耕標準施肥区より低かった.果実の大きさは,せん定摘果区が無せん定無摘果区より優っていた,
    栽植密度の影響については,密度が高くなるにつれて果肉歩合,糖度および酸度は高くなったが,糖酸比および着色程度は低くなった.
    LAIと果実品質との関係を検討したところ, LAIの増加につれてほぽ直線的に酸度は高くなり,糖酸比は低くなった.着色程度は, LAIがおよそ5の範囲まではあまり変化しなかったが, LAIが5以上の値になると急激に低くなる傾向にあった.
  • 橘 温, 八幡 茂木
    1996 年 65 巻 3 号 p. 471-477
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ウンシュウミカンの計画密植栽培において,適正な窒素施用量を明らかにする目的で,0.4haの圃場に2.2m×2.2mの間隔で栽植した12年生の'杉山温州'を用い,1981年から11年間窒素に関する施用量試験を行った.有機物施用(稲わらを20t/ha/年施用)と無施用に窒素の100,200もしくは300kg/ha施用を組み合わせて試験区を設定した.計画密植栽培園として供試樹を第1次間伐樹,第2次間伐樹および永久樹に識別した.
    単位面積あたり収量は,いずれの処理区でも処理開始翌年に著しく増加し,その後かいよう病などが原因で減少したが,樹勢が回復するとともに再び増加し,それ以後は年次変動をともないながらほぼ一定傾向で推移した.
    単位面積積あたり収量をみると,有機物を施用した場合N施用の影響は明らかでなかったが,無施用では100kgN施用区は,200kgN施用区と大きな差を示さなかったものの300kgN施用区よりは少なかった.
    ウンシュウミカンの計画密植栽培の窒素施用のあり方として,haあたり20t程度の有機物(稲わら)を施用できる場合には無機肥料として100kg程度で充分であり,また,有機物の補給が少ない場合には無機肥料として200kg程度まで節減できるものといえた.
  • 向井 啓雄, 高木 敏彦, 手島 洋二, 鈴木 鐵男
    1996 年 65 巻 3 号 p. 479-485
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    秋季にウンシュウミカン樹に強度と弱度の水ストレス処理(それぞれWS-s区およびWS-m区とする)を行い,果実各部位における糖含量を測定した.
    水ストレス処理により果皮と果汁の糖,特に還元糖が増加した.果皮においては特にフルクトースの増加が顕著であった.これらのことは水ストレスの程度が強い方が著しかった.
    WS-s区では果汁,果皮ともスクロースの増加の抑制が認められた.11月26日においてWS-s区の果皮の糖含量はWS-m区のそれよりも低い傾向であった.
    果梗部の方が果頂部に比べて糖含量は低いが,還元糖の比率が高かった.この傾向は水ストレス処理を行っても変化しなかった.
    果実部位やストレスの程度にかかわらず,水ストレス処理によって還元糖の増加が認められた.このことは蓄積部位でのスクロースの分解によるものなのか,あるいは転流段階での分解なのかについては今後の検討課題である.
  • 久田 素, 森口 卓哉, 日高 哲志, Anna M. Koltunow, 秋濱 友也, 大村 三男
    1996 年 65 巻 3 号 p. 487-495
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    バレンシアオレンジの未熟種子で発現している遺伝子の種類を検索し,かつそれをカンキツのゲノムマッピングのための制限酵素断片長多型(RFLP)マーカーとして利用するため,cDNAクローンを無作為に選択し,塩基配列を解析した.本実験で用いたcDNAライブラリーは,初期球状胚の発育段階にあるバレンシアオレンジの未熟種子からmRNAを調整して作成した.その中から合計192個のクローンについて部分塩基配列を決定し,GenBankデータベースとの比較を行った.データソース中の既知の植物,真核生物および他の全生物の遺伝子に対してOPT値200以上の有意な相同性を示したクローンは,本実験で解析したcDNA全クローンのうち,それぞれ24.5%(47クローン),12.0%(23クローン)および8.8%(17クローン)であった.この種子由来のcDNAライブラリーは,各cDNAクローンの重複度は低かったが,メタロチオネインのようないくつかのクローンは数回出現し,おそらくアイソフォームを形成していると示唆された.本実験では,胚形成に役割をもつと推定される遺伝子は検出されなかったが,代謝調節,遺伝子翻訳,シグナル伝達およびストレス誘導等の機能に関する広範な遺伝子が得られた.本実験のcDNAクローンの無作為な塩基配列解析は,カンキツの胚発育の初期に発現される遺伝子の様相を初めて提示したものである.さらに,本法によりRFLPプローブ等に用いる多くの遺伝子種を得ることができると考えられる.
  • 本村 敏明, 森口 卓哉, 秋濱 友也, 日高 哲志, 大村 三男
    1996 年 65 巻 3 号 p. 497-503
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    細胞質ゲノムに多様性を有するカンキツの育種素材が獲得できるかどうかを調査するため,細胞融合を実施し,得られた個体の細胞質のDNA組成を解析した.Microcitrus australis(Planch.)Swing,の葉肉由来のプロトプラストと'Hazzara(Abohar)'(Citrtts reticulαta Blanco)の胚カルス由来のプロトプラストを電気融合し,属問雑種を作出した.得られた40個体のうち37個体は両親の中間の葉形を示したが,残りの3個体は全く異なった葉形を示した.中間の葉形を示す10個体を選んで葉のDNAを抽出し,イネのrDNAをプローブとしてゲノミックサザンハイブリダイゼーションを行ったところ,得られた個体は両親のバンドを併せもった体細胞雑種であることが明らかになった.次にミトコンドリアDNAをatP A, rm 26 および cox 1をプローブとして用いて解析したところ,融合個体は,すべて'Hazzara(Abohar)'と同一のバンドパターンを示した.葉緑体遺伝子pTB 7およびpTBa 3をプローブとすると,多くの個体で'Hazzara(Abohar)'同一のバンドパターンが観察された.しかしながら,一部の個体では,プローブの種類によって'Hazzara(Abohar)'とは異なるバンドパターンが認められた.これらのユニークなバンドの由来について考察を加えた.
  • 杉浦 俊彦, 本條 均
    1996 年 65 巻 3 号 p. 505-512
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    実験によって得られた,ニホンナシ果実生長を日射量•気温から予測するモデルおよびパラメータが,実際の圃場で適応可能かどうかを検討するため,圃場での実測値や各地域における気象データおよび栽培データを用いてモデルの検証を行った.その結果,次のモデルで,異常気象年を含む日本各地の果実生長を表せることが示された.
    ここで変数Vx(cm3)は満開x日後の果実体積, V33(cm3)は満開33日後の果実体積, Sd(MJ•m-2•day-1)は満開d日後の日積算日射量,p=0.580, b=0.639,knは満開後日数により変化するパラメータである.
    またx日後の横径WXは次式により推定できることが示された.
  • マター メベロ, 冨永 茂人, 小崎 格
    1996 年 65 巻 3 号 p. 513-523
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    果実の生産性の低さが問題となっている高しょう系ポンカン(Citrus reticulata Blanceo)において,地上部の組織別炭水化物(還元糖,非還元糖,澱粉およびヘミセルロース)組成の季節的変化について,生産性が高いウンシュウミカン(Citrus unshiuMarc.)と比較しながら調査した.
    その結果,ポンカンでは木部を除く全ての組織で開花期(5月)から生理落果期の終了時点(7月)まで糖と澱粉の含量が減少し続けた.しかし,その後果実の成熟が進展し,冬季が近づくにつれて炭水化物含量は全ての組織において急激に増加し,12~1月にかけて,ほとんど全ての組織で炭水化物含量が最高値を示した.
    また,ポンカンでは新梢と新葉における炭水化物の蓄積パターンと果実の発育との間に高い相関関係が認められ,新梢や新葉の炭水化物含量が低下している期間には果実の発育は緩慢であり,新梢や新葉に炭水化物が急激に蓄積し始めると同時に果実の発育が旺盛になった.これらの結果から,ポンカンではウンシュウミカンに比べて発育中の果実のシンクとしての力が低く新梢や葉および木部から幼果への炭水化物の転流が少ないために,結実性が低く,収量が低いものと考えられた.
  • 石井 孝昭, Yogesh Hari Shrestha, 松本 勲, 門屋 一臣
    1996 年 65 巻 3 号 p. 525-529
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    VA菌根菌に各濃度のエチレンを処理したところ, 0.02から0.05ppmの範囲において胞子の発芽や菌糸生長が著しく促進された.しかし,0.2ppm以上になると菌糸生長は阻害された.0.07ppmのエチレンによる旺盛な菌糸生長はエチレン吸着剤によって激しく阻害された.カラタチ樹におけるVA菌根形成は0.05ppmのエチレンによって促進したが,1ppmでは菌根形成がほとんど観察されなかった.0.05ppm区では樹体生長が旺盛であり,かつ葉内リン含量も高まる傾向がみられた.これらの結果から,微量のエチレンはVA菌根菌の菌糸生長や菌根形成に重要な役割を果たしていると考えられた.
  • 小田 雅行, 永田 雅靖, 辻 顕光, 佐々木 英和
    1996 年 65 巻 3 号 p. 531-536
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ヒラナス台およびトマト台に接ぎ木したトマトの生育,収量ならびに果実の可溶性固形物含量,グルコース,フルクトースおよびスクロース含量を比較して,ヒラナス台によるトマトの過繁茂抑制および高糖度トマト生産の可能性を検討した.
    ヒラナス台への接ぎ木により,トマトの生長は抑制され,果実収量は低下した.しかし,可溶性固形物含量は増える傾向を示し,グルコースおよびフルクトース含量は明らかに増加した.また,ヒラナス台のトマトは.台負け症状を呈し,葉の水孔からの溢液は認められず,葉緑素含量が高く,尻腐れ果は増加する傾向を示した.これらの現象は,ヒラナスを台木にすると,接ぎ木部の維管束連絡が不十分になるか,根系が狭小になることが原因となって,穂木のトマトに水分ストレスが与えられることを示唆している.
    以上のことから,トマトをヒラナス台に接ぎ木すると,過繁茂を抑制し,高糖度トマトを生産できることが明らかになった.しかし,実用化のためには,低収量および尻腐果の発生について対応策を検討する必要性が認められる.
  • 井上 興一, 杉本 和昭, 近藤 悟, 早田 保義, 横田 弘司
    1996 年 65 巻 3 号 p. 537-543
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    水耕法で栽培されたレタスを収穫直前に採取し,高濃度のL-アスコルビン酸(AsA;pH無調整)溶液とそのナトリウム塩(NaAs;pH 4に調整)溶液に同条件で浸漬処理を行った.16時間の浸漬処理により,NaAsおよびAsA処理とも,2000 ppm処理のレタスの外葉に明らかな萎凋が認められた.AsA処理では,NaAs処理に比べ葉部のAsA含量が著しく増加した.AsAの1000 ppm,1500 ppm,2000 ppm処理区の葉部のAsA含量二は対照区(21.5mg/100 g•FW)に比べそれぞれ4.5,6.1,7.7倍となった.
    1500ppmのAsA溶液の浸漬処理による,葉ネギおよびレタス葉部のAsA含量の経時的変化についても検討した.処理時間の経過に伴い,ネギおよびレタスの吸水量が徐々に減少し,これに伴って生体重も減少した.12時間処理の生体重の減少率は約10%であった.15°Cで6時間の蒸留水の浸漬により,生体重はほぼ回復した.この場合の葉部のAsA含量は,生体重100g当たりネギで112.9mg,レタスで94.3mgであった.両葉菜類とも,葉部のAsA含量は処理時間の経過に伴い直線的に増加した.酸化型アスコルビン酸も増加するが,AsAに比べ含量も増加率も小であった.
    以上の結果から,AsA処理はNaAs処理に比べ短時間処理で葉部のAsA含量を高める有効な手法であることが認められた.また,AsA処理による葉部のAsA含量の増加パターンは,直線的であることから処理環境を一定にすれば処理液のAsA濃度と処理時間から葉部のAsA含量を推定でき,かつ保証することも可能であることが示唆された.
  • 福岡 信之, 吉岡宏 , 清水 恵美子, 藤原 隆広
    1996 年 65 巻 3 号 p. 545-551
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    遮光処理がキャベツセル成型苗の光合成能,炭水化物含量ならびにインベルターゼ活性に対する影響を調査し,これら内的要因と根の呼吸活性との関係を調査することによって,発根にかかわる生理現象の解明を試みた.さらに,遮光期間中の糖添加が根の呼吸活性や定植後の発根に対する影響も調査した.
    1.遮光処理が光合成能,根の呼吸活性ならびに炭水化物含量に及ぼす影響を検討した.その結果,遮光によって光合成能や茎葉•根部におけるデンプン,糖含量が低下し,根の呼吸活性も低くなることが認められた.
    2.遮光区と対照区で根の呼吸活性とインベルターゼ活性との関係を調査した.根の呼吸活性は,対照区,遮光区ともに処理期間中低下したが,低下の度合いは後者が前者より顕著に大きかった.インベルターゼ活性は遮光開始2日目では遮光区で対照区より高く,その後遮光区では活性が急速に低下し,対照区より低くなった.
    3.遮光期間中にスクロース溶液を土壌灌注することによって,根の呼吸活性の低下が抑えられ,定植後の発根力が旺盛となった.
  • 和田 光生, 池田 英男, 池田 政文, 古川 一
    1996 年 65 巻 3 号 p. 553-558
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ロックウール栽培したトマト植物体へ各種Ca剤を葉面散布し,尻腐れ果の発生を抑制する効果について比較した.葉面散布剤として,キレート効果をもつ植物抽出成分(PE),PEにCaを添加した薬剤(PE-Ca),PE-Caにショ糖脂肪酸エステル(SE),Fe,Znあるいはキシロースを添加したもの,および無機塩のCaCl2•2H20およびCa(NO3)2•4H20を用いた.
    SEあるいはZnをPE-Caに添加して葉面散布した場合に,統計的に有意な尻腐れ果発生率の低下が認められた.また,これらの処理による正常果収量の増加が認められ,果実品質の劣化がないことから,Ca剤へZnあるいはSEを添加して葉面散布することにより,尻腐れ果発生を抑制できる可能性が示唆された.
    幼果のCa濃度は果実の肥大に伴い急速に低下し,尻腐れの症状が現れ始める新鮮重約20g付近で最も低い値となり,尻腐れ果では特に低い値を示した.幼果のK/Ca比および葉のCa濃度と尻腐れ果発生率との間に一定の関係はみられなかった.
  • 駒井 史訓, 奥瀬 一郎, 原田 隆
    1996 年 65 巻 3 号 p. 559-564
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ホウレンソウにおける不定胚経由の植物体再生系を確立するため,培地に添加する生長調節物質の種類,濃度および組み合わせを変えて,根組織片からのカルスおよび不定胚形成に及ぼす影響について詳細に検討した.不定胚は,オーキシンを単独で添加した培地では形成されなかったが,オーキシンと天然サイトカイニンとを組み合わせて添加した培地,すなわち,NAA10μM+zeatin10μM,NAA30μM十2-iP10μM,および2,4-D1μM+zeatinO.1μMまたは2-iP10μMを含む培地において,低頻度で形成された.さらに,不定胚形成はオーキシン(工AA,IBA,NAA,2,4-D)とGA3とを組み合わせて添加した培地においても認められ,特に,NAA10~30μM+GA31~100μMを含む培地では高頻度で認められた(50~70%).これらの結果から,ホウレンソウの不定胚形成には,NAAとGA3との併用が最も効果的であると考えられる.
  • 松原 陽一, 原田 隆
    1996 年 65 巻 3 号 p. 565-570
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    アスパラガス(Asparagus fficinalis L., cv. M W500W)実生におけるarbuscular菌根(AM)菌[Glmnus etunicatum(GE)およびGigαsPora margatitaGM)]の感染および感染実生の生長に及ぼす温度の影響について調査した. LAM菌胞子の発芽率は,GEでは25°Cで最大となり,GMでは25°および30°Cで最大となった.菌糸の伸長は,GEでは20°,25°および30°Cで良好であり,GMでは25°,30°および35°Cで良好であった.
    2.恒温条件(床土の温度:20°,25°および30°C)下における接種8週間後の結果についてみると次のとおりである.菌種にかかわらず20°C区では生長促進効果が現れなかった.25°および30°Cの両区においては,GEまたはGM接種区の草丈は無接種区のそれより高くなり,また,30°CではGM接種区でGE接種区より草丈が高くなった.GEまたはGM接種による茎数および貯蔵根数の増加は25°Cにおいて最大となった.感染部位率(1個体の根系における感染部位の割合)は,GE接種区では25°Cで最大となり,GM接種区では25°および30°Cで最大となった.
    3.変温条件[床土の温度:25°C~15°Cならびに30°C~18°Cの間の連続的変化]下における接種8週間後の結果についてみると,草丈,茎数および貯蔵根数は,25°C~15°C区ではGE接種区でGM接種区より大きく,30°C~18°C区ではGM接種区でGE接種区より大きかった.また,感染部位率は,GE接種区では処理温度区間で差はみられなかったが,GM接種区では30°C~18°C区で25°C~15°C区より高かった.
    以上の結果から,アスパラガス実生においては,Gtomus etunicatumGigaspora margaritaの感染に対する至適温度はそれぞれ異なっており,また,それらの菌の感染•共生による植物体生長促進効果の発現に対する至適温度も両菌種間で異なることが明らかになった.
  • 桝田 正治, 長谷川 博, 野村 眞史
    1996 年 65 巻 3 号 p. 571-577
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    重さの異なるトマト果実への昼夜間におけるカルシウム流入を窒素の流入と対比させて検討するため,樹体に放射性同位体45Caと重窒素(15NO3-Nおよび15NH4-N)を昼間ないし夜間にそれぞれ12時間処理した.
    1.昼夜間に吸収した窒素の第1•2段果房における占有率は,両窒素形態とも昼間の方が夜間よりも高かった.アンモニア態窒素の占有率は果実と果柄で硝酸態窒素のそれより高かった.
    同重量果実で比較しても第1•2段果実ともアンモニア態窒素の占有率は昼間に高く,移行量は果重に比例していた.
    2.昼夜間における葉および第1•2段果房での単位乾物重当りの45Ca比活性は葉で昼間に高く,果柄•がく•果実では夜間の方が高かった.
    同重量果実で比較しても45Ca比活性は昼間よりも夜間に高かった.
    蒸散力によって生じる木部圧とマスフローはともに養分の移動に重要な役割を果たすが,本試験の結果から,夜間の果実へのカルシウムの流入はおもに根圧により,昼間の窒素の果実への流入はおもに師管を通じて有機態窒素の形態で葉から果実に転流したものと考えられた.
  • 宇野 雄一, 金地 通生, 稲垣 昇, 杉本 眞由美, 前川 進
    1996 年 65 巻 3 号 p. 579-585
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    野菜類の中でも高耐塩性をもつとされるアスパラガス(Asparagus officinalis L.)およびテーブルビート(Beta vulgaris L.)と,汽水域に生息し,塩ストレスに対して有効な遺伝資源をもつ塩生植物ウラギク(Asterti tipolium L.)を用いて,0~300mMの様々の塩ストレス下で発芽の状況を調査するとともに,水耕栽培を行い,栄養生長期における生長量や形態的な差異を調査した結果,以下のような知見を得た.
    アスパラガスおよびテーブルビートは,0 mM NaClの対照区で90%近くが発芽したが,50mMのNaCI条件下での発芽率は,それぞれ,50%および61%,また100mMでは,12%および21%であった.ウラギクについても,塩濃度が増すにつれて発芽は抑制されたが,150mMのNaCl処理でも,対照区の発芽率を100とした時の50%以上が発芽しており,種子段階からの高耐塩性が示唆された.
    アスパラガスおよびテーブルビート実生を目的の塩濃度(50および100mM)で直接処理した場合,植物体は萎ちょうおよび枯死したため,この二つの植物については段階的に濃度を上げて処理した.塩ストレスを与えた栄養生長期の植物では,草丈には差がなかったが,塩処理区の根長が対照区に較べて有意に長くなった点は供試した植物に共通した.アスパラガスおよびテーブルビートの地下部の乾物重は100mMのNaClによって抑制された.一方,ウラギクは,目的の塩濃度で直接処理したにもかかわらず,乾物生産は,150mMのNaClでは対照区とほぼ同様で,300mMのNaClで抑制された.
  • 李 智軍, 小田 雅行, 岡田 邦彦, 佐々木 英和
    1996 年 65 巻 3 号 p. 587-594
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    キュウリ葉の光合成器官の高温耐性に及ぼす水ストレスおよび外生ABAの影響を調べた。水ストレス処理としては,灌水を停止して無傷苗に水ストレスを与えるか,子葉下端で切断した断根苗をガラス室で自然に脱水させるかのいずれかの方法によった.高温処理は,茎に着いたままの葉を45°Cのウォターバスに10分間浸漬して行った。水ストレスは葉の水ポテンシャルにより,また,光合成器官の高温耐性は高温処理後の葉緑素蛍光相対値(Fv/Fm)によってそれぞれ評価した.
    無傷苗では,葉の光合成器官の高温耐性は,水ポテンシャルが-1.0MPa以下に低下すると著しく増大し,約-1.5~-2.0MPaで最大になった。断根苗でも無傷苗と同様に,光合成器官の高温耐性は水ポテンシャルの低下につれて増大し,-0.8MPaで最大となった.
    3日間断水により水ポテンシャルが-1.OMPaになった無傷苗に再灌水すると,葉の水ポテンシャルは24時間以内に当初から-0.2MPaを示した対照のレベルへ急激に上昇した。しかし,葉の光合成器官の高温耐性は再灌水後2時間のうちに一時増大し,その後対照のレベルまで急に低下した。外生ABAは光合成器官の高温耐性を高め,濃度が高いほど効果が大きかった。1.00mMのABAでは,処理1日後に当初の5倍の高温耐性が得られ,この高い耐性は少なくとも6日間維持された。低濃度(0.01と0.25mM)のABAでは,キュウリ葉の光合成器官の高温耐性は処理1日後に最大値に達したが,処理3日後には当初のレベルまで低下した。以上の結果から,水ストレスによるキュウリ葉の光合成器官の高温耐性の増大は,葉での内生ABAの蓄積によると考えられる.
  • Andre Gosselin, 徐 会連, Mohammed Dafiri
    1996 年 65 巻 3 号 p. 595-601
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    本研究は,補光栽培している温室トマトを摘果することによって,最適なソース•シンク関係を求めることを目的として行った.補光の強さを50μmol•m-2•s-1から150μmol•m-2•s-1まで増加させると,トマトの全果実収量および市場性のある果実の収量が増えた.冬の季節に1果房当たりの果実数を多くすると,小さい果実が多くなって,市場性のある果実の収量が低くなった.補光は葉の光合成速度を高め,糖とデンプンの含量を高めた.摘果は葉のグルコースとフルクトースとデンプンの蓄積を高めたが,光合成速度を低下させた.1果房当たりの果実数を多くすると,果実の光合成産物の取り込み量が大きいため,葉内の糖とデンプンの蓄積が低下し,光合成速度が高まった.
    すなわち,自然光が弱い冬の季節において,1果房当たりの着果数を3果とし,150μmol•m-2•s-1の補光をすると,ソース•シンクのバランスがより良くなった.
  • 壇 和弘, 永田 雅靖, 山下 市二
    1996 年 65 巻 3 号 p. 603-608
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ダイコン子葉の老化と抗酸化物質含量の変化との関係を調べるために,子葉中におけるクロロフィル含量,マロンジアルデヒド含量,アスコルビン酸含量,α-トコフェロール含量および子葉切片からの電解質漏出程度の変化を測定した.過酸化脂質の指標であるマロンジアルデヒド含量は播種3日後以降の子葉中で増加した.マロンジアルデヒド含量の増加と子葉切片からの電解質漏出程度の増加はよく一致した.また,マロンジアルデヒド含量の増加とクロロフィルの滅少も一致した.子葉中のα-トコフェロール含量は播種2日後以降から直線的に増加した.一方,子葉中のアスコルビン酸含量は播種2日後から3日後にかけて急激に増加し,3日後以降は減少した.マロンジアルデヒド含量の増加が始まる時期と,アスコルビン酸含量の減少が始まる時期はよく一致していた.アスコルビン酸の前駆物質であるL一ガラクトノー1,4一ラクトンで子葉切片を処理するとアスコルビン酸含量は顕著に増加し,マロンジアルデヒドの増加およびクロロフィルの減少も抑制された.これらの結果から,アスコルビン酸はダイコン子葉において,脂質の過酸化抑制およびクロロフィルの保持に重要な役割を担っていることが推察された.
  • 藤本 卓矢, 山岸 博
    1996 年 65 巻 3 号 p. 609-614
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    京都特産の漬物用野菜である'スグキナ'の分類学的位置を明らかにすることを目的として,'スグキナ'系統とカブ品種のRAPD分析を行った.京都上賀茂地域で収集した'スグキナ'9系統およびカブの地方品種12品種を用いて,各品種•系統の幼苗12個体それぞれよりDNAを単離し,PCRの鋳型とした.PCRのプライマーにはオペロン社のOPA 2 ならびにその1塩基を置換した3種類の10塩基合計4プライマーを用いた.
    PCRの結果,供試した252個体において,4プライマー合わせて69のDNA断片で個体間多型が認められた.このうち50断片を品種•系統間で多型を示す断片として選びクラスター分析を行った.品種•系統間でDNA多型の類似比を算出したところ,各'スグキナ'系統が他の'スグキナ'との間に示す類似比は系統により0.40~0.56となったが,各'スグキナ'系統が示すカブ12品種との類似比は0.19~0.42となり,両者の間には明瞭な差が存在した.このような'スグキナ'とカブの明確な差異はクラスター分析によって作成された系統図においても,'スグキナ'系統とカブ品種が明確に区別される2つのクラスターに分かれたことからも示された.また'スグキナ'系統のクラスター内では他の多くの系統とは異なる特性を示す2系統が存在することが認められた.
    これらのことから'スグキナ'は我国のカブ品種とは遺伝的特性を異にする一群の作物であることが示唆された.
  • 竹田 義
    1996 年 65 巻 3 号 p. 615-623
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    主に切り花として利用される種子繁殖性ダイアンサスであるミカドナデシコ,ヒゲナデシコ,カワラナデシコ,およびハマナデシコの開花に対する低温と日長の影響を調べた.
    1.ミカドナデシコ'ミスビワコ'とヒゲナデシコ'黒川早生'は抽だい,開花に対して低温を必要とし,戸外の自然条件では12月中旬までの低温遭遇によって低温要求が満たされた.最低気温7°Cは花芽形成に有効な温度であったが,14°Cは低温として感応しにくい温度であった.長日は,低温遭遇した株の抽だいと開花を促進したが,低温を受けていない株に対しては栄養生長を促した.
    ミカドナデシコ'ミスビワコ'とヒゲナデシコ'黒川早生'は,吸水種子の段階では低温に反応せず,本葉が9~10節展開した苗齢に達した段階で低温に反応する緑植物春化であった.
    ヒゲナデシコの低温要求性には明確な品種間差異があり,5°Cの低温処理で,抽だい率が100%に達するための処理期間は0~9週間であった.
    2.カワラナデシコ'改良河原撫子赤色'とハマナデシコ慶紅撫子高性赤色'の開花には,低温要求性がなく,日長の影響も小さかった.両種の生育,開花を規定する主たる要因は温度であり,高温下では短期間に生殖生長に移行した.
  • 渡辺 均, 安藤 敏夫, 飯田 新一, 鈴木 昭彦, 武藤 謙一, 塚本 達也, Goro Hashimoto, Eduardo March ...
    1996 年 65 巻 3 号 p. 625-634
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ペチュニアの育種に新たな知見を得るために,6品種および現代品種の片親とされるP.axillaris subsp.axillarisを種子親として,広義のぺニュニア41分類群との交雑を試みた.Petttnia原種には2n=14と2n=18の染色体数の異なる2群の存在が確認された.品種(2n=14)およびP.axillaris subsp.axillaris(2n=14)を種子親として2n=18の原種を交雑した場合は,すべての組み合せでさく果が得られなかった.一方,P.integrifolia subsp.occidentalisを除く 2n=14のすべての原種との交雑は可能であった.
  • 阿南 豊正, 伊藤 秀和, 門馬 信二
    1996 年 65 巻 3 号 p. 635-644
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    タバコモザイクウィルス(TMV)外被タンパク質遺伝子組換えトマト(組換え体),非組換えトマト(非組換え体),トマト属の栽培種(L.escultentum)および近縁野生種(L. pimpinellifolium, L, peruvianum, L. hirsutum, L. cheesmanii)を用いて,果実の可溶性固形物,酸度,水分,糖,有機酸,ビタミンCおよびアミノ酸含量を比較し,さらに,組換え体と非組換え体については,ビタミンB2,食物繊維およびグルタチオンの含量を比較した.
    1.組換え体と非組換え体について,同一時期に採取した試料で比較した結果,可溶性固形物,酸度,水分,糖,有機酸,ビタミンB2,ビタミンC,食物繊維およびグルタチオン含量については,両者の間に有意差は認められなかった.また,アミノ酸のアスパラギン酸,グルタミン酸,アスパラギン,グルタミンおよびγ-アミノ酪酸含量は,2年間の繰り返し試験で両年にわたって有意差が認められたものはなかった.以上の結果から,TMV外被タンパク質遺伝子を組換えても,これらの成分に関しては有意な含量変化は起こらないと考えられる.
    2.トマト属における種間比較の結果,L.PeruvianumL.hirsutumのショ糖含量が他に比べてかなり高かった.また,L.Peruvianumと組換え体,非組換え体は他に比べてビタミンCおよびアスパラギン酸の含量がかなり高く,γ-アミノ酪酸の含量が比較的低かった.L,cheesmaniiはグルタミン酸,アスパラギンおよびグルタミンの含量が他に比べてかなり高かった.
  • 田部 大, 馬 旭偉, 下川 敬之
    1996 年 65 巻 3 号 p. 645-649
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    In vivo におけるウンシュウミカン果皮のエチレン誘導クロロフィル分解のメカニズムを明らかにするため,17種類の試薬で処理し,それに伴う果皮色の変化(脱緑)を色彩色差計を使用して測定した.その結果,SH基阻害剤であるPCMBによる果皮色変化の阻害からクロロフィル分解におけるchlorophyllaseを含む,SH酵素の関与が確認された.また,鉄キレート剤とKCNによる阻害からperoxidaseまたは鉄要求性の酸化酵素の関与,更に還元剤あるいはラジカル消去剤による阻害からラジカルの関与も明らかとなった.
    これらの結果から,暗黒下でのウンシュウミカン果皮のエチレン誘導クロロフィル分解においてchlorophyllaseとともにFe2+(またはFe3+),O2(O2-)の関与する酸化反応が分解系路の一段階であることが示唆された.
  • Narongchai Pipattanawong, 藤重 宣昭, 山根 健治, 尾形 亮輔
    1996 年 65 巻 3 号 p. 651-654
    発行日: 1996年
    公開日: 2008/05/15
    ジャーナル フリー
    ブラシノステロイド処理が鉢植えの2つの中性イチゴ(Fragaria × ananasa Duch.)品種'みよし'と'円雷'の生長パラメータに及ぼす影響について検討した.両品種において,ブラシノステロイド処理により対照区対比で葉面積は150から180%,葉数,葉柄長およびクラウン数は110から140%を示した.ブラシノステロイド処理によってランナー発生は影響されなかった.ブラシノステロイド処理により葉身,葉柄,クラウンおよび植物体全体の乾物重が増加したが,根の乾物重は差異を生じなかった.ブラシノステロイド処理は1個体当たりの花数と花序数を増加させたが,花序当たりの花数には影響しなかった.ブラシノステロイド処理により'みよし'の市場性のある果実数と全収量は有意に増加したが,'円雷'の収量は有意な増加を示さなかった.
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