カラタチと二, 三の植物間のVA菌根(VAM)菌菌糸の分布状態を観察するために, 特別なアクリル製のルートボックスを用い, 温室内で実験を実施した.ルートボックス(45×15×3 cm)は, 中央区分に枠(37 μmメッシュのナイロン製フィルムを張り付け, 根の侵入は防げるが, VAM菌の菌糸は通り抜ける)を2面(枠間の長さ5 cm)設けて, 3区分した.この中央区分にGigaspora margarita胞子を接種するとともに, 外側の区分の一方にカラタチを, 他方に菌根形成が大であるバヒアグラスおよびキビや, 菌根形成が見られないか, あるいはきわめて小であるケイトウ, ダイコンおよびトマトをそれぞれ移植した.また, カラタチだけを移植したルートボックスも用意し, 無栽植区分に, フラッシュクロマトグラフィーで得られたバヒアグラス(BRE)およびキビ(MRE)根1 gFW相当量の25%メタノール溶出物(VAM菌生長促進物質を含む)を1週間ごとに収穫時まで土壌に施した.実験開始2カ月後, 各植物の根圏や, BREおよびMRE処理区分における菌糸分布をCCDカメラで観察するとともに, 各植物の菌根感染率並びに新しく形成された胞子数を比較調査した.その結果, カラタチ×バヒアグラス区やカラタチ×キビ区では, カラタチ, バヒアグラス, キビ栽植区分ともに, 菌糸密度, 根の菌根感染状態および土壌中のVAM菌胞子数は大であった.特に, カラタチ栽植区分よりもバヒアグラスあるいはキビ栽植区分の方が顕著であった.しかしながら, カラタチに, VAM菌が感染しにくいケイトウ, ダイコンあるいはトマトを栽植した区(カラタチ×ケイトウ, カラタチ×ダイコンおよびカラタチ×トマト)では, カラタチ栽植区分の菌糸密度は50%以上で, 菌根感染率および胞子数も大であったが, ケイトウ, ダイコンおよびトマト栽植区分の菌糸密度は20%程度と低く, また菌根形成も悪く, 新しい胞子がほとんど見られなかった.対照(カラタチ×無栽植)区ではカラタチ栽植区分において数多くの菌糸が観察されたが, 無栽植区分では菌糸や胞子がほとんど見られなかった.しかし, 無栽植区分に, BREおよびMREを処理したところ(カラタチ×BREおよびカラタチ×MRE), この区分の菌糸密度はいずれの処理区においても18%程度に増加し, 新しい胞子が形成されていた.根から浸出される物質がG. margaritaの菌糸生長に及ぼす影響を調査したところ, カラタチ, バヒアグラスおよびキビの根浸出物は菌糸生長を促進したが, この傾向はバヒアグラスおよびキビにおいて大であった.しかしながら, ケイトウ, ダイコンおよびトマトの根浸出物区では菌糸生長が阻害される傾向にあった.これらの結果は, 根からの浸出物が圃場においても土壌に生息するVAM菌の行動に著しく影響を及ぼすことを示唆している.また, BREおよびMREに含まれるある物質はVAM菌菌糸を引きつけるシグナルとして作用しているものと推察される.
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