園芸学会雑誌
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74 巻, 5 号
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原著論文(英文)
  • 雨宮 剛, 川合 康洋, 山木 昭平, 白武 勝裕
    2005 年 74 巻 5 号 p. 353-360
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    液胞膜のプロトンポンプである, 液胞型プロトンATPaseおよびプロトンピロフォスファターゼ (V-ATPase and V-PPase) は液胞への糖蓄積に重要であり, その発現は植物ホルモンの変動と関わっていると考えられる. 我々はセイヨウナシ果実を用いて植物ホルモンが液胞膜プロトンポンプの発現に及ぼす影響を調べた. アブシジン酸 (ABA), ジベレリン酸 (GA), インドール酢酸 (IAA) または6-ベンジルアデニン (BA) によってV-ATPaseサブユニットタンパク質 (Aサブユニット (65 kDa), Bサブユニット (55 kDa) およびcサブユニット (16 kDa)) は著しく増加した. 10 μM ABAによりV-ATPase活性は28%上昇し, Aサブユニット mRNA量も増加した. GAではV-ATPase活性は48%上昇したが, mRNAの増加は認められなかった. IAAおよびBAではV-ATPase活性の上昇は認められなかった. V-PPaseタンパク質はGA, IAAまたはBAにより増加した. 一方, 100 μM GAでのみmRNAの蓄積上昇を伴い20%のV-PPase活性の上昇が認められ, IAAとBAはV-PPase活性に影響を与えなかった. 以上の結果は, 液胞膜のプロトンポンプの発現調節が, 遺伝子発現, タンパク質量, 加水分解活性のレベルで複雑に制御され, タンパク質の上昇が必ずしも加水分解活性の上昇につながらないことを示している.
  • 板井 章浩, 小瀧 貴大, 田辺 賢二, 福田 真理, 川田 裕子, 天野 由梨, 藤田 直子
    2005 年 74 巻 5 号 p. 361-366
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    ニホンナシ果実のエチレン生成量は, 品種間で著しい差がみられ, その生成能力が貯蔵性と密接に関わっている. 著者らはこれまで, ニホンナシACC合成酵素PPACS1およびPPACS2遺伝子のRFLP分析によりエチレン生成量が著しく多い ( >10 nL・g-1 FW・h-1) 品種に特異的なマーカーAおよび, エチレン生成量が中程度 (0.5~10 nL・g-1 FW・h-1) の品種に特異的なマーカーBを同定している. そこで本実験では, 検定交雑を行い, 様々なエチレン生成を示す品種の遺伝子型の決定を行った. 全32品種の遺伝子型を決定した結果, 例えば, ‘幸水’はaaBb, ‘新水’はaaBB, ‘長十郎’はaaBb, ‘慈梨’はAaBB, ‘鴨梨’はAABbのように各品種の遺伝子型が決定された. ‘新水’ (aaBB) や‘六月’ (AAbb) といったAまたはBマーカーの遺伝子型がホモの品種は, その後代すべてが多量または中程度のエチレン生成を示すと考えられるため, 貯蔵性を目的とした育種を行う場合, これらの品種を育種親と用いるのは不適であると考えられた. このようにエチレン生成に関する遺伝子型を決定することは, 今後貯蔵性の良い品種を育種する際に重要な遺伝情報となると考えられた.
  • 松本 悦夫, 林田 信明, 坂本 浩司, 大井 美知男
    2005 年 74 巻 5 号 p. 367-373
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    ハクサイのF2, BC1S1および倍加半数体分離集団において, 根こぶ病抵抗性連鎖DNAマーカーの挙動を調べた. 接種検定の結果, いずれの分離集団においても根こぶ病抵抗性についての明瞭な分離がみられ, その分離比から各素材の抵抗性は供試病原菌型に関して単一の優性主働遺伝子 (CRa) に支配されていると推察された. 2つのRFLPマーカーHC181とHC352bは, それぞれ共優性あるいは優性の, またRAPDマーカーE49380は優性の分離パターンを示したが, 優性マーカーのHC352bは抵抗性系統T136-8および77bにおいてCRaと相反連鎖し, E49380は相引連鎖した. 3マーカーともに, そのバンドパターンは抵抗性表現型分離とよく一致し, E49380によりCRaを有する個体を, またHC352bによりCRaホモ型個体を効率的に選抜できることが確認された. なおT136-8と‘大福’のトップ交雑由来F2集団においては, 抵抗性個体に特有の新たなマーカーバンドの出現が認められた.
  • ―栄養繁殖後代における塊茎の生産性について―
    ツヒン スブラ ロイ, 西沢 隆, モハメドハズラット アリ
    2005 年 74 巻 5 号 p. 374-380
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    交雑により得た5系統のジャガイモ真性種子, BARI TPS1, P-364 × TPS-67, Atzimba × TS-15, MF-I × TS-15, MF-II × TS-15を播種して得た種芋を用いて, その後2世代に渡る栄養繁殖を行った. 真性種子世代から得られた1作目の塊茎にウイルスおよび萎凋病の感染は認められず, 平均収量は48.5 t/haであった. 栄養繁殖による2, 3作目は, 塊茎収量がそれぞれ31.2および27.9 t/haに減少する一方で, 病気の感染が拡大した. 供試した5系統の真性種子の中では, BARI TPS1およびP-36 × TPS-67が他の真性種子に比べ総収量ないし商品価値のある塊茎の割合が有意に高く, 一般的に商業栽培されている塊茎繁殖用品種の‘Diamant’とほぼ同程度か高い値を示した. 一方, ウイルス病抵抗性で見た場合, 特に3作目でMF-I × TS-15およびMF-II × TS15が‘Diamant’より優れた結果を示した.
  • 清水 弘子, 市村 一雄
    2005 年 74 巻 5 号 p. 381-385
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    トルコギキョウにおいてチオ硫酸銀錯塩(STS), スクロース, STSとスクロースを組み合わせた前処理が切り花の品質と花持ちに及ぼす影響について調査を行った. 切り花を小花が2輪開花し4輪つぼみの状態に調整し, 0.2mM STS, 4%スクロース, および両者を組み合わせた溶液を23℃, 相対湿度70%, 暗黒条件下で20時間吸水処理した. 切り花の花持ちは2花以上の小花が観賞価値を保持している期間とした. その結果, STSとスクロースを組み合わせた処理およびスクロース単用処理では対照およびSTS単用に比べて花持ち延長効果が高かった. また, スクロース単用およびSTSとスクロースを組み合わせた処理では, つぼみの開花率と花弁の覆輪部分のアントシアニン濃度がSTS単用に比べて著しく増加した. これらの結果から, エチレン感受性があまり高くなく, 小花を多数つけるトルコギキョウでは, スクロースを含む溶液による前処理はSTS単独処理に比べて切り花の品質向上に有効であると考えられた.
  • 細川 宗孝, 松下 陽介, 大石 一史, 矢澤 進
    2005 年 74 巻 5 号 p. 386-391
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    新葉のクロロシスを示したわが国のキク品種から, キククロロティックモトルウイロイド (CChMVd) のプライマーを用いたPCR法によりCChMVdの感染によると考えられるバンドが認められた. 数種のプライマーを設計し, ‘ピアト’の増幅バンドの塩基配列を決定したところ, 弱毒系統であるCChMVd (gb_CCH247121) の塩基配列と9つの塩基を除き一致した. さらに, CChMVdがすでに全国的に蔓延していることを, 各地域から採集したキクの検定から明らかにした. また市販の切り花においても, 一部の地域あるいは輸入の切り花から低濃度でCChMVdが検出された. 本実験では, 微細に摘出した茎頂分裂組織をキャベツ‘春波’の根端へ移植して培養する超微小茎頂分裂組織培養法を試みたところ, ‘ピアト’で29再生個体のうち1個体で, また, ‘ステッツマン’で6再生個体のうち2個体がCChMVdフリー個体であった. CChMVdはわが国では未報告であったが, キクわい化ウイロイドと同じく注意を要するウイロイドであり, その除去には超微小茎頂分裂組織培養法を用いることが有効であった.
短報(英文)
  • 潘 春香, 崔 世茂, 新居 直祐
    2005 年 74 巻 5 号 p. 392-394
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    窒素施肥量を変えて栽培したモモの3年生実生樹を用いて, 新根の太さの相違が一次木部数に及ぼす影響を調査した. 新しい白色根の横断面における一次木部数は3~7個の間で変異したが, 窒素施肥量と関係なく, 太い根で明らかに多かった. 根群の外観から判断して, 窒素施肥量が多い樹ほど新根の発生数とともに太い根が多く発達し, その結果, 窒素施肥量の増大にしたがって一次木部数の多い根が増加したものと考えられる.
  • 棚瀬 幸司, 牛尾 亜由子, 市村 一雄
    2005 年 74 巻 5 号 p. 395-397
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    鉢植えのデルフィニウムを異なる光量子束密度 (PPFD) 条件下 (7, 70および300 μmol・m-2・s-1) に保持したところ, がく片の落下で評価した花もちはそれぞれ6.4日, 9.4日, 9.4日であった. 実験開始時点でのCO2の固定速度は7 μmol・m-2・s-1条件下で最も低かった. 開花4日後に測定したがくと雌ずいにおける糖 (スクロース, グルコース, フルクトースおよびマンニトール) 含量は光量子密度が低くなるにつれて減少した. 開花6日後のエチレン生成量は7 μmol・m-2・s-1で保持した花で最も高い値を示した. これらの結果から, 鉢植えのデルフィニウムを光量子束密度が低い条件に置くとCO2固定速度と糖含量が低下し, 花のエチレン生成量が増加してがくの脱離が促進されることが明らかとなった.
  • 羽山 裕子, 伊東 明子, 樫村 芳記
    2005 年 74 巻 5 号 p. 398-400
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    一般に, モモ果実における1-MCP処理の効果は他のクライマクテリック型果実と比べて小さい. そこで, 1-MCPの果実への吸収効率を上げるため, 減圧条件下で1-MCP処理を行い, 貯蔵性に及ぼす影響を調査した. 果実を入れた容器内部を25 kPaまでに減圧し, 容器内における濃度が1 μL・L-1となるよう1-MCPを注入した後, 減圧条件 (29 kPa) 下で12時間処理した場合 (1-MCP-subB), 常圧で12時間処理した果実 (1-MCP-nor) や無処理の果実に比べ, 処理2日後の果肉軟化が有意に抑制された. また, 1-MCP-subBと同様減圧条件下で1-MCPを注入した後, すぐに外気を導入し常圧に戻して12時間処理した果実 (1-MCP-subA) においても1-MCP-norや無処理に比べて果肉軟化がやや抑制された. 処理5日後の果肉硬度は, 1-MCP処理を行った果実が無処理の果実に比べて有意に高かったが, 1-MCPの処理方法間には有意な差が認められなかった. 本試験の結果より, 減圧条件下における1-MCP処理はモモ果実に対する処理効果を若干高めることが明らかとなった. しかしながら, 減圧条件下における処理効果もリンゴ等他のクライマクテリック型果実に比べて小さく実用的には不十分であると考えられた. モモ果実において1-MCPの処理効果が小さい原因は, 果実内部への1-MCP拡散量の差ではないと考えられる.
原著論文(和文)
  • 北村 八祥, 中山 真義, 西川 豊, 近藤 宏哉, 腰岡 政二, 平塚 伸
    2005 年 74 巻 5 号 p. 401-406
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    ブドウ‘安芸クイーン’では, 果皮が深色化して品種特性の鮮赤色ではない暗赤色な果粒がしばしば出現する. 適着色果粒における果皮の色相角度は, 赤から橙に分布するのに対し, 深色化果粒は赤から紫に分布した. 果皮の深色化には果皮のアントシアニン総量が強く関与し, 50×10-6 g・cm-2以上になると深色化果粒が出現した. 深色化果粒と適着色果粒のいずれの果皮からも, 13種類のアントシアニンが検出され, 主要アントシアニンはペオニジン系およびシアニジン系とマルビジン系およびペチュニジン系であった. 深色化果粒では適着色果粒に比べてマルビジン系およびペチュニジン系の構成割合が高いのに対して, シアニジン系およびペオニジン系の構成割合は低く, 果皮の深色化にはアントシアニンの総量に加えて, 構成割合の変化が関与することが考えられた. また, フラボノールとのコピグメンテーションの影響は認められなかった.
  • 高田 大輔, 田上 健太郎, 福田 文夫, 久保田 尚浩
    2005 年 74 巻 5 号 p. 407-413
    発行日: 2005年
    公開日: 2006/02/24
    ジャーナル フリー
    モモの成熟果の果肉が桃赤色を呈する“赤肉症”について, その特徴ならびに赤肉果発生の品種, 樹体, 園地および年次間差を調査した. “赤肉症”は, 成熟果の果肉にフェノール物質であるアントシアニンが蓄積する現象であった. 赤肉の程度と果肉硬度との間に負の相関が認められたが, 果実重および果汁糖度との関係は明確でなかった. 赤肉果の発生率は, 品種間や園地間での差は小さかったが, 樹体間では大きく異なり, 同一園でもほとんど発生しない樹体がある一方, 100%近い発生率を示す樹体もあった. 赤肉果多発樹とそうでない樹体から収穫した果実について収穫後の赤肉の進行程度を比較したところ, 前者では貯蔵日数が増すにつれて赤肉の程度が激しくなった. 赤肉果発生率の年次変動は小さく, 多発樹とそうでない樹に区別できたが, ひとたび赤肉果が発生するとその後は毎年のように赤肉果が多発した. 秋季に根の乾物重を調べたところ, 赤肉果多発樹ではそうでない樹体に比べて小根, 特に2mm以下の細根の量が少なかった. これらの結果からモモの赤肉果発生の要因について考察した.
短報(和文)
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