園芸学会雑誌
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76 巻, 1 号
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総説
原著論文
  • エルアンサリー ディア オサマ, 岡本 五郎
    2007 年 76 巻 1 号 p. 13-19
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ‘マスカット・オブ・アレキサンドリア’樹に対するベレーゾン後の潅水方式が樹体内水分と果実品質に及ぼす影響を調査した.潅水方式は,(1)標準潅水(Cont;土壌水分張力15 kPa で潅水),(2)制限潅水(RDI;15 kPa になって 4~7 日後に潅水),(3)片側潅水(FPRD;15 kPa で根域の半分に潅水),(4)交互潅水(APRD;15 kPa で根域の半分に潅水,1 週ごとに潅水部分を交互に変更)の 4 区とし,収穫期までの 7 週間続けた.実験期間中の潅水量は,Cont 区に比べて RDI 区では58%,FPRD 区と APRD 区では33%少なかった.日中の茎の水分ポテンシャルは RDI 区で Cont 区より有意に低く,水利用効率(光合成速度/蒸散速度)は FPRD 区,APRD 区で最も高かった.RDI 区では収穫期の果汁の TSS,糖,アミノ酸含量が Cont 区より高かったが,酸には差がなく,果粒の硬度とサイズは劣った.FPRD 区,APRD 区では TSS,糖,アミノ酸含量がやや高く,果粒サイズと硬度は同程度で,酸が少なかった.香気成分含量は RDI 区と FPRD 区で高かった.
  • 間瀬 誠子, 池谷 祐幸, 佐藤 義彦
    2007 年 76 巻 1 号 p. 20-27
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    モモの枝変わり品種における遺伝的変異を調査した.枝変わり品種であると考えられている 7 品種とそれらの原品種を供試し,第一に,SSR 解析により,原品種との遺伝的関係を確認した.続いて,ゲノムスキャニング (RLGS) 解析を行い,枝変わり品種と原品種間の遺伝的変異の検出を試みた.17の SSR 遺伝子座の解析結果から,‘嶺鳳’,‘長沢白鳳’の 2 品種は原品種と全ての SSR 遺伝子型が一致し,枝変わり品種であると推定された.一方,‘八幡白鳳’,‘おどろき’,‘加納岩白桃’の 3 品種は原品種と SSR 遺伝子型が異なり,枝変わり品種ではないことが新たに判明した.また,‘暁星’は枝変わり品種であり,‘日川白鳳’は枝変わり品種ではないことが再確認された.この結果から,モモにおいては枝変わりではない系統が枝変わり品種として品種登録されている可能性があることが示唆された.RLGS 解析では,NotI をランドマーク制限酵素として用いることにより,約400個のスポットから成るプロファイル(DNA 二次元電気泳動像)が安定的に得られた.それらを比較した結果,SSR 解析では識別ができなかった枝変わり品種と原品種間,‘暁星’と‘あかつき’,‘長沢白鳳’と‘白鳳’間においてスポットの相異が検出された.このように,RLGS は突然変異系統に生じた極めて小さい遺伝的変異を検出することができる有効な方法であることが示された.
  • 白石 美樹夫, 山田 昌彦, 三谷 宣仁, 上野 俊人
    2007 年 76 巻 1 号 p. 28-35
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    ブドウ遺伝資源におけるアントシアニンプロフィールを解明する簡易測定法を開発した.50%酢酸で抽出した果皮について,可視光検出器を併用する逆相 HPLC 法によって,21種類のアントシアニン色素の迅速な同定が可能であった.本法では,多段階のサンプル抽出操作やフォトダイオードアレイ検出器および質量分析計を必要としない.17品種のアントシアニン分析では,アグリコンの水酸化,メチル化,配糖体化およびアシル化の各段階において多様なプロフィールが明らかとなり,ブドウ遺伝資源において種間および種内変異が顕著であることが示唆された.アントシアニンプロフィールは,同一場所における樹間および年次変動が小さく,高い類似性を示した.
  • 山本 雅史, Abkenar Asad Asadi, 松本 亮司, 根角 博久, 吉田 俊雄, 國賀 武, 久保 達也, 冨永 茂人
    2007 年 76 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    カンキツ主要12種を用いて染色体のクロモマイシン A3(CMA) 染色を行った.染色体は CMA(+) バンドの有無および位置から 7 種類に区分できた.すなわち,CMA(+) を A: 両端および動原体近傍に有する,B: 一方の端部と動原体近傍に有する,C: 両端に有する,D: 一方の端部に有する,E: CMA(+) がない,F: 動原体近傍に有する,Dst: 付随染色体を有する D 型,である.各種はこれらのうち 2~6 種類の染色体を有し,独自の CMA バンドパターンを示した.C. medica では 2B + 8D + 8E,C. limon では 1B + 1C + 8D + 8E,C. aurantifolia では 2B + 9D + 7E,C. aurantium では 1A + 1B + 1C + 7D + 8E,C. sinensis では 2B+ 2C + 7D + 7E,C. maxima では 3A + 3C + 4D + 8E,C. paradisi では 2A + 3C + 6D + 7E,C. ichangensis では 2B + 2C + 12D + 2E,C. latipes では 2A + 5C + 8D + 3E,C. micrantha では 1B + 11D + 4E + 2Dst,C. macroptera では 2B + 1C + 11D + 3E + 1F,C. hystrix では 3B + 1C + 8D + 3E + 2F + 1Dst であった.
  • 桝田 正治, 加藤 鎌司, 村上 賢治, 中村 弘, Ojiewo C. O., Masinde P. W.
    2007 年 76 巻 1 号 p. 41-46
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    トマトの雄性不稔 T-4 の部分稔性回復に及ぼす夜温の影響について調査した.2001年10月~翌年 6 月の期間,最低気温10℃以上に維持し28℃換気のビニールハウス内において,順次開花してくる花について開花当日に自家人工授粉を行って着果率,有種子果率ならびに種子数を調査した.10月~2 月は,ほぼ100%着果し,10月に着果した果実は有種子果であり,11月~2 月に着果した果実は,その80%近くが無種子の単為結果であった.3 月以降,着果率が徐々に低下し 5 月では着果率が10%以下で単為結果はなかった.有種子果 1 果当たりの種子数は,10月には50粒に達することもあったが,11月以降の低温期には数粒となり,気温が上昇する 4 月~6 月には 1~20数粒であった.秋季ビニールハウスの最低夜温12℃と18℃下で人工授粉を行ったところ,着果率に差はなく,有種子果率は12℃で高く種子数も多かった.さらに,ビニールハウス内で育成した T-4 株を夜温12℃と24℃の人工気象器内に搬入して人工受粉し,10日後にハウス内に戻した.その結果,春季は両温度区ともほとんど着果しなかった.秋季は夜温12℃で約70%(24℃では46%)着果し,その50%(24℃では10%)は有種子果であった.1 果当たりの種子数は 7~9 粒で両温度区間に差はなかった.また,野生型花粉の人工受粉により1果実当たり50~180粒の種子が得られたことから,雄性不稔 T-4 には雌ずい側に問題はないことが示されトマト 2 系ライン F1 種子生産の種子親として利用できる可能性が示唆された.
  • 谷本 忠芳
    2007 年 76 巻 1 号 p. 47-53
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    10,100および1000 ppm のジベレリン酸 (GA) 水溶液の葉面散布によって Sagittaria latifolia の雄系統は雌花を着生し,三性株系統は対照区に比べて多くの雌花を着生した.雌花の着生は処理後 2 週間から始まった.GA 濃度のより高いレベルでより多くの雌花が見られ,処理によって総状花序の数は増加した.他方,同種に100および1000 ppm のパクロブトラゾール (PBZ) 水溶液を葉面散布すると,2 週間後から雄系統には雄花に加えて両性花が着生し,三性株系統には対照区よりも多くの雄花および両性花が着生した.その効果は100 ppm でよりも1000 ppm で高かった.総状花序の数は PBZ 処理によって減少した.GA は花序の中軸および花茎の節間伸長を促進し,PBZ には節間の短縮効果があった.PBZ は内生の GA の生産を抑制するので,本実験の結果から,内生の GA が本種の性表現,花序の生産および節間長をコントロールしていることが示唆された.GA 処理によって雄系統に着生した雌花が正常な種子をもった痩果に発達し,PBZ 処理によって雌系統に着生した雄花の花粉を授粉された雌系統の雌花が正常な種子をもった痩果に発達した.これらの結果は S. latifolia の育種および性発現の遺伝様式の解明に有用と考えられる.
  • 山下 正隆, 今村 仁
    2007 年 76 巻 1 号 p. 54-59
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    登熟時に15℃の温度に遭遇させた種子から育成した苗(伸長株)と遭遇させなかった種子から育成した苗(ロゼット株)を用いて地上部および根の生育を比較するとともに地上部,根の組織構造を観察した.ロゼット株では,茎の伸長は強く抑制されたが,地上部乾物重は伸長株とほとんど差がなかった.また,ロゼット化しても出葉や腋芽の形成はそれほど抑制されず,茎が肥大し,葉が丸葉化するとともに肥厚した.地下部でのロゼット株と伸長株との差は,乾物重だけでなく,最大根長,根の分枝形成でも小さかった.しかし,ロゼット株では根の肥大や根の伸長方向の変化が観察され,伸長株では,開花期に根乾物重の減少がみられた.また,ロゼット株,伸長株ともに茎と根の組織内に破生通気組織が発達した.トルコギキョウの強い耐湿性にはこの組織の形成が大きく関与していると推察された.
  • 細川 宗孝, 芝 勇人, 川部 崇, 中島 明子, 矢澤 進
    2007 年 76 巻 1 号 p. 60-65
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    キクにおいて経済的に甚大な被害を及ぼすキクわい化ウイロイド (CSVd) とキククロロティックモットルウイロイド (CChMVd) を同時に,かつ簡易に検出する方法を開発した.逆転写反応にそれぞれのウイロイドのプライマーを複数用いた場合,その後の multiplex PCR によって多くの非特異バンドが現れウイロイド検定は不可能であった.そこで,CSVd と CChMVd を同時に逆転写する 6 merのプライマー (5′ AAAGGA 3′) を 2 種のウイロイドの塩基配列から設計した.6 mer のプライマーが結合する塩基配列は CSVd (gb: AB006737) では186–191番目と245–250番目,CChMVd では231–236番目であった.6 mer のプライマーを用いて CSVd と CChMVd の同時逆転写を行った場合,その後の multiplex PCR で非特異バンドを抑えることができた.また,6 mer のプライマーを用いた場合,multiplex PCR による各ウイロイドの検出感度は,それぞれのウイロイドを別々に検出した場合と同等であった.組織を注射針で挿し,針先に付着した組織液を直接テンプレートとし,6 mer のプライマーによる RT 反応を行い,multiplex PCR を行ったところ,CSVd と CChMVd の同時検出が可能であった.ここで確立した multiplex direct RT-PCR 法はキクにおけるウイロイド検定のコストや手間を削減するものとして有用である.
  • 印 炳賤, 本村 晋一, 稲本 勝彦, 土井 元章, 森 源治郎
    2007 年 76 巻 1 号 p. 66-72
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    バラ‘アサミレッド’を 1 年間にわたって季節により温度,湿度,日射量が変動するガラス温室で栽培し,収穫前15日間の栽培環境パラメータと,収穫時ならびに観賞期間中の切り花の形態的・生理的特性パラメータを収集し,主成分分析によってこれらの相互関係を解析した.その結果,1)収穫前に温度が高く,相対湿度が低く,水蒸気圧欠差が高い乾燥した条件で栽培されたバラは,ベントネックや花弁の萎凋の発生が遅くなり花持ち期間が長くなる,2)収穫時に暗黒下での蒸散速度が高い切り花は,観賞期間中に水分状態が早期に悪化し花持ち期間が短くなる,3)収穫前に乾燥した条件下で栽培されたバラは,収穫時に気孔が小さく,暗黒下での蒸散速度が低くなる,という傾向がみられた.すなわち,バラ切り花の花持ち性には栽培時の乾湿条件が強く関与しており,乾燥した条件下で栽培されたバラは,機能性の高い気孔を持ち,水分状態を長期間良好に維持することができるため,花持ち期間が長くなると考えられた.さらに,重回帰法により収穫前の環境および収穫時の形態・生理パラメータから花持ち期間の推定が可能かどうかを検討したところ,有意性の高い回帰式(Y= −0.0971·X1 + 0.0242·X2 − 0.3275·X3 − 2.84792·X4 − 0.4859·X5 + 15.397,Y は花持ち期間,X1 − X5 はそれぞれ日最低湿度,花茎下/上直径比,気孔装置短径,明条件下水ポテンシャル,暗条件下蒸散速度,R2 = 0.618, P < 0.001)が得られた.
  • 天野 淳二, 桑山 幸子, 水多 陽子, 大宮 知, 中村 徹, 中野 優
    2007 年 76 巻 1 号 p. 73-78
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    コルチカム科花き園芸植物であるグロリオーサ属植物 (Gloriosa spp.),リットニア (Littonia modesta Hook.) およびサンダーソニア (Sandersonia aurantiaca Hook.) において属内および属間交雑を行い,胚珠培養により得られた小植物体の雑種性を確認するためにフローサイトメトリー (FCM) 分析および RAPD 分析を行った.倍数性が異なるグロリオーサ属植物の属内交雑や多くの属間交雑など,核の相対蛍光強度 (RFI) が明らかに異なる植物間の交雑においては,FCM 分析により雑種小植物体の同定を容易に行うことができた.RAPD 分析による雑種同定の結果は,FCM 分析の結果を支持するものであった.さらに,両親の RFI が類似している場合や RFI のピークが期待される位置に出現しない場合など,FCM 分析による雑種同定ができない小植物体についても,RAPD 分析により雑種性を確認することができた.FCM 分析または RAPD 分析により,これまでに合計110系統(60系統の属内雑種および50系統の属間雑種)の雑種小植物体を同定した.以上のように,FCM 分析と RAPD 分析の組み合わせにより,コルチカム科花き園芸植物における属内および属間雑種の早期確認が簡便かつ迅速に可能であることが示された.
  • 李 蓮花, 景山 幸二, 木下 尚子, 于 文進, 福井 博一
    2007 年 76 巻 1 号 p. 79-84
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    Pythium helicoides によるバラ根腐病は国内の切りバラ生産に大きな損失を引き起こしている.バラ根腐病に対する抵抗性台木の利用は,殺菌剤の使用に対する法的規制や消費者の関心の観点から有効な防除方法であり,抵抗性のバラ品種を選抜するためには生物検定法の確立が極めて重要である.本研究では自作のエブアンドフローシステムを用いた接種法を開発し,抵抗性のバラを選抜するための生物検定法としての実用性を検討した.抵抗性品種として Rosa multiflora ‘Matsushima No. 3’,罹病性品種としてR. ‘Nakashima 91’ を用いた.接種法として,プラグトレーに挿し木した発根苗を移植することなくトレーのまま遊走子懸濁液に 1 時間浸漬し,さらに遊走子を含む養液を 1 日 4 回 2 分間潅液した.従来の病理学的検定法では ‘Matsushima No. 3’ と ‘Nakashima 91’ の罹病度に差がみられなかったが,本研究で開発した検定法では ‘Matsushima No. 3’ の抵抗性と ‘Nakashima 91’ の罹病性が確認され,再現性も高く,本検定法は抵抗性品種の選抜に利用できると判断した.組織学的観察では,皮層組織への菌糸の密度は ‘Nakashima 91’ に比べて,‘Matsushima No. 3’ では低かった.‘Nakashima 91’ では菌糸が内皮組織まで侵入していたのに対して,‘Matsushima No. 3’ では皮層組織への菌糸の拡大が妨げられていた.
  • ムアニキ マーシー, マソーコ フランシス, 日和佐 京子, 立石 亮, 横谷 尚起, 牛島 幸一郎, 中野 龍平, 稲葉 昭次, 久保 康 ...
    2007 年 76 巻 1 号 p. 85-90
    発行日: 2007年
    公開日: 2007/03/06
    ジャーナル フリー
    細胞壁画分におけるガラクトースおよびアラビノース残基は果実成熟にともなって大きく減少する.これらの減少に関与する β-galactosidase (β-Gal) および α-L-arabinofuranosidase (α-Af) の役割について成熟中の軟化特性の異なるセイヨウナシ‘ラ・フランス’とチュウゴクナシ‘鴨梨’において比較・検討した.両品種において,β-Gal と α-Af の酵素活性は,成熟にともなうエチレン生成の開始とともに増大した.‘鴨梨’では,エチレン生成と酵素活性の顕著な増大が見られたにもかかわらず,果肉硬度は28日間の室温貯蔵後でも低下しなかった.両品種において PpGAL1, PpGAL4, PpARF2 および PcARF1 にハイブリダイズする転写物は果実成熟とともに増加した.果実軟化の見られない‘鴨梨’において,遺伝子発現および酵素活性が増加したことから,β-Gal と α-Af の酵素活性およびその遺伝子発現は,両ナシ品種における軟化特性の違いの決定因子ではないが,他の細胞壁分解酵素と共同して働くことによって果実軟化に何らかの役割を果たしていることが示唆された.
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