日本にはアジサイの育種に有用な遺伝資源となる野生のガクアジサイ(
Hydrangea macrophylla(Thunb.)Ser. f.
normalis (E.H.Wilson)H.Hara)およびヤマアジサイ(
H. serrata(Thunb.)Ser.)が数多く自生している.しかしこれらの遺伝資源を用いた効率的な育種に必要となる系統学的情報が不足している.本研究では,日本に自生するガクアジサイおよびヤマアジサイについて,RAPD マーカーと葉緑体 DNA の塩基配列に基づき系統解析を行った.RAPD 解析と
matK 並びに
rbcL 配列解析のいずれにおいても,ヤマアジサイ変種ヤマアジサイ(
H. serrata var.
serrata,以下,ヤマアジサイと表記する)はガクアジサイやエゾアジサイ(
H. serrata(Thunb.)var.
yesoensis(Koidz.)H.Ohba)より遺伝的多様性が高いことが示唆された.またこれらの解析の結果,ヤマアジサイは日本の東海地方以東に自生する東部グループと近畿地方以西に分布する西部グループに大別されることが示された.ヤマアジサイ西部グループは,
matK および
rbcL の塩基置換部位に基づきさらにいくつかのサブグループに分けられ,四国地方のヤマアジサイは他の西部グループと区別されることが示された.ヤマアジサイ東部グループの
rbcL および
matK 配列は,ガクアジサイおよびエゾアジサイのものと同一であった.また
matK 配列において,これら 3 つの系統はいずれも 6 bp(GGTTAT)の重複配列を有していたが,ヤマアジサイ西部グループや他のアジサイ属植物種ではこの重複配列は認められなかった.
matK および
rbcL 配列に基づいた系統解析の結果,ヤマアジサイは側系統で東部系統と西部系統に分かれ,ヤマアジサイ東部系統とガクアジサイ,エゾアジサイはまとめて単系統となることが明らかとなった.本研究で得られた結果は,アジサイの育種並びにガクアジサイ,ヤマアジサイ,エゾアジサイの分類学的な位置づけの解明に寄与するものと考えられる.
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