Journal of the Japanese Society for Horticultural Science
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83 巻, 2 号
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原著論文
  • 羽生 剛, 田尾 龍太郎
    2014 年 83 巻 2 号 p. 95-107
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2013/12/07
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    ナス科,バラ科,オオバコ科の多くの種は S-RNase 依存性配偶体型自家不和合性を示す.このタイプの不和合性は雌ずい側因子(S-RNase)と花粉側因子(SFB/SLF)が座乗する S 遺伝子座によって支配されている.また,自家不和合性共通因子と呼ばれる S 因子以外の因子も配偶体型自家不和合性反応に必要であることが明らかになっている.そこで本研究では,ウメの配偶体型自家不和合性機構解明を目的として,次世代シークエンス技術を用いた大規模トランスクリプトーム解析を行った.ウメの受粉雌ずい,未受粉雌ずい,花粉から合計 77,521,310 個の配列が得られ,それらから 40,061 個の unigene が得られた.これら 40,061 個の unigene を query に,米国の国立生物工学情報センター(NCBI)の非冗長タンパク質データベース(nr)ならびにシロイヌナズナのタンパク質データベース(TAIR10)に対して,BLASTX 検索したところ,29,985 個(全体の 74.8%) の unigene が NCBI の少なくとも1 つ以上のデータに,また 27,898 個(全体の 69.9%)の unigene が TAIR10 の少なくとも1 つ以上のデータにヒット(E-value cutoff 値 1e-6)した.デジタル発現解析により,8,907の unigene が未受粉と他家受粉で有意に発現が異なることが,また 10,190 個の unigene が未受粉と自家受粉で有意に発現が異なることが示された.これらのうち,4,348 個の unigene は両受粉で共通であり,4,559 個の unigene は他家受粉で特異的に,また 5,842 個の unigene は自家受粉で特異的に発現が変化していた.さらに,両受粉で発現が変化していた unigene のうち,2,227 個は両受粉で発現が増加していた.しかし,ナス科で花柱側共通因子であることが示されている HT-B120K の相同遺伝子はトランスクリプトーム全体の中に存在しなかった.Prunus 属の配偶体型自家不和合性に特異な認識機構について考察した.
  • 高居 恵愛, 田尾 龍太郎
    2014 年 83 巻 2 号 p. 108-116
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/01/28
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    ウメ未熟子葉を用いた形質転換において,アグロバクテリウムを感染する際に子葉外植体を超音波処理することにより,アグロバクテリウムの感染率が著しく増加した.本研究では,sGFP (S65T) レポーター遺伝子を用いたため,導入遺伝子の発現を直接観察でき,導入遺伝子発現の評価が容易になった.数品種の異なる発育段階のウメ未熟子葉を用いて,アグロバクテリウム菌液に浸漬した状態で 10 秒から 2 分間超音波処理を行い,その後,感染率および GFP 発現を示す不定胚再分化率を調査した.発育段階初期のウメ‘南高’の未熟子葉への超音波処理区では,共存培養後 GFP の一過性発現率は 100%に近く,GFP 蛋白質の蛍光が子葉外植体の全面でみられた.しかし,子葉外植体をアグロバクテリウム菌液に浸漬したのみの対照区では,GFP の一過性発現率は 10%未満と低く,GFP 蛍光が点もしくは限られた部位にしかみられなかった.5 月 14 日の‘南高’ウメの未熟子葉を 40 秒間超音波処理した区で,GFP を発現する不定胚再生効率が最も高かった.しかし,不定胚再生能がより高い,より若い未熟子葉を用いた場合,20 秒間の超音波処理でも十分な感染率を獲得することができた.
  • 杉浦 俊彦, 阪本 大輔, 児下 佳子, 杉浦 裕義, 朝倉 利員
    2014 年 83 巻 2 号 p. 117-121
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/02/18
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    ウンシュウミカンの産地のほとんどは,温暖化の進行によりウンシュウミカン栽培が困難になることが予測されている.そこで,ウンシュウミカンを改植する場合の判断材料を提供するため,わが国で最も生産量が多い亜熱帯性カンキツであるタンカンの栽培適地の変化を推定した.果実凍結試験の結果,タンカンの果実の耐寒性限界温度は約 −2°C と推察された.タンカンの適地は MIROC3.2-hires モデル(SRES-A1B 温室効果ガス排出シナリオ)から得られた将来の年平均気温に加えて,同モデルから得られた将来の日最低気温と現在の気温の変動から推定した将来の年最低気温を用いて推定した.シミュレーションの結果,2031–2050 年に関東平野以西の太平洋沿岸部のほとんどがタンカンの適地となり,現在のウンシュウミカン産地のうち沿岸部は 2050 年までにタンカン生産の適地となることが示された.一方,内陸部は現在のタンカン産地に近い九州南部でも 2051–2070 年において寒害発生頻度が高いと判定された.したがって温暖化の進行でウンシュウミカン生産が難しくなった場合,現在のウンシュウミカン産地のうち沿岸部はウンシュウミカンの代替としてタンカン生産可能であるが,内陸部は生産が難しいと推定された.
  • 末廣 優加, 持田 圭介, 板村 裕之, 江角 智也
    2014 年 83 巻 2 号 p. 122-132
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/02/26
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    近年,栽培面積が広まっている黄緑色系ブドウ‘シャインマスカット’(Vitis labruscana Bailey × V. vinifera L.)は収穫期直前の成熟ステージに果皮が褐変すること(通称,カスリ症)が問題となっている.果粒表面に小さな赤褐色の染みが現れ,ブドウの市場価値を著しく減少させる.しかしながら,褐変のメカニズムや要因は明らかとなっていない.我々はポリフェノール化合物やそれらの酸化反応の関与を仮定している.本研究では,褐変現象に関する分子レベルでの知見を得るために,ポリフェノールの代謝経路における鍵酵素であるポリフェノール酸化酵素(PPO),スチルベン合成酵素(STS)およびカルコン合成酵素(CHS)の果粒成熟期における遺伝子発現を解析した.カスリ症は‘シャインマスカット’果房内のいくつかの果粒で満開後 80 日から認められ,その後,褐変する果粒数は増加し,成熟とともに果粒表面の褐変部位は拡大する.カスリ症が発生した果皮では VvPPO2 遺伝子,VvSTS タイプ B 遺伝子および VvCHS1 遺伝子の発現量が増加し,trans- レスベラトロールの含量も増加した.これらのことからフェノール化合物の生合成および代謝経路が活発化していることが示唆された.PPO 遺伝子では,VvPPO1 遺伝子に比較して VvPPO2 遺伝子の発現がカスリ症発生果において特異的に上昇することが観察された.VvPPO2 遺伝子のプロモーター配列では VvPPO1 遺伝子よりも多くの Myb 転写因子の結合モチーフや W-Box モチーフが含まれていた.カスリ症発生果における VvPPO2 遺伝子の特異的な発現上昇は‘シャインマスカット’果実の褐変メカニズムを理解するうえでの手がかりとなるだろう.
  • Andrzej Kalisz, Stanisław Cebula, Piotr Siwek, Agnieszka Sękara, Aneta ...
    2014 年 83 巻 2 号 p. 133-141
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/01/18
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    春蒔き結球ハクサイの生育,収量および内生成分に及ぼす不織布べたがけ栽培の影響を調査した.べたがけ処理により植物体周辺の生育環境が改善され,成長および発育が旺盛になり,処理後の植物体における生育指標はすべてべたがけ区が対照(無処理)区を上回った.べたがけ区の総収量および可販収量は,対照区に比べ各々 36%および 91%高かった.両区で花茎の伸長は認められなかったが,対照区で葉球の 50%に内部抽苔が確認された.一方,べたがけ区で葉球内抽苔は確認されず,欧州の結球ハクサイ春撒き栽培において,べたがけ処理が抽苔抑制に有効であることが確認された.べたがけ処理終了直後のロゼット葉におけるアスコルビン酸,クロロフィルおよびカロテノイド含量は対照区で値が高かったが,発育した葉球では処理区間に差は認められなかった.一方,発育した葉球の可溶性糖,粗繊維およびチオシアネート含量は,対照区で値が高かった.結球ハクサイの新鮮重および乾物重の変化を,生育時間の関数として予測するモデルを提示することができた.
  • 望月 佑哉, 岩崎 良美, 福家 光敏, 荻原 勲
    2014 年 83 巻 2 号 p. 142-148
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/02/26
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    イチゴ品種‘紅ほっぺ’の多収要因を,‘さちのか’を対照品種に用い,乾物生産特性,植物体の全窒素含量,出液速度,出液中のイオン濃度および細根の呼吸速度から検討した.その結果,‘紅ほっぺ’は‘さちのか’に比べて 3 つの優れた特性を具備していた.すなわち,‘紅ほっぺ’は‘さちのか’に比べて,低温期間に根の黒変化が少なく,一次根および細根重が増加する特性を有していた.また,能動的な吸水能力が大きく,根の活性も高く維持され,根の機能も優れていた.さらに,NO3 の吸収量が多く,窒素が葉身,クラウン,細根などに重点的に分配される栄養学的な特性を有していた.したがって,‘紅ほっぺ’の総乾物重が大きくなるのは,これら 3 つの特性が複合的に関与していると推察された.
  • 榎 真一, 高原 美規
    2014 年 83 巻 2 号 p. 149-155
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/01/28
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    暗所形態形成により得られた伸長型 PLB(ePLB)を用いたコチョウランの簡便で高効率な微細繁殖系を開発した.成長点切除なしの通常の PLB(nPLB)を各光条件(光合成有効光量子束密度)で明:80,薄明:2,暗:0,単位は μmol·m−2·s−1)で培養した場合,その増殖効率は明,薄明条件と比較して暗条件で高かった.また,暗条件で得られた 2 次 PLB(ePLB)は暗所形態形成を示し,得られた ePLB は nPLB の約 2 倍の長さに伸長していた.また暗条件でのシュート形成率は,成長点切除なしで 8%,成長点切除ありでは 1%と他の 2 条件と比べ非常に低く抑えられた.この ePLB に薄明条件で 2 週間光順化処理を行った.その後 ePLB の頂部に部分切開法を適用し,明条件で培養した場合,同様に部分切開を行った nPLB と増殖率で比較して約 6 倍となる,大量の PLB が得られた.以上の結果より,PLB を暗所で培養することにより,PLB 増殖の妨げとなるシュート形成を低労力で抑制しつつ,ePLB を誘導し増殖することができ,またこの ePLB を明条件へ移すことで,nPLB と比べて非常に大量の 2 次 PLB が得られることが明らかとなった.
  • 水田 大輝, 中務 明, 伴 琢也, 宮島 郁夫, 小林 伸雄
    2014 年 83 巻 2 号 p. 156-162
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/25
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    霧島山系のミヤマキリシマ,ヤマツツジおよびこれらの自然雑種個体の花冠を用いてアントシアニジン構成と色素合成遺伝子の発現を比較した.自生地と比べて,樹高や花色を含む表現形質の特徴は,挿し木で増殖後,移植した個体に変化がなかった.花色調査より,ミヤマキリシマは紫色系を,ヤマツツジは赤色系を示したが,これらの自然雑種は,赤色系または紫色系を示した.HPLC によるアントシアニジン分析では,一部の個体を除くミヤマキリシマと自然雑種はシアニジン系およびデルフィニジン系の両色素を有していたが,ヤマツツジはシアニジン系色素のみを有していた.しかし,シアニジン系色素のみを有していたが紫色系花色を呈するミヤマキリシマと,シアニジン系およびデルフィニジン系の両色素を有していたが赤色系花色を呈する自然雑種個体があり,これらはコピグメンテーション効果の有無による影響が考えられた.また,リアルタイム PCR による発現解析では,全ての個体で F3′HDFRANS 遺伝子が発現していたのに対し,F3′5′H 遺伝子はデルフィニジン系色素を有する個体で必ず発現していた.これらの結果より,ミヤマキリシマや自然雑種個体におけるデルフィニジン系色素の蓄積には,F3′5′H 遺伝子の発現が必要不可欠であることが示唆された.本研究より,紫色系花色と赤色系花色の野生種の間における種間交雑で,色素構成およびアントシアニン色素合成関連遺伝子の発現が多様化したことが野生集団の花色の多様性を生み出しているものと示唆された.
  • 上町 達也, 水原 有理, 出口 佳代子, 新庄 康代, 梶野 恵理子, 大場 秀章
    2014 年 83 巻 2 号 p. 163-171
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/02/26
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    日本にはアジサイの育種に有用な遺伝資源となる野生のガクアジサイ(Hydrangea macrophylla(Thunb.)Ser. f. normalis (E.H.Wilson)H.Hara)およびヤマアジサイ(H. serrata(Thunb.)Ser.)が数多く自生している.しかしこれらの遺伝資源を用いた効率的な育種に必要となる系統学的情報が不足している.本研究では,日本に自生するガクアジサイおよびヤマアジサイについて,RAPD マーカーと葉緑体 DNA の塩基配列に基づき系統解析を行った.RAPD 解析と matK 並びに rbcL 配列解析のいずれにおいても,ヤマアジサイ変種ヤマアジサイ(H. serrata var. serrata,以下,ヤマアジサイと表記する)はガクアジサイやエゾアジサイ(H. serrata(Thunb.)var. yesoensis(Koidz.)H.Ohba)より遺伝的多様性が高いことが示唆された.またこれらの解析の結果,ヤマアジサイは日本の東海地方以東に自生する東部グループと近畿地方以西に分布する西部グループに大別されることが示された.ヤマアジサイ西部グループは,matK および rbcL の塩基置換部位に基づきさらにいくつかのサブグループに分けられ,四国地方のヤマアジサイは他の西部グループと区別されることが示された.ヤマアジサイ東部グループの rbcL および matK 配列は,ガクアジサイおよびエゾアジサイのものと同一であった.また matK 配列において,これら 3 つの系統はいずれも 6 bp(GGTTAT)の重複配列を有していたが,ヤマアジサイ西部グループや他のアジサイ属植物種ではこの重複配列は認められなかった.matK および rbcL 配列に基づいた系統解析の結果,ヤマアジサイは側系統で東部系統と西部系統に分かれ,ヤマアジサイ東部系統とガクアジサイ,エゾアジサイはまとめて単系統となることが明らかとなった.本研究で得られた結果は,アジサイの育種並びにガクアジサイ,ヤマアジサイ,エゾアジサイの分類学的な位置づけの解明に寄与するものと考えられる.
  • 石森 元幸, 河鰭 実之
    2014 年 83 巻 2 号 p. 172-180
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/04/29
    [早期公開] 公開日: 2014/03/12
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    MADS-box 遺伝子ファミリーは植物において最も大きい転写因子遺伝子ファミリーのひとつであり,様々な発達段階で必要である.花の発達に関する多くの研究が,特に MIKCc-type MADS-box 遺伝子が正常な花器官の発達に必須であることを示している.私たちはトルコギキョウの花で発現している MIKCc-type MADS-box 遺伝子を同定し,それらの特徴を調べた.計 23 遺伝子が同定され,10 の系統に分けられた.それらは保存された特異的モチーフにより特徴づけられていた.系統樹解析により,AG/PLEAP3/DEFPI/GLOSEP クレードにおける多様化と最近の遺伝子重複の発生が示唆された.花器官特異的な発現パターンは,AP3/DEFSEP 系統に属する遺伝子内では部分的に多様化している一方で,AG/PLEPI/GLO 系統の遺伝子の発現パターンは保存されていることが明らかとなった.これらの結果はトルコギキョウの花器官のアイデンティティの規定には,保存的な発現と多様化した発現を有する遺伝子の両方が寄与していることを示唆した.
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