水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
Print ISSN : 0915-1389
ISSN-L : 0915-1389
22 巻, 2 号
選択された号の論文の4件中1~4を表示しています
原著論文
  • ― 作付時期・作付面積推定モデル ―
    谷口 智之, 増本 隆夫, 清水 克之, 堀川 直紀, 吉田 武郎
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 2 号 p. 101-113
    発行日: 2009/03/05
    公開日: 2009/04/03
    ジャーナル フリー
    モンスーンアジア地域での水利用は水田が主体であるが,そこで見られる多様な水利用を考慮した分布型モデルはいまだ得られていない.そこで,一連の論文では水田水利用を考慮した分布型水循環モデルを提案する.本稿では,その中で「水田の種類や降水に応じて変動する水田作付状況を推定する作付時期・作付面積推定モデル」を提案し,全体モデルをメコン河流域に適用した結果を示した.得られた成果は以下の通りである.i)全体モデルで推定された実蒸発散量は,現地観測から算定した蒸発散量の期別変化をよく再現した.ii)降水量や水田水利用形態の違いが作付けに及ぼす影響を考慮することで,各年の条件に応じた作付状況を推定できた.iii)修正ペンマン・モンティース式から算出される基準蒸発散量と推定された実蒸発散量を比較した結果,天水田面積率が高い地域の乾季に明瞭な差が生じることがわかった.iv)提案モデルは分割したセルごとに土地利用を面積率で与えているため,土地利用変化に伴う影響評価への対応も容易である.また,水田形態や水稲品種に応じて作付けパターンを設定することで,雨季作に見られる作付けの不安定さが表現できる等の特徴を有している.
  • ― 水利用分類と水管理に基づく必要水量の推定 ―
    谷口 智之, 増本 隆夫, 堀川 直紀, 清水 克之, 吉田 武郎
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 2 号 p. 114-125
    発行日: 2009/03/05
    公開日: 2009/04/03
    ジャーナル フリー
    モンスーンアジア地帯における水利用は,水田が主体である,灌漑形態が多様である,乾季と雨季が存在する,干ばつと洪水が発生するなどの特徴がある.しかし,これらの影響を総合的に評価するモデルは必ずしも得られていない.そこで,一連の論文では水田水利用を考慮した分布型水循環モデルを提案する.本稿では,その中の水利用・水管理を評価する水田水利用モデルを提案し,1999年から2003年を対象に,一連のモデルをメコン河流域に適用した結果を示した.得られた成果は以下の通りである.i)観測流量とモデルによる推定値を比較した結果,水田水利用モデルの組み込みにより,流量変動をよく再現できることが確認された.ii)水田の雨水貯留は灌漑水量や蒸発散量に影響し,水田面積率が大きい地点でその影響度合いが顕著であった.一方,灌漑を考慮しない場合,灌漑水田域において乾季の蒸発散量が少なく見積もられた.iii)本モデルは,灌漑方式,施設ごとに諸量を設定し,実取水量を水田必要水量,施設容量,取水可能量の関係から決定するため,現実に近い灌漑状況を再現でき,水田地帯における用水の反復利用にも対応できるという特徴を有している.
  • ― モデル構成と農地水循環量の推定 ―
    谷口 智之, 増本 隆夫, 吉田 武郎, 堀川 直紀, 清水 克之
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 2 号 p. 126-140
    発行日: 2009/03/05
    公開日: 2009/04/03
    ジャーナル フリー
    モンスーンアジア地帯には多様な水田形態,作付体系,灌漑方式を有する水利用が見られるが,既存の水文・流出モデルではこのような水田の多様性は必ずしも考慮されていない.そこで,本稿では,一連の論文の中でこれまで提案している分布型水循環モデルの根幹となるサブモデル(「作付時期・作付面積推定モデル」,「水田水利用モデル」)を含んだ分布型水循環モデルの全体構造を示すとともに,メコン河流域にモデルを適用した結果を述べた.メコン河本川5地点における実測流量と独自に設置した観測データから推定した実蒸発散量の両者によってモデルによる推定結果を検証し,いずれの推定値とも良好な再現性を得た.また,このモデルを用いたことにより,水田水利用に関わる水田作付面積,取水量,土壌水分量などの諸量も任意の時点,地点で推定できることが分かった.さらに,灌漑開発に伴う河川流量への影響を予測した結果,天水田で灌漑開発が進むと乾季流量が大幅に減少するなどの評価結果に見られるように,開発したモデルを用いると,人間活動の農業水循環への影響評価や食料生産への影響予測等が可能となることを示した.
  • ― 植生の生育開始時期に着目して ―
    尾身 洋, 長谷川 宏一, 泉 岳樹, 松山 洋
    原稿種別: 原著論文
    2009 年 22 巻 2 号 p. 141-158
    発行日: 2009/03/05
    公開日: 2009/04/03
    ジャーナル フリー
    カナダ・マニトバ州の北方常緑針葉樹林帯にあるフラックスサイト“NSA-OBS”において,人工衛星Terra/MODISから計算された各種衛星指標(NDVI,NDWI,GEMI,EVI,S3)の季節変化の傾向を植生の生育開始時期に着目して考察した.解析期間は2000~2006年である.植生の生育開始時期は生態系純生産量(NEP)が正に転じる時と定義した.
    各種衛星指標は夏季に比べ,冬季に値の分散が大きくなった.これは,積雪期においてはBRDFモデルによって補正しきれていないデータがあり,その影響を受けたためと考えられる.NDVIはこの影響により,生育開始前後での変化とBRDF特性の影響に伴う変化の判別が難しい.また,GEMI,EVIは生育開始前後での変化がほとんど見られないため,植生の生育開始推定には適さない.一方,NDWIが最初に負に転じる時と生育開始時期との間によい対応関係が見られ,S3が最後に負に転じる時と生育開始時期との間にもよい対応関係が見られた.S3=0は雪の有無を判断するしきい値であることから(斎藤・山崎,1999),対象地域における植生の生育開始と消雪とに関係がある可能性がある.すなわち,衛星から雪の有無を判断することで,対象地域における植生の生育開始時期を推定できる可能性がある.
feedback
Top