水文・水資源学会誌
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25 巻, 6 号
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原著論文
  • 菅原 広史, 成田 健一
    2012 年 25 巻 6 号 p. 351-361
    発行日: 2012/11/05
    公開日: 2013/07/12
    ジャーナル フリー
     河川による都市暑熱環境の緩和効果について,実測データを基にその物理的なメカニズムを議論した.河川上では海風の進入に伴い,水面からの加熱よりも大きな鉛直上向きの顕熱輸送が見られ,河川上の気温は市街地よりもさらに低温となった.乱流変動の4象限解析により,この上向きの熱輸送は上空からの冷気の下降によるものであることが明らかとなった.上空の低温の空気塊が,河川において都市キャノピー内に取り込まれていることが示された.
     水深が深ければ日中の水温は気温より低温となり,河川水面での顕熱輸送は下向き(大気を冷却)となる.一方,浅い水面では水温が気温よりも高温となる.夜間はこの水温と気温の差が日中とは逆になる.これらは日中の正味放射の大部分が貯熱に配分されるためである.河川を活用して暑熱環境の改善をはかる場合は,効果を得る時間帯(昼か夜)により適切な水深が異なることに注意が必要である.
  • 石 峰, 大西 暁生, 森杉 雅史
    2012 年 25 巻 6 号 p. 362-372
    発行日: 2012/11/05
    公開日: 2013/07/12
    ジャーナル フリー
     メコン川は,典型的な国際河川であり,水資源の配分をめぐって国家間における紛争が生じており,この流域の水資源管理のあり方を議論することは,国際的な安定と秩序を考える上にも非常に重要である.特に現在,流域圏では越境交流・交易を促進するボーダレス化が進んでおり,国家間の貿易額は年々増加しており,財やサービスなどの交易による水資源の流出入が生じている.そのため,貿易による仮想水の相互依存関係を考察することは,流域の水資源管理のあり方を議論する際に重要となる.本研究では,まず国連貿易統計の1999年から2007年までの世界貿易データを用いて,メコン川流域に属する6カ国間の貿易構造の変化を分析し,これらの各国間の相互依存関係を考察した.その後,仮想水の概念をもとに,国際貿易に伴う仮想投入水量と現実投入水量の流出入バランスを考察した上で,流域各国の水資源依存関係を明らかにした.最後に,得られた知見をもとに,メコン川流域における水資源管理のあり方を議論した.
  • 小槻 峻司, 田中 賢治, 小尻 利治, 浜口 俊雄
    2012 年 25 巻 6 号 p. 373-388
    発行日: 2012/11/05
    公開日: 2013/07/12
    ジャーナル フリー
     本研究では,灌漑・貯水池を考慮した全球陸域水循環モデルを提案する.提案するモデルは,水文陸面過程,灌漑,河道流下過程,貯水池操作の各要素を持ち,農業水需要量を物理的に解析可能な点が大きな特徴である.解析に必要な全球地表面パラメータとして,農事暦と河道網情報を作成した.農事暦は,稲,トウモロコシ,春小麦,冬小麦,大豆,綿花の6作物について衛星データNDVIのフェノロジー解析により作成し,河道網情報は,1 km解像度の落水方向データからアップスケーリングして作成した.作成された農事暦と河道網情報は,統計情報に良く整合する事を確認した.作成した地表面パラメータと気象強制力データを用いて,1994年から2003年を対象とした全球陸域の水循環解析を行った.得られた灌漑必要水量及び水循環解析結果を統計データと比較し,妥当な値である事を確認した.人間活動の中では,灌漑活動と比較して貯水池の考慮により水循環の解析精度が改善する流域が多い事を示した.
研究ノート
総説
  • 池田 英史, 若松 孝志, 中屋 耕, 阿部 聖哉
    2012 年 25 巻 6 号 p. 396-409
    発行日: 2012/11/05
    公開日: 2013/07/12
    ジャーナル フリー
     近年,わが国では間伐等の森林管理が十分に行き届いていない人工林の面積が増大している.このような人工林では林床の裸地化が進んだことにより流出した土壌が河川に流入し,河川環境に悪影響を及ぼすことが懸念されている.一方で,同様の土壌流出が問題となっている欧米の農耕地においては,土壌流出を予測するモデルが提案され,防止策の立案・評価に適用されてきた.日本国内においても沖縄などの農耕地についてはこれらのモデルの適用例が数多く報告されているが,森林流域についての適用事例は多くないのが実状である.これらの予測モデルを用いて森林流域における土壌流出を防止する方策を立案するためには,森林からの土壌侵食を促進もしくは抑制するメカニズムを解明し,単一斜面や小流域を対象とした従来の土壌流出モデルに組み込む必要がある.この森林からの土壌流出が増加するメカニズムとしては,林内の光環境の悪化により下層植生が減少することによる侵食の増大などが考えられている.しかし,既往の土壌流出モデルではこれらのメカニズムは十分には考慮されておらず,定式化とモデルへの組み込みが必要と考えられる.
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