水文・水資源学会誌
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26 巻, 3 号
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原著論文
  • -日本全域水資源モデルの開発-
    小槻 峻司, 田中 賢治, 小尻 利治
    2013 年 26 巻 3 号 p. 133-142
    発行日: 2013/05/05
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     気候変動が大きな問題となっている現在,その影響を解釈・翻訳し,社会に伝える事は科学の重要な使命である. 一連の論文では,日本全域水資源モデルの開発を行い,気候変動が日本全流域の水需給バランスに与える影響を推 計する.本稿では,稲成長・水文陸面・灌漑・河道流下・ダム操作の5つのモジュールから成る水資源モデルを提案 し,日本全域に適用し検証する.提案する水資源モデルは,従来の水文・水資源分野で扱われてきた水循環の解析 に加えて,稲成長や収穫量を解析可能である.観測値を基本とした気象強制力データを用いて,10年間(1994-2003 年)の河川流量・米生産量・水ストレス解析を行った.稲成長モジュールにより解析された稲成長(出穂日や収穫 日)や収穫量は,都道府県の統計情報によく一致した.国内20の一級河川で解析河川流量を検証し,冬季の降雪量 補正が月流量の再現性を改善することを示した.月流量で計算したナッシュの効率係数は,流域別のパラメータ調 整を行うことなく,多くの河川で0.8を超えた.CWD指標を用いて解析された日本域の水逼迫度合は,統計情報と 同様の傾向を示し,実際の水逼迫を反映することを示した.
  • -水需給・米生産変化と適応策-
    小槻 峻司, 田中 賢治, 小尻 利治
    2013 年 26 巻 3 号 p. 143-152
    発行日: 2013/05/05
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     本研究では,提案する日本全域水資源モデルと,超高解像度GCM(MRI-AGCM3.1S)から出力される現在・近未来・世紀末の気象強制力データを用いて,気候変動が日本の水資源に与える影響を推計した.多雪地域では流況が大きく変わり,12月から3月にかけての流量増加や,融雪時期である4月から5月の流量低下が予測された.東北地方の日本海側では世紀末に水ストレスが強化される流域が多く見られ,世紀末には融雪早期化により多量な水を要する代かきが困難になる可能性が示唆された.世紀末では水資源量増加にも関わらず水ストレスが強化される流域が多く,水資源量の増加が水ストレス緩和に帰結しない事を示した.温暖化が米収穫量に与える影響を推計した結果,北日本・東日本・中日本では温暖化が進むにつれ収量が増加するが,西日本では逆に減少する傾向が見られた.適応策として移植日の変化を検討したところ,北日本・西日本では移植遅延化により収量増加を見込めることを示した.しかし,移植遅延化は北日本の日本海側では水ストレスを強化させる側面も持っており,今後は水ストレスが米収量に与える影響についても評価していく必要がある.
  • 清水 裕太, 小野寺 真一, 齋藤 光代
    2013 年 26 巻 3 号 p. 153-173
    発行日: 2013/05/05
    公開日: 2013/12/25
    ジャーナル フリー
     本研究では,リンの負荷量の多い郊外農業流域を対象として,リン流出量の評価に対するSoil Water Assessment Tool(SWAT)モデルによる適用可能性を明らかにすることを目的とし,流量,SS濃度,懸濁態および溶存態リン濃度の再現性の確認とリン流出量の評価を行った.その結果は以下のとおりである.流量の再現性は,日流量として年間を通じて精度良く再現できた.しかし,高流量時には推定値が過大もしくは過小評価することがあり,その原因として気象データの時間的および空間的な解像度の影響が示唆された.SS濃度の再現性は米国で開発された経験的な土砂流出量の推定式による計算であったが,概ね再現することができた.懸濁態リン濃度はSS濃度と同様に再現することができたことから,主に土壌浸食によって発生する懸濁態リンの推定については,適用可能であることが示唆された.ただし,溶存態リン濃度の再現に関しては,都市部での推定法に改良の余地があり,生活排水の影響が強い流域を対象とする場合に誤差が生まれる可能性が示唆された.本研究では,生活排水を強制的にポイントソースとして考慮させることによって良い再現性を得ることができた.以上のことから,生活排水の影響が強い流域を対象とする場合には注意が必要であるが,リン流出量の推定に対して,我が国の郊外農業流域へSWATモデルが適用可能であることが明らかとなった.
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