私達はこれまで,河川の水位や流量を予測する際,主に予測雨量と流出・河道モデルのセットで対応してきた.しかし,前者も後者も不確定性が高く,実運用に役立つ汎用的な取り組みに至っていない.特に,ダム上流域では水位観測所やモデル構築情報も少なく,物理モデルによる水位・流量予測は,ダム下流の河川管理区間で実施される洪水予測よりも難しい条件にある.一方,センサーや通信ネットワークの技術進歩や安価化によりIoT(Internet of Things)が急速に進みつつある.そこで,分布型流出解析モデルから構成されるデジタル空間上に疑似的にセンサー設置を想定してDigital Twinを実現し,深層学習モデルの一種であるLSTM(Long Short-Term Memory)を活用してセンサーの数や位置の違いによるダム流入量予測精度の向上程度を検討した.この結果,センサー数を増やすことで基本的に予測精度は向上するが,データ特性の偏りは予測精度向上に貢献せず,それ故に流域内のセンサー設置数にも限界があることを示した.逆にデータ多様性に留意してセンサー位置を決めることで予測精度向上に繋がることも示した.
水力開発には流況曲線が重要な指標となるが,流量観測には多大な費用と時間を要する.本研究では,限られた観測データから流況曲線を作成可能である確率論的流況推定手法を,国内の30流域に適用することで,その適合性を定量的に評価した.本研究では,この手法に必要な流量の減水パラメータを,河道網理論に基づいた手法(GRFM)と地質に基づいた手法(GRA)の2通りから求めることとした.GRFMとGRAによる流況曲線の適合性を比較した結果,GRFMの方が良好な適合性を示した.この事実は両手法間における流域特性の表現能力の結果と一致した.この要因として,GRFMの導出条件と対象流域の勾配の傾向が一致したことが挙げられた.一方で,低水部におけるGRAによる計算流量は観測流量よりも過大傾向を示した.この過大傾向の改善には,流域貯留量を基底流出成分として扱うことが有効であると示唆された.
化学工学やプロセス工学におけるシステム思考,近代日本の劇的な森林変遷の様子から発想を得たことで,過去最大140年間の気象観測情報と土地利用変遷の情報に基づいて,多摩川源流域における森林構造の歴史的変遷に伴う水収支の推計を試みている.
博士課程で培われた感性は,たとえ今後研究職に就かないとしても,貴重なものであった.しかし,それは必ずしも博士課程に進まなければ得られないものではない.修士の学生だって気持ち次第で得ることはできる.そのカラクリを紹介する.