飲用水及び生活用水の確保は地震災害時の最重要課題の一つである.現在,日本各地で水道施設の耐震化が進められているが,それを補完する手段の一つに災害用井戸の整備がある.災害用井戸に関する既存研究は個別事例の紹介に留まっており,広域的な普及度の調査が不十分だった.そこで本稿では全国20の政令指定都市における災害用井戸の現況を調査したうえで,2016年の熊本地震での経験から仮説的に導出した基準を用いてそれぞれの都市の災害用井戸制度の充実度評価を行った.その結果,災害用井戸が導入されているのは12の政令指定都市に留まっていること,導入済みの政令指定都市のうち千葉市,横浜市,川崎市,相模原市,名古屋市,熊本市の制度が比較的高い充実度をもつことを明らかにした.そしてその現況調査から災害用井戸の更なる普及の必要性,災害用井戸の維持に向けた環境政策統合,他の補給水利との連携強化という新たな課題を提示した.
滞留時間は水循環研究における中心概念の一つとされるが,しばしば類似する用語との間で混乱が見られる.本稿では,滞留時間に関する諸概念を再検討し,各用語の定義や様々な水文システムにおけるそれらの特徴を示す.そのうえで,「滞留時間」という用語を「入れかえ時間(=慣用滞留時間)」「年代」「平均年代」「通過時間」「平均通過時間」といった用語の総称として用い,数値を示す際にはこれらの区別を明確にすることを推奨する.また,推定方法と概念・用語の対応関係を明らかにし,推定結果を解釈するうえでの注意点について述べる.最後に,滞留時間研究における今後の方向性として,トレーサーと数値モデルの複合利用,ならびに簡易かつ定義が明確な滞留時間指標の適切な選択と多面的応用,の2点を強調する.
タイ国では2018年12月に新しく水問題を俯瞰的に扱う水資源法が施行され,同時にタイ国家水資源マネジメント戦略20年(2018-2037)も発表された.本稿では,新しい水資源法の要点と同国の今後の水資源マネジメント戦略について報告する.
相性が良い研究を組み合わせることで今までなかったような情報を創出できるが,その一方,相性が良くない研究同士の組み合わせは何を生むのだろうか?筆者のこれまでの研究を振り返って考えてみる.
研究において,感覚的・曖昧であることは好ましくないかもしれませんが,これらは研究の可能性や幅を残すことにもなると思います.ただ,最後には本質を捉えて理論づけを行うという一連のプロセスがとても大事だと感じています.