気候変化の影響評価においては気候モデル出力値のバイアスを適切に処理する必要がある.本総説では適切なバイアス補正の実施に資するべく,バイアス補正の手法選択や各手法を用いる上での留意点について整理した.第1部となる本稿ではバイアス補正に関連する既往の研究を概観し,手法選択の基礎となる情報を整理した.まず,多くの場合バイアス補正と共に気候モデル出力値の後処理として行われるダウンスケーリング手法について述べ,本稿で扱うバイアス補正の範囲を明確にした.その上で,バイアス補正を利用することなく目的とする情報を得る事例を説明し,バイアス補正が必要かどうかを検討する重要性について述べた.バイアス補正には対象とする変数を直接補正する方法と,対象とする変数を得る物理的な過程を補正する方法がある.両者の特徴について述べると共に,適用例が多い直接補正する方法を対象として,これまでに国内外で提案された様々な手法を特徴により分類し,それぞれの長所と短所について考察した.また,マルチアンサンブル実験結果のバイアス補正やバイアス補正手法の検証と評価などの観点から,バイアス補正の課題についても考察を行った.
観測を予測と確率的にマージするデータ同化は気象分野で広く利用され,また水文分野での利用も進んでいる技術である.一般にデータ同化では3次元的状態を1次元にdumpし,時点tと時点t+1での状態ベクトルが連結されたグラフィカルモデルで表される.しかしながら,気象よりもカオス性が低い (ネットワーク構造を持つ) 河川の場合これを時空間的に展開し陽的に誤差と情報を伝播するようなグラフィカルモデルを考える事が可能ではないだろうか.本稿では,時空間的なネットワーク構造を考慮した河川モデルへのデータ同化の足掛かりとなる点を議論する.この手法が理論的・実践的に既存手法と比べどういった優劣があるかは未だ議論が足りていない部分ではあるが,様々な意見を頂くきっかけとなれば幸いである.