森林の水源涵養機能を適正に評価するためには,山地源流域の湧水の涵養域や基岩内の地下水の移動プロセスを理解することが重要である.本研究では,地下水と湧水における溶存イオン濃度の主成分分析結果に基づいた水質の類似度評価手法を提示し,その手法を堆積岩山地源流小流域に空間的に高密度に設置された複数のボーリング孔の地下水サンプルと河道の湧水サンプルに適用することで,湧水の涵養域と河道への流出プロセスを推定した.その結果,源頭部の湧水は渓流直上流の斜面の地下水の影響が大きいのに対して,河道部の湧水は河道を下るにつれて側方の斜面の地下水の影響が大きくなることが示された.ゆえに,山地源流域には異なった湧水の涵養域が存在することが示され,同様の傾向は隣接した流域にも見られた.さらに,基岩内の鉛直断面においては,複数の帯水層が存在し,局所的に湧水と類似性の高い地下水が存在することが示された.このように,本研究では堆積岩山地源流の小流域における湧水の涵養域の詳細を明らかにし,基岩内部の地下水がきわめて複雑な水文プロセスを経て河道に湧出していることが明らかとなった.
貯留関数法の物理的根拠について,Richards式の鉛直一次元形を用いた数値計算により推定した.降雨イベントからの減水過程において計算される土壌柱からの排水量と総貯留量との関係は,貯留関数法に含まれる指数関係式で近似され,指数の物理的意味も特定された.この結果は,貯留関数法が斜面方向流ではなく,鉛直不飽和流を簡潔にパラメータ化していることを示している.
愛媛県西条市丹原町に存在する54のため池を対象に,全自治会の管理者を対象とした聞き取りおよび現地調査を行い,同地域におけるため池管理状況や課題について調査した.現在,農業に主要な役割を果たしているため池は,ため池台帳記載の2割程度であった.その主因として過疎化による耕作放棄や麦や野菜への転作による水需要減などの影響があることが明らかとなった.不要なため池の中には積極的な廃止を行う例が確認できた.その一方で,環境維持や防火への期待から,草刈り等の必要な維持管理を行うことで存続させるなど,地域の重要な資産として扱われている例も確認できた.今回の調査ではため池の利用方法や維持管理方針,災害に対する危機感について,同一町内の自治会間でも明確な違いが確認できた.各自治会の地理的特性に基づく水利用可能性や,その影響を受けた水利用形態の差,需要の大小がそれらの違いに寄与していることが示唆された.ため池に関連する問題に関して,ため池の諸元や受益地,集水面積等のため池台帳から得られる情報に加えて,水利用形態や自治会の特色について考慮する重要性が示された.
中国山地分水嶺に接する山間部の広島県北広島町において,北広島町の気象モニタリングシステムの地上雨量データを用い,解析雨量の時間雨量の精度を検証することを試みた.その結果,解析雨量は地上雨量より多く,地上雨量と同様に解析雨量も高度が増すと多くなる傾向があった.また,2010年以前に較べると2018年の解析雨量の精度は若干良くなっており,これは羅漢山局CバンドレーダーのMP化の影響の可能性があると推測された.本研究によって山間部地域でありながら時間雨量の解析雨量が高精度であることが示唆された.解析雨量は,山間部の自然災害予測・避災においても有効的かつ実用的であると考えられる.