将来の気候変動の影響も考慮した大規模豪雨時に,下流側市街地の洪水緩和に寄与する田んぼダムの雨水流出抑制効果を検討した.まず,田んぼダムの流出抑制機能と畦畔越流を組み込んだ雨水流出モデルの妥当性を検証した上で,田んぼダムの効果を2019年台風19号の降雨を適用した数値計算により確認した.次いで,気候モデルにより推定された阿武隈川流域内4地点の現在並びに将来降雨を適用した計算を行い,水田水深や排水路水深の変動状況の比較から,気候変動に対する田んぼダムの有用性を定量評価した.結果として台風19号に対しては,田んぼダムにより排水路水深を0.10 m~0.16 m低下させ,流出ピークを60分遅延できることが示された.次いで,現在並びに将来降雨を適用した場合,現況の畦畔高では畦畔越流が生じ,田んぼダムの効果は必ずしも機能しなかった.これに対し,越流が生じないよう畦畔高を最大0.42 mまで嵩上げした場合,将来降雨適用時にも田んぼダムにより排水路水深の上昇が抑えられ,水害リスク軽減に繋がる可能性が示された.以上より,田んぼダムは畦畔高の嵩上げと併せて行うことが適応策として効果的と考えられる.
気候変動問題において,途上国の中でも最も重要な鍵を握る中国とインドは,国際社会にいかなる公式情報を発信しているのか.本稿は,気候変動による両国での水資源への影響について,国連気候変動枠組み条約体制の下で,条約事務局に提出している国別報告書と隔年報告書を読み解いた.両報告書は,中国とインドでの人口増大や経済発展による水需給の逼迫状況が,気候変動によりさらに悪化している状況を詳細に記載している.気候変動による水資源の影響として最も著しいのが,洪水と旱魃であり,両国とも具体的な数値を挙げて国際社会に訴えている.水資源のデータはかつて,機密情報とも捉えられ慎重な扱いが必要とされていたが,両国が積極的に情報を開示する背景には,条約体制の下で途上国側の責任を果たすことで,歴史的責任がある先進国側の約束履行を促す意図があるとみられる.
過去20余年にわたり,気候変動とその社会への影響に関する膨大な予測情報や知見が創出されてきた.しかし,これらの予測情報や知見が国・地方公共団体や事業者などに広く利活用されるようになるまでにはまだ様々な課題が残っている.そこで,気候予測と影響評価に関する研究に長く携わってきた著者らが現在見られる各種の障害や,解決の糸口について議論した.その結果,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティーにはそれぞれ業務の前提と他コミュニティーへの期待があり,それらの間にずれが生じていることが浮かび上がった.解決のためには,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティー間の協働が重要である.具体的には,予測情報や知見が創出される前の段階での相互の情報交換やすり合わせによるギャップの解消や,その実現のための制度や設備の整備が必要であることが示された.