本研究は日本各地における降水量標高依存性を評価することを目的として,一部地域において標高依存性が明瞭ではないことが報告されている梅雨期,類似した降水システムである秋雨期,局所的な降水量分布が見られ標高依存性が大きい台風及び冬季降水を抽出して解析を行った.年降水量から各降水システムを抽出した後に残る降水(降水システム抽出後)は日本全体で一様な分布を示した.また,降水システム抽出後の降水量は日本全体で標高依存性が認められた.これによって日本各地における標高依存性の違いを評価することが可能になった.降水システム抽出後では,近畿地方・瀬戸内地方・熊本県・宮崎県・東北地方日本海側及び太平洋側で標高依存性が認められたが,関東地方では認められなかった.県境に明瞭な分水嶺を持つ九州地方と東北地方では分水嶺の西側で標高依存性が大きく,東北地方日本海側は解析対象地域の中で最も大きく,宮崎県は最も小さい.日本の標高依存性は降水システムを抽出しても地域性が大きいことがわかった.
流域において高頻度かつ高密度の長期水質データを蓄積し,これを社会に公開することは,水循環過程の科学的研究の推進のみならず,持続的な水資源利用を考える上で極めて重要である.このようなデータは水循環モデルの精度向上に繋がり,目に見えない水循環特性の可視化は一般市民への理解促進になる.
著者らは,黒部川流域における水循環を明らかにするために,2011年3月~2021年3月までの10年間,毎月,黒部川流域全域における陸水の水質観測を実施した.本稿では,これらの観測結果を整理し,長期水質データセットを作成した.調査対象としたのは黒部川流域の陸水78地点である.冬季の立ち入りが困難な山間部などがあるため,地域毎に観測頻度は異なるが,下流域に広がる扇状地の陸水については毎月欠かさず観測を実施した.これらの観測データと観測諸元情報は,Web を通して利用制限を設けずに公開した.また,本稿では長期水質データセットを利用した著者らのグループによるこれまでの研究成果とデータセットの活用方法を紹介する.