アジアやアフリカの途上国などの洪水リスク情報の整備が不十分な地域で企業が事業展開する際は,グローバル洪水モデル(GFM)で作成した広域洪水ハザードマップが活用される.本報では企業実務で活用されている既存の広域洪水ハザードマップを比較し,それぞれ浸水域や浸水深の差異の要因をモデル構造や入力データに着目して分析した.その結果,低平地の浸水パターンは標高データの精度に左右されること,洪水防御情報の反映方法がGFM 間で大きく異なることが判明した.また,大きな湖に接する河川区間では背水効果,デルタ域では河道分岐の考慮が,それぞれ現実的な浸水域分布を得るのに必要なことが示唆された.これらの特徴を踏まえてハザードマップ選択のフローを用途ごとに整理した.全ての業種や目的に共通して利用を推奨できるマップは存在しない一方で,各マップの長所短所を一覧にすることで,ある程度客観的に使用すべきマップの優先順位を決められることが分かった.この知見は有償プロダクトを含む他リスクマップ使用を検討する場合にも拡張可能であり,企業実務において説明性の高い適切な浸水リスク評価を実施する上での基礎的な情報となりうる.
仙台市宮城野区新浜地域の地下水等の水質の特徴やその季節変化を把握するため,2018年12月から,水路1地点,地下水6地点(浅層地下水1地点,深層地下水5地点)で毎月調査を実施した.水質組成は,水路はNa-Cl型,浅層地下水は(Na+Ca)-HCO3型を示すが,共に溶存成分量は時期により変化しており,降水イベントの影響を受けていると思われる.一方,深層地下水はいずれの地点も時期による変化は殆ど認められずほぼ一定しており,溶存成分量は浅層地下水と比べて多い.沿岸に近いS-3ではNa-(Cl+HCO3)型を示し,またNa+とCl-濃度が他の深層地下水の地点よりも高いため,海塩混入による影響が及んでいると考えられる.その他の深層地下水の水質組成はNa-HCO3型で,相対的に滞留時間が長い水質の特徴を有している.δ18Oおよびδ2Hは,S-3では他の深層地下水よりも相対的に低い値を示しており,この結果はS-3の涵養標高は他の地点よりも高い可能性を示唆している.深層地下水4地点について,CFCs濃度を分析した結果,滞留時間の推定値はおよそ70年であることを把握できた.
国際社会はパリ協定で気温上昇を産業革命前比2 ℃未満に抑えると合意し,近年は脱炭素をキーワードとした目標が次々発表されている.脱炭素の実現は京都議定書に基づいたこれまでの気候変動対策に比べ遥かに野心的で社会構造の大転換が求められるが,企業が組織する経済団体からも反発ではなく脱炭素に協働するという発表が相次いでいる.本研究は,気候科学の知見・各国の経済政策・企業と投資家の取り組み・NGO等の活動に着目してこれまでの動向を調査し,どうして世界は脱炭素に向けて動き始めたのか?という背景を俯瞰的視点から明らかにする.文献調査の結果,気候科学の発展が国際合意に影響したことに加えて,企業に気候リスク情報の開示を求めるTCFD といった新たな気候変動対策ツールの整備が脱炭素の動きを後押していることが確認できた.また,民間企業でも気候リスク低減と経済的利益がTCFD等を通して結びつき,「気候変動対策はもはや社会貢献ではなく自己の存続のために必要」という当事者意識のパラダイムシフトが起きていることが示唆された.これらの気候変動対策をサポートする社会情勢の変化を背景として,世界は脱炭素に向けて舵を切ったと考えられる.
この10年間の洪水の多発と,それに伴う社会および研究の変化に触れつつ,社会を意識するようになった著者自身の研究テーマの転換を紹介する.洪水研究や研究テーマ一般の変化について,読者の何等かの参考になれば幸いである.