水文・水資源学会誌
Online ISSN : 1349-2853
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36 巻, 2 号
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巻頭言
原著論文
  • −2010年と2011年に新潟県で発生した土砂災害を例として−
    陸 旻皎, 小椋 崇弘, ZIN Thandar Tun, 岡 滋晃, 鬼束 俊一, 河村 直明, 山本 隆広, 込山 晃市
    2023 年 36 巻 2 号 p. 118-128
    発行日: 2023/05/05
    公開日: 2023/05/09
    [早期公開] 公開日: 2022/10/25
    ジャーナル オープンアクセス

     土砂災害の多くは降雨によって誘起された表層崩壊によるもので,甚大な被害をもたらすものも多くある.その発生リスクの評価は社会の安心・安全にとって極めて重要である.集中豪雨や局地的大雨の増加傾向が認められる温暖化時代においてその重要性は益々高まっている.累積雨量やその類似指標の代わりに,本研究では土壌水分欠損量,つまり雨水を受容する土柱の余力を使って,土砂災害の発生リスクの評価を試みた.まず,既存のルーチンデータ(定常業務として取得するデータを指す)で任意の,あるいはすべての国土数値情報3次メッシュで土壌水分欠損量を計算する数値モデルを開発した.そして,2010年から2011年までの2年間に新潟県内で発生した446件の土砂災害に対し,発生した3次メッシュごとにモデルを適用し,発災前後の土壌水分欠損量が小さくなって,つまり土柱が全層飽和に近づいていたことを確認した.土壌水分欠損量が土砂災害リスクの良い指標となりうることが示された.さらに,発災前後の土壌水分欠損量の最小値データから,その確率分布モデルが構築された.この確率モデルにより,災害捕捉率に対応する,警戒態勢を取る土壌水分欠損量のしきい値が簡単に計算できる.ある時点の土壌水分欠損量と将来数時間の短時間雨量予報との組み合わせで早期警戒を行う可能性が示された.

研究ノート
  • 陸 旻皎
    2023 年 36 巻 2 号 p. 129-138
    発行日: 2023/05/05
    公開日: 2023/05/09
    [早期公開] 公開日: 2023/01/19
    ジャーナル オープンアクセス

     ハイドログラフ減水部の分析,減水分析は降雨後に流域内に存在する水,特に地中水の動態を知るための伝統的な手法であり,流出成分の分離,各流出成分の流出過程のモデリングとパラメーター推定,長期の低水管理などに極めて重要である.しかし,減水には様々な要因が複雑に絡み合って影響を及ぼしており,減水分析の結果としての減水曲線あるいは減水式には高い不確実性があると言われている.本研究では,古くから指摘されている蒸発散の影響を考慮した減水式を導出し,減水定数そしてその季節変動への蒸発散の影響を示す.その上で季節変動する減水定数は,地質などの流域特性によって決まる流域固有減水定数と,強い季節性を有する蒸発散によって決定づけられていると考え,流域固有減水定数と各季節の蒸発散を推定する方法を考案し,合理的な値を推定できる可能性を示した.

技術・調査報告
  • 中村 駿太, 手計 太一
    2023 年 36 巻 2 号 p. 139-146
    発行日: 2023/05/05
    公開日: 2023/06/08
    ジャーナル フリー

     気候変動によるものと推察される洪水や干ばつによる人的・社会的被害の激甚化に伴い,貯水池運用の改善・高度化が喫緊の課題となっている.しかしながら,運用計画や運用の実態が不明である国や地域が多く,研究対象となりうる貯水池が限られているのが実情である.そこで著者らは,貯水池運用に関する技術向上や研究の推進,さらには現業の改善に寄与することを目的として,タイの33貯水池を対象に運用計画と運用実態をカタログ化し,公開した.本稿では対象貯水池のデータや情報について詳述するとともに,公開したデータセットを用いて運用の実態を分析した.その結果,週単位で計画放流量が規定されているにもかかわらず,多くの貯水池において計画とは異なる放流操作が実施されていることが明らかとなった.しかしながら,月ごとや年ごとの総量としては,概ね計画に近い放流が行われていることがわかった.また,雨期よりも乾期における運用の方が計画に則した運用が行われている貯水池が多い.さらに,雨期における流入量や乾期における貯水率が運用に影響を与えている可能性があることが示された.

  • 井手 淨, 村山 功志, 小山 和也, 平林 由希子
    2023 年 36 巻 2 号 p. 147-156
    発行日: 2023/05/05
    公開日: 2023/05/10
    [早期公開] 公開日: 2022/12/01
    ジャーナル オープンアクセス

     揚水規制により地下水位の低下と回復を経験した関東平野内陸部において,年周期的な変化の中に見られる,一時的な水理水頭低下時の水頭分布状況を検討した.検討にあたって1992年から25年間の埼玉県における地下水観測井の長期水位データを用い,水理水頭の長期変化,年周期性を確認した.その上で,類似する地下水位変動を有するグループでの区分や降水量の季節性,水理水頭と標高の関係より,浅層地下水の水理水頭を代表する観測井を抽出し,地下水利用量が多いと思われる6月の水理水頭の平面分布状況を確認した.その結果,利根川-荒川に挟まれた平野中央部で一時的な水理水頭の顕著な変動が確認でき,その要因として,平野周辺部からの地下水流入量低下の影響が揚水量の分布状況から示唆された.

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