水文・水資源学会誌
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37 巻, 3 号
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巻頭言
記念寄稿
原著論文
  • -事例解析-
    越田 智喜, 藤吉 康志
    2024 年37 巻3 号 p. 232-248
    発行日: 2024/08/05
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     レーダを用いた定量的降水量推定(QPE:Quantitative Precipitation Estimation)において0 ℃付近に出現するブライトバンド(BB)は過大評価域として知られており,BB領域を除去・補正してレーダ雨量計の精度を向上させるためには,BBの形成要因とレーダエコー特性を知ることが重要である.我々は札幌市で,高い時間・空間分解能を持つXバンド船舶レーダとマイクロレインレーダを用いた降水雲の観測を2013年~2019年まで実施した.その間,複数高度に同時に出現するマルチBBや,上下2本のBBに加えて上層のBBから下層のBBに向って斜めに傾くバンド状の強エコー域(傾斜強エコーバンド)も度々観測した.
     本研究では,2016年4月3日に出現した傾斜強エコーバンドの事例解析を行った.その結果,傾斜強エコーバンド内では下向き鉛直ドップラー速度の増加,レーダ反射因子差の増大,偏波間相関係数の減少が見られたことから,このバンドは融解粒子から構成されていることが示唆された.また,傾斜強エコーバンドは,南側の寒気と北側の暖気の収束域すなわち雨雪境界域において,融解粒子が寒気内の下層ジェットで流されることで形成されたことが明らかとなった.傾斜強エコーバンドの内部では,強風で流される過程で融解の程度により粒子が上下に振り分けられているとともに,上層BBで融解が終了した粒子が混在している.上層のBBは下層の0 ℃高度よりも上空にプラス気温の暖気が移流する温暖前線の接近時に長時間発生したが,下層のBBおよび傾斜強エコーバンドの形成には局地スケールの気象場が大きく影響していた.雨雪境界面の鉛直・水平多層構造の検出とQPEの精度向上にとって,鉛直分解能の高いレーダと粒子判別が可能なMPレーダを組み合わせたBB分布の詳細事例解析の蓄積が必要である.

研究ノート
  • 開發 一郎, 会田 健太郎, 浅沼 順, ウユンバータル ダンバラブジャ, 広瀬 望
    2024 年37 巻3 号 p. 249-255
    発行日: 2024/08/05
    公開日: 2024/08/29
    ジャーナル オープンアクセス

     宇宙航空研究開発機構(JAXA)の高性能マイクロ波放射計 2(AMSR2)のL2土壌水分プロダクツ(3.0版)の検証をモンゴル高原試験地の地上土壌水分データを用いて10年(2012年から2021年)に渡って行った.その結果,AMSR2土壌水分測定の精度はRMSE(二乗平均誤差)で0.025から0.063(m3/m3)であり,バイアスは0.011から-0.051(m3/m3)であった.AMSR2の土壌水分測定の精度や安定性はLバンド開口合成式マイクロ波2次元干渉計(AMSR2より深い土壌水分を特定できる)を搭載しているSMOS(Soil Moisture and Ocean Salinity)のL2土壌水分プロダクツ(700版)に劣ることはなかった.ただ,AMSR2のRMSEやバイアスの値はSMOSよりも降雨の影響を受けていた.これらのことからAMSR2土壌水分測定の過小評価はAMSR2測定深度と地上土壌水分のずれに起因している可能性があると示唆された.2002年以来,地表面変化の研究や広域草地の日レベル土壌水分モニタリングにAMSR2のL2土壌水分プロダクツ(3.0版)は有用である.

技術・調査報告
  • 山口 莉歩, 濱 武英, 鈴木 友志, 中村 公人, 柿本 竜治
    2024 年37 巻3 号 p. 256-264
    発行日: 2024/08/05
    公開日: 2024/12/04
    ジャーナル フリー

     熊本県では,令和2年7月豪雨で甚大な被害を受けた球磨川流域において2021年から田んぼダムが試験的に導入されている.田んぼダムは全国的に普及拡大しつつあるが,田んぼダムによる排水抑制効果の観測例はまだ少ない.本稿では,球磨郡湯前町で実施された機能分離型田んぼダムを調査し,実際の降雨イベントで得られた田んぼダムの排水抑制効果を定量的に評価した.2021年と2022年の2年間,田んぼダム圃場2筆と慣行圃場1筆において現地水文観測を行った.測定項目は,降水量,圃場からの排水流量および湛水深である.また,水収支式と運動方程式を用いた数値モデルによる計算で排水流量を求めた.2022年の主要な降雨イベント(降雨強度の最大値が15.5~30.0 mm h-1)において,田んぼダム圃場からのピーク排水流量は,慣行圃場に比べて46 %~80 %低減された.ただし,田んぼダムの排水抑制効果は降雨イベント初期の湛水深に左右されることが示された.

論説・評論
  • 風間 聡, 原田 守啓, 堀 智晴
    2024 年37 巻3 号 p. 265-269
    発行日: 2024/08/05
    公開日: 2024/08/28
    ジャーナル オープンアクセス

     人口減少の激しい地方の中小河川の抱える問題を整理し,その解決策を考察した.地方の管理すべき河川延長は長く,全ての中小河川において直ちに整備することは不可能である.また,河川管理に費やす人材の制約も大きい.これらに起因した問題例を複数挙げ,人口減がもたらす河川の問題を指摘した.人口変動のデータを分析し,東北地方の人口ゼロの河川長が加速していることを示した.人口ゼロの河川を広く持つ県は東北,中国四国,九州地方に多い.これらの状況から河川管理を放棄する「川じまい」を提案し,そのタイミングと方法についてそれぞれ3つに区分し,区分毎に費用を中心に川じまいを考察した.川じまいを進めるために,行政が流域または河川について管理する/管理しない場所を差配すること,地域に適した河川管理を立案できる人材を育成すること,限られた人材を生かすために治水,水循環,水資源,水環境など包含した水の専門家を育成すること,が必要である.また,ハード,ソフトとも一石二鳥,三鳥を生むような政策が必要性であり,そのためにも部局,産官学,NGOの壁を越えた協働が望まれる.

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