田沢湖は,秋田県東部に位置する日本で最も深い湖である.2015年から2017年に,田沢湖の湖水の水温,pH,化学成分濃度について地球化学的観点から調査を実施した.これらの結果と,中和処理施設稼働以前の1989年の田沢湖の水質の分析結果(組谷ほか,1989)との比較を行ない,中和処理施設稼働前後での湖水の地球化学的変化を検討した.
田沢湖湖水の深層から浅層におけるpHは,中和処理施設稼働以前の1989年には4.6~4.7であったが,中和処理開始後の2016年から2017年にかけては5.0~5.3の範囲にあり,0.5程度中性側へ変化した.湖水中のSO42-やAlなどの濃度は,1989年よりも2017年のほうが低くなったが,一方,Ca2+濃度は深層から浅層まで上昇した.このCa2+濃度の上昇は,1990年から開始された現在の石灰石と酸性温泉水の中和処理の結果,田沢湖に導入される玉川河川水のCa2+濃度が高くなったことによる.この深層から浅層までの田沢湖湖水のCa2+濃度の上昇は,鉛直方向の湖水混合が起きたことを示し,適切な水を田沢湖に導入することにより,自然の湖水混合メカニズムを利用して,田沢湖湖水の水質の改善が可能であることを示唆する.
地震などの災害がもたらす長期断水時の生活用水の確保は,災害対応の最重要課題の一つである.中山間地では発災後の生活用水源として渓流水の活用が可能であるが,渓流水を確保できる場の条件や水量の安定性の評価が重要となる.本研究では山地河川における流量分布と流域地形特性,水質分析から渓流水の災害時生活用水としての利用可能性を検討した.岐阜県西部の濃尾平野辺縁に位置する中生代堆積岩流域(平均流域面積:27 ha)の59箇所で調査を行い,40箇所の流水ありと19箇所の流水なし流域を確認した.流水あり流域の渓流流量は17~9,361 m3/日,湧水流量は2~432 m3/日であった.流域面積≧40 haかつ比高差≧500 mの流域では比流量は高い値を示し,ばらつきも小さくなるとともに,取水可能と判断される維持流量の全国平均値0.73 mm/日(8~2,574 m3/日)を超過していた.水質分析から維持流量を確保できる流域は岩盤地下水の寄与が大きく,安定した水源となると考えられた.山地流域の水文プロセスの把握は,災害時の分散型生活用水確保のみならず,持続的な地域の水資源管理の基礎的情報として活用できると考えられた.
名古屋開府以来地域の象徴である堀川は,自己流量を持たない人工河川であり,その水質改善は都市化と産業化が著しい大正期からの課題である.種々の方法のうち,流量増加による希釈は最も長年取り組まれ,その水質改善の効果は2007年から3年間の木曽川からの導水とその後2年間の観察でも確認され,その成果は市民レベルで今も引き継がれている.本稿では,この「社会実験」時の流量0.4 m3/sを目安としつつ更なる水質改善のため,農業水利施設を介して流量を確保する方法を,地域資源を活用した試案として検討した.木曽川から堀川に至る流れは,木津用水・新木津用水と連続性を保ちつつ古くから利用されており,また一部舟運利用の歴史もある.この試案は,流域治水における関係者の「協働」の実践例となりうる可能性を内包しつつも,様々な課題を伴うことも分かった.
樹木は細根と呼ばれる直径2 mm以下の根を通して土壌から水を吸収している.一方で,サンプルを得るまでにかかる労力の大きさから,細根の水吸収機能に関する研究例,特に実際の森林で行われた研究はほとんどないのが現状である.本稿では.森林において土壌に埋まっている細根を対象に研究を行うやりがいや苦悩について紹介する.