本研究では,流域治水の実現に向け治水政策の認知度を全国規模で明らかにすることを目的に,インターネットによるアンケート調査を実施した.近年,洪水被害が頻発化するとともに,今後,降水量が増加することが想定されているため,流域治水の取り組みは喫緊の課題である.アンケート調査の結果,水害が近年増えていると感じている人の割合は73.1 %であり,多くの人が水害のリスクが増加傾向にあると感じていることが明らかとなった.一方で,その対策にあたる流域治水の考え方は,全く知らないと回答した人の割合が約半数を占め,よく知っていると回答した人の割合は全体のわずか4.9 %であった.また,実際の流域治水のメニューについての認知度も低いことが明らかとなった.
確率雨量の推定には,「年最大値法」が常用される.しかし,解析期間が限られ,極端に大きい年最大値が含まれる場合,確率雨量や確率年の正確な推定に支障をきたす可能性がある.近年提案されたメタ統計的手法は,確率雨量の推定において,年最大値データではなく,日雨量データを用いるため,大きい標本サイズによる推定が可能であり,年最大値法と比べて安定性の高い推定が可能である.本研究では,日本全国の地上気象観測所における観測降雨データと,複合ポアソンモデルによる模擬降雨データを対象に,メタ統計的極値分布(MEV分布)および簡略化メタ統計的極値分布(SMEV分布)をそれぞれ適用し,確率雨量の推定精度を評価した.また,複数の日雨量確率分布を採用し,各確率分布の適合度が確率雨量の推定精度に与える影響を精査した.その結果,MEV分布とSEMV分布は,パラメータ推定の用いる標本サイズが異なるため,豪雨などの低頻度事象の標本サイズに差異が生じ,非超過確率が高い範囲の確率雨量の推定精度に影響を与えることが示された.また,標本サイズによる標本のばらつきと,日雨量確率分布の適合度との関係が,確率雨量の推定精度に影響することが判明した.
東京では,長期的に気温の上昇と相対湿度の低下がみられ,2010年代後半以降,一時的に枯渇した湧水のあることが報告されている.筆者たちが2005年以降観測を続けてきた東京都内の湧水のうち,氷川神社(品川区)でも2010年代後半以降,冬季(渇水期)の枯渇が頻発している.そこで本研究では,1972年4月~2023年12月における気象庁の地上気象観測地点「東京」の日降水量とポテンシャル蒸発量を入力とし,3段直列タンクモデルを用いて地下水流出量を計算した.2017年,2019年,2021年,2023年冬季といった氷川神社の湧水が枯渇した年は,地下水流出量の少ない時期に相当していた.1973~2023年では,2月のポテンシャル蒸発量に増加傾向がみられたものの(p < 0.05),同期間における1~3月の降水量と流出量には,危険率5%で有意な長期変化傾向はみられなかった.そのため,2010年代後半~2020年代前半には,1~3月の流出量が少なくなることが頻発したことにより,氷川神社の湧水が枯渇したと考えられる.すなわち,この現象は気候の長期変化傾向というよりは,年々変動という視点から捉えるべきである.
イランの国土はアルボルズ山脈とザクロス山脈によって分断されており,それぞれの地域が異なる背景に基づく水資源問題を抱えている.ザクロス山脈の南西側では本来水資源が豊富であるにも関わらず水質の悪化のために飲料水の確保に課題が生じている一方で,厳しい乾燥地帯であるザクロス山脈北東側では,他の流域からの送水により産業が支えられているが,新たな水の供給が更なる水需要を喚起するため,水資源問題の解決には至っていない.イランの水資源問題の解決に当たっては需要サイドの対策が求められており,中でも水資源の約9割を消費する農業分野の水利用の効率化は特に大きな効果を上げると考えられる.