水文・水資源学会誌
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巻頭言
原著論文
  • ―洪水氾濫シミュレーションを用いて―
    間宮 千皓, 中山 大地, 松山 洋
    2026 年39 巻2 号 p. 134-147
    発行日: 2026/05/05
    公開日: 2026/06/03
    ジャーナル 認証あり

     茨城県の久慈川沿いには江戸時代から洪水対策として水害防備林が設置され,現在までその姿を残している.しかし近年では,竹林の管理が行き届かず,治水上の問題が露見しつつある.本研究では,水害防備林の密生度について2種類のシナリオを作成した.そして,令和元年東日本台風(2019年台風19号)を対象として洪水氾濫シミュレーションを行い,水害防備林が洪水流に与える影響を定量的に示した.シナリオごとの氾濫規模や流速および流向を比較し,浸水リスクが高い常陸大宮市小貫地区について詳しい考察を行った.その結果,密生度が高い状態の水害防備林は浸水規模を拡大させることが分かった.また,密生度が高い状態の水害防備林は氾濫域での浸水を長引かせ,小貫地区内にある岩上集落の孤立状態が長時間化する恐れがあることが分かった.

  • 若松 駿, 山崎 大, 矢澤 大志, 浅野 友子
    2026 年39 巻2 号 p. 148-160
    発行日: 2026/05/05
    公開日: 2026/06/03
    [早期公開] 公開日: 2026/04/04
    ジャーナル オープンアクセス

     ステップ・プール構造に代表される複雑地形を有する山地渓流河川では,流れの空間変動が大きく,従来の水理モデルの適用が難しい.本研究では,現地観測と数値解析を統合することで,渓流における高解像度の流れ場の再現を可能とする手法を検討した.南伊豆市青野川上流の約12 m区間を対象に,横断方向10 cm,縦断方向20 cm間隔で60断面・約1000地点の河床および水面標高を測量した.スマートフォン搭載LiDARによる水面上地形と統合して高解像度三次元地形データを構築し,二次元水理モデルiRIC Nays2DHで水動態シミュレーションを実施した.観測流量と水面標高を用いて粗度パラメータを調整した結果,RMSE 3.3 cmで水深分布を再現し,ステップ部での急激な水位低下やプール部での減速域など,渓流特有の流況を良好に再現できた.測量密度を1/2および1/4に低下させた場合には再現性が顕著に低下し,RMSEも4.2 cmおよび5.9 cmに悪化した.これにより,高密度レベル測量とスマートフォンLiDARを組み合わせた観測手法の有効性と,複雑地形を対象とした水理シミュレーションへの適用可能性が示された.

技術・調査報告
  • 尾崎 昂嗣, 屋井 裕幸, 大西 和也, 向山 雅之, 笹川 みちる
    2026 年39 巻2 号 p. 161-168
    発行日: 2026/05/05
    公開日: 2026/06/03
    ジャーナル 認証あり

     国土交通省が推進する流域治水プロジェクト等において,雨庭が近年注目されている.NPO法人雨水まちづくりサポートでは,武蔵野市民・市職員らの協力を経て,むさしのエコreゾートの玄関横スペースに雨庭を設置した.この雨庭は雨水タンクが満水になるとオーバーフローした雨水が雨庭に供給される構造となっており,雨水タンクと雨庭が連携して流出抑制効果等を発揮することが特徴である.本論では,1年間にわたるモニタリングを通じて当該雨庭の流出抑制や雨水浸透のほか,水分保持特性,雨水タンク取水装置の効率等を定量的に評価した結果を報告する.屋根面の降雨に対して71.2%の流出抑制効果があったこと,2024年6月1日から2025年5月31日の1年間で54.5 m3(雨庭のエリアおよび当該集水範囲に関する推計値)の雨水が地中に浸透したことが分かった.また,雨庭表層が雨庭ではない場所と比べてpF値が大きくなる頻度が少ない,言い換えると乾燥しにくい傾向にあったこと,植物の成長を雨庭の土中水分が支えていること等が分かったことで,雨庭の植栽基盤の水分保持特性を明らかにした.

  • 都築 航太, 手計 太一, WONGSA Sanit, 星野 佳太, 清水 康行
    2026 年39 巻2 号 p. 169-175
    発行日: 2026/05/05
    公開日: 2026/06/03
    ジャーナル 認証あり

     2024年,タイ北部では広域的な豪雨が相次ぎ,複数の県で深刻な洪水被害が発生した.なかでもChiang Rai県最北端のMae Sai市では,都市インフラや住民生活に大きな被害が及ぶ水害が繰り返し発生した.著者らは2024年11月に現地調査を実施し,市長への聞き取りを通じて,洪水被害の実態と復旧・復興の課題を整理した.解析の結果,8~10月の降雨量は平年の約1.8倍に達し,洪水被害を大きくした要因であることが確認された.一方で,上流域での土地利用変化も顕著であり,保水機能低下等の観点から被害を拡大させた背景要因の一つであることが示唆された.調査を通して,市内では堤防の多くが決壊し,さらに河川区域内に住宅が多く立地していたことが,被害を深刻化させたことが明らかになった.このような被害を受け,堤防新設,排水施設改修,河川区域内建築物の撤去を含む復旧復興計画が策定されている.本事例は,自然要因と人為要因が複合的に作用した洪水の典型であり,さらに,国境を越える未観測流域における課題を示している.

記録・報告
発想のたまご
  • —サントリーでの土木系出身研究員が見た境界と越境—
    綿貫 翔
    2026 年39 巻2 号 p. 186
    発行日: 2026/05/05
    公開日: 2026/06/03
    ジャーナル 認証あり

     土木出身の筆者は,企業で水リスク評価や国際認証対応に携わる中で,河川・地下水・森林へと対象が広がるほど,分野間に「座標軸」と「解像度」の違いが隣接している現実に直面した.とりわけ「地表」や「上下流」といった基本概念でさえ,スケールと定義のズレが専門家同士の対話を難しくする.可視化された流体としての河川と,不可視な不確実性を抱える地下水・森林土壌を同じ物語として編み直し,社会や実務の判断に資する形へ翻訳していく―その越境の積み重ねの先に,水文・水資源学への新たな道があるのではないか.

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