本研究では,針葉樹の単木について,樹冠通過雨と樹幹流の水量と水質の空間分布・時間変動を,実際の降雨時の観測とモデルシミュレーションにより検討した. 観測結果からは,樹冠通過雨量は平均的には幹近くで少ないが,ばらつきが大きく林外の十倍もの量になる点もあること,地上到達水量の大きな降雨ほど地上到達率は大きく,水量のかたよりは小さくなること,樹冠は酸性雨の酸性度を弱めること,樹幹流は降雨よりも溶質量が多いが,酸性度は降雨より弱いときも強いときもあること,樹冠通過雨ではC1-, NO3-N, SO4-S, NH4-Nの量が降雨よりも多いこと,樹冠通過雨の濃度は幹近くほど高いこと,樹冠通過雨は時間がたつほど濃度が下がることを示した. さらに,樹冠通過雨量の空間分布については,樹冠の広がりと深さが遮断と移動に与える影響を考慮する「樹冠水移動モデル」を用いて検討した.その結果,樹冠通過雨量の空間分布は遮断と外方向の移動を仮定すれば再現できることを示した.
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