土地改良事業の外部経済に関する効果は,平成6年から算定に取組み,平成19年以降は,環境・景観保全効果や都市・農村交流促進効果などの事業による多面的機能の発揮に関する効果等において,仮想市場法(CVM)やトラベルコスト法(TCM)等の手法を導入している。環境・景観保全効果は,事業により整備する土地改良施設を周辺の景観や環境との調和に配慮した構造とすることにより,農村景観や自然環境が保全される効果であり,仮想市場法により算定している。また,都市・農村交流促進効果は,農業用ダムや農業用用排水路等の新設,改修により生ずる水辺環境等が,レクリエーションの拠点として地域住民への憩いの場を提供し,または観光資源として利活用される効果で,トラベルコスト法を用いて算定している。
平成19年3月,「土地改良事業の費用対効果分析に関する基本指針」および「新たな土地改良の効果算定マニュアル」が取りまとめられた。その中で,外部経済効果の評価に係る手法である仮想市場法(Contingent Valuation Method:CVM)が導入された。CVMとは,景観・環境等の市場が存在しない財の価値について,アンケートを利用して環境改善等に対して支払っても構わない金額(支払意志額(Willingness To Pay:WTP))を直接尋ね,その結果から環境の価値を評価しようとする手法である。本報では,平成20年度にCVMを用いて景観・環境保全効果を算定した事例の概要を報告する。
外部性の価値は外部性を勘案した政策を実行する際に少なくとも理論上はきわめて重要な係数となるにもかかわらず,計測値がそのまま直接的に実際の政策に適用されるケースは多くない。外部性の価値計測(あるいはより一般的に公共財の価値計測)に係る回避できない不確実性が存在することから,政策立案者にとっては,計測価値そのものを政策の直接的な係数にすることを躊躇することが大きな原因のひとつと考える。本報では,価値計測に伴う不確実性が,農業の外部性に対応する政策を選択するうえで重要な要素のひとつであること,価値計測手法の精緻化が政策選択肢の幅を広げることにつながることについて議論を行った。
仮想状況評価法(CVM)は,さまざまな外部経済効果を算定でき,農業農村工学分野においても広く活用されている。事業評価の点からCVMを解釈すれば,事業があるときとないときの状況を設定し,両状況の環境の違いを貨幣単位で評価する手法と表現できる。他方,環境経済評価手法の点からはCVMの発展系と位置付けられる選択実験は,選択型コンジョイント分析や選択モデリングとも称され,1回の調査で複数の状況の環境評価ができるという特徴から,さまざまな分野で適用されている。本報では,土地改良事業を含む農業農村整備事業の外部経済効果の算定に選択実験を活用するための基本的な手順のうち,統計処理部分を中心に紹介する。
本報では,アラル海流域にあるウズベキスタン内のカラカルパクスタン自治共和国に焦点を当て,塩害の現状を報告し,地球温暖化による農牧漁業への影響について考察した。そして,現在実施されている塩害やアラル海の縮小に端を発した環境破壊への対策事業等を事例に,地球温暖化への備えについて検討した。その結果,地球温暖化に伴って,水不足の深刻化や塩害進行の加速化,アラル海の干上がった湖底からの飛塩の増加等が生じることを予測した。これらの影響に対して,水不足への備え,塩害防止対策の推進,湖沼の縮小への適応,セーフティネットとしての地域資源の活用等の重要性を示した。
現在,中国の草原地域では過剰耕作等の人為的要因および気候変動等の人為的要因によって草原の荒廃が進んでいる。これに対し,中国政府は荒廃の拡大を防ぐよう耕作をやめ草原に戻す措置や放牧の禁止,輪番制への移行等による草原を回復するなどの取組みを進めているところである。本報では中国の草原の荒廃状況およびそれへの対策を紹介し,これらの取組みの意義について報告する。