農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
78 巻, 2 号
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  • 水谷 正一, 南 雄策, 船川 はるか
    2010 年 78 巻 2 号 p. 117-120,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    順応的管理のモニタリングでは生物の生息分布と生息密度を把握することが基本であるが,それだけでは不十分であり生息環境の価値を評価する必要がある。生息環境の価値,すなわち環境価値とは「実際の生息場が有するポテンシャルとしての生息環境の価値」のことである。本報では環境価値の評価方法としてHEP(Habitat Evaluation Procedure,ハビタット評価手続き)を用い,実際にミティゲーション対策を実施した圃場整備事業に適用した。具体的にはタモロコを対象種として,事業前後における環境価値の評価結果を示した。また,その結果からほ場整備事業の実施に伴って低下した環境価値を高めるための維持管理方法について解説した。

  • 守山 拓弥, 藤井 伸一, 田村 孝浩
    2010 年 78 巻 2 号 p. 121-124,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    「地域住民主体の順応的管理」を検討するため,住民が生態系保全活動を行ってその成果を地域振興に活用している地域の一つ,栃木県宇都宮市逆面地区「逆面エコ・アグリの里」についてその取組みを報告した。同地区では,フクロウ営巣ネットワーク活動を始めカエル蓋の設置等,生物多様性の保全を目指した順応的管理が実施されており,これらの活動には生物多様性保全のサイクルに加え,対象生物の存在価値や利用価値から地域住民の保全動機を高めるというサイクルがあることが確認された。また,活動の活性化には,専門家との連携や補助事業などの支援,先進地区からの活動の考え方やノウハウの伝播なども重要な役割を果たすことが挙げられた。

  • 齊藤 孝則, 坂本 晃一, 浜口 寛
    2010 年 78 巻 2 号 p. 125-128,a1
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    黒潮フルーツライン区域には絶滅危惧種のナガレホトケドジョウが生息し,保全が課題である。そこで水路施工に際し遡上可能な魚道構造把握のため,A予備実験で遡上可能高さ,B遊泳実験で遊泳能力,C遡上実験で魚道内緩急箇所の必要性,D構造実験で遡上率の最も良い隔壁形状を求め,これら条件を満たす魚道施工後,モニタリング調査で遡上を確認し,施設構造の有効性を実証した。モニタリング調査結果や環境情報協議会委員の意見を踏まえ,順応的な管理ができるように,完了後モニタリングマニュアル(仮称)を事業所で作成し,完了後の維持管理予定である地元の特認団体に引き継ぐ予定である。これらの事を報告する。

  • ―岩手県一関市門崎地区の事例―
    広田 純一, 東 淳樹, 南雲 穣, 佐藤 貴法, 金田一 彩乃
    2010 年 78 巻 2 号 p. 129-134,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    岩手県一関市川崎町門崎地区は,南日本集団のメダカの北限に近い水田繁殖地として重要な場所であり,本地区の圃場整備に当たっては,調査・計画・設計・施工・管理の各段階で可能な限りメダカの生息への配慮を行ってきた。またメダカ配慮施設の施工後にも継続的なモニタリングを続け,それ基づいた施設とその管理方法の改善を行ってきており,いわゆる順応的管理の事例として貴重な知見を与えてくれる。本報では,門崎地区における継続的なモニタリングの結果をもとに,圃場整備後もメダカの生活史が完結しうる生息環境が実現されているか,実現されていないとすればどこに問題があったのか,問題点の改善のために何を行ったかという一連の問に答えることを通じて,本地区における順応的管理の実際を紹介する。結論的に言えば,生態系に配慮した圃場整備は,本地区で実施されたような順応的管理を組み込んではじめて,所期の目的を達成しうると言ってよい。

  • 川瀬 政彦, 伊藤 知昭, 辻上 正道
    2010 年 78 巻 2 号 p. 135-138,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    三重県桑名市の嘉例川地区は,平成12年に経営体育成基盤整備事業に着手した際に,土地改良区,市の天然記念物保護部局,県が一体となり,「ヒメタイコウチ」や「ホトケドジョウ」等の保全を目的とした「環境との調和に配慮した」施設を整備した。工事完了後の生態系保全施設は,地元保存会が管理するとともに,生物にとって更に快適な生息環境となるように施設の微調整を行う「順応的管理」を継続して実施してきた。また事業実施後には,『嘉例川地区簡易モニタリングマニュアル』を策定して住民参加型モニタリングを実施するとともに,水源林となっている上流の里山保全にも,取り組もうとしている。

  • 田村 孝浩, 佐々木 努, 太田 恒治
    2010 年 78 巻 2 号 p. 139-143,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    農業農村整備事業が生物多様性や自然再生に与える影響は少なくない。順応的管理に基づいた地域マネジメントのあり方を検討するための基礎として,宮城県大崎市北小塩地区における事例分析を行った。具体的には,事例地区における環境配慮に伴う実践活動を順応的管理の視点から評価し,その課題と解決方策について考察を行った。その結果,保全目標の曖昧さや設置効果に対する先入観,モニタリング結果の共有に関する課題が明らかとなった。またその改善方策として,掛かり増し経費の取扱いやフィードバック管理について議論を行うこと,段階的施工や参加型モニタリングについて具体的な検討を行うこと,伝統的技術である“見試し”について再評価することの重要性を指摘した。

  • 白谷 栄作, 久保田 富次郎
    2010 年 78 巻 2 号 p. 145-148,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    農業(水稲)用水の水質基準が策定されて40年となった。この間,日本の水環境を取り巻く状況は大きく変わり,かつて問題になった農業用水の有機性汚濁や重金属汚染による農業被害は減少している。一方,灌漑農業は,作物や水管理方法が多様化し,それとともに水源,送配水および散水施設も変化している。また,ダム,ため池等閉鎖性水域の水源では富栄養化が依然進行しており,水環境の保全は,農村環境の保全や水資源の有効利用の面からも重要な課題となっている。本報では,農業用水質基準が策定された経緯を振り返り,今後の農業農村において要求される農業用水の水質保全のあり方を考えるためのいくつかの課題を提示した。

  • 工藤 庸介
    2010 年 78 巻 2 号 p. 149-153,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    農林水産省が策定した「水とみどりの『美の里』プラン21」をうけ,農業農村工学会は,平成15~18年度に「水とみどりの『美の里』づくりへの対応準備会」を,続く平成19~20年度に農村景観研究小委員会を設置し,農村景観の保全・形成に関する研究に取り組んできた。本報は,農村景観の捉え方について,小委員会で交わされた議論の内容を報告するものである。まず,既往のさまざまな景観研究はどのような体系を形作っているのか,そして「良い農村景観」の概念にはどういった要因が関係しているかについて見解をまとめ,農村の循環の全過程の視覚的な表れとして農村景観を捉える考え方を提示した。次に,これらを踏まえ,平成20年度の大会講演会にて開催した企画セッションでの議論を総括し,農村景観の保全・形成に当たって農業農村工学がなすべき課題について考察した。

  • 内藤 馨, 西澤 朗, 深谷 康, 西村 竹生
    2010 年 78 巻 2 号 p. 155-158,a2
    発行日: 2010年
    公開日: 2019/01/08
    ジャーナル フリー

    滋賀県にある野洲川の基幹水利施設である石部頭首工は,施設の完成後約半世紀が経過し,施設の老朽化等,洪水時の管理に係わる重大な機能低下が生じていた。このため,国営総合農地防災事業「野洲川沿岸地区(一期)」(平成11年度~18年度)により,頭首工の全面改修を行い,多自然型(緩勾配型),アイスハーバー型,傾斜導壁型の3タイプの魚道を設置した。本報では,特に事業の環境配慮という観点から,新頭首工の魚道の設計と完成後の魚類調査について報告する。

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