(独)森林総合研究所森林農地整備センターは,昭和30年の発足以来半世紀以上にわたり,わが国の農用地開発や畜産基地建設に大きな足跡を残してきた。平成25年度末に,現在実施中の農用地の総合整備と中山間地域における農林一体の整備にかかる事業の完了をもって,その役割を終える。現在,コンプライアンスの徹底と事業の適正な実施,事業を通じた地域貢献を前面に掲げて業務に取り組んでいる。本報では,55年に及ぶ組織の変遷と事業の展開を4期(第一期:農地開発機械公団,第二期:農用地開発公団,第三期:農用地整備公団,第四期:緑資源公団~現在)に分けて振り返り,農業振興や地域貢献に果たしてきた役割や実績を総括して紹介する。
根室市,別海町,中標津町に広がる根室東部地域は明治以降140年間という短期間に開発され,わが国最大の酪農地帯として発展してきた。本地域は冷涼で夏には日照不足,冬は地下凍結も著しく,地力も弱い。このようにきわめて厳しい立地条件下の中で,数度にわたる基盤整備等により発展してきた。本報では根室東部地域のこれまでの開発と歴史について農地開発機械公団および農用地開発公団がどのように関与・貢献してきたかとういうことも含めて紹介するものである。
国土を有効に利用し開発するための基本方向を示す「新全国総合開発計画」が昭和44年に策定された。この計画において定められた大規模開発プロジェクトの構想の中に,北上山系地域を含む3地域が大規模畜産のための基盤整備地域に位置づけられた。この計画に沿って北上山系地域の開発が進められ,農用地開発公団が実施主体となる「広域農業開発事業」により,農業経営の近代化や経営規模拡大を図る基礎的条件の整備がなされた。本報告においては,北上山系地域における開発を担った広域農業開発事業について,導入された経緯や全体的な実績,さらにこの事業が地域を活性化させる原動力となった葛巻町を事例として,地域振興とのかかわりについて示すものである。
本報告では,群馬県北部の利根沼田区域農用地総合整備事業で平成4~15年度に整備された農地や農業用道路に関連して,現在波及的に発現している効果を農作業受委託の進展,農産物供給基地としての機能強化,都市と農村の交流の進展という視点で紹介した。本区域では,国営かんがい排水事業赤城西麓地区を始めとして各種県営事業など,農業農村整備事業が本事業と並行して行われており,上述の効果はそれらの事業の成果と相まって発現したものであり,本事業で整備した農地や農業用道路は地域の活性化を図るための基盤の一つとして有効に機能しているものと思われる。
阿蘇地域の牧野は古くから牛馬の放牧や飼料用の草刈り場として利用されてきたが,粗放的な利用に留まっていたため,森林農地整備センターは国の農業政策に基づき,阿蘇地域を国の重要な畜産基地として畜産農家の経営規模の拡大と経営の体質強化を図り,肉用牛生産の低コスト化,畜産物の生産の安定供給と農業所得の増大を目的として,阿蘇郡旧12カ町村にまたがる約9,300haの広大な原野を開発整備し,主に肉用牛の飼養のための共同利用牧場の建設を行うとともに基幹農道の整備を行った。本報では,事業により開発整備した草地の有効利用,新たな低コスト肉用牛の生産技術,草原の維持・再生に向けた新たな取組み,農業用道路の波及効果,およびその後これらの開発をベースに当センターが実施した特定中山間保全整備事業が地域振興に果たしている役割について報告する。
近年,(独)水資源機構が管理する水路施設において,PC管の破損による大規模な出水が生じている。PC管の破損の原因となるカバーコートモルタルの薄肉化は,PC管の外周部において進行するため,管を掘り出さない限り劣化状況の確認は困難である。そこで,超音波を用いた管内からの非破壊調査にて,PC管カバーコートモルタルの健全部の厚さの測定手法について検討し,実際の現場における適応性の確認を行った。本検討で示した超音波法により,PC管のカバーコート厚を評価に必要な精度で測定できることが確認された。本手法は,突発的な破裂のリスクを含み維持管理計画が非常に立てにくいPC管の健全度評価を行う上で有効な手段となると考えられる。
農業水利施設の機能保全では,それぞれの施設で異なる構造形式,供用される環境条件に応じた変状発生パターンに基づいて機能診断が実施され,施設特有の変状に即した対策工法が実施されなければならない。そのためには,表面変状だけでなく内部変状を的確に見極める変状認知力を持つことが必要になる。本報では,寒冷地にあるRC開水路を対象に,凍害による内部変状の発生パターンを採取したコアから考察するとともに,現地踏査(概査)でこの内部変状を推測する手段を述べる。また,RC開水路の凍害ひび割れ発生形態に基づいた対策工法について提言を行う。
二ツ石ダムは,国営かんがい排水事業「鳴瀬川地区」の水源施設として築造した中心遮水ゾーン型ロックフィルダムであり,大崎市ほか1市5町の水田9,736haへ用水の安定供給を行うものである。ダムの基礎地盤は,比較的変形性は大きいものの難透水性の凝灰岩類や強度は高いが被圧地下水を有する流紋岩層など複雑な地質構造を形成している。このため,この凝灰岩層を天然ブランケットとして活かして基礎処理費用を節減するとともに,近傍から得られる土石材料を有効活用してコア幅を厚くするなど安全性の向上とコスト縮減に努めた。本報では,この堤体および基礎処理設計上,まれな事例として紹介するとともに,地質的特徴を踏まえた試験湛水時の安全管理等について報告する。
岩堂沢ダムは,大崎市ほか3町の水田10,425haを受益とする国営かんがい排水事業「大崎地区」の水源として建設された重力式コンクリートダムである。本ダムを設置した大谷川支流岩堂沢の地形はきわめて急峻であり,最短経路となるダム下流からの既設道路はなく,また上流からは分水嶺を越える遠距離ルートの林道のみであった。このため,計画時点から施工時の資機材搬入方法やダム完成後の維持管理方法を重要課題の一つとして検討を重ねてきた。本報では,ダムの計画,設計,施工時における主要な技術課題を紹介するとともに,ダムサイトへの進入路線計画,施工段階での資機材搬入計画の比較検討,ならびに維持管理段階における考え方等について報告する。