愛知用水は,わが国最初の総合開発事業として昭和30年度から昭和36年度に愛知用水公団(現(独)水資源機構)が建設し,通水以後,愛知用水地域に農業用水および都市用水を供給し,農業をはじめ各種産業の発展に大きく貢献してきた。この愛知用水は,平成23年の9月で通水を開始してから50年を迎えることから,この節目の年を迎え,いま一度,愛知用水事業および愛知用水二期事業の建設において培ってきた主要な技術をとりまとめ紹介する。
愛知用水の水管理システムについては,大きく分類すると二つに分けられる。一つが水源の水管理システムであり,もう一つが幹線水路の水管理システムである。このうち,水源の水管理システムでは,水利用の歴史の長い木曽川においては後発の水利使用者であるので,関係機関と調整を行いながら牧尾ダム,阿木川ダム,味噌川ダムといった主水源を管理している状況を報告する。また,幹線水路の水管理システムでは,老朽化した水路への対応という目的以外に,時代の経過によって明らかになった課題の解消も図るべく実施された愛知用水二期事業において見直された施設と水管理システムについて,その運用状況などを報告する。
戦後混迷期からの国家復興へ向けた,当時の至上命題である食糧増産を背景に,農業用水を中心とした多目的な総合開発事業として計画された愛知用水は,愛知県のみならず日本の発展の原動力となるとともに,県土の均衡ある発展に大きく寄与した。通水前は大変な水不足で困窮していた本地域は,農業基盤整備の進展と相まって,労働生産性,土地生産性が高まり,多種多様で計画的な営農展開ができるようになった。また,名古屋南部工業地帯を中心とした工業の発展が,周辺地域の都市の発展にもつながった。本報では,この愛知用水がもたらした地域の農業および工業の発展について,水利用の変遷と併せて報告する。
愛知用水は,昭和36年の通水開始から半世紀の間,岐阜県中濃地域,愛知県尾張東部地域および知多半島地域の農地に農業用水を供給してきたが,度重なる渇水にも見舞われてきた。この間,水を無駄なく有効利用するため,水路施設の改築および支線水路のクローズド化,用水供給の集中監視制御化,水路で発生する余水の有効利用化,需要に合わせたきめ細かい配水などに取り組んできた。本報は,愛知用水が今まで行ってきた農業用水を有効に利用する取組みを紹介するとともに,異常気象への対応など,今後,農業用水の供給面において想定される課題を展望するものである。
工事着手から,わずか5年で完成された愛知用水。その要因として国際復興開発銀行(世銀)からの融資が大きく影響している。総事業費約300億円は,当時の国家予算から捻出することは困難であったため,世銀から長期資金の借入れを行うこととなった(借款事業)。世銀は,事業の効果を早期に実現させるため,5カ年で事業を完了させること,海外から新しい土木技術を導入することなどの条件を提示した。これらの条件を,政府と愛知用水公団が一丸となって遵守し事業を着実に遂行していくことで,5カ年で事業完了を迎えた。5カ年の間に,牧尾ダムをはじめとする愛知用水施設を完成させた,世銀の役割について紹介する。
ベトナムのメコンデルタにおいて,畜産廃棄物から嫌気発酵によりメタンを発生させるバイオガス・ダイジェスター(BD)を917戸の低所得農家に導入する,クリーン開発メカニズム(CDM)の事業化を図った。これは,現在使用されている薪およびLPGなどの調理用燃料を再生可能なバイオガスで代替することで,温室効果ガス(GHG)の排出削減を行うものである。CDM事業化により,GHG排出削減量に見合う炭素クレジットと当該クレジットの市場での売却による資金を取得し,農家のBD導入経費の軽減を図り,併せて資源循環型の営農システムの確立を目指す。
本報文では,農林水産省農村振興局からの補助金で(財)日本水土総合研究所が実施している,「海外農業農村開発地球温暖化対策検討調査事業(農村防災体制強化対策調査)」のラオスにおける成果をもとに,ハザードマップの作成法と有用性,技術移転の方法を紹介している。コミュニティの防災能力を向上させるには,地域の農民に加えて,現地政府の積極的な参加が不可欠であり,ハザードマップの作成は,地域の農民と政府関係者との間で,災害関連情報や対応策を共に検討する上で有用である。本調査では,このハザードマップを農民にも理解でき,現地政府の関係者が主導で作成できる簡易な手法を検討し,その技術を現地政府関係者に移転した。