農業農村工学会誌
Online ISSN : 1884-7196
Print ISSN : 1882-2770
80 巻, 11 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
  • 坂田 賢, 宮本 幸一, 坂田 寧代, 川口 建男
    2012 年 80 巻 11 号 p. 873-876,a1
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    農業農村整備事業(以下,「事業」という)を実施している畑作先進地区の中から,事業の実施状況と経営方針の特徴を,輸出に着目して分析した。その結果,輸出実績のある地区では輸出実績のない地区に比べて,総合的に事業を導入していること,および,多様な経営方針に基づく営農を実践していることがわかった。また,個別事例より,事業に対する積極的な投資が地区特有の作物栽培の安定化に寄与し輸出に適う商品作りが可能となったこと,および,取組みが小規模の場合では総合的な事業を導入しなくとも基本的な基盤を活用し,明確な方向性を打ち出すリーダー,他地区にない作物の導入,工夫を凝らした加工・販売によって輸出が可能になったことが示された。

  • 阿部 剛士, 遠藤 竜政, 上野 美穂, 山田 武広
    2012 年 80 巻 11 号 p. 877-880,a1
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    長野県佐久地域においては,大小さまざまな直角V 字型減勢工が設置されており,所期の機能を発揮している。コストパフォーマンスが高い,段落斜面を落下する際の騒音に関する問題が比較的少ない,維持管理の手間が少ない,という特徴が落差部や急流部の減勢工の選定において重要な点になっている。直角V字型減勢工はこれら複合的な課題をクリアする有効な手段で,当地区で多く採用されている理由である。また,小規模水路から大規模水路,管路など幅広い範囲に適用できることも確認できた。全国には急勾配の水路が数多くある。維持管理の軽減や騒音,跳水の抑制など,改修に当たって佐久地域の事例が参考になれば幸いである。

  • 近田 昌樹
    2012 年 80 巻 11 号 p. 881-884,a1
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    文化庁の重要文化的景観に指定された愛媛県宇和島市遊子にある「水荷浦地区」の段畑景観は,持続した急傾斜地農地での営農によって保全されてきた農業土木的景観である。段畑の石積み景観に着目して,構造的特徴と景観保全について考察した。畑作は江戸時代から行われていたが,石垣になるのは明治期以降であり,作物もサツマイモ,クワ,ジャガイモと変遷している。段畑の勾配は約45°の急勾配で,1段の高さ1.1m,1枚平均面積23m2,畑は尾根まで達し,段数は67段の箇所もある。石材の大きさは約12cm で現地産を使用している。段畑は人力の運搬・石積みで多大な労力を投入し,今後も日常的な維持管理が必要であることから,保全のための支援の内容ついて考察した。

  • 江上 博司, 鎌田 重孝, 北川 和彦
    2012 年 80 巻 11 号 p. 885-888,a1
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    岩手県北部における約2,200haの畑地灌漑導入のため,国営馬淵川沿岸農業水利事業が平成5~23年度の工期にて実施された。事業期間中,大志田ダム設置に伴い水没するサクラソウの移植や揚水機場建設の際のカワシンジュガイの保護など,多くの生態系保全・保護の取組みを実施している。またダム貯水の水質保全では,適正な農業用水確保の視点はもとより,多様な上水利用者にも配慮し,曝気装置の設置や水質浄化植物の導入を図っている。このほか,施設建設における農村景観と調和するよう工夫,さらに,住民主体の景観形成活動を通じた国営造成施設の適正管理など,さまざまな取組みにつき紹介する。

  • 渋谷 斉, 河田 大輔, 三田村 直樹, 荒木 洋之
    2012 年 80 巻 11 号 p. 889-892,a2
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    北海道の最北部に位置するサロベツ泥炭地では,酪農業が地域の基幹産業として成長し,造成された大規模な牧草畑が地域経済を支える重要な飼料生産基盤となっている。一方,地域では日本の代表的な泥炭地湿地であるサロベツ湿原が国立公園に指定されており,湿原と農業の共生が課題となっている。このため,地域と事業者が一体となって農地の排水機能の確保と湿原の保全に必要な地下水位の維持を目的として,農地と湿原の隣接箇所に緩衝帯を設置する取組みを行っている。本報では,この取組みの検証を目的として設置された実証試験地での地下水位や植生などのモニタリング状況を2006年の報告に続き紹介する。

  • 三好 英幸, 西川 亮治
    2012 年 80 巻 11 号 p. 893-896,a2
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    国営かんがい排水事業「新矢作川用水地区」は,平成6年度に着工し,平成23年度に完工の予定である。本事業では,老朽化の著しい開水路の幹線水路をパイプライン化する更新整備を行っているが,平成15年度に計画変更を行い,国営農業用水再編対策事業(地域用水機能増進型)へ移行し,パイプライン化により低下が懸念される景観保全や親水などの地域用水機能の維持・増進に資するため,支線水路の一部区間を石積み水路として幹線水路と一体的に整備している。本報では本事業において実施している地域用水機能増進の取組みの中から,特徴的な北野支線水路を事例に,住民参加によるワークショップによる整備構想策定,工事実施の段階での住民参加型施工(直営施工)の実施状況,完成した上部利用施設の地域住民による管理と施設利活用状況について紹介する。

  • 橋本 禅
    2012 年 80 巻 11 号 p. 897-902,a2
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    ミレニアム生態系評価(MA)以降,生態系や生物多様性を巡る議論のパラダイムは大きく転換した。現在,国連環境計画の主導で,生物多様性版IPCCと呼ばれる「生物多様性及び生態系サービスに関するプラットフォーム(IPBES)」の設立に向けた議論が続いている。IPBESの設立は,IPCCと同等かそれ以上に大きな影響を,農業農村工学に及ぼす可能性がある。本報では,生態系サービスの概念が,さまざまな形で社会の中に取り込まれることを「主流化」と捉え,生態系サービスの概念,ミレニアム生態系評価をはじめとする近年の研究や生態系サービス概念の主流化の動向の整理を行った。また,気候変動枠組み条約やIPCCを例に,IPBESの設立が国内の法制度や政策形成にどのような形で影響を及ぼしうるかを説明し,国内での近年の行政・研究の動向の整理を通じて,農業農村工学の対応に対する問題提起を試みた。

  • 菅原 喜久男, 杉澤 靖夫, 狩野 吉浩
    2012 年 80 巻 11 号 p. 903-906,a2
    発行日: 2012年
    公開日: 2020/01/10
    ジャーナル フリー

    東日本大震災によって,宮城県沿岸部の農業用施設は甚大な被害を受けた。排水機場の多くが,津波とがれきの衝撃を受け損傷,さらに,地盤沈下により自然排水量が減少し農地が海水に浸った状態で排水機能不全に陥った。地域を所管する宮城県東部地方事務所では,排水機場の機能回復を復旧の最優先事項とし,本復旧までの間,仮稼働させるための応急復旧対策を行った。本報では,震災から2カ月後の営農開始時期,3カ月後の梅雨時期,6カ月後の台風時期と限られた期間と厳しい現場条件の中で,早期復旧を命題に行われた応急工事の内容を報告した。また,本復旧については,地盤沈下による性能回復方法などの課題や対策,災害の教訓として現場の復旧作業を通して得られた津波に対応した施設計画の留意点を整理した。

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